獣王国ユーラザニアとの交流を終えた隆誠たち使節団は、数日掛けて
戻って早々に盟主リムルが直々に出迎えてくれて、約一週間振りとなった主の再会にベニマルやリグル達の頬が綻んでいていた。
隆誠も同様だが、思わず自分がいない間にシオンがまた勝手に調理場へ足を運ばなかったかの確認をしてしまう。それを聞いたリムルは苦笑するも、そこは大丈夫だったとの返答をした事で彼は安堵する。
初めての交流に誰もが疲弊するも、荷物整理と軽い休憩をしてから会議室へ向かい、盟主や幹部達に獣王国ユーラザニアについての報告会を始めようとする。
「ユーラザニアの獣人達は流石の一言です。一兵士に至るまで、魔王カリオンに徹底的に鍛え上げられていました」
「流石は『
軍事面を視察を重点的に行ったベニマルからの報告に、リムルは素直に称賛の言葉を述べた。
隆誠も当然加わっており、もし獣王国と戦う事になれば勝利出来るかどうか怪しいと言う評価を下している。それは魔王カリオンとリムル、そして隆誠を計算に入れず、ベニマル達で戦った場合の想定だが。
獣人達の戦闘力は確かに目を見張るモノだが、それに特化する余り戦術面は疎かだった。指揮官を潰してしまえば、如何に強い獣人でも烏合の衆と化してしまい、思うように誘導する事が出来る。カリオンやその指揮官も当然理解してるかもしれないから、そう簡単に倒せない事を念頭に考えた方が良い。
「リューセー、他には?」
「勿論ある。リグル」
「はい」
リムルからの問いに、リューセーは軍事面以外の視察を行っていたリグルを名指しした。
「ユーラザニアの建築物は、
「ウォォォォォ~~~! リグルが、こんな立派にィィィィ!」
報告の途中、会議に参加している父親のリグルドが突然の号泣をしていた。普通なら報告を遮る事に指摘すべきなんだが、隆誠も含めた誰もが苦笑するだけで済ませている。立派な姿を見せる息子に感動故の行動だから、そこで水を差すような事をするのは流石に野暮だろうと。
そのリグルは何とも言えない表情になりながらも、報告を続けようとする。
「ええと……ですが、悪い意味ではありません。住民がそれを望んでいるようなのです」
住民の生活は質素である代わりに、自国の安全を完璧に守るのが
魔王カリオンも含めた獣人達の国家は根っからの実力主義である為、権力で成り立つ人間社会と根本的に違う。
隆誠は元神としての記憶があるから、人間だけでなく、他種族の価値観も理解出来る。彼がもし普通の人間であれば、到底受け入れられないだろうが。
「建築だけでなく、工芸その他も今の我が国の技術力が上回っております」
「カイジン達が来てくれた上に、クロベエやシュナがいるからな」
リムルの発言に、後方に控えてるシュナが嬉しそうな表情になっていた。
「しかし一つだけ、目を見張るほどに素晴らしいものがございました」
「それは?」
「農業です。我が国とは比べ物にならぬ広大な田畑が広がり、農作物が彩り豊かに実っておりました」
「ほほう」
リグルが報告を終えると、リムルは隆誠の方へ視線を移す。
「なぁリューセー、その技術は俺達でも習得出来そうなものか?」
「可能だ。農業知識を
「おお、それは朗報じゃないか!」
願ってもない展開だと喜ぶリムルとは別に、隆誠とベニマル、そしてリグルは少々複雑な表情となっていた。
「次の使節団には、管理部門からリリナに推薦された者をメンバーに入れるとしよう。向こうから提供してくれるなら、是非とも技術を習得しようじゃないか」
「そうですな。今では食糧事情はかなり改善されておりますが、未だに試行錯誤を続けているものもあります。農業知識を得れば、大いに役立つ――!」
リムルの提案にリグルドが賛同するも、途中からまた
親バカな姿に若干呆れる隆誠だが、同時に『良い父親だなぁ』と微笑ましげに見ている。家族愛を大事にしている彼からすれば、リグルドのような人物は大変好ましいから。
それとは別に、次回の使節団は農業技術の習得をすると言う目的が決定したのは言うまでもない。
「じゃあ、俺とリューセーはドワーフ王国へ行く準備があるから、後は皆に任せる。頼んだぞ」
そう言ってリムルは隆誠を連れて会議室を出た。
ドワーフ王国に向けての出発は明日を予定しており、本当なら獣王国ユーラザニアから帰還した盟主補佐を数日休ませる必要があった。
本当なら隆誠抜きで行こうと考えていたが、ガゼルから必ず連れて来るよう念押しをされているから欠席する事は出来ない。当の本人も承知の上で、明日に向けての準備をやろうとしている。
「そうだ、リムル。次回の使節団はリグルを団長に指名してくれ」
「え? ベニマルだと問題あるのか?」
「逆に問題無いんだよ。魔王カリオンは信用出来る人物で、使者を無下に扱ったりする心配もない。ベニマルも同様に考え、国の守りとして此処に残る方が得策だと言っていた」
「だからリグルに任せても大丈夫、と言う事か。わかった、そうしよう」
隆誠とベニマルの判断を聞いたリムルは、問題無さそうだと了承した。
「どうやら魔王カリオンは力だけの王じゃないみたいだな。何しろ俺達に農業知識を提供してくれるから、それだけ器も大きいってことか」
「……実はチョッとした裏話があって」
「え?」
隆誠が少々言い辛そうに裏話と口にした瞬間、リムルは途端に嫌な予感がしていく。
「魔王カリオンと戦った!? 何でそんな展開になってるんだよ!?」
「模擬戦の提案をされたんだよ。相手が相手だから断れなくて、な」
時間は昼頃。昼食を取る為に隆誠は自宅へ戻り、同行するリムルに食事を用意してから、魔王カリオンと手合わせした件について報告していた。
本日の昼食は『ふわとろオムライス』と、ユーラザニア産の果物を使った『フルーツヨーグルト』。後者のデザートに関しては、ベニマルが後で絶対食べると言っていたので、あと少ししたら家に来るだろう。
それはそうと、隆誠の手料理を美味しそうに食べているリムルだが、予想外の報告を聞いた事で仰天していた。
「その際、俺が持つ手札の一つを見せるのを条件として、農業知識の提供を許可してくれたって訳だ。仕方なく見せて魔王カリオンに一泡吹かせようと――」
魔王カリオンが本気の姿になるほど焦った事で、フォビオを除く獣人達が大慌てした上に猛抗議された事も教える。
「ってか、よく無事に戻れたな。下手すりゃ
「俺も覚悟したけど、そうならないよう魔王カリオンが抑えて事なきを得たって訳だ」
元々は向こうが言い出した提案だからな、と付け加える隆誠。
「……はぁっ。次からは気を付けてくれよ」
隆誠が少々無茶をしたお陰で農業知識の提供を約束してくれたから、結果だけで言えば、
そして『ふわとろオムライス』を食べ終えた後――
「隆誠、俺の分のデザートはあるか?」
デザートの時間となった瞬間、予想通りベニマルがやって来た。
「勿論あるよ」
「あはは。ベニマルもすっかり嵌ってるな」
甘い物に目がないスイーツ男子の登場に隆誠だけでなく、リムルも苦笑していたのは言うまでもない。
☆
「こんの馬鹿者がぁぁ!! お前は留守番が出来ないのか!?」
ドワーフ王国へ行く準備をしていた隆誠が完全にブチ切れており、全身から怒気を発しながら目の前にいる人物に怒鳴っているのであった。
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