Pokémon LEGENDS “雷”   作:Cr.M=かにかま

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想定より長くなりそうなので、分割します


2.少女は己の記憶を辿る

 

「随分仲良くなったね」

「共倒れした、仲」

「いやぁ、ははははは」

 

 ソラノの膝の上でアチャモがぶるぶるぶると身体を震わせる。

 キングラーの10まんばりきは相当な威力だった様子。

 

「その子に決まりかな、聞くのも野暮かもしれないけど」

「この子、です。ボクは、この子と一緒に行きます」

「よし、そうと決まればモンスターボールにトレーナーIDやらを設定しないとね!」

 

 本来ならば、ポケモンセンターで行う手続きだが、ポケットモンスター博士資格を持っている者にはトレーナーカードとIDを発行することが認められている。

 ヒノ諸島にはないが、新人トレーナーの旅立ちをサポートするポケモン博士が多いからだ。

 イナビカリ博士は準備をするために別室からタブレット端末を取りに行ってしまったため、残ってるのはソラノ、アチャモ、ロトムである。

 

「最初はどこに行こうか、アチャモ」

 

 くるりとこちらを向いたアチャモが首を傾げる。

 ヒノ諸島の地理がわからない、加えて記憶喪失である。

 辛うじて自分の名前、そして言語の読み書きは問題なかったが、知らないことがありふれている。

 イナビカリ博士、イナホが一緒に来てくれるととても心強いが、そこまで甘えるわけにもいかない。

 彼らにも彼らの生活がある。

 自分達の旅は自分達で、自分の記憶は自分で取り戻す他ない。

 

「……ボクは、どこから来たんだろう」

 

 返ってくることのない問いは行く当てもなく消え去った。

 

「お待たせお待たせ、いやぁ、あまりにも久しぶりに使うものだから奥に仕舞っちゃっててね」

 

 普段から整理整頓はしとくものだよなぁ、と大きな独り言にアチャモが溜め息を吐く。

 

「ちょちょちょいのちょいっと、よし出来た!」

「早」

「よしよし、きちんと出来てるね。これをモンスターボールに登録してっと、ほいできた」

 

 イナビカリ博士からモンスターボールを手渡される。

 

「それをアチャモに当ててあげるとゲットできるよ。本来なら強めに投げることが多いんだけど、この距離だし軽くでもいいよ」

「わかりました」

 

 手渡されたモンスターボールをアチャモに当てる前に確認を取る。

 

「アチャモ、いいかな?」

 

 今さら何を言ってるんだ、と言うばかりにムッとした表情でソラノを睨むように見つめる。

 コツン、とアチャモのおでこにモンスターボールが当たると赤い光に包まれて、そのままモンスターボールに吸い込まれる。

 

 一回、二回、三回と静かに振動して、カチリと音が鳴る。

 

「アチャモゲット、おめでとう」

「……あまり、実感ない」

「まぁ、実際にバトルをした上だと違ったかもね」

 

 一般的にポケモンはバトルを行い弱らせてから捕獲を行う。

 ソラノが今回取った方法は一種の特例である。

 

「さて、と」

「ねぇ、博士」

「どうしたの?」

「……お願い、ある」

 

 アチャモをゲットした。

 本来ならここでお暇して、出発するのがいいのだろうが、ソラノにはどうしても気になることができた。

 

 あの時聞こえた声、そして自分自身を知るための手掛かり。

 

「ボクが、落ちてきたって場所に、行きたい」

 

 

 ※

 

 ヒゴサ地帯。

 ヒノ諸島西部に広がる岩石地帯、足腰を鍛えるためハイキングコースとして使われることもある。

 

「ま、こういうところはブロロロームの領分だよね」

「便利」

 

 ▽ブロロローム

 ▽たきとうポケモン タイプ はがね・どく

 ▽排気音で 激しく 威嚇する

 ▽円筒形の 口から べろを 出して 毒液を撒き散らす

 ▽パルデア図鑑より 参照

 

 もちろん、今回はハイキングに来たわけではないのでポケモンを遠慮なく足として使う。

 勾配の激しい岩場では、ギャロップやゼブライカといったポケモンでライドは不向きだ、ポケモンにも負担が大きい。

 対して、はがねタイプのブロロロームであれば岩石だろうが足場の悪さだろうが吹っ飛ばすことができる、物理的に。

 

「ボクを博士の家まで運んでくれたのも、この子?」

「そうだよ。背中もこんな風に大きいから、四人くらいは乗ることができるからね」

「色んな、ポケモンいる」

「ポケモンは不思議な生き物なんだ、まだまだ研究することはたくさんあるんだよ」

 

 かつては、人とポケモンが争っていた時代なんてあったそうな。

 今は共存してくれているが、彼らが牙を向けてくると考えると勝てる気はしない。

 

 それだけにポケモンという生き物の力は人間を遥かに凌ぎ、強大な存在なのである。

 

「そっか、ブロロローム、がボクを運んでくれたんだね。ありがとう、ブロロローム」

「デレデレしないよ、ブロロローム。蛇行運転は危ないよ?」

 

 まるで酔っぱらいである。

 

「博士、あそこの石青、黄色、い?」

「あれは雷電岩だね、ヒノ諸島原産の鉱石でかみなりの石の何倍もの電力を宿してるんだよ」

「……バチバチしてる」

「雷そのものなんだよ、雷のエネルギーを宿してて雷が固形化したものとも言われてるんだよ」

 

 雷電岩から放たれる、通称ヒノ電磁波はポケモンだけでなく、人間にも少なからず影響を及ぼしている。

 それは、進化にも、生態系にも、生活にも、様々な分野での影響が見られる。

 

「このヒゴサ地帯含む、ヒノ諸島西(ヘリアス)は他と比べてもヒノ電磁波は少ない方なんだけど、他所から来た人たちにとってはかなり強めらしいね」

「そうなんだ」

 

 雷電岩。

 不思議と目を惹く、それがどうしてなのかはソラノ自身にもわからない。

 

「君のアチャモも影響を受けた一匹さ、ホウエン地方で発見されたアチャモはほのおタイプなんだ」

「え、そうなんだ」

「そう、ヒノ諸島は云わば、でんきタイプとそれに対するポケモン達が生き残る進化を遂げた場所でもあるんだ」

 

 弱死強雷という言葉が残ってるくらいである。

 

「なんて、話してるうちにもうすぐだよ。ここで君が降ってきたんだよ」

「ここに、ボクが」

 

 何か記憶を取り戻すための手掛かりがあるかもしれないと思い、博士にお願いして連れてきてもらったが、見たところ特に目立った変化はない。

 パッと見たところ、ではあるが。

 

「私とキサゲがここを通りかかったのは、本当に偶然だったんだよ。ソラノちゃんが降ってくる、ていうイベントがあったくらいさ」

 

 元々、この先にあるヒゴサ池に向かう途中だったとのこと。

 やはり何もないなと一息つくイナビカリ博士に対して、ソラノは違った。

 

「……ソラノちゃん?」

 

 ──ソラノには、声が聴こえていた。

 

「やっぱり、ここから呼んでたんだ……」

 

 目を覚ましてから聴こえていた、ソラノを呼ぶ声。

 最初は気のせいかと思っていたが、次第に声は大きくなり回数は増え、ヒゴサ地帯に近づくごとに、形のあるものへと変わっていった。

 そして、ここで確信に変わった。

 

 確かに、聴こえる。

 

「君は、誰?」

 

 ──ソラノの問いに応えるように空から現れたのは、異形の存在。

 

 大口を開き、ヌメヌメとした深緑に近い体表、背にヒレを持つ本来ならば、空を飛ぶような存在ではない。

 バチバチと電気を纏いながら、何かを探すようにして、ソラノに向かって突撃してくる。

 

「──え?」

「ソラノちゃん!!」

 

 間一髪。

 高速で駆けてきたブロロロームに乗ったイナビカリ博士がソラノを抱え込む。

 

「シビルドン、(アリウル)から離れることなんて、なかったのに……!」

 

 ▽シビルドン

 ▽でんきうおポケモン タイプ でんき

 ▽きゅうばんに なっている口で 張りついて 牙を さしこみ 強力な でんきを 流す

 ▽イッシュ図鑑より 参照

 

「博士、ありがとう」

「どういたしまして!一旦撤退するよ!」

 

 ブロロロームは戦闘が苦手でポケモン牧場に逃げてきたところを保護して、イナビカリ博士がライドポケモンとして育てた。

 以前連れてきたカイリキーもこの辺りのポケモンであれば問題ないが、東部からやってきたシビルドンに対しては分が悪すぎる。

 

 ───。

 

「……え」

 

 電撃を纏わせたシビルドンが狙いを定めるかのように腕を前にかざす。

 バチバチバチと溜められた電気は口に集中する。

 

 ──シビルドンの でんげきは!

 

「まずい!間に合わない、カイリキー!まもる!」

 

 四つ腕の怪人、カイリキーが二人を守るようにドーム状の盾を作り出す。

 

「ブロロローム!」

 

 イナビカリ博士はすかさずに、指示を出す。

 

「防いで、避けた、のに!?」

『でんげきはは必ず当たる技ロト!ターゲットの数だけ攻撃は続くロト!!』

 

 シビルドンがターゲットとして捕捉したのはブロロローム、そしてイナビカリ博士とソラノ。

 一発は防げたが、残り二回分は当たるまで攻撃が続く。

 電撃による衝撃波はヒゴサ地帯に広がる。

 

「カイリキー、もう一度まもるだ!」

 

 ──しかし、うまくきまらなかった!

 

「しまっ──」

 

 バリバリバリ、と地面を走る電撃が迫る。

 あらゆる攻撃を防ぐことのできる、まもる、だが、連続で使用すると集中力が保てなくなり、盾としての役割を失う。

 電撃は勢いを失うことなくソラノに迫る。

 

 ──。

 

「……アチャモ!」

 

 眼前に迫る雷撃はソラノに届く前に分散される。

 ポケットのモンスターボールが反応し、アチャモが飛び出した。

 雷撃の前に割り込む。

 

 特性、ひらいしん。

 でんきタイプの技を受けると、とくこうのランクが上がる。

 さらにでんきタイプの技を無効にできる。

 

 バチバチバチ、と帯電するアチャモはくるりと振り返りソラノを見つめる。

 

「……アチャモ」

 

 ──準備はいいか、相棒。

 まるでそう言いたげな様子である。

 

「博士」

「無茶だ、君はまだバトルの経験なんてない。それに、あのシビルドンは興奮している、とても危険だ!」

 

 イナビカリ博士の言い分は最もである。

 ソラノが脚を痛めている間にバトルビデオ等でポケモンバトルについて学んでいたとはいえ、付け焼き刃の知識でしかない。

 見聞と実践は大きく異なる。

 

「──なら、博士も手伝って」

「手伝うったって」

「ボクは、あのシビルドンを止めたい。泣いてるように見える」

「……泣いて、いる?」

 

 ソラノの表現にイナビカリ博士が首を傾げる。

 

「声も、聴こえる。ここで、止めないといけない、そんな気がする」

「……全く、最近の少年少女はとても勇敢なことで」

 

 ソラノと息子の姿を重ねる。

 立ち上がる少年少女の背中を、支え押し上げるのは大人の役割なのである。

 

「──私はイナホほど、バトルはうまくないぞ?」

「でも、ボクより強い、経験豊富」

 

 電撃が迫る。

 

「カイリキー!まもるだ!」

「いくよアチャモ!でんげきくちばし!」

 

 ──野生の シビルドンが 現れた!




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