NOMAD:Tales of ArmorNoid(仮題)   作:こっくわーん

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前回のあらすじ:
ドルノバ(眼帯):無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァーーーッ!!
ドルノバ(髭面):貧弱!!貧弱ゥ!!


#4

◆――◆◆――◆◆――◆NOMAD◆――◆◆――◆◆――◆

 

『荒野のカモメ亭』、三階の客室。

オレの事を待っていたと言った、『放浪者』の少女が借りているというこの部屋で。オレはその少女とテーブルを挟んで向かい合い、椅子に腰掛けていた。

「……つまりさ。アンタもここに泊まってた。で、ここに泊まりに来たオレを見つけて、後をつけて来てたワケだ」

「……うん」

少女は小さく頷いた。

部屋は一人用で、彼女に連れはいないようだった。さしたる荷物も持っていないようで、部屋の隅に使い古された旅行用リュックが立てかけられているだけだ。

すでに日は沈み、辺りには夜の帷が降り始めていた。天井に下げられたランタンの灯りに照らされ、少女の紅い瞳が強く煌めく。

「……酒場でのやり取りも、私は最初から見てた。……ケンカは見てられなかったし、ご飯も食べ終わったところだったから、始まりそうになったところで、店を出たけど」

「で、先回りしてオレを待ってたんだな。……あの酒場で、窓際の席でメシ食ってたのもアンタだよな?」

「……うん。あの時、お前がこっちに気づいたのも気づいてた」

「……なるほど、ね」

オレは大きくため息をつく。

「じゃあさ。なんでオレを尾けてたんだ?まさかアンタが『大書庫』の追手って訳じゃねぇだろうな」

「……『偉大なる大書庫』は私にとっても、敵。奴らと組んでなんかいない」

心底不快だと言わんばかりに、少女は答えた。

「ああ、悪りぃ悪りぃ……まあ、それがホントならこっちも安心だな」

少女の態度自体には、嘘はなさそうだった。オレは続ける。

「それよりも、『大書庫』が私(・)に(・)と(・)っ(・)て(・)も(・)敵だってのはどういう事だ。まるでオレが、『大書庫』に目をつけられてるのを知ってるような口ぶりだよな?」

「……あの酒場。『大書庫』の刺客が、何人も紛れてた。みんなお前を探しに来てたんだ…お前は気づいてなかったみたいだけど」彼女は答える。「アイツらは特別な改造を受けてる。そのおかげでお前を見つけられたんだ……あのケンカ騒ぎがなかったら、きっとお前を捕まえてた」

「ずいぶんと詳しいな」

「……私も、アイツらに追い掛けられてたから」

そう言うと、少女は表情を曇らせた。

どうやら、相当な訳ありのようだ。彼女の辿々しい口調といい、どこか悲壮さを帯びた表情といい、何かよほどの事があったらしい。

「にしてもアンタ、『大書庫』相手によく逃げ回れてるな。オレだって今、だいぶ危ないんだぜ……外で奴らに尾行されてたんだ。今頃、ここの宿屋にいる事もバレちまっただろうな」

そうなれば、ここに奴らが突撃してくるのも時間の問題だ。この少女はそのリスクを分かっていてまで、オレを部屋に招いたというのか。

「……ううん。たぶん、もうその心配はしなくていい」

意外にも、少女はオレの意見に対し首を横に振った。

「しなくていい訳ないだろ。アイツら、この広場まで付いて来てたんだぞ…間違いなくバレてる。下手すりゃアンタの顔だって見られたんじゃ」

「……本当に、心配ない。アイツらはもう見失ってる。私たちのことを」

少女がキッパリと言い切った。何か、強い確信があるようだった。

「タネがある、って事か」

「……うん。お前、周りの人の、気配が分かったりするんでしょ?……調べてみたら、いい」

「…『狭域探知』の事を言ってんのか?」

「……やっぱりあるんだ、そういうチカラ」

少女の返しに、オレは舌を噛んだ。口が滑ったのだ。

「でもどうでもいい。……早く調べてみてよ。私の言うことが、正しいって、わかるはず」

「ああもう、分かったっての。……頼むからコイツのこと、他言無用だぜ」

『狭域探知』を発動する。範囲はこの宿を中心に十メートル前後、ちょうどこの宿全体が収まる範囲だ。おそらく玄関辺り、ひょっとすると裏口にはもう、『大書庫』の追手が取り付いている事だろう。

……だが、『探知』の波が拾ってきたのは、そんなオレの予感を裏切る結果だった。

「…そんなバカな」

付近に追手の気配がない。慌てて今度はなるべく広範囲に、かなり大雑把な『探知』を掛けると……ふらふらと広場を離れていく、『大書庫』の追手どもの気配が確認できた。

「……私が言った、通りだったでしょ?」

「ああ、ホントに見失ってやがる……レディ、アンタ一体どんなイカサマをしたんだ」

「……私は、何も」

少女は無表情のまま答えた。

「……でも、心当たりがある。たぶん、コレのおかげ」

そう言って少女は、懐から何かを取り出した。

「……なんだよ、これ」

取り出され、机の上に置かれたそれを、オレはしげしげと眺めた。

それは相当に古びた、なんらかの機械装置のようだった。全体的な外見は両刃のナイフか、あるいは刀身を取り払った剣に似ている。鍔の部分には透明なレンズカバーが嵌め込まれた円盤状のパーツが備わっており、柄のように伸びたシャフトの先端は途中から折れているようだ。

よくよく注意して見ると、レンズの奥にはかすかに光が灯っている。赤、青、緑、黄色、紫……光は刻一刻と、その色合いを変えていた。

「なんか、光ってるぞ。コレ」

「……少し前から、コレのレンズ部分に光が灯り始めた。それが灯っている間は、『大書庫』の奴らは私を見失うみたい。……きっと、コレが守ってくれてるんだ」

この効果がお前にも効くかは、賭けだったけど。……彼女はそう付け加えた。

「へぇ……不思議な事もあるもんだな」

酒場での一件を思い出す。あの時、『狭域探知』がこの少女にうまく効かなかったのも、この装置のせいだろうか。

いずれにせよ、これがオレの気配をも掻き消した事で、さっきの窮地を脱する事ができたのも確かだった。……にわかには信じ難い話だが、目の前の少女の表情は真剣そのものだ。彼女がオレを謀る理由がない以上、おそらく本当の事なのだろう。

「助かったよレディ。正直よく飲み込めちゃいないけど…アンタのそれのおかげで命拾いしたぜ」

「……別に。礼を言われる事じゃない」

相変わらずの無表情で、少女は答えた。

「にしても一体どこでこんなモノを見つけたんだ。アンタ、『引き上げ屋』でもやってたのか?」

「……違う。これは、パパが持っていたんだ」

「パパ?アンタの親父さんが?」

「……うん。といっても、育ての親。棄てられた私を、拾って育ててくれた人」

少女の受け答えは淡々としていたが、ほのかに声に感情が滲んでいる。……余程、その『パパ』が大切な人だったのだろう。彼女は話を続けた。

「……パパはこれを、『運命(さだめ)の羅針』って呼んでいた」

「…『運命の羅針』?」

「……うん。……旧世界の遺物。持つ者に、相応しい運命を導く装置だって」

「なんか……凄いスケールの大きな話だな」

運命を導く。それはつまり、この装置が所有者の行く末を決めるとでも言うのだろうか。にわかには信じ難い話だ。

「まあ謂れはどうでもいいけどさ…なあ、レディ。これさ、アンタの親父さんにとって大事なモノなんじゃないのか。勝手に持ち出してイイもんだとは思えねーんだけど」

我ながら、意地の悪い聞き方だと思った。少女の表情や口ぶりからして、答えはおおよそ見当がついていたからだ。

「……その心配は、もう、しなくていい」

果たして、彼女は予想通りの答えを口にした。

「もう、何処にもいないから。……パパは、死んだんだ」

俯きながら、少女はそう言った。喉の奥から絞り出すような声だった。

ばつが悪くなって、オレは頭を掻いた。

「……悪い。デリケートな事、聞いちまった」

「謝らなくて、大丈夫。お前は悪くないし……それに、コレでようやく、本題に入れる」

言うなり、少女は顔を上げた。

紅い宝石のような瞳が潤み、頬には涙が流れた痕が残っている。彼女の表情は悲痛に歪んでいて……だが、それは決して悲しみの感情だけではないようだった。

「……パパはただ死んだんじゃない。殺されたんだ。アイツらに」

「な…」

思わず息を呑む。少女の端正な顔が、激しい感情に歪んでいた。

……それは、怒りだった。彼女の小さな体を焼き焦がさんとするほどの、激しい憎悪と憤怒だ。それがオレに向けられたものではないと分かっていても……気押されたオレは、しばらく言葉を失っていた。

「奴らは私を人質にして、パパを甚振った。そのせいでパパは死んだ……奴らが、憎い。私はアイツらを、絶対に許さない」

「じゃあ、アンタは……仇を探してるのか」

どうにかそれだけ言うと、彼女は頷く。

「そういう事。……そして、私がお前を、探してた理由もそこにある」

そう少女は言うと、オレに向き直り真っ直ぐに見つめてきた。オレは少し恐ろしくなって視線を外すが、それでもなお少女の視線はオレを捉えて離さなかった。

「待ってくれよレディ。オレとその仇に、一体なんの関係があるっていうんだ」

「……その仇の正体が、『アルマノイド』だと言ったら?」

その言葉に、目を見開く。その言葉をこの少女の口から聞こうとは、夢にも思わなかったからだ。

「…アンタ、今、なんて言ったんだ」

「『アルマノイド』。お前も知ってるはず…『偉大なる大書庫』の叛逆者にして、人ならざるチカラを持った超越者。そして、お前はたぶん…それ以上の事も知ってる」

 少女の目が、爛々と輝いていた。

『アルマノイド』……彼女の言うその存在こそが、アルトに課された「仕事」によって、オレが戦う事を命じられた者たちだ。

ほとんどの『街』や『放浪者』の間では、彼らは半ば伝説に過ぎない。だが、確かに存在している「生きた伝説」でもあった……奴らは、東西の大陸の各地に散らばっているのだ。

「ああ…『アルマノイド』の事自体は知ってるぜ。それ以上ってのはともかくだが」

言いながら冷や汗をかく。彼女の口ぶりは、明らかにこちらの事情を知っているようであった。

その『アルマノイド』をオレはこの半年、追い続けてきた。……そして、その最期をこの目で克明に見てきたのだ。

「……3年前。パパがアイツらに殺された、あの日から。私はずっと、奴らへの復讐のチャンスを探している」

がたん、と音を立てて少女が立ち上がった。

「……今夜、仇がこの『レノラの岩橋』にやってくる。アイツはあの日から何も変わっていない……相変わらず、殺し続けてる。何も悪いと、思っちゃいないんだ。

……ねぇ、お願い。私にアイツをぶっ殺す手伝いをさせて欲しいんだ。ハロルド・アーチャー…ううん、こう言ったほうがいいかな」

彼女は、オレを静かに見据えて、言った。

「『ハンター・デビル』。……ア(・)ル(・)マ(・)ノ(・)イ(・)ド(・)殺(・)し(・)の(・)、ア(・)ル(・)マ(・)ノ(・)イ(・)ド(・)」

 

◆――◆◆――◆◆――◆NOMAD◆――◆◆――◆◆――◆

 

 

幾百年の昔、『大破局』は世界の全てを変えた。

大陸は沈み、海が干上がり、熱帯は寒冷に、凍土は砂漠に変わった。栄華の時代を支えていたヒトの叡智の結晶も、途方もない数が失われ……激変する大地の底や、深い水底へと沈んでいった。

そうして喪われた智慧と文明を追い求めんとする科学者が、イグドエニス大陸を拠点として活動していた。彼らはやがて『偉大なる大書庫(グレイトフル・アーカイブ)』を名乗り始め、やがてイグドエニスを支配する一大勢力へと成長した。

 

そんな彼らがある時、とある遺物を発見したのが事の発端だった。

彼らはその遺物が、極めて高度な技術の集合体である事に気づいた。そしてその一部を解体し、研究の一環として人体へと組み込んだのだ。

……そうして、『アルマノイド』が生まれた。人間と変わらぬ姿に、人外の力を秘めたバケモノ達が。

 

『アルマノイド』は少年少女を素材として作られながら、常人を遥かに超える身体能力と耐久力を手に入れていた。そしてさらに、人ならぬ特別な能力――『創造』の力が、彼らの身に宿ることとなった。

腕に嵌められた機械仕掛けの腕輪を介し、旧世界の遺物(オーパーツ)たる『コア』と接続した彼らは、『ダストギア』と呼ばれる微細なナノマシンを体内で生み出し、操る事ができる。その灰色の砂塵は、扱う者によって鋭く硬い武具へ、死を蓄えた毒牙へ、揺るがぬ屋根と柱へ、ひび割れぬ土塊へ、精緻極まる絡繰へ、あるいはその「先」へ…… あらゆる物質や現象へと、思いのままに形を変えていくのだ。

『偉大なる大書庫』が当初、何を思って彼らを造り上げたのかは定かではない。いずれにせよ、彼らアルマノイドは『大書庫』の新たな戦力として活躍を期待され、戦士としての訓練を施されて戦場へと送り出された。

……そして、叛乱が起こった。双方に多数の犠牲者を出しながらも、彼らは産みの親たる科学者たちと決別し、自由を得たのだった。

 

世界に散らばった彼らは、今や誰に咎められる事もなく、その力を思い思いに奮っている。ある者は悪逆を退け、民衆を救う英雄として。ある者は弱者を蹂躙し、快楽を貪る邪悪として。またある者は神出鬼没の奇人として……いずれせよ、『大書庫』から多額の懸賞金を掛けられた『アルマノイド』は、今や世界のお尋ね者だ。

だが彼らの力は強大で、また殆どの者は狡猾で用心深かった。彼らを倒せる者が現れないまま、10年余りの時が流れた。

いつの間にか、彼らは大陸中を当て所なく彷徨い続ける『放浪者』の中へと紛れていき……その姿と活躍は、今や『放浪者』の間でも伝説的な風聞として語り継がれるに留まっている。

 

「……そして、今から半年ほど前。奇妙なアルマノイドのウワサが、流れ始めた」

彼女は淡々と語り始めた。

「……ウワサのそいつは、必ずと言っていいくらいにアルマノイドのいる所にだけ現れた。そして、アルマノイドだけを、善悪に関わらず殺していった。

……アルマノイド同士が戦い、どちらが死んだなんて話は、それ自体は珍しい事じゃない。……けれど、そいつはアルマノイド以外の人々を、殺さないと言われていた」

ランタンの明かりが大きく揺れて、少女の瞳の輝きが大きく跳ねる。彼女は続けた。

「……『アルマノイド殺しのアルマノイド』。そいつは必ず、歯を剥いて嗤う悪鬼の仮面を着けて現れる。だから人々は、そいつの事を狩人の悪魔(ハンター・デビル)と呼び始めた」

そして、彼女は、オレを真っ直ぐに見据えて言った。

「……その足取りを、私はずっと追っていた。そしてようやく、この『街』で出会うことができた。

……ハロルド・アーチャー。お前が、そうなんでしょ?」

「……」

オレは何も言えなかった。くらくらと目眩がするような感覚に襲われて、ただ、彼女の目を見つめ返す事しかできなかった。

 

「……なんで、そう思うんだ」

ややあってから、オレはようやくそう問うた。

「それに、どうしてオレのフルネームまで知ってるんだ。まだ自己紹介はしてなかったはずだけど」

思わず語気が強くなっていた。……この少女に、自分の正体を知られている。その事がどうしようもなくオレを動揺させていたのだ。

「……盗み聞き、したんだ。『大書庫』の奴らから」

答える一瞬、今までまっすぐオレを見据えていた少女の視線がわずかにぶれたのを、オレは見逃さなかった。

……ウソをついている。そもそも『偉大なる大書庫』の連中が、盗み聞きされるようなやり方で連絡を取り合っているはずもない。

なら、コイツはどうやってオレの事を言い当てた?

「言い逃れはよしな。…正直に答えてくれよ。レディ」

オレはさらに語気を強めた。

「アンタのその情報、どこで手に入れたんだっての。まさか、やっぱり『大書庫』の手先だとか言ったりしないだろうな?」

「違う!!」

少女は大声で否定する。

「……さっきも言った。『大書庫』は、私の敵。……アイツらの味方なんて、しない……信じて」

「信じるかどうかは……アンタが正直に答えてくれるかどうか。それ次第だぜ、レディ」

「……」

少女はハッと肩をこわばらせ、わずかに俯いた。やはり何か、隠し事があると見て間違いない。

(……少し、脅かしてやるか)

「なあ、もう一度だけ言おうか。オレの質問に、正直に答えてくれよ」

言うなり、オレは腰のリボルバーを抜いて目の前の少女に突きつけた。

『ヘカテー財団』製造のアングリー・ホーン、45口径モデル。旧世界の『エンフィールド・ロイヤルアーマメンツ』が設計したじゃじゃ馬は強烈な反動と重量ゆえ、扱いづらい事この上無い。だがその分、威力は折り紙つきだ。

「っ……!」

少女が息を飲む。その目には明らかな動揺の色が浮かんでいた。

「言っとくけど、アンタのウソはすぐ分かる。表情にすぐ出るんでね。……もしまだ、正直に答えられない、って言うんなら。コイツでお前の頭を吹き飛ばす」

分かってるよな?と、オレは少女の白い額にピタリと照準を合わせた。

正直、あまりこういうやり方は好みではない。だがコイツは危険なほどオレの事を知っている。……ならば、多少手荒い真似をしてでも口を割らせる他ない。

「さあ、どうする?」

「……」

少女は視線を下げたまま、しばらく沈黙する。

……ややあって。彼女はようやく口を開いた。

「……私が、お前の情報を知ったのは、『大書庫』の追手から。……それは、本当のこと」

「へぇ。そこが本当なのは意外だな」

オレは笑って返した。もちろん、大口径の狙いはそのままだ。

「どうやって聞き出したんだ。賄賂でも握らせた?……それとも、その痩せっぽちの体で奴らに色でも売ったのか」

「ッ!!そんなわけ――」

「おっと。動くな」

少女の顔が怒りに歪む。思わず身を乗り出そうとした彼女を、オレは拳銃の先で押し返し、制した。

「…ま、そうだよな。下世話なこと聞いて悪かった。

……さて、そうなるとだ。オレからしてみれば、アンタが奴らとグルで、オレのことについても事細かに教えてもらった…としか思えないんだよな。違うのか?」

「……違う」

「じゃあどうやったんだ?答えろ。さっきも言ったけど……ウソはバレるぜ」

「……分かった。じゃあ、話す」

意を決したように、彼女は再びオレと目を合わせた。

「……叩きのめして、聞き出した。……さっきのは、奴らを返り討ちにして、吐かせた情報」

「……そりゃあまた、意外な話だ」

オレは彼女の顔を観察する。……わかりやすい挙動不審の様子は見られない。驚いたことに、ウソを言っているようには見えなかった。

「だが、にわかには信じがたいね……人を見かけで判断するのも良くねぇが、アンタにそんな力があるようには思えない」

オレは改めて少女の姿を観察する。

小柄で華奢な体格を見るに、まだ15歳前後だろうか。日中の往来で見かけた、同じくらいの歳の少年少女と比較しても細っこく、貧弱そうな体つきだ。

テックウェアの下は丈夫な旅装を着込んではいるが、戦闘用の装いと言えるものではない……この肉体のどこに、『大書庫』の追手に抗する力や仕掛けがあるというのか。

「どうやったのか教えてくれよ。さっき見せてくれた、『運命の羅針』とやらのおかげか?」

「……ごめんなさい。それは、言えない」

少女は再び目を伏せる。

「……私にも事情がある。これ以上は、話せない」

「おいおい。そりゃあナシだぜ、レディ」

オレは大仰に肩をすくめた。

「そこがハッキリしなきゃ、やっぱりさっきの話はウソだって考えなきゃな。……アンタにどんな事情や都合があろうが、オレには関係のない事だ」

「……でも」

「でも、じゃねぇっての」

声のトーンを一段落として、オレは脅すように言った。

「包み隠さず、全てを話してもらおうか。もし、まだイヤだって言ったり、ウソで言い逃れようとするなら……問答無用、アンタの頭は粉微塵だ」

少女は再び、口を閉ざした。その顔には焦りと恐怖の表情が浮かんでいるのが、ありありと見てとれた。

(あー、こりゃあちょっと……ビビらせすぎたか?)

ほんの少し、後悔の念が湧く。これ以上何か聞き出すのはもう難しいか。そう思って、少女の方を見ていると……またもや彼女が、思わぬ行動に出た。

 

動いたのは彼女の右腕だった。音もなく伸ばされた白い指先が、リボルバーの銃身を掴む。

「おい、待て――」

「……分かった。なら、殺せばいい」

そうしてそのまま、彼女は身を乗り出し……自身の額へ、その銃口をピタリと貼り付けたのだ。

「……バカな真似はよせよ、レディ。ヤケっぱちで命を捨てる気か?」

思いがけない状況に戸惑いながらも、撃鉄に指を掛ける。この少女の行動は、今のところ完全に予測不能だ……下手なことをされる前に、本当に殺しておくべきか。そんな猜疑心が、密かに鎌首を持ち上げていた。

「……覚悟は、できてる」

少女の声は恐怖に上ずっていた。だが、この上なくクリアに、聞き取れた。

「……私は本当に、この先を話したくない。『ハンター・デビル』…それでお前が、私を殺すと、そう言うのなら。……殺されても、構わない」

「……本当にいいんだな?」

短く、そう問いかける。拳銃越しに、彼女の手がかすかに震えているのが伝わってきた。

「……うん。でもその前に、約束して欲しい」

唇を噛み締めながら、少女は言った。

「……私の仇を、アイツらを。お前が私の代わりに、討って欲しい。

私の復讐を、引き継げるのは……『アルマノイド殺しのアルマノイド』、お前しかいないんだ」

少女の瞳が、朱々と燃えている。今度は、再びオレが黙る番だった。

 

……この少女は、本気だ。我が身を犠牲とすることも厭わず、ただがむしゃらに復讐を成し遂げようとする強烈な覚悟と執念。

その凄みに、オレは思わず圧倒されていた。

「……」

……そして同時に。この少女の小さな体に宿る、狂気ともつかないその感情に。

空恐ろしいものを、感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――――ハロルド君!!聞こえているかい!?……ハロルド君!!』

そして唐突に、耳飾りからアルトの声が響き渡った。

「い、いきなりなんだよ……」

いつものアルトらしくない、切羽詰まった様子だ。怪訝に思いながらオレは耳飾りに軽く左手を添え、聞き返す。

「そんなに慌ててどうした?何かあったのか?」

『どうしたもこうしたもあったもんじゃない!!奴だよ……アルマノイドだ!大通りで暴れまわってる!』

「何っ…!?」

アルトの報告に、オレは思わず目を見開いた。

そういえばもう夜だ。確か、奴がここに来るのは……早ければ、今夜と言っていたか。

『今、どこにいるんだい!?『大書庫』の追手は大丈夫なんだろうね!?』

「今は宿だ。追手のことだが――」ちらりと少女の方を見てから、続ける。「――色々あってうまく撒けた。その大通りってどっちの通りだ!?」

『ニダヴェリール側の通りだ!!もう死傷者も出始めている。急ぎたまえ!!』

「ああ、分かった!!」

『武装も忘れないように!!』

そう言い残して、アルトの声はそれきり聞こえなくなった。おそらくもう通信を切ったのだろう。

ふと少女の方を見ると、呆気に取られたような表情をしてこちらを見ている。銃身は両手で握ったままだ。

「……い、いきなり何?……誰かと話してたの、今のって」

耳飾りの事…もっといえば、オレの協力者を彼女は知らないようだ。アルトのことを把握していない『大書庫』の追手から聞き出した、という彼女の主張にウソはないようだ。彼女には今のやり取りが、奇妙な独り言にでも見えていたのだろうか。

オレは耳たぶに下げられた装飾品を軽く指さしながら言う。

「コイツを使って会話ができる奴がいてね。まあともかく……銃から手を離してくれ」

「……でも、お前、ワタシを殺すって」

「…ああもう、いいだろそんな事。やめだ、やめ」オレは空いた左手をヒラヒラと振った。「今はそれどころじゃないし……アンタの度胸と覚悟に免じて、今は不問ってコトでいいさ」

そう言うと、彼女はおずおずと手を銃から離した。

風に乗って、微かに悲鳴が聞こえ始めた。ヤツのことは殺人鬼としてウワサが立っていたのを思い出す。あちこちでウワサになるだけあって、派手に暴れているようだ。

 

「……レディの言う通り。『アルマノイド殺しのアルマノイド』、人呼んで『ハンター・デビル』ってのは、たしかにこのオレだ」

席を立ち、大口径をホルスターに収めながらオレは認めた。

「今、ニダヴェリール側の大通りでアルマノイドが暴れてる。……おそらくアンタの仇ってのもそいつだろうな。

何はともあれ……オレはそいつを殺しに行く」

「……私も付いて行く」

「そう言うと思ったぜ」

即答した少女に、オレは肩をすくめる。

「なら急いでここを出るぞ。……オレの借りてる部屋に武器が置いてある。そいつを回収して、すぐに奴の所へ向かう。置いてかれるなよ、レディ?」

「……大丈夫、ちゃんと付いて行く、それと」少女はやや膨れ面だった。「……その『レディ』って呼び方、やめて。キザったくて嫌だ」

「オーケー、分かったぜレディ……ああ、これがダメなんだよな」

なかなかマイペースな奴だ、と思いながら、オレは続けた。

「とりあえず、ここらでアンタの名前も教えてくれよ。そっちだけオレの名前知ってるのも、フェアじゃねぇしな」

「……カラ。私の名前は、カラだ」

「カラ、か。いい名前だな」

「……ありがと」

彼女は小さくはにかんだ。初めて見せるその笑顔は年相応の少女にふさわしい、屈託のないものだった。

「じゃあ行くぜ。付いてきな、レディ……いや、カラ」

オレは自分の部屋を目指し、廊下へと出る。いまだ謎めいた『放浪者』の少女――カラもその後に続くように立ち上がり、その後に続いて部屋を出ていくのだった。

 

◆――◆◆――◆◆――◆NOMAD◆――◆◆――◆◆――◆

 




ようやくヒロインの名前判明。

拙い文章ですが、楽しんでいただけたら幸いです。
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