白銀の復讐者   作:炎狼

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第二十話

 帝都より南東へ離れること八〇〇km。垂直に切り立ったテーブルマウンテンが数十種点在し、独自の生態系を気付いている秘境、マーグ高地。

 

 ここに潜む危険種のレベルは帝都近郊よりも圧倒的に高く、常人は決して寄り付かない。しかし、だからこそナイトレイド一行の潜伏には最適なのだ。

 

「ここなら帝国側に見つかることはないからな。新しいアジトが出来るまで、それぞれのレベルアップとこれからの方針を決める。いいな?」

 

 全員がエアマンタから降りたところで、大きなバックパックを担いだナジェンダが皆に告げた。

 

 すると彼等の背後でジッとしていたエアマンタがフワッと浮き上がり、そのまま飛び去っていってしまった。

 

「あれ? 行っちゃったけどいいの?」

 

 マインが言うが、チェルシーとリヒトが補足を入れた。

 

「巣がある本部へ戻ったんだよ。荷物運搬もかねてるしね」

 

「それにアイツは革命軍の大事な機動力だからな。オレたちが独占するわけにもいかねぇんだよ」

 

「マインってそんなこともしらないんだね。アハハ!」

 

 リヒトの言葉に続いてチェルシーが小馬鹿にしたような言葉をマインに投げかけた。マインはこちらに顔を向けてはいないが、恐らくカチンときていることだろう。

 

 するとタツミが思い至ったように言葉を漏らす。

 

「でもさ、アイツがいれば宮殿へ一直線に突っ込めるんじゃないのか?」

 

「それは無理だ。宮殿の上空には帝具で飼いならした危険種がガチガチに守りを固めている」

 

「あぁ、なるほどな」

 

「帝都のほとぼりが冷めて、アジトが見つかれば迎えに来てくれる手筈になっているから帰りは安心して良いぞ。さて、一通り説明も済んだことだし。新メンバーの紹介といこうか」

 

 ナジェンダが告げ新メンバーであるチェルシーとスサノオの自己紹介が始まったが、チェルシーは早々にアカメをアメで餌付けし、スサノオは自身の持つ家事スキルをフルに活用してあっという間に食事と洗濯、さらには簡易的な家まで建ててしまった。

 

「よし。これでここでの拠点は完成したな」

 

「って、全然戦闘と関係ないでしょーが!」

 

「いやいや、これはかなり便利だぞ! それにスサノオの奥の手はちゃんとあるから心配するな」

 

 マインの突っ込みをサラリを受け流したナジェンダに対し、スサノオも静かに頷いた。

 

 それを呆れ気味に眺めていたリヒトだが、ふと思い出したように手を挙げた。

 

「なぁボス。オレって危険種に絡まれやすい体質なんだけどさ。こんなところで修行してたらめっちゃ寄って来ると思うんだけど」

 

 その言葉に全員が「あー……」と言う反応を見せ、ナジェンダも顎に手を当ててしばらく考え込んだ。そして答えが出たのか、彼女はリヒトに真剣な面持ちで向き直った。

 

「リヒト……その辺はがんばれ」

 

「うわーお。すんごい投げやりー」

 

 真剣な面持ちで言うにはあまり気持ちがこもっていなかったナジェンダに対し、リヒトは微妙な表情をしていた。

 

「まぁ何とかなるだろう。それに前向きに考えてみろ。危険種に絡まれるということはそれだけお前のレベルもアップするということだ」

 

「あと私達の食事が増える!」

 

「ボスの言い分はまだ納得できるが……アカメ、お前は少し食い意地を抑えようぜ。さっきチェルシーにアメもらったし、それに今は早速スサノオの作った料理にがっついてんじゃねぇか!」

 

「心配するなリヒトの料理も美味いからまだまだ入る。安心して危険種を狩って来るといい!」

 

 グッと親指を立て、口元に食べかすやらソースをつけたままで言う彼女だが、リヒトは顔を覆うように手を当てる。

 

「ダメだコイツ、全然人の話し聞かねー……」

 

 呟いてみるものの結局アカメにリヒトの声は届かなかった。しかし、その代わりと言う様にチェルシーやタツミ、ラバックが慰めるようにポンポンと軽く肩を叩いて来た。

 

 しかし、何故かそれが逆に悲しくなるリヒトであった。

 

 

 

 

 

 

 場所は変わって帝都の宮殿の一角。そこでイェーガーズのメンバー、セリューはエスデスに対して頭を下げていた。

 

「ありがとうございました、隊長。それと見苦しいところを見せてしまいすみませんでした」

 

 彼女がエスデスに対して頭を下げている理由。それはスタイリッシュの殉職を聞いて悲しみを露にしていたところを、エスデスが優しく抱いてくれたことに対してのお礼だった。

 

「気にするな。恩人を失ったのだから悲しむのも無理はない」

 

「いえ、隊長に慰めてもらっていろいろ吹っ切れました。ドクターのことは残念ですけど、いつまでも悲しんでいても始まりません。今の私にできることはオーガ隊長とドクター、二人の仇であるナイトレイドを殲滅することです」

 

「そうか。それだけわかっていれば十分だ。その精神を持ち続けていれば必ず叶うだろうさ」

 

 エスデスは帽子を目深に被った後、踵を返して私室に戻っていった。そんな彼女の背中に敬礼したセリューは手を降ろして義手を強く握る。

 

 ギチッという軋む音がするほど握られた拳を見ながら彼女は怨敵の名を口にする。

 

「絶対に殲滅してやるぞ、ナイトレイド。そしてリヒト……貴様もだ」

 

 憤怒と憎悪に満ち満ちたセリューの瞳の奥には黒き炎が揺らめいていた。

 

 

 ちょうどその頃、イェーガーズの談話室では若干藍色がかった黒髪の少年が長机に突っ伏していた。彼の斜め前には小袋に入ったお菓子を貪っている肩にかかる程度の黒髪の少女が見える。小袋には『クロメのおかし』と書いてあったのでそれが彼女の名だろう。

 

「いつまでいじけてるのウェイブ」

 

 クロメがお菓子を咀嚼しながら問うと、机に突っ伏していたウェイブと呼ばれた少年は大きなため息をついた。

 

「別にいじけてはないけどよ。ただ、俺こっちに来てからあんまり戦果出せてねぇなって思ったんだよ」

 

「そうだね。隊長に見張っとけって言われたタツミには逃げられるし、ドクターを亡くしたセリューを励まそうとしたら隊長に先を越されるし、宮殿の中で迷っていろんなものを漏らしそうになるし……散々だね」

 

「ちょっと待て。前二つは認めるが最後のは俺じゃねぇ! 流石の俺でもそんなみっともない事にはならねぇよ!」

 

「でも迷いかけたのは事実だよね?」

 

「ぐぬっ」

 

 クロメの冷静なツッコミにウェイブは若干くぐもった声を上げた。すると談話室の扉が開き、なんとも不気味な仮面を着けた胸の傷のある筋肉隆々な大男と、金髪を肩にかかるか否かまで伸ばした美青年が現れた。

 

「やや!? どうしたんだいウェイブ君。そんな風に突っ伏してしまってどこかからだの具合でも悪いのかい?」

 

 大男はその怖そうな外見とは裏腹にウェイブを心配していた。

 

「気にしないで良いよボルスさん。自分の不甲斐無さに打ちひしがれてるだけだから」

 

「不甲斐無いって、私はそんなことはないと思うよウェイブ君。君はとても優しいし、それに任務には失敗だって付き物だよ。そんなに心配することもないんじゃないかな」

 

 ボルスはウェイブの肩をポンポンをたたいて慰めた。ウェイブもその励ましで元気を取り戻したのかボルスの手をガシッと握っていた。

 

 それを眺めていたもう一方の入室者である金髪の青年がクロメに声をかける。

 

「そういえばクロメ、先ほどセリューのところにウェイブと一緒に行っていたようですが、何かありましたか?」

 

「アレはウェイブがセリューを元気付けたいって言ったから付いて行ったんだけど、結局隊長に先越されたんだよ。そういえばラン達の方も調べ物は良いの?」

 

 クロメの問いにランという青年は微笑を浮かべながら答える。

 

「ええ、ドクターの研究所の報告も隊長に伝えましたし、今日の仕事は終わらせました」

 

「そう。でもさ、ドクターがナイトレイドに先攻してやられたとしたら、当分ナイトレイドは帝都に出てこないかもね」

 

「そうですね。彼等も殺し屋といえど退き際を見極めることぐらいは出来るでしょう。ですがそれがどうかしたんですか?」

 

「うーん、お姉ちゃんとを殺してあげられる日が遠くなっちゃうなぁって思ってさ。まぁそのうち会えるだろうから良いけど」

 

 口角をクッと上げたクロメの笑みはとても嬉しそうなものだったが、酷く歪でもあった。

 

 ランはそんな彼女を見やりながら一人思う。

 

 ……クロメの姉、ナイトレイドのアカメ。かつては帝国の暗殺部隊に所属していたということですが、後に帝国を離反。帝具は確か一斬必殺・村雨でしたか。

 

「……まぁ彼女もこの国が間違っていることに気が付いたのでしょうが、そのやり方では何も解決は出来そうにもありませんね……」 

 

「うん? ランなんか言った?」

 

「あぁいえ何も」

 

 こちらを不思議そうに見上げてくるクロメだが、ランはそれにいつもの笑みを見せながら答えた。

 

 クロメもそれ以上を聞いてくることはなく、退屈そうに中庭を眺め始めた。

 

 

 

 

 

 

 夕食を終えたナイトレイドの面々は、皆それぞれ明日からの鍛錬に備えるため、早めの就寝した。

 

 しかし、スサノオが建設した家の屋根の上ではリヒトとタツミが星を見上げていた。

 

「話ってなんだよリヒト」

 

「んー、いや大した話じゃねぇんだけどさ。この前の戦いでブラートが逝っちまったわけだ。あぁ変な風に勘繰るなよ? 別にお前のことを責めようってわけじゃないからな?」

 

「それはわかってるよ。それで?」

 

「そんで、まぁあれだ。オレ、アイツに頼まれ事されてたんだよ。お前のことを頼むってな」

 

「俺のことを?」

 

 怪訝そうに聞き返してきたのでリヒトはそれに黙って頷くと星空を見上げながら続けた。

 

「『俺に何かあったら俺の変わりにタツミを鍛えてやってくれ』って言われてたんだ。だからこれからはオレが暇な時には鍛錬するぞ。ブラートほどではないにしろ一応お前のレベルを上げてやることぐらいは可能だろうからな」

 

「……そっか、うん。じゃあこれから頼むよ、リヒト」

 

「おう。まぁどっちかっつーとオレよりもスサノオの方が良いかもしれない時はあるかもな。インクルシオの副武装であるノインテーターも槍だから、その辺の扱いはアイツに聞いたほうがいい。オレがやってやれるのはほんのちょっとのことかもしれないな」

 

 自嘲気味な笑みを浮かべたリヒトだが、タツミはそれに被りを振ってきた。

 

「いや、今の俺じゃあリヒトには勝てないと思うから、鍛えてくれるのはありがたいよ。それに俺ももっと力をつけたいしな」

 

「そういってもらえると鍛える側も嬉しいねェ。とまぁ、話はこんなもんだ。わざわざ呼び出してわるかったな、戻って寝ていいぜ」

 

「ああ。それじゃ、おやすみ……っとそうだ。ちょっと聞きたかったことがあるんだけど、いいか?」

 

 屋根から降り掛けたタツミが問うてきたので、リヒトは上体を起しながら首をかしげる。

 

「リヒトから見た兄貴ってどんな人だった?」

 

 彼のそんな素朴な疑問に対し、口元に手を当てたあと考え込むと僅かに笑みを見せながら答えた。

 

「……親友、飲み仲間、相談役、鍛錬相手……こんな感じが多かったけど、結局のところはお前と同じだよ。ブラートはオレにとっても兄貴だった。って、小恥ずかしいこといわせんじゃねぇよ」

 

 タツミの問いに答えたリヒトだが、その顔はどこか恥ずかしげだった。すると、それを見たタツミはニッと笑みを浮かべた後「うん」と頷いた。

 

「やっぱ兄貴は兄貴なんだよな。ありがとう、リヒト。そんじゃおやすみ!」

 

 それだけ言い残してタツミは屋内に戻っていったが、彼が残した言葉にリヒトは僅かながら首をかしげる。

 

「なんで「ありがとう」だ? オレ、なんかお礼されるようなこと言ったっけか?」

 

 若干の疑問を残しながらも、リヒトは適当に外で過ごした後眠るために部屋へ戻って行った。

 

「あー、ねむねむ。さっさとねようおッ!?」

 

 大あくびをしながら自分の部屋のドアノブに手をかけた瞬間、何者かに思い切り手を引かれ、そのまま別室に引きずり込まれた。

 

 部屋に引き込まれてすぐにその部屋の主が明りをつけた。リヒトは腰を摩りながら立ち上がる。

 

「腰打った……ったく、こんな夜中に何の用だよラバ」

 

 部屋の主、ラバックに対して若干眉間に皺を寄せながら聞くと、彼は真剣な表情と真剣な声を発した。

 

「リヒト、俺は今大問題に直面しているんだ」

 

 そうはいうものの、こちらからすれば「何のこっちゃ」という感じなので、とりあえず首を傾けていくことにした。

 

「このまま行くと、俺のポジションがスーさんに取られちまうッ!!」

 

「フーン」

 

「……」

 

「……」

 

 しばしの沈黙が二人の間に流れる。

 

 だが、すぐにその沈黙はラバックによって破られた。

 

「なんか言えよ!!」

 

「何をだよ」

 

「慰めの言葉とかないのかよ!? 親友の俺のポジが危うくなってんだぞ!!」

 

「しらねぇよ。つーかそもそものところお前のポジってスサノオじゃないだろ」

 

 後頭部を掻きながら言うと、ラバックは一瞬嬉しそうな顔を見せ問うてきた。

 

「そ、そうか!? それじゃあ俺のポジって何かな?」

 

 期待に満ち満ちた表情で聞いてくるので、とてもいい笑顔を浮かべながら告げる。

 

「なんだよ気付いてなかったのか? お前のポジは今も昔も変わらず……お笑いポジだ」

 

「ガッデム!! なにそれ、俺初耳なんだけど!」

 

「あ、そうなの? じゃあ良かったな、これで改めて確認することが出来たな。それじゃあ、色々解決したことだしおやすみー」

 

 棒読み口調で言い切るリヒトだが、すぐに部屋に引き戻された。

 

「待って! ホントに俺のポジってお笑いなの!?」

 

「ああ、そうだ。なんならマインとかレオーネあたりに聞いてみたらどうだ? きっといい答えが返ってくるぜ」

 

 親指をグッと立てて爽やかな笑顔を向けながら言うものの、ラバックはまだ納得がいかない様子だ。だが、彼はすぐに何かに気が付いたのかくぐもった笑い声を漏らした。

 

「フ、フフフ……そうだ。ポジションがなくなるのは俺だけじゃないじゃん。ポジションがなくなるのはお前もだリヒト!」

 

「オレが?」

 

「ああ。スーさんは料理だけじゃなくて掃除、洗濯、何でもござれだ! だからこそ普段炊事担当のお前のポジはスーさんに取られるってわけさ!!」

 

 ビシッと音がしそうなほど人差し指を突きつけられた。同時に目の前のラバックはかなりのドヤ顔を見せている。

 

「まぁ確かにそうかもな。でもオレは別に好きで炊事担当になったわけじゃないから、特に深い思い入れもないし、何でもいい」

 

「ファッ!?」

 

「そもそものところオレが炊事担当になったのは、ナイトレイドの中で一番まともに料理が作れたからだしな。それが今、トップがスサノオに変わったってだけでオレも炊事はするから、結局のところオレのポジションは変わってないだろ」

 

「なん……だと……!?」

 

 まさに愕然と言った表情をするラバック。しかしリヒトはそんな彼に対して踵を返した。

 

「そんじゃこの話はこれでおしまいな。明日もはえーからさっさと寝ろよー」

 

「え? ちょ、まっ!?」

 

 最後の最後まで追いすがってきたものの、彼が追いつく前にドアを完全に閉め切った。すると、スピードを殺せなかったラバックがドアに激突した音が聞こえた。

 

 しばらく待ってもドアが開く気配はなかったので、恐らくあきらめたか鼻血をたらしてのびているのだろう。

 

「ふぁ……あぁ疲れた。さっさと寝よ。つーかこんなことになるなら屋根で寝てれば良かったか」

 

 適当な愚痴を零しながらリヒトは自身の部屋に戻りそのまま就寝した。




はい、お待たせしました。
今回は皆がマーグ高地に行ったところと、やっと出せたイェーガーズの面々のお話です。

いやぁ……セリューがどんどんリヒトに対する怒りを強くしていくw
まぁそのほうがキョロクでの戦闘が面白くなりそうなのでいいですがw

途中ウェイブが宮殿で彷徨って漏らしそうになったって話は私の勝手な妄想です。
なんかウェイブってしっかりしてそうで天然な面もありそうなので……ささやかな笑い担当として出しました。ウェイブファンの方々申し訳ない。

最後の方はタツミとリヒトの対談でしたが、この辺りはイイハナシダナー程度で終わったでしょうかね?
まぁラバックは……お笑い担当ですし……w

次回はリヒトの修行風景とチェルシーかアカメと何かさせますかね。
出来れば人型危険種のところをやって、あの人を活躍させたい感じです。

では感想などありましたらよろしくお願いいたします。
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