「やっと出て来たな、カリオン」
逆立った金髪の男の登場に、ミリムは少々呆れた表情になっていた。
「フン、やっぱり気付いていたのかミリム」
「当然なのだ。お前が全然姿を見せようとしないから、ワタシが声を掛けようと思っていたところだぞ」
だろうな、と男は軽く返事した。
魔王ミリム相手に随分気安く話しているのは、間違いなくこの男は魔王の一人だと誰もが察した。
(やはりこの男は魔王カリオン、か)
隆誠もミリムと同じく潜んでいた事に気付いていたが、この男が本当に魔王カリオンと言う確証がなかった。それを確認する意味も込めて、此処へ来てもらおうと彼の名前を口にしたら、向こうが出て来てくれたので本人だと判明する。
静けさの中に荒々しい力を感じさせる大男は、見た目以上の威圧感だけでなく、相応の実力を秘めていると隆誠は既に見抜いていた。カリュブディスは魔王級の力があると言われていたが、本物の魔王とは格が違うと。
「よう、俺様は魔王カリオン。言われた通り来てやったぜ」
魔王カリオンは隆誠やリムルを真っ直ぐ見据え、そう言った。
その瞬間、一気に緊張が走っている。圧倒的なまでの威圧感を前に、リムル達は言葉が出ない様子だった。
(ふむ。全盛期だった頃の
しかし、隆誠だけは全く別だった。嘗て聖書の神として君臨し、
「まさか其方から出向いて来るとは思わなかったよ。俺の名はリムル=テンペスト。
「盟主補佐の
勇気を振り絞って堂々と宣言したリムルとは別に、隆誠は恭しく一礼をする。
「フンッ! 脆弱と言ってる割に随分ふてぶてしい奴だ。この俺様を前にして微塵も恐れねぇとはな」
カリオンは隆誠が気になるのか、覇気を出しながらも好戦的な笑みを浮かべていた。
だが、それは一旦後回しにするように、すぐにリムルの方へ視線を向ける。
「お前が、ゲルミュッドを殺った仮面の魔人なんだろ?」
まるでもう既に知っているように問うカリオン。
未だに事情を知らない隆誠だが、自分がこの世界に来る前に起きた出来事かもしれないと察して何も言わないでいる。
「ああ、その通りだ」
リムルはそう言った後、シオンから離れて人の姿に変化する。
「仕返しにでも来たのか?」
カリオンの返答次第で、配下のベニマル達は緊張しながらも身構えていた。
「いいや」
呆けた表情をするカリオンだったが、すぐに笑みを浮かべながら否定した。
「おいフォビオ、立て」
「は、はい!」
命じたカリオンがゆっくり近づいた後――立ち上がったフォビオの頭を瞬時に掴んで地面に思いっきり叩きつけた。
折角
「悪かったな、部下が暴走しちまったようだ。隆誠、と言ったな。コイツには後で俺が直接指導しておくから、それで許して欲しい」
魔王としての立場上そう簡単に頭を下げたりしなくとも、カリオンなりの謝罪をした。
「それは些か虫が良すぎるかと。貴方は魔王であり君主なのだから、そんな口約束だけで済ませていけないのは理解している筈」
「おいリューセー!」
しかし隆誠はそれだけで納得しないどころか、暗に相応の誠意を見せて欲しいと要求した。
流石に不味いと思ったリムルが焦りながら止めようとするも、カリオンは笑みを浮かべながらこう言う。
「魔王の俺様にここまでズケズケ言ってくる人間は、生まれて初めてだ。だがそれは尤もな話だから、今回の件、借りにしておく。何かあれば俺様を頼ってくれていい。これなら文句はねぇだろ?」
最大限の誠意を示すカリオンに、隆誠は思わず感心した。
下等と見なしている筈の人間相手でも相応の誠意を見せる。そうするのは、カリオンは底知れぬまでの懐の深さを示す証左と言うべきだろう。
「だってさ、リムル。どうする?」
「どうするって、お前なぁ……!」
隆誠の発言にハラハラしていたリムルは文句を言いたいが、取り敢えずは後回しにしようと、カリオンにある事を頼もうとする。
「それなら、俺達との不可侵協定を結んでくれると嬉しいんだが」
「そんな事で良いのか? 良かろう。魔王の、いや、獣王国ユーラザニア『
リムルからの頼みを、カリオンは簡単に承諾する。
余りにも上手く行きすぎな展開となっている為、隆誠は思わず疑ってしまいそうだった。だが、カリオンからは嘘を言った様子が無いので、自ら協定を破る事はしないだろうと締め括る。
その後、カリオンは重傷を負わせたフォビオを肩に担いで、転移魔法で去って行くのであった。
☆
「全く、俺は寿命が縮むかと思ったぞ」
「悪かったよ」
カリュブディスの騒動が片付いた夜、リムルは隆誠が作った揚げたての唐揚げと冷たいビールを味わっていた。
盟主の代わりに対応したとは言え、遥かに格上である筈の魔王カリオンに対して無礼な態度も同然だった。もしあの場で気分を悪くした瞬間、魔王カリオンと本格的な全面戦争をしていたかもしれない。そう危惧していたリムルは、隆誠の発言は問題だと説教する事にしたのだ。
二人だけで話したいからと、リムルはミリムやシュナ達にそう言って隆誠の家にいる。着いて早々に説教するつもりだったのだが、家主が詫びも含めた料理を見た後、説教から一変して愚痴に変わってしまう。
「それじゃあ今度は甘辛ソースを塗して『唐揚げ丼』に温玉も付けるけど、食べるか?」
「お前って奴は……食べるに決まってるだろ!」
新たに作った料理にリムルは食の誘惑にあっさりと負けてしまい、美味しく頂くのであった。
「何か俺もうこの先、リューセー(の料理)無しじゃ生きていけないかもしれない。あ、ついでにお代わり頼む」
「いくら何でも大袈裟だろう。はいどうぞ」
呆れてしまう隆誠だが、言われた通り新しい唐揚げ丼を用意する。
端から見れば夫婦みたいなやり取りだと言う事を、二人は全く気付いていない。
「ッ! な、何ですか、この途轍もない敗北感は……!」
「わ、わたくし、何故か隆誠さんに凄く負けた気が……!」
「?? お前達、一体何を言ってるのだ?」
温泉に浸かりながらも身震いするシオンとシュナに、一緒に入ってるミリムは二人を見て首を傾げるのであった。
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