白銀の復讐者   作:炎狼

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甘く……出来たのか、それともエロく……できたのか……


第二十五話

 妙に暖かい空気が肌を撫でたことでリヒトは目を覚ました。

 

 仰向けの状態で視線だけを泳がせると、自分の周囲には草が生い茂っているのが見える。空は遠かったが群青色と橙色の見事なコントラストを描いている。恐らく夕暮れだろう。

 

 最初はキョロクまで行く時のナイトレイドの野営地かとも思ったが、すぐにそうではない事がわかった。

 

 痛みが消えていたのだ。

 

 クロメに刺され、彼女の骸人形撃たれた傷の痛みがなくなっていた。そればかりか脇腹を触っても傷跡らしい傷跡がない。

 

「どうなってんだよ……」

 

 疑問に思いながらゆっくり起き上がると、自分がいる場所の全景が見えてきた。どうやらここは海に面した丘のようなところらしい。周囲にはゴツゴツとした岩も見えるが、それらを覆うように雑草と、色とりどりの花々が咲き誇っている。

 

 海の方からはしきりに波の音が聞こえ、潮風が鼻腔をついた。

 

 ひとしきり周囲を確認したリヒトは、「うん」と一度頷くと呟く。

 

「これってもしかして、あの世ってヤツ?」

 

「ちがうよ」

 

 不意に背後から声をかけられたのでそちらに振り向くと、背後には金髪で柔和な顔立ちの少年がいた。リヒトはその少年に見覚えがあった。いいや、見覚えがあるとかそういったものではない。幼き頃から兄弟の様に育ち、互いに夢を持った彼を忘れるはずがなかった。

 

「ルーク……」

 

 彼の名を呼ぶリヒトは驚愕の表情を見せたが、すぐに被りを振る。

 

「いやいやいやいや、お前いるってことはオレ死んだんじゃね? これってアレだろ、さっき行ったあの世ってヤツ」

 

「大丈夫。君は死んでないよ。前にもあったんじゃないこんなこと」

 

「前にもって……あ」

 

 リヒトは以前ブラートが戦死したときのことを思い出す。あの時は夢を見たのだ。ブラートに背中を押される夢を。

 

「じゃあ、これも夢ってことか」

 

「そう思っていいんじゃない? まぁ僕は君に話があったんだけどね」

 

 人が悩んでいる時に随分と楽観的な死人だ。

 

 小さく溜息をつきながらリヒトはルークに問うた。

 

「夢だろうが現実だろうがこの際なんでもいいや。で? オレに話しって何だよルーク。死人がわざわざ出てきたってことはそれだけ重要なことなんだろ?」

 

「うん。リヒト、君に頼みがある。彼女を……セリューをあの狂気から解放してあげて欲しい」

 

「……解放、か」

 

「彼女がああいう風に歪んでしまったのは、帝国の廃れた政治のせいでもある。言わばあの子は被害者だ。だから僕はあの子を助けてあげたい。でも、僕はもう死んでいるからね……君に頼りきりになってしまっていることは百も承知だ。本当にすまないと思う。けどお願いだ、リヒト、セリューを助けてあげて」

 

「……」

 

 ルークの言葉にリヒトは答えず、セリューの瞳を思い出す。彼女の瞳は酷く濁り、歪んだ光りを灯していた。初めて会った時の狂気に満ちた表情は今でも忘れはしない。

 

 あそこまで歪んでしまった彼女を自分が救うことが出来るのだろうか。むしろ何もしないまま殺してやった方が楽なのではないだろうか。リヒトはルークの顔を見やると溜息をつく。

 

「わーったよ。出来る限り努力はする。けど、オレが無理だと判断したらその時は、一切合切の容赦なくあいつを殺す。解放とかそういうのは考えない。こっちにも恨みがあるんでな」

 

「それでいいよ。じゃあ、これでお別れかな」

 

 ルークは悲しげな表情を見せたかと思うと、一瞬リヒトの視界がグラつき意識も遠のいてゆく。そして地面に倒れこむと同時に、意識は完全に暗転した。

 

 

 

 

 

 

 額のひんやりとした感覚と誰かに手をきつく握られていることに気が付いたリヒトは、ゆっくりと瞼を上げた。最初に目に着いたのは見知らぬ天井だった。形状からしてテントではなく建造物の中のようだ。

 

 すると、視界の下から影がヌッと出てきた。急に出てこられたので誰かと思ったが、そこにいたのは、まぶたを赤く腫らしたチェルシーだった。目尻には涙が見える。

 

「……ひでぇ顔だな。まぁ、眠気覚ましにゃちょうどいいか」

 

 苦笑いを浮かべながら言うと両頬を抓られた。しかも結構な強さで。

 

「いひゃいいひゃい」

 

 抓られているせいで上手く言葉が出なかったが、チェルシーはすぐに開放してくれた。前髪が目にかかっているので表情は読めないが、肩は小さく震えている。彼女はその状態のまま小さく言って来た。

 

「……ごめん」

 

「なんでお前が謝ってんだ」

 

「だって、私が独断専行して失敗して……それでリヒトにこんな怪我負わせちゃったわけだし……」

 

「元々オレの傷のうち一つはオレの行きすぎた行動のせいだし、もう一つだってオレの責任だ。お前が泣いて謝るようなことじゃねぇんだよ」

 

 左手をゆっくりと上げて彼女の額を弾くと、チェルシーの表情が露になった。

 

 案の定チェルシーの双眸には涙が浮かび、目も充血していた。

 

「やれやれ、こんなに泣かれちゃおちおち寝てもいらんねぇな。ちょっと水取ってくれ」

 

 ベッドサイドテーブルにある水を要求し、布団と額に乗っていた濡れタオルを引っぺがしてから首をゴキゴキ鳴らす。改めて自分の身体を見下ろすと、上半身にはしっかりと包帯が巻かれており、傷跡もそこまで強く痛まない。

 

 チェルシーから水を受け取ってそれを一気に飲み干す。

 

「ふぅ……何日経った? つーか、ここは何処だ」

 

「ここはキョロクの拠点。倒れてから三日経って、ここには昨日着いたんだよ」

 

「怪しまれなかったか?」

 

「深夜に来たし、スサノオの上着の下におぶられてたから大丈夫。傷口はラバックが縫ってくれて、薬とかはアカメが採ってきた薬草を塗ったんだ」

 

 事細かに説明するチェルシーは涙を拭った。リヒトは彼女の説明に頷いた後少し開いたカーテンの隙間から外を見たが、外は既にとっぷりと日が暮れているようだ。

 

「皆はどっかいったのか?」

 

「タツミとマインはキョロクの近くにある遺跡地帯に行ってて、ラバは聖堂近くを偵察中。アカメは墓地の方を見てくるみたい。ボス達なら会議室にいるよ」

 

「じゃあボスに会いに行くかね。よっと」

 

 少しだけ勢いをつけて起き上がってみたが、まだ足に力がしっかりと入らず、リヒトはそのままフラリと仰向けに倒れこんでしまった。

 

「ちょ、ちょっとリヒト、大丈夫?」

 

 チェルシーが心配げにしゃがみ込み、こちらの顔を確認しにきた。しかし、リヒトは見てしまった。チェルシーのスカートの中を。

 

「黒か……」

 

「え? ……ッ!!」

 

 思わずこぼれ出た呟きに気付いた彼女は凄まじい勢いで後ずさった。蹴りの一発ぐらいは貰うかと思ったが、いつまでたってもそのような衝撃と痛みは襲ってこない。

 

 流石に怪我人だから気遣ってくれているのかと思い彼女の顔色を確認すると、チェルシーの顔は真っ赤に染まっていた。それはもう今まで見たことないほどに。

 

 リヒトも心配になってきたので立ち上がってから彼女に問う。

 

「ど、どした?」

 

「なんでもない……。まったく、リヒトもエッチなんだから」

 

「偶々見えたんだよ。狙ってやったわけじゃないし」

 

「ふぅん……」

 

 チェルシーはそっぽを向いた。それは怒っているとかそういう感じではなく、むしろ照れ隠しと言った感じだったなのだが、リヒトはそこまで気づいていないようで首をかしげいてる。

 

 そしてチェルシーが落ち着いたところで二人は部屋を出て会議室へと顔を出した。

 

 会議室にいたのはナジェンダとスサノオ、レオーネの三人だった。レオーネは腕の接合が済んだのか、包帯で手を吊り、ナジェンダはタバコをふかしていた。

 

「お、リヒト。目が覚めたかー。いやぁよかったよかった、お姉さんは心配したぞ」

 

「お前も腕くっついてよかったなレオーネ」

 

 椅子に座っているレオーネと軽くハイタッチを交わし、リヒトはナジェンダの元まで歩み寄る。

 

「休んじまって悪かったな、ボス」

 

「気にするな。お前の働きのおかげでチェルシーを失わずに済んだ。今は決戦に向けて十分休息を取ってくれ。そうだ、腹減ってないか?」

 

「そういや減ってるな……」

 

 ナジェンダに言われ、腹に手を当てると空腹を報せる腹の虫が鳴った。

 

「まぁ三日間も眠っていたんだから無理はないな。スサノオ、準備できるか?」

 

「わかった。病み上がりだからな、消化の良いものを作ってこよう」

 

 スサノオはキッチンへ向かった。リヒトも料理が出てくるのを座って待つことにすると、チェルシーが告げてきた。

 

「それじゃあ私お風呂入ってくるから」

 

「ああ。ゆっくり浸かって来い」

 

 ナジェンダに送られチェルシーは会議室を出て行った。その後姿を見送っているとナジェンダが肩を叩いてきた。

 

「リヒト、後でチェルシーに礼を言っておけよ」

 

「そうそう。お前のことずーっと看てたんだからな。アカメ達が変わるって行っても「自分のせいだから」って譲らなかったんだぞー」

 

「そうか……」

 

 二人に答えると看病してくれていたチェルシーの手を思い出す。彼女の手は先のほうが赤くなっていたのだ。額に乗っていた濡れタオルをずっと交換し続けてくれたのだろう。

 

 先ほども彼女に言ったが、あそこまでチェルシーが責任を感じることはないのだ。アレは彼女がクロメと倒した方が後々楽になってくると判断したからこその判断だ。その考えは決して間違えてはいないし、リヒトとて同じ状況であればそうしたかもしれない。

 

 けれど、今回は相手が悪かった。誰だって急所を抉った人間が再び起き上がるなど考えもしない。今回は不幸が重なってしまっただけなのだ。

 

「……責任感じすぎなんだよなぁ」

 

「そう言ってやるな。チェルシーにとってお前の看病はせめてもの罪滅ぼしだったのだろう」

 

「そういうもんかねぇ。つーかアカメ達は遅くねぇか? いくら偵察って言ったって遅すぎだろ」

 

 リヒトが言うとナジェンダは顔を曇らせてタバコを灰皿にグリグリと押し付けた。

 

「実は革命軍の情報屋から連絡が入っていてな、現在ここキョロクにはエスデス率いるイェーガーズだけでなく、大臣お抱えの処刑人である『羅刹四鬼』が入ってきているらしい。恐らくだが、アカメ達の帰りが遅くなっているのは奴等と交戦中なのだろう」

 

 羅刹四鬼とは皇拳寺に所属しているいわば暗殺部隊のようなものだ。一人一人が特殊な修行をしたり、特殊な体質であったりするらしい。腕前も相応のものだという。

 

「助けに行くべきなんじゃねぇのか?」

 

「確かにそうだが、私もスサノオの奥の手を使った後だ。それにレオーネも腕がくっついたとはいえ本調子ではない。お前だってそうだろう。チェルシーも肉弾戦型ではないからな。今はアカメ達を信じよう」

 

「まっ、アイツ等なら大丈夫だって。なんか私も腹減ってきた……スーさーん、私にもなんかつくってー」

 

 レオーネは楽観的に答えてスサノオに頼み込んでいたが、リヒトは窓から見える外の景色を見て小さくため息をついた。

 

 

 

 バスルームで少し熱めのシャワーを浴びながらチェルシーは浮かない表情をしていた。

 

「リヒトはああ言ってくれたけど……やっぱり……」

 

 頭に何度もフラッシュバックするのは自分を助けに来たことで血まみれになったリヒトと、彼の苦しそうな顔だ。そのたびに胸が裂かれそうなほどの罪悪感と、哀傷の念にかられてしまう。

 

 ゴン、とタイルの壁に頭を打ちつけながらチェルシーは小さく息をつき、言葉を漏らす。

 

「……私がリヒトと付き合おうだなんて、ムシが良すぎる話だよね」

 

 ざぁざぁと降り注ぐシャワーの音にかき消されそうなほど小さな声は、今の彼女の心の中を表しているようだった。

 

 

 

 その後、リヒトが食事を終えてさらに夜が深まった頃、アカメ達は無事に臨時拠点に帰還してきた。アカメとラバックが多少負傷したようだったが、タツミとマインは無事のようだった。

 

 けれど、羅刹四鬼の一人の手によって情報員達は殆どやられてしまったという事実も突きつけられた。

 

「情報員がやられたってなると、ちっとばかし動きづらくなってくるな」

 

「ああ。今回の一件でイェーガーズも嗅ぎ付けただろうからな。これからは膠着状態が続くと覚悟していいだろう。皆、街に出るときはくれぐれも変装を忘れるなよ。特に手配書が出回っている組は気をつけろ」

 

 ナジェンダの言葉に全員が頷き、その日の夜は解散となった。夜とは言っても明け方だったが。

 

 リヒトもすっかり戻ってきた身体の調子を確かめるようにしながら自室に戻っていくが、途中でチェルシーに呼び止められた。屋上について来て欲しいとのことだった。

 

 言われるがままチェルシーについて行き、拠点の屋上へ上がると東の空が白み始めているところだった。空にはまだ星が煌めいている。

 

「前に言ったよね、リヒト。君に伝えたいことがあるって」

 

「ああ」

 

「それを言おうと思ってたんだけど……ごめん、アレ忘れて。思い返せばそんな大した事じゃなかったし」

 

 いつもの小悪魔っぽい笑顔浮かべて言うチェルシー。しかしリヒトにはそんな笑顔がどこか儚げで、とても悲しげに見えた。彼女はそのまま「それじゃ、後でね」とだけ告げて戻っていこうとしたが、リヒトがそれを許さなかった。

 

「待てよ、チェルシー。このままだとオレが気持ち悪い。伝えたいことがあるのなら、はっきりと伝えてくれ」

 

「だから、大したことじゃないって言ってるじゃん。気にしないでよ」

 

「嫌だね。つーか、お前平静を装ってるつもりだろうけどバレバレなんだよ。泣きそうになってたじゃねぇか」

 

「……」

 

 チェルシーは答えなかったが、リヒトの手を振り切ろうと力を込めていた右腕の力を抜いた。彼女はこちらに向き直るが、顔は伏せたままだ。

 

 そして彼女の口にリヒトは胸を打たれることとなった。

 

「私……私はね、リヒト……君のことが好きになっちゃったんだよ。もうどうしようもないくらいに」

 

「好きって、お前……」

 

 思いもよらぬチェルシーの告白にリヒトは息を詰まらせる。けれどチェルシーは言葉を繋げて行く。

 

「君がレオーネやアカメと仲良くしてたら嫉妬しちゃうし、気がついたらいつも君を目で追ってた……。最初の頃はただちょっとかっこいいかなーって思ってたけど、一緒に任務をこなしたり、危ないところを助けてもらったりしたらどんどん君に惹かれて行ったんだよ」

 

 告白にリヒトはどう反応したらいいのかと悩んだが、チェルシーは「でも……」と続けた。

 

「でも……この前のことで私がリヒトを好きになる資格なんてないって思ったんだ。だって、私の自分勝手な判断で君を殺しかけたんだよ? リヒトを危険に晒して、ましてや生死の境を彷徨わせて……それで付き合いたいだなんてムシが良すぎるじゃん」

 

 顔を上げた彼女の瞳からは大粒の涙が零れている。表情は悲しみと悔しさに染まりぐしゃぐしゃになっている。

 

「私と一緒にいたらリヒトが不幸になる。私に君を好きになる資格なんてこれっぽっちもないんだよ!! それに私はあの場で死ぬべきだったんだよ! 好きな人死なせかけるなんてありえないよ……!!。

 だから私のことはもう気にしないで。リヒトはアカメと付き合った方がいいよ二人ならお似合いだもん」

 

 必死に笑みを作って言ってくるものの、涙は止め処なく溢れている。今まで大人の女というか、みんなの前でお姉さん的なポジションであったせいもあるのだろうか。今の彼女は酷く小さく見えた。まるで両親とはぐれた幼子のようだ。

 

 ……頼むからそんな顔はしないでくれ。

 

 彼女の表情と言葉にリヒトは胸が熱くなったの感じた。

 

 そして気がついたときにはリヒトは動いていた。一瞬力が抜けかけた腕に力を込め、チェルシーを一気に引き寄せると、彼女の腰に手を回し無理やりに唇を合わせた。

 

 勢いあまったためか、カチン! と前歯があたったような音がしたが、そんなことは気にしない。リヒトは離したくなかった。目の前で自責の念にかられ、今にも壊れてしまいそうな彼女を。

 

 するとチェルシーもこちらの腰に手を回してキスに答えてきた。

 

 何分ぐらい唇を合わせていただろうか。いいや、実質的には何十秒なのだろうがそれだけ長く感じたのだ。

 

 やがてキスを終えた二人だが、リヒトはチェルシーをすぐに開放はせずにきつく抱きしめた。

 

「チェルシー、さっきも言っただろ。お前が責任を感じる必要はないんだ。お前の行動は確かに独断専行だったかもしれない。でも、アレはオレ達の後々の戦いを想定してのことだったんだろ? だったら、お前を責める理由なんてこれっぽちもないじゃないか」

 

 いつもの粗野な声音ではなく、酷く優しく、あやす様な声で彼女に告げながら頭を撫でる。

 

「だから死ぬべきだったのは自分だったとか、付き合う資格がないとか、そんな悲しいこと言わないでくれよ。お前はオレの大切な仲間で……恋人なんだからさ」

 

 そう言うとチェルシーの身体がピクンと震えた。

 

「私が……恋人で、いいの?」

 

 嗚咽交じりの声にリヒトは「ああ」と短く答える。

 

「というか付き合ってくれ。女の子にアレだけ言われたら、男として付き合わないわけにはいかないだろ」

 

「……ありがとう、リヒト。あと、これからよろしく……」

 

「こちらこそだ。チェルシー」

 

 その返答にいよいよチェルシーは我慢の限界だったのか、嗚咽を漏らしリヒトの胸に顔を押し付けながら泣きじゃくった。リヒトはただただそれを優しく受け止め、彼女の背中を撫で続けた。

 

 いつの間にか朝日が昇り、暖かい橙色の日差しが差し込んでいた。その暖かな光りはまるで結ばれた二人を祝福しているようでもあった。

 

 しばらくの間泣き続けたチェルシーを解放したリヒトは彼女の手を握って歩き出そうとしたが、チェルシーに止められた。

 

「ねぇリヒト。もう一回キスして」

 

「はぁ!? なんでまた……」

 

「だってこれが夢だったりしたら嫌じゃん。だから現実だって分かるためにさ」

 

「ったく……」

 

 さっきは勢いで何とかなったものの、いざやってくれと頼まれるとどうにも気恥ずかしいものである。けれど恋人になると宣言してしまった以上、断るわけにも行くまい。

 

 意を決したリヒトはさっきよりは優しく唇を合わせたものの、チェルシーは口の中に舌を入れて来た。いわゆるディープキスというヤツだろう。

 

 いきなりの行動に驚いたが、リヒトはそれにすら答えて彼女の口に舌を突っ込んだ。

 

 深いキスを終えた二人は互いに頬を染めていたが、チェルシーはとても満足げだ。

 

「それじゃあ、戻ろうか」

 

「ああ。一応ボスとかにも報告しないとな」

 

「だね。でも今は皆寝てるだろうし、報告はお昼くらいでいいんじゃない? だからさ……それまでは、ね?」

 

 この蠱惑的でどこか艶っぽい視線を向けてくるということは、そういうことだろう。まったくこちらは怪我人だというのに……。

 

「怪我が開かない程度に頼むぜ……。怪我人なもんでね」

 

「その辺はしっかり配慮するよ。優しく、し・て・あ・げ・る」

 

 ウインクをしながら言ってくる彼女は、本当に先ほどまで泣き腫らしていた人物かと疑わせるほど色っぽかった。

 

 その後、二人はリヒトの自室に消えていったが、そこであったことについては何も言うまい。

 

 

 

 

 

「というわけで、オレとチェルシーは付き合うことになりました」

 

 昼食を終えた所で皆に発表した。殆どは祝福してくれたのだが、ラバックだけは険しい表情をしている。

 

「どうしたんだよ、ラバック」

 

「ぶぇっつにぃ~。よかったんじゃないの、チェルシーちゃんと彼氏彼女の関係になってさ。でも言っとくけどそれ死亡フラグだかんな!」

 

「死亡フラグ?」

 

「良く物語とかにあるだろ。守るものが出来た途端に死ぬとか。戦争中に恋人の話をしたヤツから真っ先に死ぬアレだよ! 高確率でそうなるからせいぜい気をつけろよ!」

 

 人差し指をこちらにビシッと向けて言ってくるラバックだが、彼の肩にレオーネが手を置いた。

 

「んで、本音は?」

 

「うらやましいです! 俺も彼女欲しいYO!!」

 

「まぁまぁ泣くなよ。いつかお前にも春が来るって……何時かは分からんけど」

 

「チェルシーちゃんの手ぇ握りながら言ってるから嫌味にしか聞こえねぇよ!!」

 

 ラバックは血涙を流しそうな勢いで天を仰いだあと、テーブルの上に突っ伏した。そんなに彼女が欲しいのならさっさとナジェンダに告白してしまえばいいものを。まぁそれが成就するとは言い切れないが。

 

 その様子を呆れたように見ていたマインが紅茶を飲みながらアカメに言った。

 

「でも意外よねー。リヒトはアカメとくっつくものだと思ってたわ」

 

「なぜだ?」

 

「だってアンタとリヒトって任務は一緒のことが多かったし、アンタだってべったりだったじゃない」

 

「それはリヒトといると食べるものに困らなかったからだ」

 

 そういう彼女の言葉にリヒトも頷くとマインに告げる。

 

「アカメは恋愛対象とかそういうのより、なんつーか手間のかかる妹? って感じだな。今もだけど」

 

「あぁ……なんか分かる気もするわね」

 

 マインも納得がいったのかうんうんと頷いていたが、そこで様子をみていたナジェンダが皆に聞こえるように大きな咳払いをした。

 

「守るものが出来ると人は強くなるが、二人とも決して浮ついた行動には出ないようにな。朝方も話したが情報員がいなくなった今、迂闊に動くことはできない。各々注意するように」

 

 ナジェンダの命令によって若干浮ついていた空気が引き締まり、今日一日は外に出ず、拠点で待機との命令が下された。

 

 その後、イェーガーズもキョロクでの警戒を強め戦闘も何も起こらない膠着状態のまま、二週間が経過していった。




羅刹四鬼などしらぬ!!(キリッ)

はい、今回は前回よりも少しだけ短めでしたね。
まぁ次回はアレが控えてますから……ええ、いよいよですよまったく。
果たしてどうなることやら……。

そしてリヒトとチェルシーくっつけました!
リヒトは良く受け止めました……僕にはあれ以上思い浮かびませぬ。
まぁ部屋に行ったってことはもうお察しください。ホラ、こういう流れよくあるじゃないですか……(震え声)
なにぶん恋愛ものには疎いものでして甘く出来たのかはわかりませんが、今後も二人はいたるところでイチャコラするのだろうと思います。皆様塩の準備をお忘れなく。

次回はいよいよセリュー戦ですね。ルークに言われたとおり狂気から解き放つことが出来るのか、それとも無難に殺してしまうのか。そして奥の手は出るのか……。

そしてもう一つ、それなりに先の話になりますが。
……ボルスさんの奥さんと娘さん、生かしてあげた方がいいですよね……?

ではでは、感想などありましたらよろしくお願いします。
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