革命軍の本部を出発して数時間。とっくに日はくれていたが、満月であるためか漆黒の闇というほどの夜ではない。それでも地上を見るにはやや目を凝らさなくてはいけない。
リヒト達四人がいるのはエアマンタの上だ。ただ、リヒト、チェルシー、スサノオの三人はしゃがんでいるのだがナジェンダは腕を組んで仁王立ちしている。
「ボスー。もうすぐアジトだからかっこつけるのもわかるけどよ。そんな体勢で落ちんなよ?」
そんなナジェンダに対してリヒトが呆れ気味な声を出すと、彼女はやや焦り気味に返す。
「べ、別にかっこをつけているわけではないぞ!? ただ、登場の仕方に少しは威厳があった方がいいだろう?」
「いや、オレ的にはなんでもいいけどよ。問題なのは落ちんなってことだから」
「ふふん、心配はするな。これぐらいどうということどわぁ!?」
かっこよく決めようとしたはいいものの、突然来た突風に危うくすっ飛ばされそうになったナジェンダだが、リヒトとスサノオがそれを受け止める。
「だから気をつけとけって言ったじゃねぇのよ」
たしなめるように言うが、ナジェンダは渋い顔をするだけだった。それに小さな溜息をついていると前方数キロの地点から太い光線が闇夜を切り裂いた。
すると、スサノオに支えられたナジェンダが声を漏らす。
「アレはパンプキンの砲撃だな。しかし、あれほどの砲撃となるとどうやら占いの帝具は当たったようだ」
「さすが帝具。的中率ハンパないねぇ」
チェルシーがキャンディーを頬張りながら言うと、リヒトもそれに頷く。内心ではあまり信用していなかったのだろう。
すると、ナジェンダが再び三人の前に出て上着を義手でつかんでから腕を組んだ。
「よし、今度は失敗しないからな! 見ておけよリヒト!」
「へいへい……んな意地張らなくたっていいんじゃないかねぇ」
肩を竦めてみるが、ふとリヒトはスサノオがナジェンダの後姿を見て真剣な表情をしているのを目撃した。
「どしたスサノオ?」
「いや……ナジェンダが今義手でつかんでいる上着なのだが。出来れば普通に着て欲しい! 凄まじく気になってしょうがないんだ!!」
「……」
真剣な表情で言うスサノオだが、今はそれを軽くスルーしておくことにした。
そしてマインの砲撃から数分たった後、四人はアジト上空にたどり着いた。
眼下を見ると数十人の人間がおり、それらが囲っている中心にはアカメ達の姿があった。どうやら今のところは全員無事のようだ。向こうもこちらに気が付いたのか、インクルシオを装備したタツミと、パンプキンのスコープを目に付けたマインがこちらを見ていた。
とりあえず皆が無事でいたことにリヒトは内心でほっと胸を撫で下ろしたのだが、そこでタツミを除いた全員がその場に倒れこんだ。
「おいおい、どうしたあいつ等」
「周りの奴等は平気そうだから……たぶん、毒かもしれないね。それも無色無臭の」
上着のフードを被ったチェルシーが落ち着いた様子で分析すると、ナジェンダがスサノオを見やる。するとスサノオも彼女の意図を理解したのか、上着を脱いでエアマンタから飛び降りた。
高所からの落下をまったく恐れずに飛び降りたスサノオは、そのままアカメ達を囲んでいる敵に突っ込み、そのなかの一人の頭を持っていた長柄の槌で押しつぶした。
彼はそのまま悠然と立ち上がって周囲の適を見回す。敵も上空からの奇襲に皆距離を置いている。
「チェルシーが言ったように、もしあの周囲一帯に毒が散布されているのなら私達は降りるべきではない。まずはここから指示を出すぞ」
「あいよ」
「りょーかい」
二人がそれに返答したことを確認すると、ナジェンダは下にいるスサノオに命令を下した。
「目の前の敵を駆逐しろ、スサノオ!!」
その声にスサノオもこちらを見上げながら頷いた。声は聞こえなかったが、口の動きからして「わかった」と答えたのだろう。
彼はもう一度周囲を囲んでいる敵を全て見た後、槌を真横に振るった。同時に槌の隙間から無数の刃が展開される。
その光景に敵が身構えた瞬間スサノオは地面を強く踏み、真っ直ぐに跳びながら槌を前方にかかげる。その速さはアカメより少々劣るものだったが、敵の一人一人は大した実力者ではないものが多かったため、それだけで大部分が切り刻まれて行った。
けれども敵もただぼうっと突っ立っている木偶ばかりではない。スサノオの背後から彼を仕留め様と動いたものもいた。しかし、スサノオは簡単に反応を見せ、一人の顔面を粉砕したのち、次々に襲ってきた敵をなぎ払って行った。
「ほぇー、強いだろうとは思ってたが本当にやるなぁスサノオのやつ」
「ああ。しかも毒が効かないもんだから敵さんも焦っているだろう」
ナジェンダのクールな笑みにリヒトも同意しつつ、眼下で戦うスサノオを再度見やった。
だがそこでスサノオの周囲に散らばっていた敵の屍骸が光りを放ち、次の瞬間には次々に屍骸が爆発していった。それでもリヒトやチェルシー、ナジェンダは表情を変えることはなかった。
「生物型であるアイツにあの程度の爆発が効くはずもねぇ。だが、今ので大体場所は絞れるな」
リヒトは言いながら懐からスコープを取り出してアジトの周囲にある岸壁を見る。
……毒を散布してるってことは風上で、なおかつ動きが観察できるってこたぁあの辺か。
スコープをそちらに向けてズームアップしてみると、案の定岸壁の上には四人の人物がいた。そのうち三人は妙に耳がでかい者や、鼻がでかい者、目がでかい者で、それらの中心には白衣を来た眼鏡の男性が佇んでいた。
「ボス。あっちに指揮官がいるみたいだ」
「わかった。スサノオ! 南西の森に敵がいる、残さず潰せ!!」
ナジェンダが言うとスサノオも頷く。そしてナジェンダがエアマンタに命じ、三人は一足先に四人を追う。
四人も気付かれたことに感づいたのか、退避運動を取っていたが、エアマンタが起した強烈な突風によりそれを遮る。
するとリヒトが羽織っていた上着を脱ぎ捨て、チェルシーにスコープを渡してからナジェンダに告げる。
「そんじゃ、オレもそろそろ行くわ。ボスは他の奴等のフォロー頼んだぜ!」
「ああ。行って来い」
声を聞きながらリヒトはバックステップでエアマンタから飛び降り、空中で体を反転させ、そのまま落下する。しばらく落下したところで実体のないヨルムンガンドを空中に打ち込み落下のスピードを抑え着地した。
そして四人の敵を見やると、白衣の男を守るように目がでかい男と鼻がでかい男が前に出る。
「ご安心ください。スタイリッシュ様!」
「我々は将棋で言えば金と銀。必ずや貴方をお守りいたします!」
二人は声高々に言ってくるものの、あまり強そうには見えなかった。むしろ先ほどスサノオと戦っていた連中の方が戦闘向きなのではないだろうか。けれどそこでスタイリッシュと呼ばれた男がリヒトのことを観察しながら言ってきた。
「金色の瞳、銀髪に鎖……貴方もしかしてリヒトかしら?」
「オレのこと知ってんのか? オカマに知り合いはいなかったはずだけどな」
「なるほどなるほど、あの子から聞いたとおりの外見ね。初めましてリヒト、アタシはDr.スタイリッシュ。アンタはアタシと面識がなくても、アタシはアンタのことをよぉく知ってるわ」
「へぇ、手配書でも出回ってたかい?」
「ええ。もちろん手配書も見たケド……アンタもよく知ってる娘から色々教えてもらったのよねぇ。そう、セリューから、ネ」
セリューの名を聞いた瞬間、リヒトの眉が少しだけ動いた。スタイリッシュもそれを見逃さなかったのか言葉巧みに畳み掛けてくる。
「セリューは本当に扱いやすい娘だったわ。帝国のことを正義と盲信して、アタシやオーガがやっていたことだって全て正しいと思っていた。自分がただの実験動物とも知らずにね」
「……」
「自分の体がどんなに改造されたって『正義のために』『悪を倒すタメだから』って……ホント、馬鹿な娘で助かったわ。いえ、アレはもう人間というよりはただの兵器と言った方が妥当かしらねぇ」
まるでリヒトの感情を逆なでするような言葉を浴びせてくるスタイリッシュだが、リヒトはそれに小さく笑みを浮かべて答える。
「くっだらねぇ話並べてんじゃねぇよオカマ野郎。今の話を聞いてオレがむやみやたらに殴りかかるとでも思ったか?」
今度はリヒトの方がスタイリッシュを挑発するように言う。
「セリューがどうなろうが知ったこっちゃねぇ。アイツがテメェで自分の身体を改造したんならオレが関わることでもねぇだろ。セリューはセリュー、オレはオレだ。他人の倫理観をとやかく言うつもりはねぇよ。
それに今の関係のほうが実に単純だろうが。アイツは敵、ただそれだけだ。幼馴染だろうがなんだろうが、立ちはだかるヤツには一切合切の容赦をする気はねぇ」
きっぱりと言い切ったリヒトの瞳は酷く冷たい光りを宿しており、スタイリッシュの護衛二人もその冷たさに若干の恐怖を覚えたらしく、半歩退いた。
しかしそこでスタイリッシュは懐からなにやら注射器のようなものを取り出した。
「余計な心理戦は無駄だったってわけね。だったらもうハラを括ってェ!!」
言うやいなや彼は注射器を腕に打ち込みながら更に続けた。
「切り札その2! 危険種イッパツッ!! これしかないようねッ!!」
言い切ると同時に注射器に入っていた液体を全て入れ終わった彼の身体に変化が起こった。体が膨らみ始めたのだ。しかし、どんなに膨らんでもスタイリッシュの体がはじけることはなく、むしろ体が巨大化して行っている。
「きたきたきたァ!! これぞ究極のスタイリッシュ!!」
声高らかに言う彼だが、リヒトは危険を察知し後方にヨルムンガンドを打ち込んで退避する。退避しきったところで背後から声をかけられた。
「大丈夫か、リヒト」
「ああ。怪我はなしだが……わりぃ、もっと早く片付けとくべきだった」
「気にするな。所詮は的がでかくなっただけのことだ」
謝罪にたいしスサノオが答えた。そしてリヒトがもう一度スタイリッシュに目を向けると、そこにはスタイリッシュや彼の護衛の影はなく、巨大な人型の怪物が現れていた。いや、スタイリッシュの姿はあった。彼は怪物の額の辺りに下半身を埋没させた状態で居たのだ。
「でっか……。さすがにコイツ自体を相手にする気にはならねぇな」
そんな風に声を漏らしていると、巨大な腕が迫り、こちらをつかもうとしてきた。
「あんた達もアタシの栄養源になりなさあああいッ!!」
「いやなこった」
大きすぎるためか動きが鈍重で、リヒトやスサノオが避けるのは簡単であった。そのまましばらく攻撃を避け続けていると、スサノオが問うてきた。
「どうする。あの巨体、まともに相手取るにはちと面倒だぞ。それになかなか硬い」
「ああ。それはわかってる。でも、狙うとこは大体予想がついた。だからスサノオ、ちょいと時間を稼いでくれ」
「承知した」
スサノオが頷き、スタイリッシュに一撃を見舞ったところでリヒトはスタイリッシュの視界から外れ、ヨルムンガンドで空中に躍り出る。
うまい具合にスサノオがスタイリッシュをひきつけ、尚且つ挑発してくれているので、スタイリッシュは頭に血が上ったのかスサノオしか見えていない様子だ。
……さすがスサノオ、ナイスサポートだぜ。
内心で彼に感謝しながらリヒトはスタイリッシュの背後の空中を上がっていく。実体のある鎖と違い、精神体の方の鎖は音が鳴く彼の耳に音が入ることもない。
だからこそリヒトはあっという間にスタイリッシュを超えた空に上がることに成功し、彼を見下す形となった。
「チィ! ちょこまかちょこまか面倒くさいわね生物帝具!!」
逃げては攻撃し、逃げては攻撃しを繰り返すスサノオにスタイリッシュが苛立ちの声を上げる。
「だったらこれで終わりにしてやるよ。スタイリッシュ」
「え?」
背後からかけた声にスタイリッシュはこちらを振り向いた。同時にリヒトはヨルムンガンドを使って急降下。しかし、スタイリッシュもそれを阻もうと巨大な腕を振るってくるが、それはエアマンタに乗った状態のマインの狙撃により防がれた。
「まだもう一本あるわ!!」
焦った様子で言うスタイリッシュだが、その腕さえもスサノオに弾かれ、リヒトと自分を遮断するものは何もなかった。
しかしそれでも彼はあきらめていないのか、「まだまだよ!」と告げたあと、彼の背後から注射針のようなものがついた管が何本も射出されリヒトを襲う。
「……無駄だ、バァカ」
ニィッと残虐な笑みを浮かべたリヒトは瞬時にヨルムンガンドを伸ばし、スタイリッシュのちょうど隣の空間に打ち込み、一気に加速し注射針による攻撃を避けきってみせる。
「終いだ、Dr.スタイリッシュ!!」
終幕を告げながら接近するリヒトは片手剣を抜き放ってスタイリッシュの首を刎ねる体勢をとる。
そして次の瞬間、勝負はあっという間に決した。
リヒトの片手剣がスタイリッシュの首を刎ね飛ばしたのだ。しかし、スタイリッシュは首だけになっても声を漏らした。
「まだ……いろいろ実験……やって……」
しかし、そこで彼の言葉は完全になくなり、巨体は後ろに倒れこんだ。
大地を揺るがしながら倒れた巨大を背に、リヒトは刎ね飛ばしたスタイリッシュの頭を持って、放り投げながら一言。
「地獄で苦しめ。クズヤロー」
リヒトの声は、身が凍りつくのではないかというほど冷たいものだった。
その後、タツミに背負われたアカメとラバックを持ったレオーネも合流し、ナイトレイドは新メンバーを含めて全員集合を遂げた。
そして明け方、ナイトレイド一行は次のアジトが見つかるまで、帝都から南東へ800km離れたマーグ高地へ潜伏することとなった。
はい、お待たせいたしました。
今回はスタイリッシュを殺りました。
本当はアカメをリヒトがぶん投げる形でも良かったんですが、原作と差異を出すためにリヒトが殺ることに決めました。後悔はしていません。
それにリヒトに見せ場作らないといけませんからねぇ。
途中スタイリッシュがなにやらセリューのことを色々言ってますが、あれは私の妄想と言うか、彼は自分の作品を駒としか見ていない様子だったので、セリューのこともあんな感じだろうって感じで書きました。
では、次回はマーグ高地でのチェルシー達の紹介とイェーガーズの話もしましょうかね。
感想などありましたらよろしくお願いいたします。