木々にヨルムンガンドを打ちつけ、森の中を立体的に移動しているリヒトは侵入者の影を見つけた。
……二人か。
服装からして異民族だろう。ナジェンダが言ったように帝国に依頼された傭兵か。
瞬間、実体のないヨルムンガンドを空中に打ち上げて空に躍り出る。すると、侵入者のほうもこちらの存在に気が付いたようで、剣を構えた。
「ハッ! バカめ、空中じゃ身動きが取れまい!」
「タイミングよくぶった切ってやるぁッ!!」
筋肉質で獣の仮面をつけた男と、禿頭に鉢巻を巻いた男が言ってくるが、リヒトは内心でほくそ笑む。
そして、リヒトの身体に剣が届く瞬間、男達は剣を振りぬいた。しかし、剣は空を切り彼の姿は何処にもなかった。
見ると、リヒトは剣があたるギリギリでヨルムンガンドを伸ばして回避していたのだ。けれど男達はまだこのことに気が付いていない。
「まず一人」
言うが早いか、実体のあるヨルムンガンドを伸ばし禿頭の男の心臓に突き刺す。
「がっ!?」
いきなり背後から襲われ、心臓を貫かれた男は血を噴きながらその場に倒れこむ。隣にいた獣の仮面をつけた男はそれに驚いてはいたものの、すぐに踵を返して森の中に逃げ込もうとしたが、もう遅い。
「これで終いだ」
ヨルムンガンドを回収し、龍の顎に短剣を加えさせたリヒトが彼目掛けて鎖を伸ばす。
鎖を張った状態で思い切りヨルムンガンドを真横に振りぬくと、先端の短剣が男の首筋を捉え、そのまま男の頭を跳ね飛ばす。
頭部を失ったが、男の体は二、三歩走った。けれど、すぐにドウッとその場に倒れ付し、その近くには男の頭部が転がった。
「よし、終了っと。……さて、タツミは大丈夫かねぇ」
鎖を回収し短剣を鞘に戻しながら、リヒトは来た時と同じように森の中の木々に鎖を打ち込みつつアジトに戻っていった。
夜になり、タツミが加入したことと彼が初陣を生き残ったことで軽い宴会が催された。
アカメから聞いた話では、相手を殺すことに一瞬迷って窮地に立ったらしいがアカメが駆けつけて事なきを得たらしい。
そのことを指摘されてか、タツミはうかない顔をしたままフラッとどこかへ行ってしまった。
すると、タツミがいなくなったのを見計らったマインが肩を竦めながら言う。
「ホント甘ちゃんよねー、あの新人」
「初陣で死ななかっただけ上等だろ。お前だって初任務の時はあんなもんだったし」
「そ、そんなことないわよ!」
「いいやあったね。オレ見てたもん」
ジョッキを煽って酒を飲みつつ言ってみるものの、マインは気に食わなかったのか「キシャー」と唸っていた。
それを適当にあしらいつつ、リヒトはタツミの元へ向かう。
案の定というべきか。タツミは友人二人の墓の前で膝を抱えて座っていた。それに小さく息をつくとリヒトは彼の隣に座り込んで、ジョッキを渡す。
「ほい、お疲れさん」
「あ、あぁ。サンキュ、リヒト」
「おう」
酒を飲みながら答えると、タツミも渡されたジョッキを煽った。因みに彼のジョッキに入っているのは酒ではなくジュースである。
「初陣でアレだけ動けりゃ上等だ。大して気にするもんでもねぇ」
「ああ……なぁリヒト、アンタは人を殺す時に迷わないのか?」
「迷った事は……ねぇな。最初に殺したのはほぼ勢いだった、まぁお前がアリアを殺したのと一緒かもな」
自嘲気味に言ってみるが、タツミはそれを真剣に聞いていた。
「レオーネあたりから聞いたと思うけどよ、オレは幼馴染を殺された。あらぬ罪を着せられ国家反逆罪で街中に磔された、そいつの母親もな」
「だから幼馴染の仇である政務官を殺したんだよな」
「そう。そして革命軍に入ってナイトレイドで働いてるってわけだ。今まで何人も殺した。強敵もいた。でもさ、人って言うのは成長するもんだ。高説垂れてるようなガラじゃねぇけどよ、お前もきっと強くなるよ。
さて、オレはそろそろ戻るけど、お前も早めに戻って来いよ。ボスもなんか話があるみたいだったしな」
それだけ告げて立ち上がるとその場を後にし、アカメたちの元へ戻っていく。
リヒトが戻ってから数分も経たないうちにタツミは戻り、ナジェンダからアカメの下で色々と勉強しろと告げられていた。
「なんだって殺し屋なのに炊事なんか……」
アカメと組んで数日後、厨房ではタツミがリンゴの皮をむきながらぶつくさ文句を垂れていた。
タツミはアカメと組まされてからというもの日々訓練と、炊事を任されていた。
「それはしょうがない。ナイトレイドの中での私の割り当ては炊事だからな。私と組めば必然的にお前も炊事担当になる。この後は私と食料調達に行くぞ」
「ああ……というか、さっき出てった他の皆は何処いったんだ?」
「別の任務だ。因みに言っておくと、リヒトも炊事担当だからアイツと組んだ時も炊事になると思う」
「アレ? でもリヒトもいないけど一緒に行ったのか?」
聞き返すと、アカメは被りを振って否定した。
「ちがう。リヒトも別の任務の話があるとかでボスに呼ばれた。だから今アジトにいるのは、私とお前、レオーネ、リヒト、ボスの五人というわけだ。
よし、では行くぞ」
そういったアカメはエプロンを外して食料調達に向かい、タツミもそれに付いて行った。
アカメ達が食料調達に出かけたころ、リヒトは作戦会議室でナジェンダ、レオーネと新たな依頼について話をしていた。
「んで、標的は?」
「今回の標的は三人だ。そのうち二人は油屋のガマルと帝都警備隊のオーガ。そしてもう一人は薬屋のリョウイだ」
「薬屋?」
ナジェンダの言葉にリヒトは怪訝な表情をする。薬屋が悪事を働くとは思わなかったのだろう。
「薬屋と言っても売ってるのは普通の薬じゃないぞ」
「あぁそういうことか。麻薬ってわけだ」
納得したようにリヒトが頷くと、ナジェンダとレオーネも静かに頷いた。
「リョウイが売っているのは中毒性の高い麻薬だ。それ以外にも帝都のスラム街で出回っている麻薬も奴が売っている。しかし、警備隊はこの事実を隠蔽している。まぁオーガもこれに関わっているというのが打倒だろう。
オーガとガマルの方はアカメ達がやるから、お前はリョウイの方を殺せ」
「オーライ。で、いつ行けばいい?」
「今日の夜だ。レオーネの調べによれば、リョウイは毎日自宅で高価なワインを嗜んでいるようだからな」
「他人の人生ぶち壊した酒はさぞかし美味いんだろうよ。屑が」
レオーネが苛立たしげに拳を握り締め鋭い眼光を見せる。彼女は元々スラム街の出身でもあるため、スラムに麻薬を流通させたリョウイが気に入らないのだろう。
「じゃあオレはリョウイが気分よく酒飲んでるときにザックリやればいいってわけだ。楽な仕事だな」
「ああ、同時刻にはアカメとレオーネ、タツミがガマルとオーガを始末することになっている。帝都に行く時には一緒に行け」
「あいよ」
黒い笑みを浮かべ、リヒトは踵を返して会議室を後にした。
そして夕刻、太陽が西の空に沈み、橙色と群青色が見事なコントラストを見せる頃。リヒトとレオーネ、タツミはメインストリートの前にやってきていた。
因みにアカメは手配書が出回っているので今は別のところで待機している。
「そんじゃあリヒト、タツミがんばって来いよ。グッドキル!」
「ああ」
「おう!」
レオーネに送られ二人はメインストリートに向けて歩き出す。
しばらく歩いていると、タツミが思い出したように問うてきた。
「そういえばリヒトは手配書とか出回ってないのか?」
「そうだな、オレは軍にいたけど死亡者扱いになってるから手配書とかは出回ってないんだよ」
「へぇ……でも、顔見知りとかいたらヤバイだろ」
「そんときゃそん時だ。さて、ここで一旦お別れだ」
立ち止まって言うと、タツミも周囲を見回した。ここはアーケードの中間地点で、十字路になっている。二人は今その中心にいるというわけだ。
「オレはこっち。お前はあっち。オーケー?」
「お、おう。大丈夫だ」
若干緊張気味のタツミは拳を握り締めていたが、そんな彼の胸をリヒトは軽く小突く。
「緊張するなって。大丈夫だ、オーガは強いが何事も落ち着いてやりゃあ出来る。お前には速度があるわけだしな。それを生かせよ」
小さく笑った後、リヒトは上着をはためかせてタツミとは別方向に向けて歩き出した。しかし、その瞳には光が灯っておらず、先ほどタツミに見せた笑顔も消えうせ、完全な殺戮者としての顔がそこにはあった。
「……さて、お仕事片付けますかね」
言いつつ、上着のフードを目深に被り、リヒトは夕闇の中へと消えて行った。
夜になり、リョウイは自室でワイングラスになみなみとワインを注いで晩酌をしていた。
「やはり一仕事した後の酒は格別だ」
などといいながら酒を煽る彼の頬は既に酒の影響で赤くなっていた。
「今日も本当にいい仕事だった。あの薬はもっと仕入れても損はなさそうだな。まぁそれもこれもオーガが隠蔽してくれているからなんだが」
くつくつと笑いながら飲み終わったグラスに再びワインを注ごうとした時だった。背後の窓が割れた音が聞こえた。
それに「なんだ」と反応しようとした時にはもう遅かった。
ドスッという音と共に椅子の背もたれを何かが貫通し、そのままこちらの左胸を貫いたのだ。
「え?」
そんな声と共に己の胸を刺し貫いたモノを見る。
胸からはなにやら龍の頭を思わせるものが飛び出していた。それにこびり付いている肉片は自身の肉だろう。
机には鮮血が飛び散り胸からは止め処なく血があふれ出ている。
「あっ」と声を上げようとした時にはもうリョウイの意識は完全になくなっていた。まったく予期しないタイミングでリョウイはいとも簡単に命を奪われたのだ。
「地獄で苦しめ外道が」
ヨルムンガンドを回収したリヒトは冷たく言い放つ。
彼が今いるのはリョウイの自宅兼店の向かいにある店の屋根の上だった。彼はタツミと分かれた後、ここでリョウイが姿を現すのをずっと待っていたのだ。
「それにしたってあんな狙われやすい場所で酒飲むバカもいねぇわな」
肩を竦めて笑った後、実体のないヨルムンガンドを伸ばしてリヒトはメインストリートを抜ける。
「時間的にタツミもそろそろ戻ってくる頃だと思うが……」
などと思いながら木の幹に背を預けていると、不意に声をかけられた。
「おや? こんなところで何をしておられるのですか?」
声からして女だ。けれど、リヒトはその声にどこか聞き覚えがあるのを思い出す。「まさか」と思いながらそちらに視線だけを送る。
だが次の瞬間、リヒトの顔は一気に強張った。
……セリュー……!
そう、視線の先にいたのは友人であったセリュー・ユビキタスだったのだ。彼女はこちらの顔にはまだ気が付いていないようで、小首をかしげながらこちらに近寄ってきた。
「失礼ですが、ここで何をしてらっしゃるので?」
警備隊なのだから怪しい人物がいれば声をかけるのは当たり前なのだが、なんと言うタイミングで来るのだろうか。
内心で舌打ちしつつ、リヒトは声音を低くして告げた。
「私は地方から出稼ぎの者でして、なにぶん金もないため宿を取るのに困っていたのですよ。だから今日はここで夜を明かそうと思っていたのです」
「なるほど! それは不躾なことを聞いてしまって申し訳ありませんでした。あ! 申し送れました。私、帝都警備隊のセリュー・ユビキタスといいます。こっちは私の帝具、ヘカトンケイル。コロっていいます」
セリューが指した方には白黒のぬいぐるみのような生物がいた。パッと見はたいした事はなさげだが、帝具という事は何かを隠し持っているのだろう。
「あ、もう一つ聞いてもよろしいですか?」
「はい?」
「なぜ夜なのにフードを被ってらっしゃるのでしょう?」
この質問は流石にギクリとした。しかし、何とかこの場を打開する言葉を見つけ出す。
「……これですか、すみません私の顔には酷い火傷のあとと危険種につけられた傷跡があるのです。なので、人様のご気分を害さないためにこうやっているんです。明日はマスクを買ってしまおうと思っているんです」
「そうなのですか……重ね重ね失礼な質問申し訳ありません! っと、私は夜のパトロールがありますのでこれにてっ!
そうだ、帝都で何か困ったことがあったらなんでも言って下さいね。私は正義の味方ですから! 行くよ、コロ!」
「キューッ!」
セリューとコロはリヒトのことに気が付かず、そのまま走り去っていった。
彼女らがいなくなったことで、リヒトは張り詰めていたの緊張の糸を一気に緩め、その場に座り込んだ。
「あっぶねー……。ここで見つかったらなに言われるかわかったもんじゃねぇ。……にしても、アイツ帝具使いになったのか。それで警備隊となると……一戦交えるかもしれねぇな。しかもあの帝具生物型か……厄介だな」
小さく息をつくと、セリューの瞳を思い出す。
「……アイツの目……真っ直ぐだったけど、歪んでたな。……親父さんのことを引きずってんだよな」
二年前警備隊に所属した時も彼女は言っていた。『悪を倒す』と。けれど、その悪が国自体だというのに彼女はまだ気が付いていないのだろう。
その後、オーガを始末したタツミと合流したリヒトはアジトへと帰還した。
アジトへ戻ってからだが、タツミは傷がないかアカメとレオーネ、ナジェンダにパンツを残してひん剥かれた。まぁ標的には毒を使うものもいるのでそれの確認ではあったのだが。
そして、ナジェンダからはタツミに次の指令が下された。それはマインの下で色々と勉強するというものだった。
はい、今回はオーガ戦までをサクッと終わりにし、リヒトも別の標的を始末しました。
ヨルムンガンドって便利ね! 二十メートル程度ならこんなことも出来る!
さらに先端にナイフを持たせればズバッとやれる! 暗殺向きだ……w
最後の方はリヒト何とか乗り切りましたねw
まぁ夜だから暗かったですし、セリューもしばらく聞いていなかったので気付かなかったのでしょう。はい、そういうことにしてくださいw
次はマインとタツミが組んであれ誰だっけ……大臣の親族をやるやつですね。
リヒトなんかは皇拳寺の師範代あたりを相手にするのは原作と同じですね。しかし、ここでもまたヨルムンガンドが役に立つぜ!!
では、感想などありましたらよろしくお願いします。