白銀の復讐者   作:炎狼

26 / 39
第二十六話

 キョロクにあるナイトレイドの臨時アジトの自室にて、リヒトは上半身裸で姿見を見ていた。彼の身体には少年時代に負った傷やら訓練中に負った傷など大小さまざまな傷跡が残っていた。

 

 そして両脇腹を見ると銃創痕と八房による刀痕が刻まれていた。そのどちらも今は傷がふさがっているため血は見えないが、痛々しさは十分に体現されていた。

 

「よし、治った治った」

 

 彼は傷跡の辺りを軽くなぞったあと肌着を着て普段着に着替えて自室を後にする。目を覚ましてから二週間が経過したものの、ナイトレイドは思うように動けていない。

 

 まぁ情報員が殺されてしまったのも強いが、もう一つの要因としてはイェーガーズが警戒を強めたことだ。リヒトも何度か外に出たとき遠目にウェイブという少年を見たときはヒヤッとした。

 

「あん時はさすがにビクッたなぁ。肝を冷やすってのはまさにあのことだな、うん」

 

 肩を竦めつつ会議室のドアノブに手をかけて中に入ると、既に全員が席についていた。マインが「遅いわよ」といた風な視線を送ってきたので、手をヒラヒラと振りながら自分の席に着く。

 

 そして窓際の席に座っているナジェンダがテーブルについた皆を見回して見て告げる。

 

「全員揃ったな。では今日の予定を確認しておくぞ。っとそのまえにリヒト、傷の具合は大丈夫か?」

 

「完治したぜ。戦闘にも支障はねぇ」

 

「そうか。では改めて確認するぞ。レオーネとスサノオはトンネル掘り。マインとチェルシーは午前中の情報収集。昼過ぎはアカメとラバックが行け。そして夕刻はタツミとリヒトだ。異論はあるか?」

 

 ナジェンダの言葉に皆被りを振って答えると、問うた彼女は一度頷き言葉を続けた。

 

「レオーネ達が掘ったトンネルが開通した後、いよいよボリックの暗殺ミッションを開始とする。皆、情報収集の際はくれぐれも無理をしないように」

 

「そりゃそうだな。無理をするとオレみたいになるし、あだ」

 

 答えたものの軽く頭を小突かれた。隣を見やるとチェルシーがムッとした顔をしていた。どうやら今言った言葉が気に食わなかったようだ。

 

 それに軽く笑みを浮かべながら答えていると、向かいに座っているラバックがジト目を送ってきた。

 

「ラバ。このあとの展開は大体想像できるから言っとくけどもう変なやり取りしないからな」

 

「だったら俺の前でチェルシーちゃんとイチャつくのをやめろよ! なんだ今の!? 彼女にムッとされて苦笑いで返すとかなんか羨ましい!!」

 

「あー、そうかい。そらーわるーござんしたー」

 

 語尾を延ばしながら答えるとラバックはまだ「ぐぬぬ……」と呻っていたが、リヒトは特に反応する気もない。

 

 しかしリヒトとて彼女がいないラバックの前でやりすぎたといえばやりすぎている。ある時は「はい、あ~ん」を目の前でやってみたり、またある時はチェルシーがリヒトの名を呼んで「呼んでみただけー」もやった。他にも上げるとすればいってらっしゃいのキスぐらいか。

 

 これらは全てリヒトが望んでやったことではない。どちらかと言うとチェルシーがやってきたことなのでリヒトも断れば良いのだが、チェルシーがそれを許さないのだ。断ろうとすれば涙目になるので彼氏としては彼女に泣かれるのは忍びない。それらが結果としてラバックの精神を抉っているということだ。

 

 するとリヒトを睨んでいたラバックを制するように、ナジェンダが少し大きめの咳払いをした。ラバックもそれを聞いて引っ込んだ。

 

「リヒトとチェルシーがイチャつくのは一向に構わんが、あまりハメを外しすぎないように。ラバックがイライラするのも分からんことはないがな」

 

「常時ポワポワした甘ったるい空気を醸し出されたらたまったもんじゃないわよねぇ。その辺はアタシも同意するわ」

 

 マインが若干うんざりしたように言うが、そこでチェルシーの瞳が光った。

 

「あれー? マインもしかしてうらやましいの~?」

 

「ハァ!? 誰が羨ましいって言ったのよ! アタシはただあんた等のいちゃつき具合が迷惑だって言ってんのよ。場所を選ばずイチャイチャイチャイチャ……緊張感がないわ!」

 

 肩で息をしながら声を荒げる彼女の顔は僅かに朱に染まっていた。恐らく本気で怒っているのではないだろう。しかし、そんな彼女を嗜めるようにスサノオが落ち着いた声で言う。

 

「そう言うなマイン。常時緊張していては精神が磨り減ってしまう。二人のようにゆるい感じにいるのも手だぞ。それに二人は情報収集の時はしっかりやっているだろう?」

 

「そ、それはそうだけど……」

 

「やーいやーい、言われてやんのー」

 

「うっさいわね、チェルシー!」

 

 マインは猫が毛を逆立たせて威嚇するように身体を構えたが、チェルシーはいつもの悪戯っぽい笑みを見せている。

 

 二人の様子に皆やれやれと首を振っていたが、空気はそれなりに明るくなった。

 

 その後二人が落ち着いたのを見計らって朝食を取り、チェルシーとマインが情報収集のために出て行った。

 

 

 

 

 

 

 教会にある中庭にてイェーガーズのメンバー、セリューは相棒ヘカトンケイル……コロに収納してある武装『十王の裁き』の整備をしていた。

 

 いつもは休憩時間に子供たちと遊んでいるこの中庭も、彼女が広げる武器によって異様な空気を放っている。すると、そんな彼女の背後に同じくイェーガーズのメンバーであるウェイブが現れた。

 

「おはようございます、ウェイブくん。なにか用ですか?」

 

「少しな。……セリュー、隊長から聞いた話しなんだけどよ。ナイトレイドの中にいるリヒトってヤツ。お前の幼馴染なんだってな」

 

「……そうですよ。でもそれがどうかしましたか? 幼馴染だって彼はもう悪に染まってしまったんです。悪を断罪するのが私の役目なんだから、それがたとえ顔見知りでも遂行するだけですよ」

 

 笑って言ってのけるセリューだが、それを見たウェイブは悔しさと悲しさが入り混じったような表情をしていた。

 

「お前はそれでいいのかよ」

 

「当たり前です。それにあっちも私を殺す気でいるでしょう。まぁ悪は正義に勝てませんけど。それだけですか、ウェイブくん」

 

「……ああ。でも、最後に言わせてくれ。無理はするなよ?」

 

「わかってます」

 

 答えたのを確認したのかウェイブは教会の方に戻っていったが、残されたセリューは武装を磨きながら抜けるような青空を見上げた。澄み渡った青空は見ているだけで心を現れるようだったが、それに介入するように輝く白銀の髪と、煌めく黄金の瞳の青年の姿がチラつく。

 

 幼きころにほんの少しであったが共に過ごした青年リヒト。しかし、当時の彼はもういないのだ。今いるのは帝国に仇なす凶賊、ナイトレイドのリヒトだ。だからこそ殺さなければならない。否、殺すのだ。

 

「正義は必ず勝つ。どんなヤツが相手でも私は負けない」

 

 義手が軋むほど拳を握り締めた彼女だが、その目尻からは小さな涙が零れる。しかし彼女はそれに気が付かない。その涙が何の涙であったのかすら。

 

 

 

 セリューと少し話しをしたウェイブは頭をガリガリを掻いていた。

 

「あー、くそ。やっぱ俺こういうの向いてねぇかなぁ」

 

 そういう彼の瞳には後悔の念が見える。原因はさっきのセリューとのやり取りだ。

 

 確かに彼女の言うことも分かるには分かる。悪事を働いた人間は罰さないといけないし、ナイトレイドは帝国の要人も殺している。彼等が死刑になるのは免れないことだと思うのだが、どうにも落ち着かないのだ。

 

 言ってはなんだがナイトレイドや革命軍のように今の帝国に、反旗を翻す気持ちも分からなくはない。自分の目で見てきたことだから分かるのだ。今帝都がどれだけ酷い状況にあるのかが。

 

 しかしウェイブはそこで頭を振る。

 

「いやいや、ダメだ。しっかりしろ俺。ナイトレイドはスタイリッシュやボルスさんを殺してクロメを殺しかけたんだぞ」

 

「どしたの?」

 

「どわぁ!?」

 

 言い聞かせるようにして呟いたところで背後から急に声をかけられた。振り向くと首に包帯を巻いたクロメがお菓子を食べながら立っている。

 

「な、なんだクロメかよ。脅かすなって」

 

「別に脅かす気はないよ。ウェイブの注意力が散漫なだけだって」

 

「そうかな……。まぁいいや、それよりもクロメ、傷の具合は?」

 

「まだ少し痛むけど最初よりは平気だよ。ありがとね、ウェイブ」

 

「仲間の心配するのは当たり前だろ」

 

 笑みを浮かべながら答えるとクロメも微笑を浮かべながら言ってきた。

 

「じゃあさっきセリューと話してたのも心配してあげてたんだ」

 

「……見てたのか。まぁそうだな、アイツちょっと無理してる感じがしたし」

 

「なるほどね。でも確かセリューが殺したい相手って……」

 

「ああ。幼馴染らしい。そういえばクロメ、お前リヒトってヤツと闘ったんだろ? どんなヤツだった。強いのか?」

 

 首をかしげながら聞いてみると、クロメは俯いて口元に手を当てて考え込んだ。そしてしばらく考えた後静かに頷いた。

 

「強いよ。実力的にはナタラを越えるだろうし。お姉ちゃんと良い勝負かも。何と言っても面倒くさいのがリヒトが持ってる帝具、ヨルムンガンド。空間を自由に使った立体機動は正直厄介だったしね」

 

「セリューの勝率はどれくらいだと思う」

 

「一人だけなら負けちゃうかもしれないけど、コロがいるし大丈夫だと思うよ。断定は出来ないけどね」

 

 彼女の言葉は決して過大評価ではないのだろう。それはクロメの瞳が語っていることだった。ウェイブもそれに難しい顔をしつつも一度頷くと中庭を見やった。

 

 そこには朝食を終えた子供たちと戯れるセリューの姿がある。

 

「それじゃあ私はそろそろ行くね。ウェイブも気をつけて」

 

 クロメはそれだけ言うと教会の廊下を歩いていったが、彼女の首に巻かれている包帯を見てウェイブは拳を握り締める。

 

 同時に脳裏にロマリーの街へ瀕死の状態で戻ってきたクロメの姿がフラッシュバックした。あの時は自分の不甲斐無さを酷く悔いたものだ。そしてロマリーを出るときに彼女が言っていた『処理される』という言葉。

 

 暗殺部隊の人間はその性質上情報漏洩を防ぐために使えなくなったら帝都で処分、ようは殺されてしまうらしい。無論ウェイブとてそんなことはさせたくない。エスデスに取り合えばそれなりに便宜を図ってくれるだろうが、高望みはできない。

 

 あの時は完治すれば力も戻るといっていた彼女だが、今の様子を見てもまだ完全回復はしていないのだろう。

 

 ウェイブは眉間に皺を寄せると小さく息をついて首元のマフラーを直す。

 

「……クロメに無理させないためにも俺が働かねぇとな……!!」

 

 

 

 

 

 

 キョロクの商店街を歩くマインとチェルシーは変装をして歩いていた。マインは髪をボサボサにして刺々しい服を着込んでいる。チェルシーはというとガイアファンデーションを使用してまったくの別人に変装してる。

 

「アンタの帝具ってこういう情報収集とかで便利よね」

 

 マインが言うとチェルシーはふふんと言った表情で笑みを浮かべる。

 

「まぁね。でも皆みたいに直接戦闘ではあんまり力を発揮できないから残念だけどね」

 

「アンタの場合リヒトと一緒にいられないってのが残念なんでしょ?」

 

「あ、やっぱりわかる? いやぁ一度付き合っちゃうとどんどん好きになっちゃんだよねぇ。マインも誰かと付き合ってみれば分かると思うよ?」

 

 笑みを浮かべるチェルシーの頬は僅かに赤く染まっており、照れ交じりに言っているのがわかった。

 

「冗談でしょ。アンタまで安寧道の教主様と同じようなこと言わないでよ」

 

「マイン、教主と会ったの?」

 

「ええ。ホラ、皆が羅刹四鬼と戦ってた時あるじゃない。あの時タツミと一緒に町外れに居たんだけど、ちょっとした口論になってね。そしたら教主様が出てきて『喧嘩はやめてください』って言ったのよ。そしたらなんかアタシとタツミが赤い糸で結ばれてるとか何とかいってたわ」

 

「へぇ。だったらタツミと付き合えばいいんじゃない? 教主って不思議な力を持ってるって噂だし、もしかしたら本当かもしれないよ」

 

 チェルシーがいうもののマインは小さく肩を竦めた。

 

「冗談。確かに最近のアイツはそれなりに頼もしくなってきたけどまだまだよ」

 

「ふぅん。その割にはタツミがレオーネに胸押し当てられたりしてるところチラチラ見てるよね。本当は気になってるんじゃないのー?」

 

「そ、そんなことないってば! ただタツミが変な事しないか見張ってるだけ! そんなことよりもさっさと情報収集するわよ」

 

 やや小走り気味にマインは先を行った。そんな彼女の背中を見やりながらチェルシーは大き目の溜息をつく。

 

「そう言うのが気になってるって言うと思うんだけどね」

 

 やれやれと呆れつつもマインの後を追った。

 

 

 

 

 

 夕刻。

 

 今度はリヒトとタツミが街中を偵察および、情報収集することとなった。因みにリヒトの変装は、ナジェンダの予備の眼帯に、服屋で適用に見繕った黒のボロボロのコート。そして口元ではタバコをふかしている状態だ。

 

 タツミはというとサングラスで目元を隠し、フードを深めに被り、髪をオールバックにしている。なんだか逆に目立ちそうな格好の二人だが、どちらも割りと似合っていた。

 

「リヒトってタバコ吸えたんだな」

 

「これは吸ってるんじゃねぇ咥えてるだけだ。煙だって大して吸っちゃいないさ」

 

「苦手なのか?」

 

「吸おうと思えば吸えるけど匂いが気になるだけさ」

 

 質問に対して咥えていたタバコを指に挟んで答えると、タツミも納得がいったのか小さく頷いた。

 

 そのまましばらく無言で歩いていた二人だが、ふとリヒトがタツミに問うた。

 

「そういやタツミ、お前マインと赤い糸で結ばれてるんだって?」

 

「な、なんでそのことを?」

 

「いや、さっき出がけにチェルシーから聞いてさ。安寧道の教主に言われたんだってな」

 

 半目がちに聞いてみるとタツミはなんともいえない表情を浮かべながら言った。

 

「ああ。なんか急にカップルになればいい的なことを言われたんだ。ありえないよな、俺とマインだぜ?」

 

「ありえないって断言しちまうのはどうかと思うぜ。それにホラ、教主は不思議な力があるって言われてるじゃねぇか。だから言ってることはあながち嘘じゃないかもな」

 

 言ってみるとタツミは「そうかもしれないけどさぁ……」と眉間に皺を寄せながら悩んだ様子を見せる。

 

 安寧道の教主は圧倒的なカリスマ性を持ち、信者の名前と死んだ時の死因さえ記憶している。性格も温厚であり信者からの信頼は絶対的なものだ。そんな彼だからこそ安寧道という宗教をここまで成長させることが出来たのだろうが、彼には不思議な能力が備わっている。

 

 それは予知夢や人々の傷を癒せるというものらしい。詳しいことは分からないが、教団の協力者の話では帝具などの類ではなく、本当に彼本人の力なのだという。

 

 そのような力を持っている者がタツミとマインの未来を予知したのだとすれば、恐らくそれは間違っては居ないのではないだろうか。

 

 ……なんやかんやで良い感じのコンビではあるよな。まぁナイトレイドの中でさらにアベックが増えたらラバの精神に異常をきたすだろうなぁ。

 

 嘆息しつつその時のラバックの反応を予想するとなんとも分かりやすい。恐らくリヒトとタツミはかなりジト目を送られることだろう。

 

「意外とマインから来るかもしれないから待ってみればいいんじゃね?」

 

「マインの方から来るとは思えないんだけどなぁ」

 

「だから意外とって言ってんだろ」

 

 リヒトは小さく笑いながらタバコを咥えて歩き始めた。

 

 タツミも悩みながらも着いて来たので、二人は再び巡回を再開した。

 

 

 

 安寧道の聖堂近くにある塔の上で羅刹四鬼の最後の一人、袴姿の女性、スズカは街を見下ろしていた。

 

 羅刹四鬼は卓越した戦闘能力を持っているが、それと同じように所謂裏の人間の気配がよく分かるのだ。それだけ数々の場面を見、そして聞いてきたからこそできる芸当だ。

 

 それはスズカも例外ではなく、彼女の視線の先で二人の人物が目に止まった。

 

 一人は目深に被ったフードとサングラスをかけた少年。そしてもう一人は黒の眼帯に加えタバコの銀髪の青年だ。どちらも一般人からすれば多少怖い人と言った出で立ちだが、スズカにはよく分かった。彼等の歩き方、そして目配せの方法など常人のそれではないことが。

 

「どっちも上手い感じに隠せてるけど、やっぱりわかっちゃうんだよねぇ」

 

 ニタリと笑みを浮かべた彼女は、中庭で子供たちとボール遊びをしているセリューを呼び、彼女と共に彼等の尾行をすることにした。

 

 

 

 

 

 リヒトとタツミはキョロクの外れにある遺跡近くにやってきた。既に日は暮れており空を見上げれば輝く星と、深い藍色を思わせる夜空が広がっていた。

 

「やれやれ、変装も楽じゃないな」

 

「でも地下でトンネル掘ってるスーさんや姐さんと比べたら楽な方だろ」

 

 上着を脱ぐタツミが答えるとリヒトも眼帯を外し、咥えていたタバコを地面に放って靴底でグシグシと火を消した。

 

 とりあえず変装を解いた二人は緊張をほぐす様に肩をまわしたり、首を回したりしていたが、ふとリヒトがタツミに問うた。

 

「タツミ」

 

「ん?」

 

「死んだヤツの夢って見るか?」

 

「……」

 

 その問に対してタツミは少しの間黙ったものの、やがて静かに頷いた。

 

「ああ。最近見たのは兄貴の夢だったかな。もっと前に遡ればサヨとイエヤスの夢も見た。でもそれがどうかしたのか?」

 

「オレも最近見たからな。オレだけかと思ったけど、やっぱりお前も見たか」

 

「因みにだけどさ、リヒトは誰の夢を見たんだ?」

 

「お前と似たり寄ったりだよ。ブラートの夢だったり殺された幼馴染の夢さ」

 

 肩を竦めて言うリヒトは笑みを浮かべていたが、瞳の色はどこか悲しげだった。

 

「死んでいったやつらのためにがんばらないといけないのは分かってるんだが、どうにもナーバスになっちまう時があるんだよな」

 

「それは皆そうだろ。むしろナーバスにならないほうがおかしいって」

 

「……変わったな、タツミ。ナイトレイドに入ったときよりも強くなった。肉体的にも、もちろん精神的にも」

 

「いろいろと学ばせてもらったからなぁ。兄貴にはもちろんだけど、兄貴が死んだ後のリヒトとの訓練は大変だった……」

 

 遠い目をして言うタツミだがそれも無理はない。何せマーグ高地での鍛錬の際にリヒトと行った修行が相当ヤバイものだったからだ。

 

 鍛錬の内容を単純に言ってしまえば危険種狩り。だが問題はその数だ。リヒトは危険種を呼び寄せる体質なので、彼がマーグ高地の森の中を歩くだけで四方八方から危険種がやってくるのだ。

 

 タツミはそれの真っ只中に居て彼と共にかなりの数の危険種を倒した。

 

「あー、アレはオレもつかれたなぁ。五十殺した辺りから数えんのやめたし」

 

「危険種寄せ体質とか不便この上ないだろ」

 

「そんなことはないぜ。この前はこの体質のおかげでチェルシーを助けられたしな」

 

「へぇ。どんな風にやったんだ?」

 

「オレに寄せられてきた危険種をクロメに丸投げした」

 

「……さいですか」

 

 タツミは呆れたような可笑しい様な表情を浮かべて笑い、リヒトも微笑を浮かべた。

 

 ひとしきり休憩した後、二人はアジトに戻るために腰をあげる。

 

「それじゃ帰ろうぜ。そろそろボスとアカメも巡回が終わるだろうし」

 

「ああ――」

 

 リヒトがそう答えたとき、彼の背筋に悪寒が走る。弾かれるようにそちらを見たとき、彼の双眸には遺跡の上に佇む異形の影が見えた。

 

 影の双肩には四角い装備品、腰にも何かついているようだ。右腕には巨大な砲身が装備され、その傍らには小さな犬のような影も見える。

 

 けれどリヒトにはそんな装備よりもその装備を背負っている影が誰なのかはっきりとわかった。赤茶色の頭髪に深緑色の服。見紛うはずがない。そこにはかつての幼馴染、そして現在の敵である少女、セリュー・ユビキタスが居た。

 

 彼女を確認したのも束の間。セリューの装備から爆煙と炎が吹き上がり、装備から弾丸のような物が発射された。リヒトも回避行動を取ろうとしたが、そんな彼の腰を誰かが持って走り始めた。

 

 視線を向けるとそこにはインクルシオを装備したタツミがリヒトを担いで運んでいるところだった。

 

「ありがとよ、タツミ。でも無理に運ばなくたって大丈夫だぜ?」

 

「インクルシオを装備してるから走る速度とすれば俺の方が速いし、リヒトのヨルムンガンドで空中へ上がっても結構きついだろ。だから今は俺が運ぶぜ」

 

「そうかい。それじゃあここでゆっくりと――」

 

 言いかけたとき背後から数発の弾丸が炎を吹き上げながらやって来た。リヒトはそれに反応しヨルムンガンドを伸ばすとそれらを全て叩き落す。

 

 火炎の中を駆け抜け、轟音と熱波にさらされながらもタツミはリヒトを担いだまま崖を駆け上がった。攻撃はやんだ様で今は爆発の残響と、岩が崩れる音が聞こえる程度だ。

 

「さっきのセリュー・ユビキタスだよな」

 

「見えたか。まぁあんな砲撃してくるヤツはアイツ以外ありえねぇしな。けど妙だな、変装的にはばれた様子はなかったし、街にアイツの姿もなかった。だとすれば……」

 

 懐から双眼鏡を取り出して周囲を確認すると、案の定、この場から離れる袴姿の女の姿が目に入った。格好からして羅刹四鬼の最後だろう。

 

「もう一人発見。タツミ、お前はアッチを殺せ。セリューはオレが殺す」

 

「ま、待てよリヒト! 相手はセリューだけじゃないんだぞ!? ヘカトンケイルって言う生物帝具もいる。そんなヤツと真正面からやったらいくらリヒトでも……!」

 

「心配すんな。一対複数なんて慣れてる。それにどちらかって言うと今はあの羅刹四鬼の最後を殺したほうが良い。アイツ等の観察眼は脅威だ。なにせ完全にキョロクに溶け込んだ密偵とラバを襲ったんだからな。奴等は鼻が効く、裏世界の人間ってヤツが分かるんだろう」

 

 両腕にヨルムンガンドを展開し、片手剣を抜き放った彼からは背筋が凍りつくのではないかというほどの威圧感と、殺気を感じた。

 

 タツミはリヒトに対して何か言いたげにしていたが、拳をきつく握り締めた。

 

「……わかった。ここはお前に任せるよ。でも、無理はすんなよ」

 

「わーってるよ。あぁそうだ、羅刹四鬼の最後を倒してもこっちには来るなよ」

 

「なっ!?」

 

「干渉、手助け、一切無用って言ってんだよ。アイツとのケジメはオレがつけなくちゃならねぇからな。だから行け、タツミ!」

 

 言われたタツミはリヒトの覚悟を汲み取ったのか小さく頷いて羅刹四鬼を追っていった。彼が行った事に僅かに笑ったリヒトは崖下にいる少女を見据える。

 

 土煙の間から見える彼女の顔には残虐な笑みがあり、かつての可愛らしさは見えない。

 

 すると、次の瞬間リヒトは思わず顔をしかめた。

 

 なんとコロがセリューの身体に噛み付いたのだ。けれど、血が見えないところからして何か別の意味があるのだろうと考えた。

 

 見事にそれは的中し、コロの口から出てきたセリューには傷一つあらず、先ほどの装備品もすべてなくなっていた。その代わりの言うように、彼女の右手に巨大な砲弾のようなものが装備されているではないか。

 

 ……なるほど。ああやってヘカトンケイルの中にしまってるわけか。つーか、ヘカトンケイルの体内はどうなってんだよ。

 

 若干呆れつつもリヒトが身構えると、セリューが右腕をこちらに向けてきた。

 

「一人で残ったのは失策だったなリヒト! 例えお前とて、一人で私達に勝てるわけがない!!」

 

 その声と同時に砲弾が発射される。けれどリヒトは焦らずに崖から飛び降りると、砲弾に足を乗せて一気に駆け出した。

 

「何!?」

 

「おせぇんだよ、ボケが」

 

 驚きの声に答えるようにリヒトは砲弾を蹴って空中に躍り出ると、短剣を加えさせたヨルムンガンドを投擲。それと同時に背後で爆炎と轟音が響く。どうやら先ほどの砲弾が崖にぶち当たって爆発したらしい。

 

 けれどそんなことは些細なことだ。見ると、セリューもヨルムンガンドの一撃を避けている。

 

「コロ!」

 

「キュアアア!!」

 

 セリューの声に反応したコロが可愛らしい声をあげるが、その姿は一気に巨大な影へと変貌し、凶悪な顔が覗く。

 

「テメェはこれでも喰らっとけ!」

 

 もう一方のヨルムンガンドを投擲し、コロの腹部辺りに突き刺す。

 

「バカめ! その程度の攻撃でコロは止まらない!!」

 

「……どうだろうな」

 

 余裕綽々と言った表情のセリューにリヒトが小さく言うと、彼女は訝しげにこちらを睨む。すると、ヨルムンガンドを引き抜かれたコロの胸の辺りが大きく膨らみ、次の瞬間には腹部が破裂した。

 

「なんだと!?」

 

「ただぶち込むだけじゃ意味がないのは重々承知だ。だから爆弾を置いてきたんだよ」

 

 ニッと笑みを浮かべて地上に降り立つと、それに続くようにしてコロが落ちてきた。それなりのダメージだったらしく、まだ動けはしないようだ。

 

 最初に投擲したヨルムンガンドを回収してリヒトはセリューを睨みつける。セリューもまたリヒトを睨むが、口元には狂気の笑みが見えた。

 

「随分とうれしそうじゃねぇか。セリュー。そんなにオレに会いたかったのかな?」

 

「ああ、会いたかったとも。悪に染まった貴様を断罪できるこのときを待ったぞ」

 

「そいつぁご苦労なこって。でも良いのかよ。こういう場合は持ち場を離れるのには上司の許可が必要なはずだぜ。警備隊で学ばなかったか?」

 

「隊長にはスズカさんが報告しに言ってくれている。じきにここにも到着する。まぁ隊長がここに来るころには貴様はコロのおやつだろうがな」

 

「おぉこわ。そんじゃあ、そうならないためにお前を殺すとしますかね」

 

「ほざけ。殺されるのはお前だ、リヒト。絶対正義の名においてここで貴様を完膚なきまでに断罪する!」

 

 人差し指を向けて言う彼女だが、その瞳は酷く歪んで見えた。そして彼女の言葉をあざ笑うかのようにリヒトは肩を竦める。

 

「正義ねぇ……。お前の行動に正義なんてありゃしないと思うけどなぁ」

 

「なに?」

 

「あぁいいや、これだと語弊があるか。お前の行動じゃなくて、お前が妄信してやまないオーガやスタイリッシュ、そして今の帝国に正義なんてありゃしねぇんだよ」

 

「貴様、オーガ隊長とドクターを愚弄することは許さんぞ!!」

 

「別に許してくれなくて結構だ。第一、お前もマヌケだよな。アレだけあの二人の近くにいてオーガの蛮行に気が付けず、スタイリッシュの実験体にされていることにも気付かないなんてな」

 

 大仰に手を広げながら言うリヒトの顔には笑みがあった。所謂冷笑という冷たくて人を小馬鹿にするような笑みだ。

 

「まぁそういうことも考えればお前はある種の被害者と言っても良い。だからここで罪を認めれば楽に殺してやる」

 

「罪? 罪だと? 戯言も程ほどにしろリヒト。罪を認めるのはお前達だ! 帝国の風紀を乱し、数々の殺人を犯した貴様等のほうこそ罪を認めろ!!」

 

「……あぁそうかい。じゃあもう好きにしろ。だがこれだけは言わせて貰う、テメェの行動は正義じゃない。悪だ。無論オレのやっていることだって正義じゃなくて悪の部類に入るだろうさ」

 

 そういいきるが、セリューは肩を震わせて笑う。そしてそれと同時に彼女の右腕に再生が完了したコロが噛み付いた。

 

「言いたいことを済ませてスッキリしたか? だが、その戯言を言うのもここまでだ! 貴様はここで殺す!!」

 

 彼女は憤怒と憎悪の瞳でこちらを見据えた。そして傍らのコロもまたリヒトを凶悪な顔で睨んでくる。

 

 けれどリヒトはいたって冷静に一人と一匹を、光りの灯っていない絶対零度の瞳で見た。

 

「……もうこの道しかねぇよな。わるい、ルーク」

 

 

 

 

 

 

 

 幼き頃、ひょんなことから出会った彼等。少しの間の交流であったが、彼等の間には確かに友情があった。

 

 だがいまや二人の間にあるのは友情ではなく敵意、憎悪、憤怒、哀憐……。そこにかつての笑顔はない。

 

 狂気と腐敗によって捻じ曲げられた二人の戦闘が始まった。




お待たせしました。
最近次元覇王流の練習をしたり、積んでしまったガ○プラの制作ばかりに手をまわしていたものでして……。

はい、まぁ私のどーでもいい話は置いておいて、いよいよVSセリューです。
もはや最後のほうで色々決裂してる感は否めませんが、次回で終わると思われます。
果たしてセリューはどうなってしまうのでしょうねぇ。アカメらしく終わるのか、それともアカメらしくなく終わるのか……。
二十七話までしばしおまちくださいませませ。

では、感想などありましたらよろしくお願いいたします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。