【混沌】と駆ける   作:ヒナハタ

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01.アーモリーワン襲撃

 

 

 ……前の大戦で軍人だった両親を失ったことで、俺も二人の意思を継いで戦いたい。プラントのみんなを守りたい。そんな思いで軍への入隊を決意した。

 

 残った唯一の肉親である姉は最後まで反対していたけど、それでも俺の意思が変わることは無かった。

 

 別にナチュラル全てが憎いというわけではないし、彼らを根絶やしにしたいとかそんな風に考えたことも一度もない。

 

 そもそもナチュラルだとかコーディネイターだとか、たぶんそういうのはあまり関係がないのだ。

 

 戦争の火種は人が人として生きている限りどこにでも燻っていて、きっとこの先も無くなることはない。

 

 だから戦争を止めたいとか、止められるだなんて思ってない。

 

 俺は──。

 

 

 俺はただ──守りたいものを守るために戦うんだ。

 

 

 

 

 

 ♢♢♢♢♢

 

 

 

 ──C.E.73年10月2日。

 

 L4・プラント アーモリーワン工廠区。

 

「──はーい、じゃあ次はマニピュレーターのテストいくねー」

 

「了解」

 

 コックピットシートに座りながら、言われるがままにレバーを操作し、MS(モビルスーツ)の手指を動かす。

 

 駆動系に問題は無く、動作は正常。

 

 今日の定期メンテナンスもいつも通り、滞りなく進んでいた。

 

「……よし。これで本体のチェックは大体終わったかなー。お疲れ様、ノア。しばらく休憩してていいわよ」

 

「うん」

 

 小柄な体躯にはやや不釣り合いなオーバーサイズのエンジニアコートを羽織った女性の言葉に頷いて、コックピットハッチを開け、昇降用ロープを垂らして機体から降りる。

 

 そうして纏っていた緑色のパイロットスーツのファスナーを下ろし袖から腕を出すと、彼女から受け取ったドリンクボトルに口をつけ、乾いていた喉を潤した。

 

「どう? テストパイロットの仕事は」

 

「んー……まあ気に入ってるよ。最新鋭の機体には乗れるし、スタッフのみんなも良くしてくれるし……」

 

「でしょー? やっぱりノアにはこういう裏方のほうが向いてるんだよ。……前線になんか出なくても、プラントのためにできることなら幾らでもあるんだからさ」

 

「…………」

 

 俺と話しているこの女性は、名をニア・クレーゲルという。

 

 軍の兵器開発の中枢を担う統合設計局に所属するMSエンジニアで、現在はセカンドステージシリーズと呼ばれるザフトの最新鋭MS群の担当技術者をやっている。

 

 そして俺──ザフト軍所属のMSパイロット、ノア・クレーゲルにとっては、血の繋がった実の姉にあたる存在でもあった。

 

「……でも、本当良かったよ。ノアがアカデミーを卒業する前に戦争が終わってくれて」

 

「……うん……そうだね」

 

 ──俺たち遺伝子調整を受けて生まれたコーディネイターと、自然のままに生まれた地球人類ナチュラルとの戦争──後に第一次連合・プラント大戦と呼ばれるようになったその戦いは昨年の3月10日をもって終結した。

 

 その大戦の中でMSパイロットであった母と艦隊指揮官だった父を失った俺は、その後すぐにザフトへの入隊を決意する。

 

 別に両親の仇討ちがしたかった訳じゃない。ただ、二人が命を賭してでも守ろうとしたプラントを俺も守りたいと、そう思ったから軍へと志願したのだ。

 

 だが結果として俺が前線に立つことは無かった。そうなる前に戦争が終わったから。

 

 もちろん、戦わなくて済むのならそれに越したことはない。……けれど、ずっと前線に出ることを目標にしてきた俺にとって、今のこの生活はなんだかとても空虚なものに思えてしまって。

 

 そんな感傷にも似た何かを抱えながら、目の前に佇む鉄色のMSを見上げる。

 

 ──ZGMF-X24S カオス。

 

 セカンドステージシリーズのフラッグシップ機とも言えるインパルスの局地戦用装備として生まれた構想案の一つを、別個の機体として再設計する形で開発された新型MSのうちの一機。

 

 目の前のこの機体は、そのカオスの研究用の予備機として建造されたものだ。

 

 ……戦争が終わったにも関わらず未だにこういった強力な新型MSの開発が率先して行われ続けているというのはやはり、それだけ今の世界情勢がとても不安定な状況下にあることの一つの証でもあるのだろうか。

 

 と、そんなことを考えながらしばらく休息を取っていた、その時だった。

 

《─────!!》

 

 ──突如、アーモリーワン工廠区全域に耳をつんざくようなけたたましい警報音が鳴り響く。

 

「なんだ……?」

 

 どこかで事故でも起きたのか、もしくは装置の誤作動だろうか。

 

 ……しかし、次いで外から何かが爆発するような凄まじい轟音まで聞こえ始めると、いよいよもってこれが只事ではないことを脳が理解し始める。

 

「ノア、た、大変……! いま外から緊急通信が入ってきたんだけど──」

 

 姉さんの酷く狼狽した声。

 

 そうして彼女の口から次に出た言葉を聞き、俺は激しく動揺するのだった。

 

「──強奪されたらしいの! 六番格納庫(ハンガー)に置いてあったカオス、ガイア、アビスの三機が!」

 

「はぁ!?」

 

 思わず耳を疑う。

 

 明日には大事な新造艦の進水式を控えていると言うのに、その艦に配備予定の新型の三機が奪われた、だと……?

 

 犯人は連合か、それともテロリストか。もしも連合だったならあれが奪われるのは非常にまずい。下手をすればそれそのものが戦争の火種にもなりかねないような代物だ。

 

「今はMS格納庫を片っ端から破壊して回ってるみたいだけど、もしかしたらここも危ないかも……」

 

「……っ、とりあえず乗って!」

 

 昇降用ロープを握り再びカオスのコックピットに乗り込んだ俺は、機体のマニピュレーターを動かし姉さんをその上に乗せると、彼女のこともコックピットへと迎え入れる。

 

「まずは状況を確認する! しっかり掴まってて!」

 

「うん……!」

 

 安全確保のため即座にVPS(ヴァリアブルフェイズシフト)装甲を展開し、機体全体を灰白色(かいはくしょく)を基調としたカラーに色付かせる。

 

 テスト用の電圧調整が施されているため制式配備機とは随分と機体配色が異なるが、この状態でも装甲強度は充分。VPS装甲を纏うことにより、今のこの機体はあらゆる物理ダメージを無効化する堅牢な人型要塞と化している。

 

「ハッチを開けている暇はない、このまま天井を突き破る!」

 

 傍に置かれていたカオス専用のビームライフルとシールドを装備しつつ、叫びながらシールドを真上に掲げ、直上に向け勢いよくバーニアを吹かす。

 

 そうして格納庫の屋根を破壊しながら外へと飛び出した俺は、目の前に広がる光景を見て愕然とした。

 

「……なっ、アーモリーワンが……」

 

「ひどい……」

 

 シートの後ろで俺と同じ映像を見ている姉さんが息を呑む。

 

 機体のメインカメラが捉えた映像に映し出されていたのは、敵に奪われたらしいカオス、ガイア、アビスの3機がビームライフルやミサイルを次々と撃ち放ち、人も物も関係なく破壊の限りを尽くしている姿だった。

 

「くそ、あいつらよくも……!」

 

「……っ、ノア、落ち着いて。今はとにかく避難が先よ。万が一にもこの機体まで失うわけにはいかないし、そうね……まずはミネルバへ向かいましょう。たぶん議長たちもそこに向かってるはずだから」

 

「……了解」

 

 姉の言葉でひとまず冷静になった俺は、その提案に頷きザフトの新造戦艦ミネルバが停泊している方角へと向け針路を取る。

 

 だが……。

 

「──まずい、敵にロックされた……!」

 

 コックピット内に大音量で鳴り響くアラート。

 

 どうやら避難するだけにしても、この機体では少し目立ち過ぎたらしい。

 

 自分たちと同系統の四機目の機体を前に、強奪された三機は一斉にこちらへとカメラを向けていた。

 

「くっ……! 変形して一気に振り切る! 姉さん、絶対にシートから手を離さないでッ!」

 

「っ……、うん──!」

 

 姉さんにそう呼びかけ、即座にカオスを空中でMA(モビルアーマー)形態に変形させようとする俺。……だが、そこでふと、自分たちの真下に一機のMSが転がっていることに気づいた。

 

 被弾したのか両足を失い、さらに何かにぶつけたのか胸部装甲にも大きな凹みが見られるゲイツR。

 

 しかしそんな状態でもパイロットはまだ生きているようで、仰向けに倒れながらも今も鈍重な動作でビームライフルの銃口を奪われた三機のうちの一機、青色のMS──アビスへと向けようとしていた。

 

 ──が、その動きに気付いたアビスはすぐに右腕ごとゲイツRのライフルを蹴り飛ばし、次いで、トドメとばかりに手にしたビームランスを大きく振り上げる。

 

「──危ない……!」

 

 その光景を見ていた俺は、ほぼ無意識のうちにアビスへ向け突進していた。

 

 MS形態のまま空中から急襲するように一気に彼我の距離を詰めると、機体前方に構えたシールドをシールドバッシュの要領でアビスへと叩きつける。

 

 衝撃で大きくよろめいたアビスが機体のバランスを保てず仰向けに倒れた。

 

 その隙に被弾したゲイツRを背後に庇うようにして前に出た俺は、通信回線を開いてゲイツRのパイロットへと呼びかける。 

 

「そこのゲイツのパイロット! 今のうちに脱出しろ!」

 

『……っ、その声、あんたまさかノア……!?』

 

 だが返ってきた声はとても聞き覚えのあるもので思わず面食らう。

 

 この声はまさか……いや、“彼女”はもう配属先である月にいるはずなので、となるとこの声の主は──。

 

「お前、アニエスか……!?」

 

 アニエス。──アニエス・ギーベンラート。 

 

 パイロット部門の同期の中でもトップに次ぐ成績でアカデミーを卒業したことで栄えあるザフトレッドの一員となったアグネス・ギーベンラート。彼女はそんなアグネスの双子の妹で、同じく同期のMSパイロットの一人だ。

 

 たしか彼女はミネルバの所属になっていたはすだが、まさかこのゲイツRのパイロットがそのアニエスだったとは……。

 

「何してる、早く脱出を!」

 

『……それが、さっきからやってるんだけどハッチが開かないのよ……!』

 

「なっ……!?」

 

 ……おそらく胸部の損傷が原因でハッチが変形しているのだろう。

 

 ならば外から強引にこじ開ければ……いや、だが敵が目の前にいるこの状況でそんな悠長なことをしている暇は──。

 

「ッ……!」

 

 考えている間に再びコックピットに鳴り響くアラート。接近する熱源反応……これは、ビームライフルによる狙撃……、撃ってきているのは緑色のMS──カオスか……!

 

「くっ……!」

 

 対ビームコーティングが施されたシールドを構え、カオスからの銃撃に耐える。

 

 しかし敵の攻撃はその一射だけで終わることはなく、続けざまに二射、三射と連続でビームを撃ってきた。

 

 避けようにも、俺が避けたら後ろのアニエス機に当たるため動くことができない。

 

 さらにその状況へ追い打ちをかけるように、倒れていたアビスまでも身を起こし、あっという間に二対一の図式が完成する。

 

 せめてもの救いは最後の一機である黒色のMS──ガイアが、遠くの方でやたら動きの良いザクと交戦していることによって三対一にはなっていないということぐらいだが、それでも動けない味方を庇いながらニ機を相手にするのはさすがにキツい。

 

 どうやってこの状況を打破したものか……。

 

 限られた僅かな時間の中で思考をフル回転させながら必死で打開策を練る。

 

 やがてさっきの仕返しだと言わんばかりにアビスがビームランスを構え、カオスの方もこちらを右側から挟み込むように接近しながら、腰にマウントされたビームサーベルを抜き放った。

 

 ──仕方ない……、破壊許可が下りているか不明だったためできれば機体は傷つけたくはなかったが、こうなってはもう──撃墜するしかない……!

 

 と、俺がビーム兵器による直撃の決意を固めた、その時である。

 

「──ッ……!?」

 

 突如、どこからともなく飛んできたミサイルが敵のカオスの肩へと炸裂した。

 

 ──今だ……!

 

 謎の援護によってカオスの動きが止まった隙に、左から迫ってきたアビスのビームランスによる一撃を盾で払って()なし、次いで無防備になったその腹部に姿勢制御用のスラスターを吹かしながら強烈な蹴りを叩き込んだ。 

 

 VPS装甲相手にダメージは与えられないが、それでもアビスを再び地面に転げさせることには成功する。

 

 そして続けざまに今度はカオスのほうへ向き直ると、シールドに内蔵された76mm二連装機関砲をその頭部目掛けて斉射した。

 

 メインカメラに集中攻撃を受けたことでカオスの動きが止まる。

 

 その隙に即座に機体を反転させながらMA形態へと変形させた俺は、脚部クローを展開して背後のゲイツRを掴むと、そのまま、バーニアを最大出力で吹かし一気に上空へと飛び立つのだった。

 

「──ふぅ……」

 

 ……なんとか切り抜けられたな。

 

 それにしても、さっきの援護はいったいなんだったんだ……?

 

 

 ──そんな疑問を抱えながらも、やがて、俺たちを乗せた機体は無事にミネルバへと着艦した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






《機体紹介》

ZGMF-X24S カオス(予備機)

全高:17.43m
重量:91.61t
装甲材質:ヴァリアブルフェイズシフト装甲
動力源:バッテリー
開発・所属組織:ザフト軍
パイロット:ノア・クレーゲル

……カオス建造時の予備パーツを用いてオリジナル機と同時に建造されたもう一機のカオス。
機体の外観や内部構造、性能、武装構成はオリジナル機と全く同じ。
当初はカオスが有するものをさらに発展させた改良型第二世代ドラグーン・システムを搭載した次世代機(レジェンド)を開発するための検証用素体として運用される構想が存在したが、アーモリーワンでの事件を受け計画は見送られ、結果的に素体としての役割は別の機体(プロヴィデンスザク)に引き継がれた。

VPS装甲展開時の機体配色についてはオリジナル機と異なり、テスト用の電圧調整が施されているため全体的に灰白色を基調としたプロトカオスに近いカラーリングになっている。
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