TS転生した私が所属するVTuber事務所のライバー全員を堕としにいく話   作:恋狸

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やるっきゃないじゃん

 次の日の学校を無心で過ごした私は、家に帰ると早速作戦を練り始めた。

 

「ふむ……修行パートといきますか」

 

 考えはある。

 実行もできる。

 けれども、それには私の実力が必須なわけで、生半可な行動じゃクラちゃんの心は動かせない。  

 日々自身の向上に図ってきた私であっても、何かを極めることはできない。広く深く勉強したけど、深層まではつかめない。

 

 私は電話帳から一年ぶりにその人物を呼び出した。

 

「あ、もしもし〜、久しぶりですね、先生」

『……お久しぶりですね、盗っ人』

「ははは、人聞き悪いですよ」

『よく言いますよ。ワタシから技術盗んでレッスン辞めたくせに』

 

 電話越しからため息が聞こえる。

 死ぬほど美麗な声の持ち主である女性。

 

 それこそ私の音楽の師匠的存在だ。

 

 随分嫌われてるみたいだけど……まあ、先生の技術を見て盗んで辞めた弟子だからね。そら言われる。

 しっかりレッスンを受けたけど、それはあくまで基本の話。応用は全て盗んで自分のモノにしたのだ。

 

 そこまで才能はないんだけど、どうも音楽に限っては習熟が早いらしい。私も漫画みたいな練習方法で上手くなるとは思わなかった。

 

『で、今更なんの用ですか?』

「あー、歌が上手くなりたいんですよ」

『もう上手いでしょう。それともこの一年で鈍りました?』

「まさか。もっと上手くなりたいんですよ」

『アナタにそこまでの才能はありませんよ』

 

 歯に衣着せぬ物言いに、私は苦笑を漏らす。

 限界まで伸ばして()()()先生だからこそ、私の限界を知っている。

 

 そして、その限界をぶち壊せと私に教えたのは先生だ。

 

「才能なんてどうでも良いんですよ。心に届けば。歌、ってそうでしょ?」

『……はぁ。明日から5時にスタジオ集合』

「はーい♪」

『チッ……』

 

 最後に舌打ちが聴こえた気がするけど、多分気のせいに違いない。うん、先生優しいなぁ。

 

 

☆☆☆

 

 黒のVカラージャケットとタイトスカートを身に纏うスーツ姿の女性。

 ポニーテールに纏めた髪と、つり上がった瞳を隠す丸メガネ。

 

 仕事帰りのスーツ美人がそこにはいた。

 

 場所は都内のスタジオ。

 目の前に立つ女性──先生は厳しい視線で私を見る。

 

「面倒です。ワタシだって暇じゃないんですよ」

「知ってますよ。副業ですもんね、これ」

「ええ、折角定時に上がることを社長に許されたというのに、この後すぐに馬鹿の相手をしなければならないとは」

「うっわ、辛辣〜」

 

 目が笑ってないよ。怖いんだけど。

 先生の本業は……まあ、本当は知ってるんだけど、私が知っていることを先生は知らないはずだ。

 

「サクサク始めますよ。あと、気持ち悪いので敬語は不要です。一年前のように接して構いません。殊勝なアナタは似合いません」

「それ暗に失礼極まりないヤツって言ってない?」

「そう言ったはずですが???」

 

 眼力強めで凄む先生には相当の怒りが垣間見えていたけど、その奥には僅かな善性と私を信頼する感情があることを知っている。多分ね。

 時間を削られて怒ってるのは間違ってないケド。

 

「ねー、先生。心に届ける歌ってなんだと思う?」

「ブサイクに歌うことです」

「わーお、即答」

   

 グリンと動いた首が私を捉えて、真っ直ぐ私の瞳を見つめながら即答する先生。

 即答なのはさておき、かなり色々と矛盾してる気がする。

 

「……良いですか? 上手い歌が心に響くかと言われればNOです。だからといって感情だけが先行していては歌として機能しなくなります」

「うんうん」

 

 それは分かる。

 そもそも上手い歌というか基準は何か。音程を外さない。抑揚等の技術がある……どれもこれも上手()歌っているだけであって、その歌が上手()のかは分からない。

 その前提を理解していなければ、先生の言ってることも伝わらないだろうね。

 

「ゆえに、心に届ける歌というのは()()()()()()()()()()()()ことです」

「エ。それ独りよがりじゃない?」

 

 予想外の言葉に、私は純粋な疑問を投げかける。

 先生は「ええ」と肯定したうえで言った。

 

「もちろん、これはワタシの持論ですから聞き流しても構いません。ですが、自分が相手の心に踏み入ることはどのみち独りよがりです。アナタが知りたいのは()()()心に届く歌でしょう?」

「──!」

 

 まるで私の事情を理解しているかのような言葉に、バッと驚愕とともに先生を見る。

 彼女は優しく微笑みながら、さて、とマイクを手に持った。

 

「大衆の心を掴む技術は既に教えました。アナタが私に助力を頼むとしたらそれしかありません」

「なんだ。先生、私のこと好きじゃん」

「生徒としてはクソガキですが、その心意気は嫌いじゃありませんよ。それに、アナタを見ていると彼女を思い出す」

「彼女? 先生の恋人」

「なぜそうなるのですか。違います。……才能に潰されたか弱い女の子です。まあ、私の古い教え子と言いますか」

 

 古いって、先生まだギリギリ二十代じゃん。ギリギリだけど。

 

 などと考えていると、ギロリと睨まれた。

 なぜだ……私の考えが読まれた? この三十路間近に。

 

「なにか無礼極まりない事を考えていますね?」

「何言ってんの。無礼なのはいつもでしょ?」

「開き直らないでそのクソガキを治しなさい。アナタ、もう高校生でしょう」

「先生に歳のこと言われたくないなぁ」

「了解です。レッスンの濃さを十倍にします」

 

 女性に歳のことを聞くのはマナー違反だと言うけど、私自身が女性だからセーフ……なわけないか。親しき仲にも礼儀ありだね。私が一番できないやつじゃん。

 

「厳しいのは歓迎だよ」

「そのポジディブさが面倒なんです。私との温度差考えてください」

「私って太陽だから周りも暖かくしちゃうんだよね」

「炎上しろ」

「シンプルな罵倒!?」

 

 その言葉は私にとって致命傷なんだけど!

 未だ燃え上がった経験ゼロだから何とかできてるのに、言葉は言霊って言うじゃん。だめだよ。

 

「いいからやりますよ。さっさと声出しから始めてください」

「はーい♪」

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

Side ???

 

 才能がありすぎるのも考えものですが、中途半端にあるのが一番面倒ですね。それでいて本人にやる気と覚悟はしかと備わっているとは。

 

 難儀なものです。

 彼女がそれ程までに救いたい存在が気にならないとは言えませんが、あくまで彼女と私の関係は教え子ですから。

 

 汗を拭いながらも必死で声を捻り出す馬鹿生徒。

 

 あぁ、悔しい。

 私の心にすら届けてしまう、圧倒的な意思の強さ。どこまでも純粋で穢のない想い。

 

 その歌声を直に届けられる人物には同情を禁じ得ません。

 

「あの子はどうしているのでしょうか」

 

 私の初めての生徒。

 才能しかなかった。それゆえに、微かな行き違いと大きすぎる才能に彼女は潰された。

 

 8歳だった彼女もすでに19歳。

 考えても仕方ありません。道を選んだのは彼女ですから。

 

 

「どう? 先生!」

 

 息を切らしながら問いかける馬鹿は、自信満々に私を見つめています。キラキラ輝くその美しい瞳を手に取りたいと願う人も多いでしょう。

 

 だからこそ私は絆されるわけにはいかないのです。

 

 

「0点です」

 

「えぇー!!??」

 

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