魔王ミリムが去って、数ヵ月が経過していた。
物を壊すのが当たり前のトラブルメーカーがいなくなった事で、被害報告がパタリと無くなり、忙しくても平穏な日々を送っている。特に怒りを溜め込んでいたリグルドが晴れやかな顔となって、一緒に仕事をしている隆誠としては本当に良かったと心底安堵したくらいだ。因みにミリムの世話役だったリムルも解放されたかのように、今まで出来なかったゲームをやろうと隆誠の家に何度も行っては時々寝泊まりする事もあって、シュナやシオンから嫉妬の目を向けられていたとか。
元の世界の事を考えながら仕事と鍛錬をしながら日々を送る隆誠だが、彼の上司より突然指令が下された。獣王国ユーラザニアに向けて使節団を派遣する際、盟主リムルの名代として使節団に同行するようにと言う指令が。
隆誠は最初断ろうとしていた。いくら自分が盟主補佐でも、使節団に人間が行けば、向こうは必ず何かしらの因縁を付けられる可能性があると。初めて対面したフォビオが開口一番に人間を見下す発言をしていたのだから、彼以外の獣人も同様の考えを持つ者がいるのが容易に想像出来てしまう。
しかし、どんなに反対理由を述べてもリムルは絶対行くよう命じた。何故そんな頑なに自分を行かせようとするのかを問うと――
「使節団の団長になったベニマルが、もし挑発されて穏便に事を済ませると思うか?」
「………全く否定出来ませんので、此処は盟主に従います」
ベニマルは戦闘面で信頼出来ても血の気が多いのが玉に瑕である事を、既に数ヵ月以上の付き合いがある隆誠も、ストッパー役がどうしても必要なのを理解して頷かざるを得なかった。
獣王国ユーラザニアへ旅立つ日となり、盟主リムルによって任命された使節団が広場に勢揃いしている。
使節団の団長ベニマル、補佐としてリグルドの息子リグルの他、幹部候補の
彼は人間の身でありながら
リグル達も隆誠の同行に何一つ文句はない。寧ろ心強いと思っており、前に対応した魔王カリオン相手にも毅然とした態度を取っていたから。
ベニマルは最初若干の不服を示すも、少し考えた仕草をした後に快く受け入れていた。隆誠が一緒に行くのであれば、向こうに行っても彼の作るスイーツが食べられるかもしれないと。
用意された礼服に身を包む隆誠を筆頭に、ベニマル達も同様の服装で広場の中央に立つ盟主の言葉を待つ。
「諸君、是非とも頑張ってきてくれたまえ!」
盟主リムルより激励の挨拶を述べたのだが、それからは何も言わずに終わって周囲がシーンとなった。
『おいリムル、いくらなんでも短すぎるぞ』
『あ、やっぱり駄目だった?』
隆誠がすぐに思念伝達を使って指摘をすると、受け取ったリムルはコホンと咳払いをしながら言葉を足そうとする。
そこから先はユーラザニアに行ってからの注意事項の説明だけでなく、
盟主からの激励によって、真剣に聞いていた使節団とは別に、住民の魔物達から割れんばかりの大歓声が広場を満たす事になる。彼等としては、崇拝しているリムルの言葉を聞きたいだけで集まったのかもしれない。
「リューセー、ベニマル達を頼むぞ」
「まぁ、やれるだけの事はやるよ。魔王カリオンが
「いやいや、流石にそれは無いと……」
隆誠が指す問題児とは、数ヵ月前にいなくなった魔王ミリムの事を言っている。リムルも当然理解しているから、他の魔王達も彼女みたいな性格は流石に無いだろうと否定するも、内心少し不安がっていた。
そんな軽いやり取りを終えた後、隆誠はベニマルとリグルが乗る(牙狼族がひく)馬車に同乗する。
正式な国交が樹立される事を願いながら、第一回の使節団はユーラザニアに向けて旅立って行く。
☆
盟主リムルより激励の言葉を貰ってから数日が経ち、隆誠を含めた使節団はあと少しで獣王国ユーラザニアに到着しようとしている。
「いいなベニマル、決して喧嘩を売って試すような発言はするなよ? 向こうから挑発されても決して安易に乗らないように」
「分かってる。俺だって、色々と学習したんだ。ミリム様を見ていれば、短慮な行いは不味いと誰にでも理解出来る」
心外だと言わんばかりに言い返してくるベニマルに、隆誠は全く安心出来なかった。
そもそも、比べる相手がミリムと言う時点で当てにならない。(リムル関連ですぐ短気になる)シオンよりマシとは言っても、何でも力技で解決しようとする姿勢を見せているので、やってる事がミリムと何ら変わらないと隆誠はそのように見ている。
本当に大丈夫なのかと不安な気持ちだが、何かあれば自分で対処するしかないと考えながら、次にリグルの方へ視線を移す。
「リグル。情報収集に関しては其方で任せるから、盟主に良い報告が出来るよう頼むぞ」
「はい、お任せ下さい!」
魔王カリオンや幹部勢と対応する隆誠やベニマルとは別に、リグルや数名のホブゴブリン達はユーラザニアに関しての情報収集をする事になっている。情報と言っても、あくまで生活水準に関するモノに過ぎない。
すると、リグルが何かを思い出したのか、ある事を尋ねようとする。
「そう言えば隆誠さん、今更ですけどドワーフ王国の件は大丈夫なんですか?」
隆誠がリムルと一緒に武装国家ドワルゴンへ行く事は周知されていた。ユーラザニアの交流が終わって
「問題無い。ソレ等が終わった後、ちゃんと休養を取る予定だからな」
本当であれば隆誠は今回の使節団に組み込む予定はなかったが、万が一にベニマルが何か仕出かさないよう見て欲しいと急遽参加させる事になった。配下に対する信用が無いと思われるかもしれないが、ドワルゴンの時と違って初めて行う国同士の交流だから、念には念を入れようとリムルは慎重な姿勢を取る事にしたのだ。
ユーラザニアの次にドワルゴンに行くなど大変なので、リムルは盟主補佐に休みを与える事にした。盟主権限として一週間ほどの休養日を。
隆誠達が馬車の中で一通りの確認を取っている中、獣王国ユーラザニアと思われる街並みの風景が見えてきた。
先ほどまで普通に話していた三人だったが、此処から先は自身が担う役職の顔となって気を引き締めようとする。
一方、その頃。
今のヨウムはリムルの目論見通り、ファルムス王国で英雄として上り詰めている。その際、一旦羽を伸ばそうと
「ところで旦那、リューセーはどうしたんだ?」
応接室でリムルより魔王カリオンの配下達と交流する話を一通り聞いたヨウムは、町に来てから隆誠と会ってない事に気付いた。
「ああ、言い忘れてたな。リューセーはベニマルと一緒にユーラザニアに行ってるよ」
「マジかよ!? まぁアイツが強いのは知ってますが、魔物のベニマルさん達はともかく、人間が行っても大丈夫なんですか?」
「それは心配無い。ユーラザニアは実力主義の国だって、この前来た魔王カリオンの使者が言ってたからな。仮に向こうが人間だからと言う理由で難癖を付けたとしても、リューセーなら問題無く対処出来る筈だ」
「随分と信頼していますね」
「そりゃあ俺の補佐だからな」
「ははっ、違いないですね」
隆誠がこれまで盟主補佐としての仕事ぶりを見ていたリムルは、ベニマル達とは違う意味で信頼している。もし誰かが隆誠を引き抜こうとすることになっても、それは絶対に許さないと断固拒否する程に。
魔物でありながら人間に絶大な信頼を寄せている。それをまざまざと見せられたヨウムは、こんな事なら隆誠を自分の一団に加えれば良かったと少しばかり後悔していた。
「となれば、もう暫くリューセーの飯は食えないのか。あ、言っておきますけど、アイツ以外の飯も充分美味しいですからね」
「分かってるよ」
「けどまぁ、こんな事ならもう少し早く戻れば良かったなぁ。あいつが作る飯は単に美味しいだけじゃなく、飽きがこないと言うか……」
「あ、それ分かる。俺もつい食べたくなって、リューセーの家に行っちゃうんだよねぇ」
先程まで魔王カリオンとの交流について話していたリムルとヨウムだが、途中から隆誠の料理について語るのであった。
原作と同じ展開は詰まらないと思い、隆誠がベニマル達と一緒にユーラザニアへ同行するオリジナル話にしました。
感想お待ちしています。