転生特典の「予知」と「託宣」を封じられたので大魔法使いを目指しつつ元凶をぶん殴りに行きます   作:焼き鯖

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ストックためながら書くのってめちゃくちゃ難しいね


修行開始

「第一回、グレモリー先生による、魔法使いになるための基礎講座〜」

 

 

 気の抜けた声と共に、パチパチパチ〜とこれまた気の抜けた拍手が森の木々を抜ける。

 

 これがもう少し人がいればある程度はピシッと纏まったのであろうが、残念ながらここには僕とグレモリーの二人しかいない。

 

 

「……むぅ、このボクが折角魔法を教えてあげようとしているのに、なんでそんなやる気のない感じなのさ」

 

 

 不満げに口を尖らすグレモリーに、僕は大きなあくびを隠す事もせず、眠気の混ざった声で答える。

 

 

「いやぁだってさ……今何時か知ってる? 朝四時だよ? 昨日寝た時の月の位置からして二時過ぎぐらいでしょ? 二時間しか寝てないんだからそりゃテンションも低くなるよね?」

 

 

 追い出されてから一夜明け。

 

 朝も早いうちからグレモリーに叩き起こされた僕は、着替えもそこそこに野営地から少し離れた場所に連れて行かれた。

 

 日は既に登り始めており、そのうち暖かな日差しが差し込んでくるだろうが、さっき言った通り僕が眠りについたのは午前二時すぎ。

 

 予想以上に作戦会議が長引いてしまったのだ。

 

 お陰で具体的な方針やら不測の事態が起こった時の対応まで、細かいことを決める事は出来たが、その代償がこれである。

 

 

「いくらなんでも起こす時間が早すぎるよ……せめてもう一時間は寝かせて欲しい……」

 

 

「ダメ。甘やかすなんてしてたら、それこそ怠け癖がつく。魔術の道は一日にしてならずなの。それに、いくらこの森の流れる時間が外の世界よりも遅いとはいっても、それが修行をサボるお題目にはならない」

 

 

「だとしてももう少し寝かせて欲しいよ……」

 

 

「……はぁ、仕方ないなぁ」

 

 

 立ちながら鼻提灯を出す僕に呆れながらも、グレモリーは寓話の絵札(タロット)取り出し、一枚のカードを僕の頭に貼り付けた。

 

 

「うにゃ……何するん……あれ?」

 

 

 するとどうした事か、あれだけ感じていた眠気が綺麗さっぱりなくなってしまった。

 

 眠気だけではない。疲れや足の痛みなどの体の不調も、嘘のように消えてしまった。

 

 まるで体全体がフラットな状態に戻ったようだ。

 

 

「キミが言うところの『節制』のカードだよ。これをつけた人の体はその人本来の『普通』に戻るんだ」

 

 

 言われて頭のカードを取って見てみると、それはタロットの『節制』の絵が書かれたカードだった。

 

 

「さ、これで眠気も覚めたでしょ? 早速修行するよ」

 

 

「はーい、グレモリー先生ありがとうございまーす」

 

 

「もう……当代の魔法使い見習いは世話が焼ける」

 

 

 尚も呆れ気味なグレモリーを和ませようと、敢えて軽い口調でお礼をするも、あまり効果はなかったようだ。その間にも、彼女は淡々と説明を続ける。

 

 

「さて、今日の修行についてなんだけど……まず、ステラは魔法の知識について、どのくらい知ってる?」

 

 

「いや、昨日キミから聞いた事が全てだ」

 

 

「ん、分かった。それじゃあ今日は魔法の飛ばし方、発動のさせ方から教えるね」

 

 

 そういうと、グレモリーは僕の手を握ると、目を閉じて何かをぶつぶつと唱え始めた。

 

 すると、僕の体の周りに温かい水のようなものが流れるように纏う感覚が伝わった。

 

 

「まず、これが魔力の流れる感覚。この感覚を理解する事から、魔法使いは始まる」

 

 

「な、なるほど、これが魔力……」

 

 

「魔力だけじゃない。世界に溢れる殆どの力は、何かしらの流れを持っている。その流れを留める事なく循環させ、その中に自分のイメージを乗せる。これが魔法の基礎であり、最も重要なポイント」

 

 

 そこでグレモリーは手を離した。

 

 

「ステラはまず、この魔力を纏う事を自力でやってみて欲しい」

 

 

「わ、分かった」

 

 

 言われるがままに、僕は目を瞑って魔力を纏うことに集中する。

 

 さっきグレモリーに流してもらった感覚としては、温かい水……お湯や温泉の中に全身が浸かったようなものだった。そのイメージを意識して……

 

 

「……うん、だんだん自分の魔力を纏えてきて……って、え? ここからまだ増えるの……?」

 

 

 で、その範囲を自分の体だけに寄せて、もっと密着させる。具体的には薄いお湯の膜を自分の体に貼り付けるように……

 

 

「……え? しかもこの魔力量をあそこまで圧縮するの?」

 

 

 後は、貼った膜が澱まないように流れを作る……魔力は水、体は流れを作る濾過装置。頭のてっぺんから足の先っぽまで、ゆっくり、滞りなく魔力を流す……

 

 

「……嘘でしょ……あんな短時間で、ここまで……?」

 

 

 ……よし、流れは作れた。でももう少し速く出来そうだな。流れてる水の速さを速くして、量ももう少し増やして……

 

 

「……ちょ、ちょっと……なんなの、この子……ここはまだ教えてない……」

 

 

 ……あ、なんか気持ちよくなってきたかも。この調子でもっと速く、もっと多く……

 

 

「……す、ストップ! ストップ! そこまで!」

 

 

 興が乗ってきたところで、グレモリーが急に僕の肩をゆすって止めた。

 

 

「な、何? 折角今、コツを掴みかけてきたところなのに……」

 

 

「ちょ、ちょっと待ってステラ。今、自分がやってた事がなんなのか、分かってた?」

 

 

「え? だから魔力を纏う練習でしょ?」

 

 

「そうなんだけど、ステラ、キミは魔力を纏うその先……魔力を高めるところまで自力で行ったんだよ!」

 

 

 

 興奮気味に話すグレモリーだが、僕にはその凄さが分からず、首を傾げるばかりだ。

 

 それを察した彼女が説明するには、魔力を纏うという行為の習得は、最長でも3日で出来るが、魔力を高めるという行為は二週間はかかるという代物だった。

 

 曰く、魔力の流れと言うのはとても繊細で、少しでも循環のスピードを変えてしまうと途端にバランスが崩れてしまい、魔力の維持が出来なくなってしまうからとのこと。

 

 

 初心者ではまず魔法の暴発が起き、学び始めて少し経っても魔力が少ない状態なら、確実に維持するのは難しいらしい。

 

 

「っていうか、それ以前にだよ! キミの魔力量、ボクを使ってたアンドレイやイーサン達とよりももっと多いってどういう事なの!?」

 

 

「うーん、スケールが大きすぎて想像できないんだけど、それってどれくらい凄いの?」

 

 

「一番多かったミネルヴァが、ボクを使った時の魔力量を少し上回るって言ったら凄さが伝わるかな?」

 

 

「……え? って事は歴代の大魔法使い達よりも上……?」

 

 

 我ながら流石にドン引きしてしまった。

 

 いくらチート能力封じられたからと言って、ここまでのリターンが得られるとは想像出来るはずがない。

 

 何せ、僕の能力とそれが封じられていると知ったグレモリー自身ですら「そしたらアンドレイとおんなじくらいは上がってるかも」と言っていて、僕自身もそれを鵜呑みにしていたくらいだ。

 

 幾ら魔力が上がっていると言っても限度がある。

 

 

「……コホン。ま、まぁともかく、基礎も基礎の練習は合格。次は魔法を発動させる修行に行こう」

 

 

 誤魔化すようにグレモリーが咳払いをすると、さっとタロットの山を取り出した。

 

 

「魔法を行使するための方法は、大まかに分けて二つ。一つは呪文の詠唱。魔導書に書かれてあるものや、自分で設定した文章を諳んじる事で魔法を使う、一番オーソドックスなやり方だよ」

 

 

 彼女はそう言うと、徐にタロットを持っていない方の手を掲げ、詠唱を始める。

 

 

「……静寂の中に眠る炎の精霊よ、我が声に耳を傾け、その力を貸し与えよ。古の知恵をもって猛る焔をここに集め、我が手に宿らせよ。紅蓮の熱が、我が意志と共に形を成し、今ここに現れよ……炎槍『フレイム・ランス』」

 

 

 彼女が言葉を紡ぎ始めた瞬間、掲げた手に何処からともなく炎の塊が集まってくる。

 

 やがてそれは一つの槍として形作られ、詠唱を終えると同時に真正面の樹木に解き放たれたかと思うと、あっという間に消し炭にしてしまった。

 

 

「す、すっご……!」

 

 

 これが生の魔法の迫力。興奮のあまり思わず僕は拍手をしていた。

 

 

「これが詠唱。ある程度魔力が低くても、詠唱を行う事で一時的に魔力を高められるのが強み。逆に、強力な魔法を使う為には、それなりに詠唱が長くなるのが欠点」

 

 

「なるほどね。それに、ある程度って言っても、余りにも差が出すぎていると不発に終わるケースもありそう」

 

 

「……ステラは賢いね。見習いがよくするミスにあっさり気づくなんて」

 

 

 目を丸くして驚くグレモリーに、「ありがとう」と頭を頭を下げる。

 

 

「そして二つ目は、自分の想像力を、高めた魔力に乗せて放つやり方。詠唱を使わずに想像だけで使う事から、アンドレイはこれを『想唱(そうしょう)』と呼んでた」

 

 

 

 そのままグレモリーはカードを一枚引くと、それをさっき焼いた樹木の隣に向けた。

 

 瞬間、何も唱えていないはずなのに、虚空から炎が飛び出し、あっという間に二本目の樹木を消し炭にしてしまった。

 

 

「……これが想唱。自分の魔力と想像力が許す限り、無詠唱でいくらでも魔法が使える。けど、これが出来たのは今まででもボクとアンドレイ、後はミネルヴァとシスレーだけ。他の所持者はカードの絵柄の事象を直接的に放つだけだった」

 

 

「……という事は、想唱は実質的に魔法道具(マジックアイテム)ありきって事?」

 

 

「そう。だから熟練した多くの魔法使いの杖は、それぞれが想像しやすい形に作られていたり、杖じゃなくても魔力石をはめ込んだり、魔法道具(マジックアイテム)を使ったりする事が多い。ボクの場合は後者に属するかな」

 

 

 要は魔力を循環させながらそこにイメージを乗せるわけだが、この二つを同時にやろうとするのは中々難しい。

 

 言ってみれば笛を吹きながら一輪車を乗り回すようなものであり、余程熟達した人でなければ、その領域まで到達するのは厳しいだろう。

 

 だからこそ、杖や魔法道具(マジックアイテム)がそれを補助する役割を持っている事になるし、詠唱も想像力や魔力を補うシステムとして確立されているわけで……

 

 ……あれ、待てよ? これ、前提が違うんじゃないか?

 

 今まで僕は、魔力の循環のさせ方は一種類しかなくて、想像する時にその循環を変える事で想唱が成立すると思っていた。

 

 しかし、魔力の流れは一種類だけではなく、もっと多くの種類があって、その種類にあったイメージを思い浮かべるという方式ならどうだろう?

 

 難しい事には変わりはないが、格段に想唱はやりやすくなるはずだ。

 

 

「けど、どちらも循環が大事なのは共通してるから、そこだけ忘れないように。それじゃあ、まずボクに続けて呪文を……」

 

 

「ねぇ、グレモリー。質問なんだけど、魔力の流れって、使う魔法の属性事に種類が分かれてたりするの?」

 

 

「え? うん、使う魔法によっては循環のさせ方とか、魔力の質が変わったりする事もあるけど……」

 

 

 それを聞けただけでも十分だ。

 

 僕は目を閉じて、魔力の循環を作り出す。

 

 感覚から察するに、イメージしやすいのは大アルカナよりも小アルカナかな? だとすれば循環の種類が意識しやすくて個人的に作りやすい水の属性を持つ(カップ)からだ。

 

 (カップ)の中を満たしている水は、揺蕩うように僕の周りを覆う。やがて、(カップ)からは水が溢れ出し、別の水と混ざり合って一つになって放出される……

 

 

「……っ!? 嘘……こんな短時間で、もう想唱のコツを掴んだと言うの……?」

 

 

 放たれた水は石を濡らし、土に染み込む。石は鉱石に変わり、土からは芽が出る。芽はやがて枝葉を広げて大木となり、実りという形で金貨(ペンタクル)を残す。鉱石は徐々に大きく結晶化し、硬く僕の周囲を包み込んで広がっていく……

 

 

「魔力の質が変わった……!? まさか、ボクが言ったことを試している……!?」

 

 

 大木や鉱石は加工され、大木は(ワンド)となり、鉱石は(ソード)となる。(ワンド)は松明として火を灯し、それそのものを燃料として熱と炎を放ちながら周りを包む……

 

 

「……凄い、凄いよステラ……! まだ魔力の出し方に無駄は多いけど、鍛えれば最高の魔法使いになれる……!」

 

 

 一方、鉱石は炎によって加工され、切れ味の鋭い(ソード)となる。この時の炎熱で温められた空気は、やがて流れを作り出し、時に穏やかに、時に荒々しく逆巻く風となる。風は熱い金属を冷まし、その温度差から結露した水が生まれ……あれ? なんか急に力が抜けて……?

 

 

「っ! 危ない!」

 

 

 倒れ込む直前、僕の体をグレモリーが咄嗟に受け止めた。

 

 

「全く……魔力の使いすぎで倒れるなんて。無茶しすぎもいいところだよ」

 

 

「ははは……ごめん、やれるって思ったらどうしても試したくなって……」

 

 

「でもステラ、キミは逸材だ。今の周囲の状態を見れば、キミが如何に最高の才能を持つかがはっきりと分かるはずだよ」

 

 

 グレモリーに促されて周りを見ると、僕は驚きのあまり言葉を失った。

 

 そこにあったであろう樹木の数々が押し流され、石の塊と化し、多くの蔦に絡まれ、灰となって焼き尽くされ、果ては吹き飛ばされたり切り刻まれたりと、元の状態を思い出す事ができない程に変化していた。

 

 ——これを、自分が?

 

 朝日に照らされ始めた自分の両手を見た目ながらも、未だに信じられなかった。

 

 

「目下の課題は、魔力の使い方にムラがある事と、指向性がないからほぼ無差別に放出しちゃう事だから……うん、かなり修行メニューの短縮が出来るよ!」

 

 

「そ、そうなの……? でも、ここでの修行は二年はやるんでしょ? 短縮しなら意味ないんじゃ……?」

 

 

「そうだね。だからステラの課題が解消出来たら、後はひたすら実戦と体力作りに入るよ。具体的には循環百回、撃ち込み百回、走り込み、筋トレ、モンスターとの戦闘、ボクとの組み手、イメージを鍛える座学……あ、打ち込み百回と循環百回はさっきの課題の修行と並行して行うからね」

 

 

「ひぇ……」

 

 

 予想以上に過酷な内容に、思わず短い悲鳴をあげた。

 

 ……でも、久しく忘れていた探究する楽しさと、知らないものを学ぶ面白さを思い出せたことは、少しだけよかったかな。

 

 

「さぁー、これから忙しくなるよー!」

 

 

 僕よりも先に張り切るグレモリーの顔が、朝日に照らされて輝いて見えた。

 

 

 




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