NOMAD:Tales of ArmorNoid(仮題) 作:こっくわーん
「鬼畜すぎる男!ス⚪︎イダーマッ!!」
ぼく「どっちかってーと『始まりは蜘蛛』じゃないのコレ」
※本小説のヴィランである『アルマノイド』についての説明を、#4と#5に書き足しております。書くつもりで思いっきりすっぽ抜けていたのですわ……。
お手数ですが、読み直していただけると幸いです。
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『アルマノイド』――それは『
体内で生み出した灰色の『ダストギア』を操り、あらゆる物質や現象を思いのままに創り上げる彼らの力は、かつては戦場で猛威を奮った。彼らが『大書庫』を離れた今もなお、彼らの『創造』の力の片鱗は風聞で語り継がれ、その強大さを物語っている。
アルマノイドとは一騎当千。同じアルマノイドを除いては、彼らに敵う者などありはしない。道ゆく『
だが――何事にも、例外はあるものだ。
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『さて……待たせたなゴキグモ野郎』
愛用の45口径リボルバーをホルスターから引き抜き、こちらを振り向いたアルマノイドへと構えて、オレは言った。
『今夜の仕事は、害虫駆除と洒落込もうか』
「ギ、ギギ……ッ、ななナナ何だぁ貴ささ様は」
毒蜘蛛のそれを模したらしい左右に開く大顎の隙間から、啜った鮮血の混じる粘つく涎を撒き散らし。小刻みに震えながら、蟲肢のアルマノイドは不可解なアクセントで言葉を発した。
アルマノイドにはいくつかの種類がある。今宵の相手はその外見からして、明らかに『
異形と化したその姿は、『
『アンタと同じ、ただのしがないアルマノイドさ。なんとなく分かるっしょ?』
わざと小馬鹿にしたような口調で、オレはアルマノイドの誰何に答えた。
「ウゥゥ嘘をつく付くツクなァ、小僧ォォオオ」
威嚇するように大顎をカチカチ鳴らし、アルマノイドが吐き捨てる。
「キサ貴きさ様のような若造ゾゾォォオ、我らはラハららラハ知らぬ……『
『オレがどこの誰かなんて、この際どうだっていいだろ? 重要なのはさ……アンタがこれからオレに殺されるって事実、ただそれだけだぜ』
複眼の並ぶ額に、リボルバーの照準をピタリと合わせる。蟲肢のアルマノイドはなお、軋むようなせせら笑いを浮かべた。
「シャはハハははぁはっは……けケ拳銃でこの、このコノコの我が、アルマノイドが討てると思うてか。カカかヵカ片腹痛し!!」
『ああ、そうだよな』オレは奴にそう笑い返す。『そうやって思い上がって油断してるから。アンタは今夜、ここで死ぬんだって言ってるんだよ。ゴミ虫野郎』
「……シし知ったような口クチを聞くな、小僧」
オレの言葉の何かが引っかかったのか、アルマノイドが不意に沈黙する。背に生える蟲肢が、ピクリと動いた。
「きキ貴様こそ、タイたタ大した思い上がりと増じジョ上慢。よほど死にたいようだな…?」
その鋭い鉤爪にまで力が込められ、怒りに戦慄くようにギチギチと音を立てて軋み始める。
「ワレわ我の宴をじゃ邪魔マャままし、愚弄すらしたムむ報い………その血でアガがが贖ってもラオう!!」
そう叫ぶやいなや、蟲肢のアルマノイドは目にも留まらぬ速度で襲いかかってきた。
『……ま、そう来ると思ったぜ』
だが、オレは動かない。
狙いは先ほどからやや横にずらし、奴のひときわ大きい蟲肢の中ほど。落ち着き払って、ただじっと奴の挙動を見据え――引き金を引いた。
夜闇を切り裂き、瓦礫の山を震わせて轟く45口径の咆哮。吐き出された漆黒の弾丸が、突き出された蟲肢の関節へと吸い込まれ――その外殻を、薄紙でもやぶくようにバラバラに引き裂いた。
「ギギィイイイィィィいッ!?」
弾丸に撃ち抜かれた蟲肢が千切れ飛び、その勢いで飛び掛かろうとしていたアルマノイドの体が大きくバランスを崩す。もんどり打って瓦礫の山に激突する蟲肢の異形を、オレはただ冷たい眼差しで見据えた。
『だから言ったじゃんか。思い上がって油断するな、ってさ』
もうもうと立ち昇る土煙へ向けて、続けてもう一発。今度は寸前で避けられたらしく、弾丸は煙だけを切り裂き、コンクリートの破片だけを粉々に砕いて着弾した。
『ギぎゃ、ああ………!!』
残る蟲肢で器用に体を起こしながら、アルマノイドはギチギチと大顎を鳴らしてオレを睨む。千切れた肢からは灰色のダストギアが体液のように噴き出し、瓦礫に滴り落ちてはシュウシュウと白い煙を上げていた。
(やはり猛毒の性質持ち……か)
「きキっ、貴様ァ……いいっい一体何ヲした!?」
『何って、見りゃわかるでしょ。アンタの背中のキショいのを、ちょうどいい長さにカットしてやったのさ』
肩を大袈裟にすくめてみせると、蟲肢のアルマノイドはさらに半狂乱な様子で顎から唾液を撒き散らした。
「なナな何故だ、
『あいにくと企業秘密ってやつでね。まあ、アンタには教えてやってもいいぜ?……冥土の土産にゃ、悪くないだろうしよ』
「調ョウぅ子に乗るな……小僧ォオオッ!!」
怒声と共に、アルマノイドは背中の蟲肢を振りかざして再びオレへと襲いかかってくる。肢を一本失ったせいか、その動きは先ほどより数段鈍く、直線的で読みやすいものになっていた。
『……調子に乗ってるのはアンタだぜ、害虫野郎』
そう呟いて、オレはリボルバーの狙いを蟲肢の先端へと合わせる。怒りで我を忘れたアルマノイドが次に取るであろう動きなど、すでに手に取るようにわかっているのだ。
「死ィィねぇぇイッ!!」
大きく顎を開きながら、アルマノイドが突っ込んでくる。その背から伸びた、鋭い爪先がオレを捉えんとした瞬間――オレは素早く身を引き、紙一重でそれを躱した。
外骨格をわずかに爪がかすり、装甲が何枚か剥ぎ取られる。だがダメージとしては軽微、許容範囲だ――意に介さず、オレは素早く照準を合わせた。
3発目の轟音。カウンターぎみに放たれた弾丸がアルマノイドの肩口へとねじ込まれ……貫通し、蟲肢をさらにもう一本えぐり飛ばす。
「ぎぃいイィッ!?」
再びバランスを失うアルマノイド。だが今度は瓦礫の山に突っ込む事はなく、残った蟲肢を器用に操って空中で体勢を立て直した。這いつくばるような姿勢で着地すると、怒りで顎をガチガチと打ち鳴らしながら複眼でオレを睨みつける。
「おのれェ……!」
呻くように言葉を漏らすアルマノイド。オレはその眉間に狙いを定め、リボルバーの照準をピタリと合わせた。
『オレはアルマノイドだ。それはまったくウソじゃない……けどな、厳密に言えばアンタらとオレには、色々と違いがあるのさ』
「な……ナんだ、と?」
複眼に戸惑いの色を浮かべながら、アルマノイドが問う。オレは静かにリボルバーを構えたまま、不敵に笑ってみせた。
『
「き……キサマ一体、何者だ……?」
『……まあ、いいぜ。一応は名乗っておこうか』
オレはそこで言葉を切る。アルマノイドが大顎を鳴らして警戒の構えを取る中、オレは芝居がかった一礼をしてみせた。
『オレは『アルマノイド殺しのアルマノイド』。人呼んで、『ハンター・デビル』。
神出鬼没でプリティクール、ニヤニヤ笑いを貼り付けて悪いアルマノイドをぶっ飛ばす、アンタたちの死神さ』
激昂したアルマノイドが蟲肢を振り上げ、三度襲いかかってくる。寸分違わぬ狙いで、オレは4発目の引き金を引いた。
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……轟音が、鳴り響く。
「――どうやら、始まったみたいだね」
ハロルドと異形のアルマノイドが戦う大通りから、やや離れた裏路地。そこからアルトは、ハロルドとアルマノイドの攻防を遠目に観察していた。
今の音は、聞き慣れたハロルドの発砲音だ。『ヘカテー財団』製造の45口径リボルバーは市販品としては凄まじい威力を誇り、彼が『仕事』においてこよなく愛用する一丁でもあった。
「さて、出だしはまあ順調、といったところかな?やつの攻防の要、背中の脚を着実にもいでいる……無駄撃ちもほぼなし、と」
アルトはそう呟くと、視線を戦場から外して隣の少女に向き直る。
「……それで、えーっとキミは――カラ君、でよかったかな」
「……うん」
ハロルドから預かった双眼鏡から目を離さないまま、黒髪の少女はそっけなく答えた。
その顔つきには相変わらず感情の色が乏しいが…どこか微かに、憎しみと怒りが滲んでいるように思えた。
彼女のことはハロルドから説明を受けている。父親を殺したアルマノイドを殺すために『アルマノイド殺しのアルマノイド』の事を調べ、その正体をハロルドだと見抜いて接触してきた事。『偉大なる大書庫』の追手に付け狙われながら、今日まで生きてきたこと。そして、仇であるアルマノイドに今なお強い憎悪を抱いている事……。
「まったく、ハロルド君のお人よしにも困ったものだよ」
ため息混じりに、アルトはぼやいた。
「本来なら、キミのような部外者をここに居させる訳にはいかないんだ。『仕事』の巻き添えで人死が出るのを、ハロルド君は嫌がるからね……それがまさか、自分から誰かをこんな最前線まで連れてくるとは思わなかった」
言いながらアルトはカラに歩み寄り、その肩に手を置く。少女の表情はさらに険しさを増したが、それに構わず彼女は続けた。
「確か、キミはお父さんの仇を探しているんだったかな?その為にたった一人で『アルマノイド殺しのアルマノイド』を追い求め、ついにハロルド君にたどり着くだなんて大したものじゃないか。
その行動力と執念は、このワタシですら感服するよ」
「……」
「ハロルド君がキミをここまで連れてきたのも、キミのその覚悟を信じたからなんだろうね。あの子はそういうのを無下にできない性格だ。そのせいで厄介ごとを呼び込む事もあるけれど……まあ、今回は多めに見てあげようかな」
「……それ、私が厄介だって、意味?」
目線をちらりとも向けないまま、カラが答える。
「そういう事。正直なところ、ワタシはハロルド君ほどキミを信頼できないんだ……ただの被害者にしては、キミはアルマノイドについて
ぎり、と少女の肩にアルトの爪が食い込む。
「……ッ」
「キミにワタシたちへの敵意がないことは分かっているとも。……けれど、けれどだ。キミは一体、何者なんだい?
少なくとも、ただの民間人でないことは容易に想像がつくよ。そうでもなければ『
「……だったら、何?」
「ねぇ、カラ君」屈み込んで、アルトは少女の耳元にそっと唇を寄せる。「キミは何か、とても重要なことを隠しているんじゃないかな?例えばそう……キミのお父さんの事とか」
「……!」
少女の肩がわずかに震えた。その表情に微かな動揺の色が滲んだのを見逃さず、アルトは言葉を続ける。
「キミがアルマノイドについてよく知っているのも、『大書庫』に追われるのも。そのどちらもが、キミのお父さんに起因している。違うかい?」
「……」
カラは押し黙ったまま、ただじっとアルトを睨み返す。
「……だったら、何?」
「否定はしないんだね。……まあ、聞いてみただけさ。どのみち、今ここでキミをどうこうするつもりはないよ。ハロルド君が悲しむからね」
そう言って、アルトはあっさりと手を放した。
「こう話題にはしてみたけれどね。実のところ、キミが何を抱えていようが、ワタシはそれほど興味がない。最低限、知りたい事さえ分かれば満足さ」
「……私の、パパの事?」
「ああ、今のである程度察しはついたよ。まあその事はおいおい、ゆっくりと話そうか……」
アルトは事もなげにそう告げると、カラの隣に並び立って大通りを見やった。ハロルドとアルマノイドの戦いは、両者共一歩も引かないまま未だ続いている。
「ともかく今はハロルド君のサポートに専念しないとね。キミも奴の最期は見届けたいだろう?だから『仕事』の現場から遠ざけるつもりはない……ただし、キミの安全の為にもワタシからは極力離れないこと。それが条件だ」
「……わかってる」
「うん、いい子だ」
アルトは満足げに頷くと、カラの肩をぽん、と軽く叩いた。
「……それで、何を手伝えばいいの?」
「ふふっ、話が早くて助かるよ」
そう言って、アルトはにっこりと笑った。
「キミにお願いしたいのはね――」
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「ぐ、おォオ……!!」
複眼を怒りに赤く光らせながら、アルマノイドが唸るように吠える。
その背から伸びた蟲肢のうち、半数以上が中ほどから砕けて使い物にならなくなっていた。全身にも無数に銃弾の痕が刻まれ、傷口からポタポタと溢れる血とダストギアが足元の瓦礫をまだらに染めている。
しかし……それでもなお、異形のアルマノイドは戦意を衰えさせてはいない。むしろ、激しい負傷と怒りが、奴の闘争心により一層火を付けたようだ。
『思ったよりしぶといね……一寸の虫にもなんとやら、ってヤツか』
リボルバーをスイングアウトし、空薬莢を排出させながら、オレはうんざりした口調で呟く。
やつの攻撃は上手く躱せている。今のところ、少しばかりの装甲を剥ぎ取られた以外に目立った負傷はないが……別の問題が生じていた。
(さぁて……もう残りの弾が少ねぇっての。どうする?)
体内の『ダストギア』により、弾丸を受けつけない肉体を持つアルマノイド。オレがその常識を打ち破り、奴等の表皮と肉とを撃ち抜く事ができるのは……実のところ、それなりのタネと仕掛けを要する手品のようなモノだった。
オレもアルマノイドである以上、体内で生み出したダストギアを操る事ができる。そしてそのダストギアは、アルトによって特別な調整が施されている――敵アルマノイドの
そしてその性質を利用した、特製の弾丸が「手品のタネ」の正体だ。
(45口径は……こいつで打ち止めか)
旅の途中で手作りした特製の弾丸を、リボルバーに装填する。この弾の弾頭はオレのダストギアで形成されており、着弾と同時にアルマノイドのダストギアに干渉し炸裂する仕組みとなっていた。
大口径弾ゆえ、破壊力は文句なしの一言。大抵のアルマノイドは自らの耐弾性を過信して銃撃を避けようともしないのもあり、この弾は非常に効果的だ。だが、この弾丸には無視できない大きな欠点がある。
一発ずつ手作りするため、弾数が非常に限られているのだ。事前に用意した分を撃ち尽くしてしまうと、その場で新たに生成する事はできない。つまり……アルマノイドとの戦いにおいて、オレの手数には大きな制限が課されている。
そして今、リボルバー用の残りはもうない。装填した最後の六発を無駄にせず、確実にやつを仕留める必要があった。
「ガァアアァ…………ッ!!」
蟲肢のアルマノイドがガチガチと顎を噛み鳴らす。もはや怒りで言葉すら忘れたのか、猛獣のような唸り声だけがその隙間から漏れていた。
『おいおい、もう鬼ごっこは終わりか?悪いけどさ、ギブアップは受け付けないぜ……アンタを仕留めるまではな』
「グゥう……ぅガァアアァ……ッ!!」
挑発を仕掛けてみるも、やはり返事はケダモノじみた呻きのみ。そして挑発のお返しにと、アルマノイドが新たな行動に出た。
まだ無事に残っている肢を、いきなり地面に突き立てたのだ。そのまま、肢の節々からミシミシと音が鳴るほどに力を篭め始める。
「ぐゥううウゥゥゥうオォォオオ……!!」
何かがマズい、そう直感が告げていた。とっさにオレは地面を蹴り、大きく後ろへ飛び退いた。
次の瞬間、力任せに蟲肢が振り抜かれる。その勢いと力で瓦礫が無数の破片となって飛び散り、散弾のようにオレの周囲へと降り注いだ。
『なっ!?』
反射的に両腕を顔の前で交差させ、瓦礫から頭部を守る。が、破片のいくつかは無防備になった腹部や脚を掠め、無数の鈍い衝撃がオレを襲った。
『チィ……ッ!!』
舌打ちし、雨あられと叩きつけられる瓦礫のつぶてに耐える。
幸い、破片そのものは外骨格の装甲で充分に防ぐことができるため、大したダメージにはならない。だがこの一瞬、オレはまったく動くことができず……アルマノイドを視界から外してしまっていた。
それが、ヤツの狙いだった。
「……シャハぁッ゙!!」
奇声が聞こえた瞬間、両腕を生暖かく柔らかい感触が包みこむ。異変を感じた時にはすでに遅く、前に引っ張られる感覚とともにオレの両脚が地面を離れた。
『何……ッ!?』
体が宙に浮いている。引き寄せられている。ものすごい勢いで、アルマノイドの方向へと。
『何が、起きて……ッ!?』
「シャハハハハァッ!!シャアァアッ!!」
奇声を発しながら、アルマノイドは無事な蟲肢を高く掲げる。その奇っ怪な動きに合わせるように、オレの体はがくんと横向きに引っ張られ……弧を描くような軌道で、屋台の残骸へと衝突した。
『ぐぉあ……ッ!!』
凄まじい衝撃と激痛が全身を襲い、意識が飛びかけた。残る気力でどうにか立ち上がろうとして……オレはその時初めて、両腕の自由が効かない事に気づいた。
両腕全体に、白くネバネバした塊が纏わりついているのだ。それのせいでオレの両腕は、さっき瓦礫から身を守ろうとクロスさせた姿勢そのままで固定されてしまっている。リボルバーも巻き込まれており、もはや引き金を引くことすらできない。
『蜘蛛の糸……ってワケか。クソッ!!』
吐き捨てるやいなや、再び蜘蛛糸が引っ張られる。オレの体は勢いよく、再び宙へと釣り上げられた。
『チッキショ、ぐぅうう……ッ!』
抵抗しようにも、両手を糸で塞がれていては空中で虚しく身をくねらせるのが精一杯だ。アルマノイドはそんなオレの様子を、ぎょろりと複眼を輝かせて眺めながら哄笑していた。
「シャハぁ!シハッハッハァ!!」
『あの、野郎……!!』
悪態をついたその瞬間に、またも地面へと叩きつけられる。衝撃と激痛が全身を駆け巡り、オレは思わず呻き声を漏らした。
『がはッ!!』
肺の空気が一気に叩き出される感覚。だがその苦痛に悶える暇すら、今のオレには与えられない。両腕を縛り上げる糸束が、再びオレの体を強引に釣り上げた。
『うがぁ……ッ!!』
今度は叩きつけられはしなかった。だが状況はさらに最悪だ……なんと、オレのことを頭上でぐるぐると振り回し始めたのだ。
『く、そぉ……っ!』
視界が回る。吐き気がこみ上げる。世界が揺れる。三半規管を揺さぶられ、全身に響く激痛と浮遊感で頭がどうにかなりそうだった。
「シャハハァッ!!シャハハッハァ!!」
そんなオレの様子を嘲笑いつつ、アルマノイドはなおも糸束を振り回す。
『うぐ……おぇえ……っ!!』
激しい回転の勢いに負け、ついに仮面の内側で嘔吐してしまった。ニヤニヤ笑いの面の下で顔面を吐瀉物まみれにしている事を知ってか知らずか、回転の勢いとアルマノイドの哄笑はさらに激しさを増していく。
(クソッタレ……!このままじゃマジでマズいっての……ッ!!)
内心で毒づくが、もはやどうする事もできない。両腕に絡みついた糸を解こうにも、さんざんに打ち付けられた挙げ句に高速でブン回されていては、体がまったく言うことを効かないのだ。
「シャははハハァ……あっハハハははっはははハハ!!」
『やめ、ろぉ……ッ!!』
さらに、糸の振り回しが加速していく。遠心力と回転の勢いは増す一方であり、オレの三半規管は限界を迎えようとしていた。
『おぇえ……っ!!がは……っ!!』
胃の中のモノを残らず吐き出しながら、オレは必死に耐え続けるしかなかった。
……だが、そんな地獄の苦しみが不意に終わりを迎えた。
いきなり回転のベクトルが変わった。何が起きたのかを理解する猶予すらなく、高速回転の勢いをそのままに、オレの体は上空へと打ち上げられた。
『ぐ、ぉあ……ッ!?』
もはや声を上げる事すらままならず、オレはただただ空を舞った。空気を切る感覚と浮遊感が、さらに胃液を込み上げさせる。
気がつけば、大通りの街並みを見下ろせるほどの高さにまで上昇していた。このまま落下すれば、確実に命はない。
ふと見下ろせば、真下にあるのは半壊した民家が一軒。
『おいおい……流石にっ、冗談、だろ――――?』
……そして、ガクンと糸束が引っ張られ。オレの体は急降下を始める。
そのまま、勢いをつけて……オレはその民家の屋根へと、凄まじい速度で叩きつけられた。
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「……なるほど。やはりすでに、戦いは始まっていたという訳だ」
『レノラの岩橋』、無人と化したイグドエニス側の検問所にて。
ニダヴェリール側の、しかしここからでも分かる程にもうもうと立ちのぼった土煙を遠目に眺めながら……独りごちる、男の影あり。
「さてはて、あれがどちらの仕業なのか。ここから確認するのはちと、難しいな」
男は立派な顎髭を撫でながら呟く。その右の上腕には、細かな傷の目立つ大きな腕輪が嵌まっている……『
「おそらく今宵も君が勝つ。また一人、同胞の命が失われる……だがそれも、今日この夜を以て終わりを告げるだろう」
男はそう呟くと、ゆっくりと検問所をくぐり抜ける。
その歩みの向かう先は『レノラの広場』……否。さらに、その向こうへ。
「待っておれ、『アルマノイド殺し』。我が友の冥福のため……君の命、吾輩が貰い受けよう」
そう言って、男はニタリと笑った。月光がその笑みを照らし、影はより一層暗く長く、『レノラの岩橋』へ降り注いでいった。
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拙い文章ですが、楽しんでいただけたら幸いです。