魔王ミリムが
リムルや幹部のベニマル達は、彼女が齎した他の魔王達の情報について議論するも、結局は一旦保留と言う形となった。未だ向こうから本格的に動いていない以上、此方が下手に手出しをする訳にはいかないからと言う理由で。
現状で最も警戒しておくべきは、魔王カリオンの勢力。使者として来たフォビオがどのように伝えるかによって、戦争にまで発展してしまう恐れがある。隆誠としては出来れば穏便に済んで欲しいと願っているが、あの獣人、もとい魔人は無駄にプライドが高い性格をしているから、事がうまく運ぶとは思えないと不安視している。それはリムルも同意しているが、向こうがどのように動くかは分からない為、一先ずは様子見と言う決定を下した。
盟主リムルは引き続き魔王ミリムの世話をしており、幹部のベニマル達も有事に備えながらも業務に徹している。そして、盟主補佐の隆誠はとある場所にいる。
「ふぅっ……ここまでにするか」
鍛錬場は町にもあるが、独自の鍛錬を余り人前では見せたくない為、こうして町から離れた場所で行っている。
盟主補佐の地位に就いている彼だが、勿論盟主に話を付けて許可を得ている。リムルとしてはどんな鍛錬をするのか見たくて同行したかったが、ミリムの世話をしなければならない為に無理だった。
「お前達、一旦戻ってくれ」
「「「分かった」」」
視線の先には、同じ姿をした三人の司波隆誠がいる。彼等は了承しながら両手首と両脚に着けているバンドらしきモノを外した後、半透明になりながら近づき、隆誠と一体化しながら消えていく。
彼等は隆誠によって『分身拳』という技で作られた分身体。この技は
今回使った分身拳は、天津丼が使っていた技の一つであり、ソウエイと違って実際に四人に分身している。四人になる事で実力が低下する欠点を持つも、隆誠が改良をした事で約ニ~三割程度の低下と言う結果になった。そして鍛錬では四人の自分達で鍛錬をしようと、実戦組手、瞑想、
これまで焦ること無くやっていた隆誠だったが、先日に戦った魔王ミリムとの実力差を知って考えを改めた。この異世界では彼女以外の魔王がおり、自分以上の実力を持った強敵達が存在していると。今のペースで鍛錬してもミリムには一生勝てないので、鍛錬の難易度を上げようと決心した。徹底的に鍛える為に、身体能力とオーラを一気に上げる為の修行用バンドを使おうと。
「っ!」
三人の分身体が本体に戻った瞬間、隆誠は少しばかり表情を歪めていた。
分身が一人に戻ろうとする際、先程まで戦っていた自身の記憶と戦闘経験が一気に集約されるだけでなく、痛みと疲労感も襲われる。正直言って非常にリスクのある鍛錬だが、これによって彼は
「すぅ~~、はぁ~~~……」
今まで何度も経験しているのか、隆誠は自身の身体を正常に戻そうと『神の
「ワン!」
「ん? フェン、何かあったか?」
すると、何もいない筈のところから一匹の巨大な狼犬が現れた。体格だけで言うならばリムルの側近であるランガと似ている。
この狼犬フェンは魔物ではなく、隆誠によって造られた存在――『神造精霊獣』。この異世界に来る前、諸事情により彼が神の
神造精霊獣達には、隆誠の修行をリムル達に察知されないよう特殊な結界を張るよう命じていた。それを終えた事で隆誠は、『結界を解除してから自身の影に戻れ』と念話で既に伝えたのだが、彼女(?)が突然目の前に現れた為に彼は訝っているのだ。
「ワンワン!」
「って、何だよ。分かった分かった、座れば良いんだろう」
突然座るよう催促してきたので、隆誠は取り敢えず腰を下ろした。直後、フェンも横たわり、寄りかかる彼の背を支えようとする。
「いきなり現れたかと思えば、久しぶりに甘えて欲しかったのか?」
「クゥン……」
隆誠は背中をフェンの腹に寄り掛かりながら、片手を伸ばして優しく頭を撫でていた。それをされているフェンは気持ち良さそうな顔をしている。
「あ、やば……」
普通の動物とは違う柔らかさを持つ被毛を堪能している事で、疲労困憊状態になっている隆誠は思わず眠ってしまう。
眠ったのを確認したフェンは、主が目覚めるまで周囲を警戒する。
(あの精霊は一体……!?)
眠っている隆誠から少し離れた所から見ている者がいた。その正体は、ジュラの大森林の管理者の役割を担っている
森を把握出来る彼女は、突如森の一部が消失するような違和感を覚えた。その原因を探る為に来てみれば、その場所には未知の結界で覆われていた事が判明する。
一見すると何の異常もない森なのだが、それはあくまで外見に過ぎない。人間や魔物であれば特に気にしないが、森の管理者である
トレイニーは即座に結界の解除を試みようとするも、余りにも強力過ぎて手が出せなかった。盟主リムルに対処依頼を考えたが、その際に盟主補佐を務める
この結界はもしかしたら隆誠の仕業でないかとトレイニーは推測し、暫くの間は様子を見る事にした。数日後、それが正解だったように、結界が解除された先にはリムルが信頼している盟主補佐がいた。
隆誠が結界の中で何をしていたのかは分からないが、彼女としては自身の杞憂で済んで良かったと安堵している。そう思いながら退散しようとするが、またしても予想外な事態が起きる。いきなり狼犬型の精霊と思わしき存在が彼の近くに寄り添っているのだ。
(あの狼犬は私の契約精霊と同じく『風』を司っていますが、明らかに
トレイニーは風の上位精霊である『
盟主リムルから隆誠の事は聞いているが、あのような精霊を従わせているなど一切知らない。彼が何かしらの理由で秘密にしていたかもしれないが、それでもトレイニーとしては見過ごせない案件だった。
(とにかく一度彼と話を……ッ!?)
如何に隆誠がリムルを支える盟主補佐であっても、あのような強力な精霊は流石に放置出来ないと思ったトレイニーは、意を決して眠っている彼に近付こうとした。その瞬間、突如自身を包囲するように三体の精霊が出現する。
「クワァ~……!」
「シャァァァ……!」
「グルルル……!」
トレイニーの周囲には狼犬の精霊と同様の強力な存在がいた。
鷹とは似て非なる水色の身体をした怪鳥、全長数メートル以上の大蛇、背中に翼を持つ赤い獅子。明らかに殺気立ちながら、
「お、お待ちを! 私はこの森の管理者であるトレイニーと申します! どうか貴方達の主とお話をさせて下さい!」
三体の威嚇に内心怯えながらも、トレイニーは名乗りながら主に取り次いで欲しいと言った。
その直後、状況は一変する。
「下がれ、お前達」
「「「!」」」
第三者の声がした瞬間、先程まで殺気立っていた三体の精霊達は途端に霧散しながら、トレイニーから離れた。
彼女が視線を向けた先には、眠っていた筈の隆誠が狼犬の精霊を連れている。
「誰かと思えばトレイニーさんだったか。申し訳ない。コイツ等が大変失礼をしてしまって」
「い、いえ、お気になさらず」
「そう言って頂けると助かる。それで、俺に何か御用かな?」
「実は――」
そしてトレイニーは森の管理者として毅然とした態度を崩さず、この場に訪れた用件を話し始めるのであった。
今回は隆誠の修行+神造精霊獣の紹介と言うオリジナル話です。
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