再転生した元神は転スラの世界へ   作:さすらいの旅人

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魔王カリオンの使者

「リューセー、無事か!?」

 

 広場へ駆け付けたリムルはソウエイより粗方の状況を聞いた後、フォビオによって大怪我したリグルドを回復薬を与えて治療させ、次に隆誠の方へ向かいながら声を掛けた。

 

「ああ、俺は見ての通り無事だが……」

 

 隆誠はそう答えながら別の方を見ていた。その先には、ミリムに腹を殴られたフォビオが倒れている。顔は苦悶に歪み、口からは泡が出ており、白目を向いたままピクリともしないと言う無惨な姿が。

 

 余りの光景に、彼の配下の獣人達は逃げる事も出来ずに固まっている。本当ならフォビオを連れて逃げたいかもしれないが、目の前に魔王ミリムがいて無理な為、判断に困っているのだろう。

 

 すると、リムルの声が聞こえたのか、ミリムが近づいてくる。

 

「おお、リムルよ。()(やつ)が舐めた真似をしおったから、ワタシがお仕置きしておいたのだ!」

 

 自慢気に言ってくるミリムは、明らかに褒めて欲しそうな表情をしていた。

 

 どう言おうかと迷っているリムルに、隆誠が代わりに言おうとする。

 

「魔王ミリム、俺やリグルドさんを助けてくれた事には感謝する。だが貴女は盟主リムルの許可なく暴れないと約束していた筈だが?」

 

「うぇ!? えっと、それは……」

 

 隆誠の指摘にミリムは漸く思い出したのか、途端に焦った表情となりながら目が泳いでいる。

 

 だが、数秒後に言い訳をしてきた。

 

「そう、これは違うのだ。この町の者ではないからセーフ、セーフなのだ!」

 

「リムル。彼女はこう言っているが、貴方の判定は?」

 

「アウトに決まってるだろ!」

 

「えぇぇぇぇぇ!?」

 

 リムルが下した判定にミリムがショックを受けていた。

 

 隆誠も当然アウトだと充分に理解してるが、それを言ったところで絶対納得しないと思い、敢えてリムルの口から言わせたのだ。

 

「だがまあ、今回はリグルドとリューセーを庇ってくれたという事で、昼飯抜きで許してやるか」

 

「ヒドイ! ヒドイのだ!」

 

 魔国連邦(テンペスト)で昼食を取るのは人間の隆誠だけで、ミリムはリムルと同様に本来食事の必要はない。この国の食事が余程美味しかった所為か、かなり食い意地が張っているようだ。

 

 昼飯抜きの刑を喰らったミリムは泣き喚くも、次に意識を失っているフォビオへ狙いを定めようとする。

 

「くそう、これも全てコイツが悪いのだ。一発だけでは飽き足らぬ…っ」

 

「待て待て待て!」

 

「魔王ミリム、それ以上はダメだ!」

 

 完全な八つ当たりをしようとするミリムに、リムルと隆誠が止めに入る。

 

 魔王少女を何とか宥めた後、フォビオ達の話を聞く為に場所を移す事にするのであった。

 

 

 

 

 

 

 場所は変わって、お馴染みの会議室。

 

 今この場は緊張に包まれているも、ミリムだけはお気楽そうにサンドイッチを美味しそうに頬張っている。

 

 昼飯抜きにされていた筈だが、リムルが仕方ないと言った感じで、敢えて用意する事になった。隆誠としては相手が魔王でも余り甘やかして欲しくないのだが、恐らく彼女からも何かしらの情報を得る為に、フォビオ達と一緒に連れて来たのだろうと察して何も言わないでいる。

 

「で、一体何をしに来たんだ?」

 

「大体予想はついてるが、魔王カリオンとやらの命令か?」

 

 漸く目覚めたフォビオに、リムルと隆誠は直球で質問した。

 

「下等な連中に、答える義理はない。益してやカリオン様を侮辱した人間風情には猶更な」

 

「確かに俺も言い過ぎたと反省してる。だがそもそも、先に手を出したのは其方だろう。この町の者に暴行、我等が盟主に対する暴言だけでなく、魔王ミリムの逆鱗にも触れている。ここまで無礼千万な振る舞いをしておいて、何一つ謝罪を表明しない厚顔無恥なお前に心底感心するよ」

 

 隆誠は反省の色を見せながらも、フォビオが広場で行っていた内容を言いながら思いっきり皮肉を込めて言い返した。

 

 それを聞いていたベニマルとシオン、そして被害者のリグルドは盟主(リムル)の暴言と聞いた途端に殺気立っている。だがリムルから事前に「下がってろ」と言われたのを思い出したのか、不承不承な感じで成り行きを見守ろうとしたようだ。

 

 この会議室にはリムル側の面子は、リムルに隆誠、リグルドとベニマルとシオン。そして一応ミリムもおり、あと少しでサンドイッチを食べ終えようとしている。

 

 対してフォビオ側には、フォビオと獣人の部下が三人。拘束されていないが、仮に抵抗したところでリムルや隆誠が即座に黙らせるつもりだ。

 

「それに下等と言うが、お前よりは俺の方が強いぞ。隣にいる人間のリューセーも同様にな。俺も魔王カリオンとやらを知らないし、お前の態度次第でカリオンは俺達と敵対する事になるんだぞ? お前の一存で、このジュラの大森林全てを敵に回すつもりなのか?」

 

 リムルは隆誠に合わせようと、ハッタリな態度を混ぜながらも尊大な態度で告げた。

 

「ハッ! 偉そうに。この町は、こんな下等な魔物や人間に従うのか? 雑魚ばかりだと大変だな。ミリム様に気に入られているからと調子に乗るなよ?」

 

 フォビオは意に介さないどころか反省の色を全く見せない事に、リムルと隆誠は内心呆れざるを得なかった。

 

 弱肉強食を基本としている者には、どんなに口で言っても無駄である事を改めて理解させられる。

 

(強大な力を持つ者ほど愚行に走るには、何処の世界でも共通しているか。聖書の神(わたし)も人の事は言えないが、な)

 

 隆誠は途端に思い出してしまう。強大な権力と魔法を持つ四葉家が、自身を愛人の息子と言う理由で平然と見下していた事を。尤も、今の四葉家は一部を除き、次期当主補佐となった隆誠に服従の姿勢を取っている。今まで他人同然のように振舞っていた達也と深雪ですら、彼の機嫌を損ねないよう謙虚になる程に。

 

 話は逸れてしまったが、もしもフォビオが魔王カリオン直属の部下でなければ、力の差を教えようと徹底的に叩きのめしていただろう。実力はベニマルやシオンより上だが、隆誠なら問題無く倒せる相手だから。

 

 しかし、下手に手を出せば魔王カリオンの怒りを買うどころか、戦争にまで発展する恐れがある。リムルとしてはソレを避けたい為、今は言葉巧みに話を聞き出そうとしている。

 

「おい、お前。ワタシの友達に舐めた口を利くじゃないか? それとリューセーは人間でも、ワタシと戦えるほどの実力はあるぞ」

 

 サンドイッチを食べ終えた直後、ミリムが不機嫌そうに眉を顰めながらそう言ってきた。

 

 彼女の発言にフォビオが驚愕の表情になるも、隆誠とリムルが即座に振り返る。

 

「リムル、どうやら魔王ミリムはお代わりを御所望だ」

 

「みたいだな。だけどミリム、今度何かしたら、マジで晩飯抜くからな」

 

「わ、分かった。大人しくするから、お代わりを欲しいのだ」

 

 予め用意しておいた予備のサンドイッチを差し出す隆誠と、少しばかり睨みながら警告をするリムル。

 

 普段のミリムであれば無視するのだが、この町の食べ物を好きになった為、すっかり大人しくなっている。

 

「さて、俺は確かにスライムで、リューセーは人間だ。だが、盟主の俺がこの森の三割を支配しているのは本当だし、其方がその気なら戦争するのも致し方ないと思っている」

 

「よく考えて返事をする事だ。お前の返答次第で状況が大きく変わると理解した上で、な」

 

 自分の置かれている立場を漸く理解したのか、フォビオは仕方ないと言った感じで素直に答えた。

 

 彼の話によると、どうやらリムル達を配下へスカウトするよう、魔王カリオンより命じられてやってきたとの事だ。正確にはリムル達か豚頭帝(オークロード)のどちらか生き残った方を。

 

 隆誠は約三ヵ月前にリムル達がオークロードを討伐した事を全く知らなかったが、ミリムが魔国連邦(テンペスト)へ来襲した後に教えられている。それを聞いた事で他の魔王達も知っているのではないかと予想するも、フォビオから話を聞いた事で確信した。

 

 だが、魔王カリオンは判断を誤ってしまった。本気でスカウトしたいのであれば、以前に来たガゼル・ドワルゴのように、利益を提示できる者を寄越すべきなのだ。フォビオのように力で何でも押し通そうとする脳筋タイプでは、リムルを落とす事など不可能に等しい。

 

(まぁどの道、魔王ミリムが此処へ来た時点で失敗してるだろうが)

 

 振り返らずとも、ミリムが凄まじい怒気を放っている為、それを見ているフォビオが恐れるように目を逸らしている。

 

 リムルがチラッと振り返った瞬間、ミリムは何事も無かったのようにサンドイッチを頬張るのを確認した後、再びフォビオに視線を戻してこう言った。

 

「魔王カリオンに伝えてくれ。『俺達と交渉したいなら、日時を改めて連絡を寄越すように』と」

 

 何の咎もなく帰そうとするリムルの決定に、ベニマルとシオンが少しばかり不服そうな表情をしていたが、反対を申し出る様子は無い。

 

 そしてフォビオは思いっきり不満そうに退室する際、睨み付けた後に「きっと後悔させてやる!」と捨て台詞を残し、配下の獣人達を連れて去るのであった。

 

「リムル、あの様子だと伝言は期待しない方がいい」

 

「だろうな」

 

 正確に報告しない事を予想する隆誠に、リムルは頷きながらスライムから人型に変身し、丁度サンドイッチを完食したミリムへ近付く。

 

「よし、ミリム。魔王カリオンについて話が聞きたい」

 

「それはリムルにも教えられないぞ。お互い邪魔をしないという約束なのだ」

 

 キリッとした表情で明確に拒否するミリムだが、秘密があると勝手に自白をしていた。

 

 この後からはリムルが悪い大人の見本と言うべき交渉術で、彼女から秘密の情報を巧みに引き出している。

 

 結果、ミリムを含めた魔王カリオン、クレイマン、フレイの四名が、傀儡の魔王を誕生させると言う計画を企てていたと判明した。

 

 リムル達が魔王の計画を邪魔していた為、魔王達が動くのは当然だと隆誠は納得している。

 

 だが、それとは別に――

 

(この魔王少女、何だか初めからバレても構わないように喋っているような気がする)

 

 玩具でご機嫌を取る作戦を取ったリムルに、魔王達と交わした約束の内容をペラペラと話すミリムを見た隆誠は妙な違和感を抱いていた。こんな程度の情報で欲しい物が手に入るならバレても構わない、みたいな感じがする為に。

 

 他にも気になる事がある。

 

(そう言えば広場でフォビオを気絶させた後、ミリムも俺と同じく(・・・・・)気付いていた(・・・・・・)筈なのに、動こうとする気配が全く無かったな)

 

 隆誠は遠くから覗き見をしている存在に気付くも、自身と同様に気付いていたであろうミリムが、不敵な笑みを浮かべたまま静観する事にも疑問を抱いていた。

 

 彼女が迎撃行為を一切しなかったと言うのは即ち、その者は魔王クレイマン、もしくはフレイの配下だと気付いている事になる。互いに邪魔をしないと言う約束をしているから、と言う理由で。

 

 その事をリムルに後で報告しようかと考えてる中――

 

「おい、リューセー。ワタシはリムルに秘密を話したから、もうこれ以上無いのだ」

 

「……ああ、そうかい」

 

 どうやらミリムは気付いたようで、満面の笑顔を浮かべながら隆誠に『余計な事を言うな』と遠回しに釘を刺してきた。

 

 そのやり取りを見ていたリムルやベニマル達は不可解そうな表情になるも、頭を抱える大問題がある為に気にする余裕が無いのは仕方ないと言えよう。

 

 

 

 

 

 

「あ~疲れたぁ~。リューセェェ、今日の夜食は軽いもので良いから頼む~」

 

「魔王ミリムが此処に住んでまだ一日しか経ってないのに、いくらなんでも早過ぎじゃないか?」

 

「仕方ないだろ~。ミリムだけじゃなくて、他の魔王達も絡む大問題になってるんだからさぁ~」

 

 ミリムが寝静まった夜。今日の世話を終えた魔国連邦(テンペスト)の盟主リムルが隆誠の家に来て早々、リビングに設置されてるソファーで我が物顔のように思いっきり寛いでいる。

 

 隆誠は彼女の世話で疲れた時の夜食を用意すると確かに言ったが、まさか早々に訪れるとは思いもしなかった。余りの早さに少しばかり呆れるも、約束したことに変わりない為、取り敢えずと言った感じで用意する。

 

 今日の昼食で食べたホットケーキの粉がまだ残っているので、スライムの彼が食べても太らないから問題無いだろうと思いながら、時間を掛けずに作り始めた。

 

「ん? この匂いは……」

 

「ほら、出来たぞ」

 

 数分後、作り終えた隆誠はテーブルの上に置くと、リムルはすぐにソファーから離れて椅子に座る。

 

「お、ホットケーキじゃないか。子供の頃によく食べてたなぁ~」

 

 前世の人間時代を思い出したのか、先程まで疲弊していた筈のリムルは途端に笑顔となる。

 

「でも何でホットケーキなんだ?」

 

「今日の昼食にコレを食べて、まだ残ってたんだ。一緒に食べたベニマルも大好評だったぞ」

 

「何ぃ!?」

 

 昼食で食べた事を教えると、リムルは聞き捨てならないと言わんばかりに隆誠を睨む。

 

「俺がミリムの世話や仕事中の時に、こんな美味しいモノをベニマルと食べてたのかよ……!」

 

 こんな事なら今日も行けば良かったと後悔をしているリムルに、隆誠は全く意味が分からなかった。

 

 彼もベニマルと同様に甘い物を欲している為、スイーツも食べたいのだ。それを逃してしまったから、こうして口惜しがっている。

 

「別にそんな口惜しがることないだろうに。因みにリムルは蜂蜜か? それともメープルシロップ?」

 

「俺はどちらかと言えばメープルで……ん? ちょっと待て、お前まさか……!」

 

「ご明察。実は持っているんだなぁ、これが」

 

 リムルが気付いたのを見て、隆誠はメープルシロップが入ってる容器を見せた。

 

「お前なぁ~! ソレ持ってるんだったら、俺の蜂蜜と交換してくれよ~!」

 

「いやぁ、貴方は白米やお菓子で満足していたみたいだから必要無いかと思って、な……。ほ、ほら、たっぷりかけてあげるからさ」

 

 納得行かないと抗議してくるリムルに、どうにか宥めようとホットケーキにメープルシロップをかける隆誠。

 

 リムルはまだまだ文句が言い足りない様子だが、取り敢えず後回しにしてパクリと口に入れ――

 

「う、美味い……!」

 

 その後からはベニマルと同じく幸せそうな顔で食べるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッ! リ、リムルが、ワタシに黙って、何か甘くて美味しそうなモノを……!」

 

 就寝中である筈のミリムは気付いたように寝言を呟くも、結局はスヤスヤと眠り続けるのであった。




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