「ガゼル王、話の中にあったファルムス王国について伺っても宜しいですか?」
隆誠からの問いに、酒を飲んでいたガゼル王は簡単に答えようとする。
「西方諸国でも一、二を争う大国だ。我が国も酒や食料はファルムスや帝国からの輸入に頼っておる」
「ふむ……」
概要程度の情報とは言え、それを聞いただけで隆誠は武装国家ドワルゴンは食料自給率が低い国だと改めて分かった。
ドワーフは物作りが得意だから、
しかしその反面、食料自給率は他国と比べて低いかもしれない。隆誠が今いるのは山脈の地下大空洞だから、農業地に適していないのが一目瞭然だ。如何に軍事力が優れているドワルゴンでも食料が無ければ維持出来ないから、他国の輸入に頼らざるを得ないのだろう。
(恐らくファルムスはドワルゴンの足元を見てるだろう、な)
食料を輸入する際の関税は他国より相当高いかもしれない。しかしドワルゴンはそれでも頼らないといけない立場だから、首を縦に振らざるを得ない何らかの事情がある筈だと隆誠は推測する。
「とは言え、此処だけの話だがな。俺はあの国王は好かん」
「理由は?」
「あの王は欲深過ぎる」
表情を見るだけで本当に嫌っているのが丸分かりだった。
ガゼル王がハッキリ言うのであれば、ファルムス国王は相当いけ好かない性格なのだろう。
「故に弟弟子よ、だから是が非でもユーラザニアとの貿易を成功させろ。そして兄弟子に酒を融通するのだ」
「おいおい、兄弟子は関係無いだろ」
ニヤリとしながら本音を語るガゼル王に呆れ顔になってしまうリムル。
(酒だけでなく、食料も期待してるかもしれないな)
ドワルゴンは
ガゼル王は此方が用意した林檎の
(いや、違うな。もしかしたらガゼル王は、最初からそれを見越してリムルに同盟の提案を持ち出したな)
目の前にいるドワーフの王は
ガゼルの思惑など微塵も気付いてないリムルは、今も単なる雑談として済ませているから、補佐の立場からすれば呆れるしかない。
(まぁ、元
リムルの前世を知っている隆誠としては、彼が盟主として今後も外交を経験すれば何れ気付くだろうと、敢えて何も言わない事にした。自分が元の世界に戻っても一人でやっていけるようにと願うが、この世界にいる間はそれなりに支えるつもりでいる。
話を一通り終えたリムル達は、明日の演説に備えて休もうと退室するも、隆誠だけは補佐として少々気になる事があると言って残る。
「いくら同盟国とは言え、余り此方に期待し過ぎるのは如何かと思います」
「何の事だ?」
リムルとシュナが退室したのを確認した隆誠は、椅子に座って貰った酒を再度注いで飲むガゼル王に指摘するも、向こうは惚けるように言い返した。
「まぁそれよりも、ファルムス王国は貿易の中心地みたいですね。加えて国王は欲深過ぎると仰っていましたが、もし自分の欲しい物が取るに足らない小国にあると分かったら、どんな行動に出ると思いますか?」
「む?」
ガゼル王は隆誠の質問の意図を察した。
自分が唾棄するように言った欲深なファルムス国王が、新たな貿易地になるかもしれない
先程までの話を聞いた事で懸念する盟主補佐に、あの弟弟子は随分呑気なものだと少しばかり呆れている。
それはそうと、ガゼル王は思い返した。
現在のファルムス王国は王だけでなく、他の王族や貴族も欲深い愚者の巣窟と化している。貿易が発展していく
「……断定出来ぬが、俺としては用心すべきであろうな」
あんな国でも今は輸入に頼らざるを得ない状況な為、ガゼル王は敢えて曖昧な返答で済ませた。
ファルムスの詳細を開示したいのは山々だが、なるべく隆誠やリムルの方で直にその国を見聞きして欲しいと思っている。下手に大まかな情報を教えてファルムス側が知れば、難癖を付けながら関税を更に引き上げる事もやり兼ねないから。
「成程……」
「話は以上か?」
「ええ、では私も明日に備え休ませて頂きます」
これ以上はもう聞けないだろうと判断した隆誠は、ガゼル王にお辞儀をしてから退室するのであった。
☆
一夜明けて、本日は晴れ舞台となるドワルゴンと
ドワルゴンに住まう国民に向けて、盟主リムルはスライム姿で演説する事になっている。
『えー、初めまして皆さん。ジュラ・テンペスト連邦国、略して
見て分かるくらい緊張する盟主だったが、言うべき事を言った短い演説を終えると、国民達から盛大な拍手を送られた。
それを見たリムルは我ながらまぁまぁなスピーチだったと自画自賛するも――
「短すぎる。遜りすぎる。情に訴えかけすぎる。はっきり言って零点だ」
「うぅぅ……」
演説が終わった後、ガゼル王から壮絶なダメ出しを受けていた。余りの酷評にスライム姿のリムルが途轍もなくズゥゥンと落ち込んでいるのが分かる。
「国を治める者が国民に遜るものではない。ましてや他国の住民に下手に出れば舐められるだけだ。こうなったら良いなどと甘えた統治は厳禁だ。素晴らしいものとは自然にやってくるのではなく、自ら掴み取りに行くものなのだ」
「はい……」
何一つ言い返せないリムルは頷くだけしかなかった。
近くにいる隆誠も同様に苦笑するも――
「隆誠よ。補佐である貴様であれば、あんな演説はすべきではないと意見すべきであろう」
「申し訳ありません。私も国の在り方については勉強中の身なので、一先ずは盟主に任せようと」
ガゼル王が見逃さないと言わんばかりに指摘してきた。
一応国の在り方について一通り理解してる隆誠だが、
にも拘らず、他国の王である筈のガゼル王が心配するように厳しい評価を下していた。心から思っての忠言であるのは間違い為、リムルや隆誠も内心感謝している。
☆
辛辣な評価を下されるも、武装国家ドワルゴンの大きなイベントを乗り切る事が出来た。
それを終えたリムル達は、数日の間、観光と言う名の視察などで過ごす予定となっている。
案内役はドルフで、此方が行きたい施設を要望すると、快く案内してくれた。
色々な施設を見た際、明らかに関係者以外立ち入り禁止と思われる所も入らせてくれて少しばかり驚くも、
ガゼル王が喰えない男とは言え、どれだけ信用してくれているのかを改めて理解した隆誠は、ちょっとしたお礼をしようと考える。
施設見学を終えた数日後。
リムルから以前に行った店――『夜の蝶』に行かないかと誘われたが隆誠は断った。その店は女性エルフ達が接待するキャバクラだと分かった為に。
彼としてもそう言った所に無関心では無いのだが、集団で行くのは余り好まない。個人的に夜の街は一人で楽しみたい他、静かに過ごしたいと思っているから。
隆誠の返答を聞いたリムルは『付き合い悪いな~』と残念そうに呟いた後、『もしシュナに聞かれても上手く誤魔化しといてくれ』と言って『分身体』を残し出て行った。尤も、彼だけでなくゴブタ達、ドワーフのカイジン達も参加するらしい。
因みにシュナは明日の送迎晩餐会に向けて、城の料理長達と打ち合わせをしている。それを好機と思ったリムルは、彼女に気付かれないようコッソリと行ったのだ。
取り敢えずはリムルに言われた通り合わせておこうと思っていたが――
「あら、隆誠さんは行かなかったみたいですね」
「? シュナ、一体何の話だ?」
「ゴブゾウから聞きまして、何でもリムル様はわたくしに内緒で夜遊びするお店に行くそうですね」
「……へぇ、そうなのか」
どうやらゴブタ達の中に
ゴブゾウは
それを知った今のシュナは笑顔でありながらも、怒りのオーラが沸々と湧き出しているのが改めて分かった。
「それでは隆誠さん、わたくしはこれから大事な用があるので失礼します」
「えっと、シュナさん。確か君は城の料理長と打ち合わせしてる筈じゃ……」
「大丈夫です。もうとっくに済ませましたから」
そう言ってシュナは何処かへ行ってしまう。
「……はぁっ。リムル、束の間の幸せを堪能しておくんだな」
今の彼女に何を言った所で無駄だと隆誠は諦め、一先ずは約束を取り付けたガゼル王に会いに行く事にした。
「本日はお忙しい中、時間を作って頂きありがとうございます」
「気にするな。丁度政務を終えたところで、ゆっくりしようと思っていたところだ」
場所は以前に利用した応接室。
機密事項が高い施設を見学させてくれたお礼として、隆誠はガゼル王に酒と料理を披露しようと面会の時間を作った。
「それは僥倖です。ところで一緒に聞いていたドルフさんはともかく……其方の方々もご参加ですか?」
隆誠が視線を横へ向けると、そこには昨日に施設の案内をしてくれたドルフだけでなく、ドワーフの男性と老婆もいる。
二人の事は勿論知っている。
男性ドワーフはバーンで、ドワルゴン軍部の
老婆ドワーフはジェーンで、ドワルゴンの
それと今は姿を現わしていないが、以前会った
「護衛として参加させてもらおうと思ってな」
「お主がガゼル王に妙な真似をしないかと、少々気になって来たんじゃよ」
「よく言う。そんなのは方便で、隆誠が用意する酒や料理に興味を持って来ただけであろうに」
バーンとジェーンは相応の理由を述べるも、ガゼル王は即座に本音を見抜いた。
長年の付き合いだからか、二人は図星を突かれても全く素知らぬ顔をしている。
「すみません、隆誠殿。本当は王と私だけで来るつもりだったのですが」
「構いませんよ。私としても人数は多い方が良いので」
寧ろ好都合だと思ってる隆誠は、料理を出す前に先ずは酒を用意する。
「では料理の前に、此方の酒をどうぞ」
出した酒は
材料となる蜂蜜はアピトがリムルに献上してる貴重な物で、それを貰った隆誠が独自に製法して極上の酒となった。
そんな希少な酒を隆誠はガゼル達に飲ませようと蓋を開封した途端、蜂蜜の匂いが部屋に広がっていく。
「おお、前に飲んだ蒸留酒とは違う品のある香りだ」
「香りだけで美味いと言うのが伝わります」
「こりゃあ、飲まない訳にはいかねぇな」
「わたしも年甲斐なく飲みたくなってきたよ」
上品な蜂蜜の匂いにガゼル王、ドルフ、バーン、ジェーンはそれぞれ思った事を口にしていた。
気に入ってくれて何よりだと思った隆誠は、先ずは王から飲ませようとグラスを注いで渡す。
「どうぞ」
「うむ」
受け取ったガゼル王は、香りを楽しみながらグラスに口を付けた瞬間にグイッと飲んだ。
「おお……美味い」
まるで未知の経験を味わったかのように、ガゼル王は称賛の言葉を口にした。
「度数は低いが、蜂蜜の甘さが口の中に広がるも、全く癖がなくさっぱりして飲みやすい。こんなに上手い蜂蜜酒を飲んだのは初めてだぞ」
「恐縮です」
『特製蜂蜜酒』が気に入ったのか、再度お代わりを要求するガゼル王。
すると、自分も飲みたいと眼で訴えてくるドルフ達に気付いたのか、隆誠は苦笑しながら新たに用意したグラスに注いで三人に渡す。
因みに未だ姿を見せていないアンリエッタも酒好きなのか、先程から隠密に乱れが生じている。飲みたいなら姿を現わせば良いのだが、仕事に徹しているのだろう。
「これは……!」
「確かにガゼルの言う通り度数は物足りないが、それでも美味いじゃないか」
「わたしは丁度良いね。こりゃ何杯でも飲めそうだよ」
「あの、皆さん。出来れば一気飲みではなく、味わって飲んで欲しいのですが。今日は一本しか持ってきてないので、そんなに飲めませんよ」
『特製蜂蜜酒』が無くなれば、次はキンキンに冷えた『
用意した甲斐があったと思いながら、隆誠はガゼル王に『特製蜂蜜酒』が入ってる瓶を渡した。その間に新たな酒と料理を用意するつもりだ。
「おいガゼル、何で自分だけ多めに注いでるんだよ!」
「そうですぞ。いくら王と言えど、我々にも平等に注いで頂きたい!」
「わたしも飲みたいんだから、さっさと注いでくれ!」
「ええい! この酒は元々隆誠が俺に用意した酒なのだぞ!」
流石は酒好きのドワーフと言うべきか、『特製蜂蜜酒』にすっかり嵌ったガゼル王達は立場など関係無く取り合いをしてるのであった。
後で『
☆
「すみませんでした! もうしません!」
ガゼル王達が隆誠の酒と料理を楽しんでいる頃、『夜の蝶』で楽しんでいたリムルだったが、バレていたシュナに思いっきり土下座していた。
「わかりました。一週間シオンの朝ご飯で許してあげます。ですがその間、隆誠さんのご飯を食べるのは一切ダメですからね」
「え゛!?」
シュナから下された罰の内容にリムルは固まってしまう。
今まで禁止していた筈のシオンの料理を一週間食べさせるだけでなく、更には隆誠の料理が食べれないなど、リムルからすれば拷問に等しい。
「あの……三日に負かりませんかね。せめてリューセーの料理くらいは……」
「絶対ダメです!」
「……はい」
(もう! わたくしの料理を食べたいと仰ってくれれば許しましたのに……!)
隆誠は男の筈なのに、何故か恋敵のように嫉妬するシュナだった。
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