白銀の復讐者   作:炎狼

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第四話

 軍に入隊した翌日から訓練と言う名の選別が始まった。この中で使えると判断されたものは帝都近郊に残されるが、使えないと判断されれば即異民族との戦争のための補充要因として向かわせられる。

 

 リヒトからすれば何処に向かうことになろうがどうでも良いのだが。

 

「……レベル低いな」

 

 呟きを漏らすが誰にも聞こえてはいないだろう。現在、彼の目の前では新兵同士の模擬戦が行われている。

 

 模擬戦は数ブロックごとのトーナメント形式となっており、最終的に勝ち残ったものだけが帝都近郊に配置されると言うことだ。

 

 また、それは将軍級の人物達にも見られているようであり、周囲からの視線が痛いほどだった。

 

「まぁ殆どは地方からの出稼ぎ連中だから仕方ないっていえば仕方ないのか」

 

「なにぼそぼそ言ってんだよリヒト。次お前の番だぞ」

 

 横から声をかけてきたのは昨日友人になったラウルだ。彼はリングの上を指差しており、確かにそこにはリヒトの対戦相手がいた。

 

「ヤベ」

 

「ぼーっとしてんなよ」

 

「ああ、さんきゅな」

 

 軽く礼だけ言うと、リヒトは軽い身のこなしでリングへと上がる。対戦相手を見ると、相手は二メートルは超えているかと思うほどの巨体だった。

 

 筋肉もしっかりついていたからかなり鍛えているのはわかったが、あまり戦闘慣れしているようには思えなかった。

 

「おいおい、こんなガキが俺の相手かよぉ! 殺しちまうかもしれねぇぜ!?」

 

 大男の言葉に周囲の新兵達が笑うものの、リヒトはまったく臆した様子も見せずに肩を竦めた。

 

 するとそれが癪に障ったのか彼は苛立った様子でずいっと顔を近づけてきた。

 

「おうおう、今呆れてなかったか? なんだ? 俺じゃあ相手にならないってかぁ?」

 

「別にそんなこといってねぇだろ。つーか顔近づけんな口が臭え」

 

 瞬間、大男は額に血管を浮き出させて拳を振り上げて強烈な拳打を放つ。しかし、危険種と比べれば鈍重極まるその動きにリヒトが反応できないわけがない。

 

 さらりとそれ避けると踵で思い切り男の足を踏みつける。その際コキッという小気味良い音が聞こえたが、まぁ問題はないだろう。

 

 男はそれがそうとうの激痛だったのか、少しうめいたが、すぐにリヒトを睨んで殴りかかってくる。

 

 例によってそれをいとも簡単に避けてみせると、そのまま相手の懐に滑り込み、男の顎に向かって逆立ちするように強烈な蹴りを放つ。

 

「ご……あ……」

 

 そんなうめき声を上げてそのまま仰向けに倒れこむ。恐らく脳が揺れたことによる軽い脳震盪だろう。足の指の骨は折れただろうが。

 

 そのまま何事もなかったようにリヒトはリングから降りる。

 

「ハァ……ホント、レベルひきぃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなリヒト達新兵の模擬戦を高みにある席から見下ろしていた一人の女がいた。

 

 蒼銀とも言うのか、そんな色の髪をストレートのロングにし、頬杖をついている女だが、そんな彼女に話しかけてくる巨漢の男がいた。オネスト大臣だ。

 

「どうですかな、今回の新兵達は。エスデス将軍」

 

「どいつもこいつもつまらん素材だ。模擬戦もいっそのこと殺し合いにしてほしいものだ」

 

「それをしだすと戦争へ派遣する人員が不足してしまいますからな。まぁ帝都周辺はあの中の優秀な連中を選びますよ」

 

 大きな腹を揺らしながら大臣が笑う。彼の手には生肉が大量に入ったつぼが握られており、話の最中でもパクパクと肉を喰らっていた。

 

 しかし、エスデスはそれを気にした風もない。

 

「それで、貴女のお眼鏡にかなった新兵はおりましたか?」

 

「そうだな……あぁ、いたいた。アイツは将来有望だと思うぞ。動きが他の新兵とは段違いだ。それにまだ本気を出していない節もある」

 

 エスデスが指差した先には白銀の髪をした少年がおり、彼は隣にいる同年代くらいの少年と軽く談笑していた。

 

「ほぉ……パッと見はただの優男と言う風に見えますが?」

 

「確かに大臣が言うことも尤もだ。しかし、ヤツはいい逸材だ。実におもしろいし、私のペットにしてやりたいくらいだ」

 

 ニィっと笑みを浮かべるエスデスだが、大臣はそれに微妙な顔をする。

 

「ふむ……模擬戦が一通り終わったら私のところに呼び出してみるか」

 

「まぁそれもよろしいですが、ほどほどに頼みますよ?」

 

「手加減できればな。というか、大臣が人の心配をするなど珍しいな」

 

「別にあの新兵が死のうがどうでもよいのですが、力があると言うのなら国のために役立てたいと思いましてな」

 

 ムッシャムッシャと肉を食いながら言う大臣の顔は残虐極まりなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夕刻、選抜のトーナメントが終了し見事勝ち残ったリヒトはトーナメントが終了した後上官に呼び出されてある場所へ向かっていた。

 

「オレなんかしたっけか?」

 

「黙っていろ、それと私は貴様の上官だ。上官には敬語を使え」

 

「へーい」

 

 適当に返事をしておきながらリヒトは無言のまま上官の後に続く。

 

 そして宮殿の内にある将軍級の人物がいるフロアにたどり着き、一つの扉の前で上官が扉をノックした。

 

「エスデス将軍。例の新兵を連れてきました」

 

『入れ』

 

 ほぼ即答で帰ってきた言葉に、上官は「失礼します」と頭を下げながら扉を開けてリヒトに入るように促した。

 

 それに肩をすくめつつリヒトが中に入ると、上官は室内には入らずにそのまま扉を閉めた。

 

 チラッと一瞥した後視線を正面に向けると、いきなり顔面に向かって剣が迫ってきた。

 

「ッ!」

 

 迫る剣先をブリッジするように避けきるが、今度は刃の部分が振り下ろされて自分を真っ二つにせんとする。

 

 しかし、あくまで冷静に判断すると自身の身体に刃が触れる前に両手で挟み取る。

 

「フッ!!」

 

 一呼吸の後に挟み取った剣を支点として身体を捻ると、剣の持ち主に蹴りを放つ。しかし、剣の持ち主は軽くそれを避ける。

 

 そればかりか持っていた剣を離した相手は、ヒールのブーツで強烈な蹴りを放ってきた。

 

 ヒールを履いているという事は相手は女だろう。しかし、油断できる相手ではなさそうだ。

 

 瞬間的に腕甲で蹴りを防ぐが、空中であったためリヒトは大きく後方に飛ばされる。

 

 けれど後方の壁に激突する瞬間、空中で身体を反転させ壁を蹴り、勢いをそのままに相手に肉薄する。

 

 その際に女性の全貌をやっと見ることが出来た。蒼銀と言い表すのが妥当の髪を膝裏近くまで伸ばしており、頭には白の帽子。着衣も白を基調とした上着と、タイトスカート。そして靴は膝上まであるヒールブーツだった。また、所々には黒の配色もされている。

 

「いきなり襲ってこられる覚えはねぇんだけど!!」

 

 言いながら腰に差している剣を抜いて相手に斬りかかる。相手の女性は剣を構えてそれを受け止める。

 

「ほう、なかなか力が強いな」

 

「そりゃどーも!」

 

 面白げな声に答えながらも、二人の間には剣による鍔迫り合いの影響で火花が散る。

 

「ふむ。やはり新兵にしてはかなりの力量だ。トーナメントなど退屈だったのではないか?」

 

「ああ、退屈だったよ! でも今はそんなことより、なんで殺されかけてんのかわからねぇ! オレなんかやったっけかぁ!?」

 

「クク、将軍である私に敬語無しとは……より一層お前に興味がわいたよ」

 

 すると彼女は剣を退いて鞘に収める。同時に殺気も収められた為リヒトも鞘に剣を戻す。

 

「確かお前は、リヒトと言ったか?」

 

「ああ。そーいうアンタは……将軍で女ってなると……エスデス将軍か?」

 

「正解だ。よろしくな、リヒト」

 

 エスデスが手を出してきたので、内心ため息をつきつつ握手をする。

 

 ……確かコイツは、南西のバン族一万人をもう一人の女将軍のナジェンダ将軍と制圧したんだっけか。

 

 父に教えてもらった話を思い出す。

 

「あれ、でもナジェンダ将軍は見てない気がするけど」

 

「アイツは帝国を離反した。革命軍に加わったんだ、一年ほど前だったかな」

 

 ソファに腰を下ろしながら言う彼女の言葉を聞いてもリヒトはあまり驚かずにとうた。

 

「ナジェンダ将軍はどうなったんだ?」

 

「ん? 右目と右手を潰した。まぁアイツは中々しぶとい。死んではいないだろう」

 

 笑みを浮かべるエスデスだが、その笑みは酷く冷たく残忍だった。

 

 するとエスデスはリヒトを見やって座るように促す。

 

「で、オレを呼び出した理由ってなんだよ。まさかこうやって戦うために呼び出したのか?」

 

「まぁお前とこうして戦いあうのもそうだが……」

 

 ……否定しねぇのかよ。

 

「実際は、お前を私の部隊にスカウトしたいと思ってな」

 

「スカウト?」

 

 問い返すと、エスデスは薄く笑みを浮かべながら頷く。

 

「お前の力量は新兵どころではない。普通に見ればすぐにでも隊長クラス、もっと言ってしまえば将軍にもなれると私は思っている」

 

「そいつぁどーも」

 

「それだけの力を持つお前を私は手に入れたい。理由などそれだけだ。ただ気に入ったから手に入れる、他に理由が必要か?」

 

「アンタの考えに別に首はつっこまねぇけど、その話は断らせてもらう」

 

 リヒトはそれだけ言うと立ち上がり、ツカツカと扉の方まで向かっていく。すると、背筋に冷たい氷で出来た刃がギリギリの状態でつきつけられた。

 

 ……これは。

 

「帝具か……」

 

「そうだ、始皇帝が作り出した四十八の超兵器。そのうちの一つ、私のものはデモンズエキスと言う」

 

「その様子からして氷を操るってのが妥当か。しかも完全に何もないところからも発生させてるな」

 

「ああ。いいかリヒト、さっき言ったスカウトというのは正確には誤りだ。アレは命令だ。私はほしいものは絶対に手に入れる主義でな、今回はお前が目に留まったというわけだ。だから私の軍門に下れ」

 

 瞬間、背後から押し潰されるのではないかと言うほどの濃密な殺気がのしかかって来た。僅かながら汗を流しつつも、小さく深呼吸をした後リヒトは振り返って言い放つ。

 

「オレにはオレのやりたいことがある。けど、あんたの下で働いてたらそれは一生かなわない。だからアンタの軍には入らない!」

 

 毅然と言い放つと、そのまま踵を返して扉を乱暴に閉めて部屋を後にした。

 

 廊下をズンズン歩きながら後ろを警戒するが、どうにも追っては来ないようだ。

 

「まったく……ホント、メンドクセェ」

 

 頭をガリガリを掻きながらリヒトは寮へと戻った。

 

 

 

 

 リヒトが去った室内でエスデスは展開した氷をかき消したあと、机の椅子に背を預けて大きく息をついた。

 

「ふむ……この私に対してあそこまで言い切るとは、かなりの度胸だな。それに一瞬向けた私への殺気……素晴しい」

 

 自分に対して真っ直ぐに意見を言ってのけたリヒトの姿を思い出しながらエスデスは楽しげに笑みを浮かべる。

 

「ますますお前に興味が湧いたよ、リヒト」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の朝にはそれぞれが配属される部隊が決まり、リヒトは帝都近郊の危険種を狩る部隊への配属が決まった。

 

 エスデスが無理やりにでも介入してくるかと思っていたが、そんな事はなかったようだった。

 

 そしてリヒトは寮においていた荷物を纏めた後、配属された部隊へ向かう。

 

「ようリヒト。お前は危険種狩りだって?」

 

 声がしたほうを見やると、ラウルが鎧を纏ってこちらに片手を上げていた。

 

「ああ、帝都周辺に現れる危険種を討伐して都民を守るんだってよ。詰め所は外にあるらしいから、今日でこの寮ともお別れだ。まぁ二日しか居なかったけどな、お前は?」

 

「俺は異民族の討伐だってよ。まったく、帝都で働こうと思ってたってぇのにいきなり辺境送りとわな」

 

 ラウルはあまり乗り気ではないように見える。まぁそれもそうだろう、いきなり戦場に送り込まれるというのに嬉々として向かうやつなどいない。

 

「そうぼやくなよ。辺境だって言ったって将軍クラスもたくさん居る。そうそう死ぬことにはならねぇよ」

 

「無責任に言ってくれるなよお前。こっちだって不安なんだぜ? せめて慰めてくれるとかないのか?」

 

「男に慰められて嬉しいか?」

 

「いや、それはねぇな」

 

 自分で言ったくせにかぶりを振るとはなんとも失礼なヤツである。

 

「まぁがんばれよ。危険度的に言えばオレだってかわらねぇ。互いに死なねぇようにしようぜ」

 

「ああ、そうだな。いつまで気にしててもしょうがねぇし、腹ぁくくるか! じゃあ行くわ、お前もがんばれよリヒト」

 

「おう、お前もな」

 

 二人は軽く拳を打ち合わせて、ラウルや馬車へ、リヒトは帝都外にある詰め所へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 詰め所は帝都から出て西へ三キロの地点にあった。詰め所の様相は簡単に言えばそれなりに広い屋敷というのが妥当だろう。ご丁寧に門まである。

 

 時刻は既に昼を過ぎている。けれども時間指定はなかったので特に気にする事はないだろう。

 

 リヒトは用意された馬から下りて門を開くと、玄関の扉まで真っ直ぐに向かう。

 

「すんませーん、今日から配属されたリヒトってもんですがー」

 

 硬い扉をゴンゴンと乱暴にノックすると、中から黒髪に所々白髪が入り混じった壮年の男性が出てきた。鎧のしたからでもわかる隆起した筋肉は、凄まじいものがあり、顔もどちらかと言うと強面だ。

 

 外見的には怖そうなイメージのある男性だったが、すぐに彼は小さく笑みを浮かべた。

 

「お前さんがそうか。話は通ってる、俺はここの部隊長をやってるユルゲンスだ。よろしくな」

 

「俺はリヒトだ……じゃねぇや、です。よろしくお願いします」

 

「ハハ、なんだ敬語は苦手か? まぁ俺はそのあたりはきにしねぇから好きに呼びな。さて、立ち話もなんだから中はいれ」

 

「ウス」

 

 ユルゲンスに促されてリヒトが中に入ると、そのまま応接室のようなところにとうされた。

 

「他の人とか何処行ってんだ?」

 

「敬語使わなくなるのはえーなおい! ……まぁいいや、今の時間はみんなパトロールに出ちまってる。あと十分もしたら戻ってくるさ。そしたらまた正式にみんなの前で自己紹介がある。なに言うか準備はしとけよ」

 

「へーい。つーか、ここって何人ぐらいでやってんだ?」

 

「そうだな、オレとお前を合わせて……十人だな。まぁ危険種自体が大挙として押し寄せることなんざありゃしねぇから、少なくても平気なんだ」

 

 人のよさげな笑みを見せるユルゲンスにリヒトも頷きながら納得すると、室内を見回した。

 

 詰め所などと聞いていたからもっと埃っぽいのかと思っていたが、そうでもない。というよりはよく掃除が行き届いている。

 

「わりと綺麗になってるだろ?」

 

「ああ、掃除とかしてんだな」

 

「してるって言うよりは、させられてるんだけどな」

 

「?」

 

 ユルゲンスが微妙な顔をして言うのをリヒトが首をかしげて見ていると、玄関の扉が開けられて数人の人物が入ってくる足音が聞こえた。

 

「たいちょー、ただいま戻りましたー」

 

 最初に顔を出したのは紅色の髪の少女だった。年齢的にはリヒトよりも二、三歳年上といったところだろうか。彼女は髪を右でサイドアップにしていた。

 

 すると、それに続いて別の少女が入ってくる。

 

「レン、応接室なんだから誰か居るかもしれないでしょー」

 

 続いて入ってきたのはレンと呼ばれた少女と瓜二つの容姿の少女だった。外見的差異というと胸のふくらみと、サイドアップが右左で逆になっているということか。

 

 それに引き続いて六人ほどの男性兵士も入ってくる。

 

「お、来たなお前達。紹介するぞ、今日から配属になったリヒトだ。まだ若いが、話に聞くところだとかなりの実力を持っているそうだ。みんな仲良くしてやってくれ。

 ホレ、お前も挨拶しろ」

 

 ユルゲンスに言われ立ち上がると、リヒトは皆に向かって自己紹介を始める。

 

「新兵のリヒトだ。今日からここでみんなの世話になることになった。よろしく」

 

 敬語ではなかったが、最後にしっかりと頭を下げた。

 

「まぁこのとおり少しばかり礼儀がなっちゃいないが、よろしく頼むぞお前達」




はい、今回はアレですね。リヒトとエスデスが合いましたが……まぁもう将軍にはなっているでしょう。はい。

最後に所属させた部隊は完全にただの妄想ですのであしからず。
帝都近郊に現れる危険種は駆逐されるって言ってたので、多分こういう部隊があってもおかしくはないかと。
リヒトは基本敬語なんて使いません。失礼とか言っちゃダメ。

次回は部隊にはいってからのお話をやって……ダークな部分まで出せるかなぁ……。

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