魔物のベニマル達は隆誠に疑問を抱いていた。
別に険悪な関係になっている訳では無い。本当にリムルからの『人間を殺すな』と言う命令に背かなければならない事態が発生するのかと、会議を終えて以降も考えているだけだ。
あの会議にシュナやシオン、リグルドや他の幹部達を参加させなかった理由は分かった。彼女達はリムルに盲信に似た忠誠心がある為、もし参加していたら必ず難色を示すだろうと。
参加したベニマル達も当然リムルを慕ってはいても、客観的な視点を持っている。
ベニマルは侍大将と言う
ソウエイは私情を挟まずに諜報活動を行う隠密の忍。
ハクロウは多くの弟子を持つ指南役で人生経験豊富な
リグルは
ゲルドは工事関連の仕事をしながらも防衛に特化してる義に厚い武人。
隆誠が五名の魔物に声を掛けたのは、国や住民を守る為に非常手段を取れる者達だと見込んで、自身の抱える懸念事項を明かしたのだ。
会議は不穏な空気のまま幕を閉じたが、隆誠としては人間に対する疑問を抱いてくれるだけで充分な結果であった。盟主の命令を絶対順守しなければならなくても、人間である自分があそこまで言えば多少の警戒感を持ってくれるだろうと思いながら。
そんな事が起きていたなど全く知らないリムルは、シオンの手料理から漸く解放された。隆誠の家で食事を堪能しながら、罰の期間中に考えていた事を打ち明ける。
「リューセー、俺は暫く人間の国や町を見て回ろうと思う」
「俺の料理を勢いよく食べた直後に言う事か?」
ベニマル達の時と違って、一人で隆誠の家に来たリムルは思いっきり食事を堪能していた。勿論シオンやシュナに気付かれないよう細心の注意を払いながら。
因みに本日は『餃子』と『炒飯』で、かなり多めに作ったにも拘わらず完食している。シオンの毒マズ料理と違って何度もお代わりを要求したほどだ。ついでに果物入りの『杏仁豆腐』も用意したら、デザートは別腹みたいな感じでペロリと完食したのは言うまでもない。
リムルが美味しい食事を終えた幸福と満腹感を得ているかと思いきや、いきなり旅立つ話を持ち掛けてきたから、隆誠が戸惑うのは無理もなかった。
「悪い悪い。でもコレは前々から考えてた事でな」
リムルは謝りながら理由を話した。
異世界人――
夢の内容は簡易的だが、死の直前に語ってくれたイングラシア王国にいる子供達を救って欲しいと言う願い。静江と言う人間にとって、死に瀕しても一番の気掛かりだったのだろう。彼女と子供達の夢を何度も見た事で、リムルはそろそろ行動に移すべきだと判断したらしい。
初めは
「ふむ……成程な。死の直前に交わした約束を果たそうとする為、か」
「ああ。彼女は恩人で、俺にとって運命の人なんだ」
「そんなロマンチックな表現をするとはねぇ……」
シュナやシオンが聞いたら嫉妬すること間違いないと確信しながらも、静江に会った事がない隆誠は、リムルがそれだけ思い入れのある人だと言うのが分かった。
「んで、それを最初に俺に打ち明けたのは?」
いくら自分が補佐とは言っても、そんな大事な事はベニマル達にも言う事じゃないかと思う隆誠。
「リューセーも一緒に来て欲しいんだ。信頼出来る相棒がいてくれたら非常に心強い」
最初は単なるお飾りとして盟主補佐と言う役職に就いた筈が、たった一年過ぎた程度で信頼を得るほどの相棒となっていた事に隆誠は内心驚く。
前世の頃に味わったお菓子や料理を味わって胃袋を掴まされただけでなく、殺人料理を作ろうとするシオンを阻止させる程の実力があり、魔物相手でも一切隔たりなく仕事に励んでくれる人間が補佐になれば、リムルが(公私含めた)相棒として重宝するのは無理もない。当の本人は
「貴方にそう言って貰えるなんて光栄だよ」
魔物とは言え、前世が人間だった同郷人から相棒と呼ばれる事に嬉しくなる隆誠だが、打ち明けてくれたリムルにある事を話そうと決心した。
「リムル。折角誘ってくれて嬉しいんだが、実は俺も貴方と同じく行動に移そうと考えている。元の世界へ戻る為の情報収集を、な」
「!」
言われてハッと思い出したリムル。
隆誠は静江と同じ異世界人で、元の世界へ帰還したいと願っている。転生した自分と違って、そこには大事な家族がいるから何としても戻らなければならないのだ。
未知の世界に来たばかりの頃は何の情報もない為にリムルの保護を受け入れ、今は
しかし、先程リムルが語ったように今の
「……そう、だったな。お前は元の世界に帰りたいんだった」
「何もそこまで残念そうな顔をしなくても」
確かに元の世界に帰還したい隆誠だが、あくまで情報収集をするだけだ。方法が分かり次第にリムルへ報告し、役職の返上や仕事の引継ぎなども含めた別れの挨拶をしてから帰還する手筈となっている。
リムルとしては隆誠がいつまでもこの世界に居て欲しいが、無理に引き留めようとはしない。だがそれでも、今まで自分を支えてくれた補佐がいなくなる事を考えただけで寂しくなってしまう。
「安心しろ。今回はあくまで情報収集だけだから、すぐに帰るつもりはない」
「……なら良いが」
「それと先程誘われた旅の同行についてだけど、途中までは付き合おうと思ってる」
「本当か!?」
ションボリしていたリムルが、一緒に行動するだと分かった途端に嬉しそうな表情になる。
☆
翌日。
リムルは会議室に幹部を集めて相談を行う。
「――と言う訳で、俺とリューセーは暫く人間の国や町を見て回ろうと思う」
昨日に隆誠と話した内容をそのまま聞かせるリムル。
隆誠が別の世界から来た存在だと言う事を皆は既に知っている。だから今回の旅で帰還する為の情報収集を行いたいのは当然の事で、
しかし、リムルは別だ。この世界で魔物に転生し、
決して差別をしてる訳ではないが、魔物の彼等にとってリムルが一番大事な存在。如何に隆誠が
そして一通りの説明を終えると、リムルは参加している幹部達の顔を見回す。
「お話は理解しました。しかし、事情がある隆誠殿はともかく、リムル様も旅立たれるというのは……」
「リムル様に何かあれば、せっかく纏まりを見せたジュラの大同盟も、根底から崩壊するやも知れぬ」
異を唱えるリグルドやハクロウだけでなく、他の者達も二人と同様の気持ちだった。
人間の国へ行くのであれば、同じ人間である隆誠がリムルの護衛として同行するなら(若干嫉妬気味のシュナとシオンは無視して)問題無く許可できる。しかし、肝心の彼は途中で別れる事になる為、その時点でリムルが一人で活動するのは不味いと誰もが危惧するのは当然だった。
「まぁ俺が途中で別れても、リムルは別に一人で活動する訳じゃない。ランガを護衛として連れて行くと決めている」
「その通りだ。隆誠殿の言う通り、この我が付いて行くのだから、貴様達は安心してよい」
ランガは何の問題無いように宣言してるが、尻尾が千切れそうなほどに振り回している為、凄く喜んでいるのが丸分かりだった。
昨日にリムルが自分の護衛は誰が良いかと悩んでいた際、隆誠から『ランガはどうだ? アイツは貴方の影に潜む事が出来るからな』と言われて即座に採用した。その後、影からこっそり聞いていたランガが隆誠に何度も感謝の言葉を述べていたのは言うまでもない。
「他にもソウエイは――」
「俺の分身体を一体、リムル様との連絡役に回しておく。何かあれば皆にも直ぐに知らせるように――なのだろう?」
「はい。理解と同時に説明もしてくれて、ありがとさん」
察しの良さと役割を即座に認識するソウエイに、隆誠はコイツほどの適任者はいないと改めて認識した。
「と言う訳で、俺がいなくてもリムルには頼もしい二人がいるって事だ」
「他にも案内役として、カバル達にも頼もうと思っている」
カバル、エレン、ギドはブルムンド王国で冒険者活動をしているから、案内役には最適なのだ。他にも人間の国についての情報も得る事が出来るので一石二鳥でもある。
因みにその三人を
抜かりなく準備をしている隆誠とリムルに、反対気味だったリグルド達は漸く認めるのであった。
「リューセー、そっちの準備はどうだ?」
「もう終わっている。後はカバル達が来るのを待つだけだ」
呼びに行っていたゴブタから、カバル達は
それまでの間、隆誠はリグルドに仕事の引継ぎを済ませながら、今まで以上の鍛錬に励んでいた。ベニマル達なら協力してくれるが、先日の会議の件が未だに尾を引いている為、『分身拳』を使っての鍛錬をしている。
リムルの方もイングラシア王国へ向かう際、
そして粗方の準備を終えた二人は、最終確認をしようと隆誠の家で互いの状況を話している。翌日に来るであろうカバル達を出迎える予定だ。
「はぁ、明日から暫く此処での食事は無しかぁ~」
「そこまで寂しがることは無いだろうに。貴方だけだよ、俺の料理をそこまで気に入ってくれてるのは」
「ベニマルだって何度も来てるじゃないか」
「アイツは単に甘い物目的だ。それに俺がいなくても、シュナの方で作れるから問題無い」
「ベニマルと言えば、今日は甘い物ないのか?」
「一応ある。デザートとしてシュークリームを作った」
そう言いながら隆誠は台所から複数のシュークリームを用意した。サクサク食感の『クッキーシュークリーム』、ザクザク食感の『クロッカンシュークリーム』の二つを。
暫くはベニマルに会えないから、この前あった会議で詫びの意味合いも込めて少々手の込んだ物を作ったのだ。しかし、肝心の彼は未だに尾を引いているようで来る気配が全く無い。
「おお、あっちの世界でしか食べれないお菓子じゃないか! 俺も食べて良いよな?」
「どうぞ。良かったらベニマルの分も食べて構わ――」
隆誠が言ってる途中、玄関の扉からドンドンと叩く音が聞こえた。
それを聞いた隆誠は来たかと内心思いながら、扉を開錠する為にパチンッと指を鳴らした直後、ドタドタと慌ただしい音をしながら誰かが入って来る。
「はぁっ、はぁっ……! もしやと思って来てみれば、やはり甘い物を作っていたか……!」
「リムル、やはりベニマルのスイーツセンサーは正常に作動していたぞ」
「みたいだな。あ~あ、残念」
スイーツの存在を感知したベニマルの登場に、隆誠とリムルは相変わらずの鋭さだと思いながらも、三人で仲良くシュークリームを食べるのであった。
因みにシュナはシュークリームの作り方について教わってなく、それを知るのはリムルが一時帰国する際のお土産として初めて味わう事になる。
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