Pokémon LEGENDS “雷” 作:Cr.M=かにかま
温かく見守ってください、お願いします(震え)
1.宙から女の子が!
空は気まぐれ。
恵みを与えるも奪うも気分次第、表情一つで厄災にも変わり得る。
人々は空を恐れた。
雷は怒りの象徴、雷雲は表情でいう不機嫌。
雷を纏う魔獣が信仰されたことは言うまでもあるまい。
空、遥か宙より降り立つ存在もまた、天の気まぐれに過ぎない──
※
「博士!空から、空から人が降ってきた!」
「アホたれ!そういう時は親方って呼ぶのが決まり文句だろうがよ!」
「初耳だわ!?」
「あと、どうせなら女の子が降ってきて欲しい」
「あんたって人は!」
「っと、言ってる場合じゃないよ!カイリキー!受け止め頼むぜ!」
ポケットモンスター。
縮めてポケモン、この世界に存在する不思議な不思議な生き物。
そんな不思議な生き物達と人々は共存の道を選んだ。
否、ポケモンが人々と共存の道を選んだといっても過言ではないかもしれない。
互いにとって都合のいい共存関係。
結局はそこに落ち着いたといってもいい。
「ナイスキャッチ!」
四本腕で筋骨隆々、タラコ唇に極めつけは灰色の肌。
右上手で博士と呼ばれた人物にサムズアップをする。
「誰ですかね、この子」
「わからないけど、一旦フィールドワークは終了。うちに帰って寝かしてあげないと」
「ですね」
「よし、一っ走り頼むよ!」
身近に存在する不思議な生き物。
不思議な現象に慣れてしまった人々は、並大抵のことでは驚かない。
二人はブロロロームの背に乗り、空から降ってきた人物を横に寝かせる。
「硬いが我慢していただかねば」
「ペロッパフとかいればよかったんですけどねぇ、贅沢言うならチルタリス」
「全く、どっちもヒノには生息してないよ」
文句があるなら降りろとばかりにブロロロームの走りが荒くなる、心なしか半目である。
「とにかく、起きたら色々聞かないとねぇ」
「厄介な人達に見つかる前に、穏便に済めばいいんですけどねぇ」
「そこはあれよ、博士権限でお茶の子さいさいよ」
「その言葉にオイラは何度騙されたことか……」
二人のやり取りにカイリキーは四本の腕を天に向け、やれやれと首を横に振る。
前途多難、研究職にとっては慣れっこである。
※
コエガキコエル。
ボクヲヨブコエ、ホシノコエ。
ココハアタタカイ、ツメタイ?
ボクヲヨブノハ、ダレ?
「──ん」
目を開けたら、知らない天井だった。
「お、よかった。目が覚めたかな」
ひょっこりと顔を覗かせたのは初老の男性だった。
少しくたびれた様子の白衣を羽織った男である。
「おーい!水を入れてくれ、冷えたやつ!二つ!」
「あんたねぇ!そんくらい自分でやんなさいよ!」
「そう言うなよイナホ、台所に近いのは君じゃないか!」
全くもう!という大きな声が聞こえる。
蛇口から水を注ぐ音も一緒に聞こえるところ、男性のお願いもしっかりと実行してくれてる様子だ。
「おっと、ごめんね」
「……いえ、ボクは──」
言葉を紡ごうとしたが、周囲の音が大きすぎて、掻き消されてしまった。
「騒がしくして悪いね、うちの子達はやんちゃが多くてね。毎日てんやわんやなんだよ」
「賑やか」
「そう言ってもらえると嬉しいね。おっと、自己紹介が遅れた、私はイナビカリ。よろしくね」
「……ボクは、ソラノ、多分」
(……多分?)
初老の男性、イナビカリの握手に応じる。
少し経った頃にお盆を持った女性がやってきた、イナビカリの対応を見るに先程イナビカリが呼び掛けたイナホという人物のようだ。
「目が覚めたね、よかったよかった。水飲むかい?」
「ありがたく、いただきます」
ほんのり暖かい、熱すぎず冷たすぎずの白湯はスムーズに喉を通る。
「この人がセクハラしたら私に言いなよ、ハサミギロチン喰らわしてやるからさ!」
「それ死ぬやつ」
やいのやいのとソラノをそっちのけで盛り上がる夫婦。
「全く、若いのはあんたみたいなおっさん好かないよ」
「いやいやいや、今やイケオジブームが来てるくらいさ、私のようなダディは人気者だと思うがね?」
「何言ってんだこのおっさん」
「言い方を変えたらただのおっさんか、とほほほ」
「若い女の子追いかける前にポケモンを追いかけないでどうするんだい、自称博士」
「しっかり博士だよ!?しっかり、博士号取ってるし、ナナカマド先生のお墨付きだからね!?」
「そういえば、ナナカマド博士はお元気かしら?もう三年近く会ってないわね、今度シンオウに旅行してこようかしら?」
「一緒に行くって選択肢も用意して欲しかったよ……」
ぽかん、と置いてけぼりにされてしまうソラノ。
おずおずと控えめに、聞きたいことはたくさんあったが、これだけは聞いておきたいといった様子で勇気を持って二人の間に入ることに成功した。
呆然、とした表情を動かさないまま、ソラノは二人に疑問を投げ掛ける。
「……ポケモン、って?」
──今度は、イナビカリとイナホの二人がぽかん、とする番になった。
「……まじ?」
「う、うん」
「……長くなるけど、じっくり講義しようか」
「ちょっと?」
専門家の話は長いと決まってる。
※
ソラノは目の前に漂う浮遊生物を眺める。
「これが、ポケモン」
「正確には数いるポケモンの中のロトムと呼ばれる種だね、タイプとか分類とかは話すと長くなっちゃうから省略するけど、現代で最も身近なポケモンと呼ばれてるよ」
なんでも、電化製品や通信機器と一体化することでスペックを最大限に引き出すことができるとかなんとか。
「そして、ここは野生のロトムが発見される数少ない場所さ」
「この子、珍しいの?」
「ちょっと前まではね、シンオウ地方で初めて発見されてから随分経った今は特段珍しい種じゃないかもね」
野生で見られるのは珍しいけど、とイナビカリ博士が補足する。
ソラノはロトムを興味深そうに見つめる。
「この子は、野生?」
「野生だよ、というかうちのポケモン達は半分くらい野良だよ」
「誰かさんがなりふり構わずポケモンフード与えるから、住み着いちゃった子達が多くてね。うちの子らはモンスターボールに入れてるから、それで判断するしかないね」
「耳が痛い」
ソラノとロトムが同時に首を傾げる。
ポケモンフード、モンスターボール、という聞き覚えのない単語が出てきたからだ。
そんな様子を察して、イナビカリ博士はポケットから球状の赤と白のボールを取り出す。
そのボールは境にあるボタンを押すことで手のひらサイズにまで大きくなる。
「わわ!」
「──これが、モンスターボール。今では一般的になってるけどポケモンを捕獲するのに必要な道具だよ、弱ったポケモンは一時的に身体を小さくして身を隠す術を持っているんだ。その習性を利用して、ポケットの中に仕舞えるくらいにまで縮小させることに成功したのがこのモンスターボールで他にもスーパーボールハイパーボールと一般的にグレードアップもしていくんだけどジョウト地方ではボングリという木の実からボールに加工するボングリ職人と呼ばれる人もいてモンスターボールの種類は飛躍して増えていってボングリ職人の起源は諸説あるんだけどかつてのシンオウ地方であるヒスイ地方では既に木の実から加工したモンスターボールを使う文献が残っていてそこが起源と呼ばれてるんだけど、それでね──」
「なるほど、これで一緒に過ごせる、と」
「そうさね。特に大きいポケモンだと一緒に街に行ったりするのが不便だったりするからねぇ」
「ロトムは小さいけど、モンスターボールいるの?」
「もちろんさね、小さくても力は人間以上!好きに暴れちゃ大変だからね、中は思った以上に快適だって話さ、閉じ込めて不便にさせてるわけじゃない!」
「ふむふむ」
「ねぇねぇ、ソラノちゃん??私が本職のポケモン博士なんだけど、専門家なんですけど!!?イナホも私の役割取らないでよ、ねぇ、ちょっと!?」
「あんたの話は長いんだよ、このオタク」
「全国の研究職に謝れ!!」
憤慨するイナビカリ博士を余所に話は進んでいく。
「そうそう、ロトムは少し特殊なんだよ。モンスターボールじゃなくて、ここに住み着くことが多い」
「その、腕のやつ?」
「イエス!これはポケモンウォッチ!ナナカマド博士からもらって、私がこのヒノ諸島にて普及させた!」
「ヒノ諸島って、ここ?」
「そういえば言ってなかったね」
ヒノ諸島。
大小含む十四の島々から成り立つ、マリブ地方の西部に属している列島群。
──マリブ地方を歩く、第三章。ヒノ諸島の歩き方、より。
「このポケモンウォッチとヒノ諸島のロトムは相性が良くてね、ヒノ諸島の発する電磁波はスマホロトムの超広域通信波は相性がとても良くなくて、ポケギアとかポケナビなんかもいいんだけど、ロトムが住むのに環境がよくなくてね……」
「ていうかあんた!話長いよ!次は、句読点一つで終わらせなさいな!」
「無茶を言う」
やれやれ、と言った様子でロトムが腕のような粒子を上に向けてソラノの周りをくるくると回ってる。
「この子、かわいい」
「気に入られたみたいだね。そのまま連れてってやりなよ」
「行く宛、ない」
「そうそう、君のことも色々聞いておかないとね」
話が一段落したところでイナビカリ博士が眼鏡に手を当てる。
ソラノとロトムが同時に首をかしげる。
「──君は空から降ってきた、私とキサゲがヒゴサ地帯を調査してる途中にね。あそこは高所から降りる場所はない、つまり文字通り空から降ってきたことになる」
「……ボクも、なんでそうなったのか、わからない」
「そう、君は自分の名前以外の記憶を失ってる、そう考えるのが自然だ。しかし、こういう時記憶喪失っていうのは大抵必要最低限の知識や言葉は覚えてる、経験からくるものはなくならないとしても、ポケモンのことも忘れるのは不自然だ」
「……つまり、ボクは、ポケモンと出会ったことがない?」
「そこも不思議なところだ。今やポケモンは人間と同じくらい色々なところに生息している。会ったことがないなんて考えにくい、要検証箇所さ」
「……なら、ボクは思い出す。思い出して、ボク自身が何者かを、ボクが理解する」
──未知があるなら探求する。
ポケモントレーナーにとって不可欠な要素である。
「あんた」
「もちろん、若者の決意を止めるほど私は不粋じゃない。ただ、一つ条件と頼みごとがある」
まずは条件かな、とイナビカリ博士はソラノにモンスターボールを渡す。
「──旅の仲間、君のポケモンを最低でも一匹は選ばないとね」
※
イナビカリ博士に案内された先にはたくさんのポケモンが暮らしてる広場、通称ポケモン牧場と呼ばれるものである。
「わわぁ…!」
「シンオウ地方のユカリさんが運営してるものを参考にさせてもらったんだ。主に野生の子達がここで暮らしてる、気に入った子がいればパートナーにしてもいいよ」
「いいん、です?」
「もちろん。気になる子がいたら、そのポケモン図鑑で確認してみてね」
「ありがとうございます!」
ソラノの目の前には多種多様なポケモン達。
見たことのない存在の数々にソラノは目を輝かせる、隣でふわふわと浮かぶロトムも一緒だ。
「君も、手伝ってくれるの?」
ロトムは嬉しそうに笑顔を浮かべる。
そのままポケモン図鑑の中に入り込んでしまった。
「わ、わわ!」
『気になるポケモン、いたら、調べる、ロト』
「わぁ、こんなこともできるんだ!」
「アローラ地方とかでもロトム図鑑は一般的さ。今じゃ、スマホロトムのアプリで事足りちゃうから、科学の力はすごいよね」
ポケモンウォッチにも図鑑アプリを入れることは可能らしい。
ソラノはお金を貯めて、ロトムと一緒にポケモンウォッチを選ぼうと決意する。
でも、今はパートナーを選ばないとね。
【ガーディ】
【ビリリダマ】
【アブリー】
【ヤンチャム】
【パモ】
【コソクムシ】
【アチャモ(ヒノのすがた)】
【コマタナ】
【コイル】
【エレキッド】
【ズピカ】
【クラブ(ヒノのすがた)】
【ヨーギラス】
【ツチニン】
「……ヒノのすがた?」
アチャモとクラブにのみ、名前の後ろに表記された文字に首を傾げる。
『ヒノのすがた、ヒノ諸島特有のポケモン、ロト』
「それって、他の子達とは何が違うの?」
『そ、それは』
ロトムが少し困ったような様子だったのを見て、イナビカリ博士が傍にやってくる。
「あぁ、それはリージョンフォームと呼ばれるものさ」
「リージョンフォーム?」
「そう、例えばクラブは元々カントーでたくさん発見されてたポケモンなんだ。基本的に第一発見されたポケモンが原種、ベースとして扱われることが多いんだけど、長くなるからここは省くね」
あの説明したがりのイナビカリ博士が説明を省いたことにソラノとロトムは少し驚いた。
「クラブで例えると、カントーでよく発見されてる個体はみずタイプのみ。ところが、このヒノ諸島で発見されたクラブはみずタイプに加えて、じめんタイプも併せ持っている。別のポケモンに分類される場合もあるんだけど、DNAの作りや生態が酷似していることから、この子はヒノ諸島で特有の進化を遂げたクラブと認定されたわけさ」
「なる、ほど。この子は、ここでしか会えないってこと」
「そういう認識で大丈夫さ、ソラノちゃんがもし他の地方に行くことがあったら、自分の目で確かめてみるといいよ」
現地現物、イナビカリ博士は研究において特にフィールドワークを重要視している。
何故なら、座学は眠たい。
「──それで、さっきから、この子、すごい、つついてくる」
「おやぁ……?」
▽アチャモ(ヒノのすがた)
▽ひなどりポケモン タイプ でんき
▽水色の羽毛は幼いあかし 全身を震わせて静電気を発生させる
▽足が早く 自転車と同じ速さで走れる
「まさか、アチャモがね」
「……?」
ソラノがイナビカリ博士に話しかけられて意識を逸らした、その時だった。
突如、ソラノの右足に激痛が走る。
──アチャモの でんげきくちばし!
「痛!?う、ちょ、痺れ、あ、ちょっと気持ちいい、かも……?」
「ちょっとー!?刺さってるよ!!脛にガッツリ刺さってるよ、ちょ、まっ、イナホー!!キングラー連れてきてアチャモを一時戦闘不能にさせちゃって!!ソラノちゃんがー!!」
この一件があり、ソラノとアチャモが動けなくなり、三日程イナビカリ博士の自宅で療養することになったとか。
右足の脛に傷跡が残ってしまったのは、別の話である。
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