茫然自失となったリヒトはフラフラとした足取りのまま自宅の自室へと戻った。部屋に戻る途中で両親に声をかけられたような気がした。けれどたとえ声をかけられていたとしても、今の彼に答えるだけの気力はなかった。
ベッドの上に座り込み、陰鬱としながら俯く。ふと、目から熱い物が流れ、床を濡らす。
涙だ。
どうやら広場では衝撃のあまり出てこなかった涙が今になって出てきたらしい。同時に、親友を失った悲しみ、自分が彼の変化に気付くことができなかった不甲斐無さと悔しさ、そして彼を死に追い遣った者達に対する怒りが心の奥底からあふれ出してきた。
……オレは……どうしようもねぇバカヤローだ。アイツとはガキのころからずっと一緒にいたのに……ルークが悩んでいたのに気付いていながら。
思い返してみれば彼を救う機会はいくらでもあったはずだった。だと言うのに自分はルークがいつか話してくれるだろうという甘い考えのまま放っておいてしまった。
それが今回の惨劇の原因であると言ってもいいだろう。
「……くそ……!!」
ブチッ! と掌から皮が裂けた様な音がした。そして拳からは血が流れ始めた。けれどそんな痛さなどこれっぽっちも気にならなかった。ルークが受けた痛みはこんなものではないのだから。
すると、自室のドアが軽くノックされ、クレイルが入ってきた。
「大丈夫か、リヒト」
「……なんとか」
かすれた声で答えると、クレイルは懐から手紙を出して手渡してきた。
「これは?」
「ポストに入っていた。……お前宛にルークからだ」
瞬間、弾かれるようにクレイルから手紙を引っ手繰ると、乱暴に手紙の封を開ける。
文面は謝罪から始まっている。
『リヒト、ごめんね。多分これを君が読んでいる時、僕はもうこの世にいないかもしれない。だから、僕が半年をかけて調べ上げたこと全てをここに記しておくよ。
僕が使えていた政務官、ターヘインは世間的に見ると良識派として通っている。でも彼は皆の眼が届かないところで、罪を犯していたんだ。その罪は、地方出身者の主に美麗な女性ばかりを人身売買で買い取り、薬漬けにして自分を奉仕させるための性奴隷として仕立て上げることをしていた。これは地方出身者に限らず、都民も何名か誘拐していたようだった。
さらに彼は誘拐してきた女性達を自分の作品として、富裕層や権力層の貴族に対しても売って利益を得ていた。この他にも帝都警備隊を懐柔しての殺人、麻薬の売買、賄賂……並べればキリがないほどの悪行をターヘインは行っていた。
リヒト、僕は彼を直接問い詰めるつもりだ。それで僕は殺されるかもしれない。けれど、僕が死んだとしても決して君のせいなんかじゃない。これは僕が判断して僕が行ったことだ。もし君や君の両親のところに警備隊の人間が来ても知らぬ存ぜぬを通して欲しい。僕の勝手な行動で君を危険な目に合わせてしまって本当に悪いと思ってる。本当にごめん。そして――さようなら。』
別れの言葉で手紙は締めくくられていた。それをリヒトの横で見ていたクレイルも目頭を押さえて泣いていた。
「バカヤロウ……なんでお前が謝ってんだよ……!! 謝るのはオレの方だろッ!!」
思わず叫んでいた。同時に、堰を切ったように涙が溢れ始める。
「どうして……どうして……!! ちくしょぉ……!!」
その場に膝を着いて、手紙を破れるのではないかと言うほど強く握り締めた。
しばらくその場に蹲り、悲しみの涙を流していたが、リヒトは大きく息をつくと流した涙を乱雑に拭って立ち上がる。
その双眸には明確な怒りと憎悪、殺意が渦巻いていた。
「……殺してやる……。ルークとアイツの母親を殺した奴等全員皆殺しにして地獄に叩き落してやる……!!」
歯がきしむような音が聞こえたが、そんな事はどうでもよかった。そのまま自室から出て行こうとするが、そんな彼をクレイルがとめる。
「待て、リヒト」
「止めるなよ父さん。オレは、奴等を殺す」
「俺もお前の気持ちは痛いほどわかる。だからお前がターヘインたちを殺そうと思うのは良くわかる。でもそれでいいのか? お前とルークの夢は国を内側から変えることだったんじゃないのか」
「……ああ、そうだよ。でも……そんな甘っちょろいことを考えていたがために、ルークは殺されたんだ……!! こんなことが許されていいのか!?」
リヒトの瞳は怒りと悲しみに満ちていた。するとクレイルもそれが見るに耐えなかったのか、小さくため息をついて小さく告げた。
「わかった……お前の道はお前の道だからな。俺が口出しすることじゃない。だが、襲撃するのなら今はやめろ、目立ちすぎる」
「夜まで待てってことか?」
「ああ。だがな、リヒト。これだけは覚悟しろ。人を一人殺した時点でそこからは修羅の道だ。今でこそ俺は隠居生活を送ってはいるが、いずれ相応の報いがあると思っている。お前にその覚悟があるか?」
父の言葉は今まで聞いた以上に重かった。けれど、自分の考えは既に固まっている。
「ある。人殺しがいいこととはいえない。でも、この国には法で裁けない悪が多すぎる。だから……俺が裁く。この手で」
グッと拳を握り締めて覚悟を露にすると、クレイルは小さく頷いて告げた。
「……どうやら覚悟は本物のようだな。だったらもう止めはしない、しかし、襲撃は夜だ」
「わかってる。あと父さん、襲撃には父さんはついてこなくてもいい。父さんは母さんと一緒に田舎の村にでも逃げてくれ。オレがやったってバレれば二人が狙われる。だから頼む」
懇願に対し、クレイルは難しい表情をするが、すぐに頷いた。同時にクレイルは両肩に手を乗せてきて「絶対に死ぬな」と念を押してきた。
彼はそのまま部屋から出て行ったが、リヒトにはまだやることがあった。
家から出て、帝都から出たリヒトは真っ直ぐに己が所属している部隊の詰め所へ駆け込んだ。何事かと皆が驚いているのがわかったが、それを無視してユルゲンスの元へ向かう。
部隊長室ではユルゲンスが書類を纏めていた。彼は少し驚いた顔をしてリヒトに問うてきた。
「どうした血相変えて、なんか忘れ物でもしたか?」
「……隊長、アンタに頼みがある」
「どうした畏まって。帝都で何かあったのか?」
薄く笑みを漏らしながら言ってくるユルゲンスだが、リヒトは非常に冷淡に言い放つ。
「ルークが、国家反逆罪として殺された。その背後にはターヘインっていう政務官が関わってる」
その告白にユルゲンスは声が出なかったようだ。しかし、すぐに目を細めると考え込む。けれどリヒトはそんな彼に向かって続けて告げる。
「隊長、無理とは思うが……オレを任務中に死亡したことに出来ねぇか?」
「任務中に死亡だぁ? お前何言って……。まさかっ!」
ユルゲンスはリヒトがやろうとしていることに気が付いたのか、かぶりを振った。
「やめろリヒト、お前……ターヘインを殺しに行くんだろう?」
「ああ。奴に報いを受けさせてやる」
「お前の夢は内側からこの国を変えることじゃなかったのか? 今お前がしようとしている事はそれにはかなり程遠いことだぞ」
「確かに、軍に入る前や入って今回の事件が起きるまではそう思っていたさ。けどな隊長、その考えは甘かった……この国はもう取り返しのつかないところまで腐ってる」
ぶるぶると腕を怒りで震わせながら言うリヒトの双眸は、怒りの炎が揺らめいており、ユルゲンスでさえ一瞬たじろいでしまうほどだった。
「この国を変えるのに、内側から変えるなんてあまっちょろいことを考えたこと自体が間違っていたんだ。この国を変えるためには、悪の根源である大臣を殺す以外手はない。だからオレは……ルークの仇をとったあと、その足で革命軍に加わるつもりだ」
「……」
リヒトの目尻には涙が浮かんでいた。するとユルゲンスは眉間に濃く皺を寄せたあと、机の引き出しを開けて一枚の紙を取り出した。
紙には既になにか書き込まれており、リヒトがそれを覗き込むと紙の一番上の題目にはこう書かれていた。
『殉職者報告書』と。
彼はそのまま出した紙にリヒトの名を書き込んでいく。
「隊長……」
「今日で〝帝国軍〟のお前はここで死ぬ。そして、今からお前は〝革命軍〟のお前だ。なぁに言いやしねぇよ。それにウチの隊の相手は危険種だからな。運悪く仲間を守って時に死亡したとでも書いて置くさ。そうだ、一応甲冑は置いて行け、調べられた時に血のついたものとかがあると便利だからな」
彼に言われたとおり、剣を残して甲冑を全て外すとリヒトは深く頭を下げて礼を言う。
「……一年間、ありがとうございました。ユルゲンス隊長」
「敬語なんてやめろ。お前に敬語使われると気持ち悪くてしょうがねぇ。行け、皆には俺から言っておく」
リヒトは頭を上げると、敬礼をして踵を返しそのまま部屋の扉近くまで行くとドアノブに手をかける。
「死ぬなよ」
「……ああ」
振り返らず、短く答え、リヒトはそのまま詰め所から飛び出して馬に乗って帝都を目指す。
復讐を遂げるために。
夜になった。
日はとっぷりと暮れ、月明かりのみが照らす中、リヒトはターヘイン邸の近場の路地に身を隠していた。
上着のフードをすっぽりと被り、顔が見えないようにする。同時に装備をもう一度確認した。
投擲用の小型ナイフが十本と脱出用の煙幕。そして、愛用の片手剣。
……よし、準備は整った。父さんや母さんは安全なところまで逃げられたかな……。
青白い光りを放つ月をぼんやりと見上げながら、夕方に帝都から馬車で逃げた両親のことを思い出す。
恐らく、この復讐が失敗しようと成功しようともう会える事はないだろう。いや、会ってはいけないのだ。会ったら両親に危害が及びすぎるから。
「……こっからはオレの戦いだ」
言うと、リヒトは立ち上がってから、瞳を閉じて大きく深呼吸をした。
これから人を何人も殺すと言うのに頭は異常なほどクリアだった。恐怖は多少成りあるものの、気にかけている暇ではない。
そしてリヒトが次に瞳を開けた時、彼の双眸には冷酷な光りが灯っていた。
闇に紛れながらリヒトは門の前にいる兵士達を睨みつけ、投げナイフを二本投擲。
空気を切りながら真っ直ぐに兵士たちの首元に向かっていったナイフは見事命中。兵士達は声も上げられぬままその命の灯火を消した。
門番を殺し、がら空きになった門に近づくと一応門番達の装備である銃を手に取り、拝借。返す予定はないが。
門自体は大きかったが、あまり大きな音はしなかった。そのまま、スルリと身体を滑らすように邸宅の庭に立ち入ると、近場の茂みに身を隠す。
ターヘインの邸宅は庭が多少の林が出来るぐらいには広かった。けれど、建造物自体は一つなので彼がいるのはそこしかないだろう。また、庭には十人程度の兵士が見回りとして配置されている。
すると門の異変に気が付いたらしい兵士の一人が門のほうへ向かう。
息を潜め、兵士に手が届くまでじっと待つ。そして、彼が死んでいる門番を見つけて仲間を呼ぼうとした瞬間、リヒトは茂みから躍り出て兵士の口を塞ぎ、片手剣で兵士の喉笛を裂く。
鮮血が舞い、あたりを血の海に変える。けれどそんなことを悠長に見てもいられない。他の兵士が気が付く前に兵士を茂みに押し込んでからターヘインの邸宅へと足を運ぶ。
二十分も経たない内にリヒトはターヘインの邸宅の壁際にたどり着いた。
……ここに来る間に兵士は全員始末した。
「……ハハ、十人殺したってのに対してなんにもおもわねぇとは……殺人の素質でもあったかね……」
そんなことを呟きながらリヒトは一階にまだ明かりが灯っている部屋を見つけた。部屋の窓際にまで近寄ると、部屋の中を少しだけ見やる。
中には高級そうな椅子に座った細身の男性と、そんな彼の前に座る筋肉質で頭を丸刈りにし、口元に大きな傷のある大男がいた。
大男の方は警備隊の装備をしていた。
『ハッハッハ、いやはや今回は誠にありがとうございます。ジンサツ殿』
『なに、金がもらえれば問題はねぇ。それにしてもあんなひ弱な小僧一人、オレではなくとも良かったんじゃないのか?』
『いえいえ。ジンサツ殿であれば証拠も残さず抹殺してくれると評判でしたのでな。ところで……あの若造の家から押収したブツは?』
『ここにある。だがあの小僧中々の情報収集能力だったぜターヘインさんよ。あんたがやってきたことが全て調べ上げられている』
『まったく目障りな若造でした。下町出身で政務官を目指し、私に教えをこうてきて仕方なく受けてやったらその恩をこのような形で返すのですからな。
本当にゴミはゴミでしかないですなぁ。多少使えるからそばに置いてやっただけだと言うのに』
『良識派で通ってるアンタがそんなこと言っていいのか?』
『おっと、危ない危ない』
ジンサツとターヘインは互いに下卑た笑いを漏らす。
それを外から聞いていたリヒトは殺意と憎悪ではらわたが煮えくり返りそうになるのを覚えた。
しかし、強すぎる殺意を向ければ確実に感づかれる。だから耐えた、殺意を出さないように身体を丸めて耐え抜いた。しかし、心の中では怨嗟の言葉を吐き続ける。
……殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すッ!!
「……殺しつくしてやる……!!」
声を押し留めながら怒りに震える。
すると、室内に動きがあった。どうやらジンサツが出て行くようだ。好機とリヒトは邸宅の玄関に先回りし、物陰に身を隠す。
しばらく待っていると、ジンサツは二人の部下を引き連れて邸宅から出てきた。
遠目から見ても窓の外から見てもわかることだったが、ジンサツはどちらかと言うと強い部類に入る人種だろう。しかし、それは一般人から見ればの話だ。
……特級危険種と比べりゃ赤ん坊も同然だ……。
思いつつ、リヒトは最後の投げナイフ二本を投擲。
ナイフはジンサツの部下二人の首筋に突き刺さり、彼等はうめいた後その場にドウッと倒れこむ。
「なっ!?」
ジンサツは突然部下が倒れたことに驚いた様子だったが、リヒトはそんな彼にゆっくりと歩み寄る。
するとジンサツもその気配に気が付いたのか、振り向いてこちらを睨んできた。けれど、そんなことでは臆さない。
「無罪の人間を殺して得た金はさぞ気持ちがいいんだろうな。テメェみたいな悪人にとっては」
「なんだと? テメェ……どこでそんなことを聞いた?」
「何処だっていいだろ。これから死ぬテメェには関係のねぇことだ」
言い切ると同時にリヒトは一瞬にしてジンサツの懐に潜り込み、彼が剣をつかむ前に右腕を切り飛ばした。
「ぎっ……ああああああぁぁぁぁぁ!? 俺の腕が……ッ!!」
「腕ぐらいでなんだ。オレの親友は足も失っていた……テメェに拷問されてなぁッ!!」
続けてリヒトはジンサツの右足を切り刻む。痛みで声も出なくなったのか、彼は水から出された魚のように口をパクパクとさせる。
だが、何とか声を絞り出し、リヒトに対し助けをこうてきた。
「た、頼む……俺にできることなら何でもしてやる! だ、だから命だけは……命だけは……ッ!!」
「お前はそういう風に助けを求めてきた無罪の人々を何人殺してきた? 何人を金のための食い物にしてきた? 何人をいたぶって殺した?」
「ッ!」
「だが今のこの国じゃテメェのような屑野郎は裁く事ができない……だから、オレが裁く!! 報いを受けろ、ジンサツ!!」
憎悪の眼でにらみつけたと同時に、リヒトは片手剣を振りかぶってジンサツを脳天から切り裂いた。
一気に股まで切り裂くと、ジンサツだった肉塊はドチャッという水音を立ててその場に倒れ付す。
リヒトはそれに軽蔑の眼差しを向けた後、もう一人の標的であるターヘインを始末しに邸宅へ向かおうとした。
だが、ちょうどそこで騒ぎを見に来たであろうターヘインが窓からこちらをのぞいているのが見えた。
間髪いれずにリヒトはその部屋に向かって駆け、窓を突き破って室内に侵入する。
「ひぃッ!?」
すぐ近くでターヘインの悲鳴が聞こえた。どうやら腰が抜けて動けないでいるようだ。しかしそんな事は関係ない。
「ターヘインだな」
「そ、そうだ。貴様、何が目的だ!? 金か? それならホラ、ここにあ――」
懐から金をだしてリヒトに見せてきたところで彼の腕は虚空を舞った。
「――ぐおおおおおッ!? 私のうで、腕がなくな――」
「黙れ」
酷く冷たい声で言い放つと、ターヘインの肩口を踏みつけて床に叩きつける。
「貴様にオレが望むこと……? そんなのテメェの命に決まってるだろ。オレの親友を殺したんだ……いや、アイツだけじゃないはずだ。もっと多くの人間をテメェは闇に葬ってきた。地獄に落ちろッ、この外道野郎!!!!」
言い切ると同時にターヘインの心臓に深々と片手剣を突き立てる。彼は一瞬苦しげな動きをしたが、すぐに動かなくなった。
片手剣を抜き取り、血を振り払うとリヒトは屋敷の一階をくまなく捜索する。その中で書斎と思しき部屋を見つけた。
しかし僅かながら異臭がする。独特の甘く鼻につく匂いだ。以前、リヒトはこれと同じ匂いをクレイルとの鍛錬の中で嗅いだことがあった。確か麻薬草の一種で精神的快楽と媚薬効果を誘発する麻薬だったか。
同時に、何度か使用していると中毒性が増し最終的には廃人同然となってしまうと言う恐ろしい薬だ。
「この部屋からするってことはこの何処かに地下室への扉が……ん?」
本棚のあたりを捜索していたリヒトはふと、一つの本棚が他とは少しだけずれて並べられていることに気が付いた。
とりあえず、一度本を出そうとしたが、本に手を書けた瞬間、それがまったく別のもので作られた偽物の本だと言うことがわかった。
「ってことは……この奥に……」
いいつつ、本棚をずって引き出すと案の定地下へと通じる階段と、奥には扉があった。扉は硬く施錠がされていたが、手持ちの片手剣でそれを破壊すると扉を開ける。
同時にむせ返るような甘い匂いが立ちこめ、思わず鼻と口を塞ぐ。中には十数名ほどの女性の姿があり、皆薄い服を羽織っている状態だった。
その光景にターヘインへの怒りを再燃させながらも、麻薬が焚かれている火鉢を引っ掴んで階段を駆け上がってから外に放り捨てる。
全ての窓を全開にしてから地下室に戻ると、数名の女性が頭を押さえながら被りを振っていた。
「大丈夫か?」
「え、えぇ……貴方は?」
「オレの事はどうでもいい。そんなことよりもアンタ動けるか?」
「な、なんとか……でもどうやってここに? ターヘインは?」
いまだ気分が悪そうにしていた女性だったが、心配そうにとうてきた。リヒトはそれに小さく笑みを浮かべると安心させるように告げる。
「大丈夫だ。アイツは死んだ、オレが殺した」
「本当に?」
「ああ。それよりも今はここから出よう。何人ぐらい動ける?」
「私とあと三人ぐらいは昨日ここに入れられたばかりだから、動けると思うわ」
「そうか、それじゃあ外に荷物用の馬車があったからそれに皆を乗せるの手伝ってくれ」
その言葉に女性が頷き、二人は室内にいた女性達と協力して動けない者達を馬車へ乗せ、警備が手薄になっている夜のうちに帝都から脱した。
翌日、良識派で通っていたターヘインが殺されたとして帝都は大騒ぎになったらしいが、その時既にリヒトは帝都からはるか南へ逃げおおせていた。
女性達を途中の村で下ろし、リヒトは馬に乗ってある場所を目指していた。
革命軍のアジトだ。
クレイルからの情報によると、革命軍の本拠地は帝都からはるか南に言ったところにあるらしい。けれど、明確な位置までは把握できていない。
「この辺である事は変わりはないんだが……」
馬上で周囲を見回してもそれらしいものはない。まぁそれも当たり前と言えば当たり前だろう。帝国に反旗を翻していると言うのに、簡単に見つかるところにあっては意味がない。
しかし、既に太陽は傾き空はオレンジ色と群青色が見事なコントラストを描き、星まで見えている。
「仕方ねぇ、とりあえずは今日はここで野宿だな」
言うとリヒトは馬と共に近場の川原まで行き、火を起こし始める。
マッチなどはないが、野営の心得は父に耳が痛くなるほど聞かされたので簡単に火を起こすことができた。
やがて太陽は完全に沈み、世界を夜の闇が支配し始めた。途中の村で買った干し肉を咀嚼しながらリヒトは一晩で十人以上の命を奪った自身の手に視線を落とす。
初めて人を斬ったと言うのにあまり恐怖は感じず、心はまったく揺らいでいない。標的がルークの仇だったというのもあるのだろうが、それにしても自分の心はクリアだったと思い返してみる。
ある程度やわらかくなった干し肉をゴクンと嚥下し、天に浮かぶ星を眺める。
「……父さんと母さん、元気だといいけど」
そんなことを呟いた時だった。近くの茂みからガサリと音がした。馬もそれに反応して音のしたほうを見やって警戒するが、リヒトがそれを落ち着かせる。しかし、彼も腰の片手剣からは手を離さない。
十秒ほどそちらを見やっていると、まったく予想していなかったモノが出てきた。いや、モノではない。茂みから姿を現したのは人間だった、しかも女性。
銀色の髪を短めに切り揃え、黒の衣服に身を包んだ、なんともイケメンな女性が茂みから出てきたのだ。因みになぜ女性だったのかとわかったのかと言うと、胸が大きかったからである。
けれど、彼女の右目には無骨で何の飾り気もない黒い眼帯がしてあり、右腕は肩口から深い緑色の義肢になっていた。
「そこの少年、少し頼みがある」
などと女性のことを観察していると急にこちらを指差しながら声をかけられた。
「なんだよ」
若干警戒しつつ問い返すと、なんとも可愛らしい腹の虫がなり、女性は微妙な顔をしながら告げてきた。
「……食料を少し分けてくれはしないか?」
復讐完了……
まぁこんな感じでかなり駆け足で終わりにしましたが、早く原作と絡ませたかったのでw
そんなことをいってもまだしっかりと絡んでは来ないんですが……w
最後に出てきたイケメンな銀髪お姉さんはもう誰かはお分かりですよねw
実際彼女がそんな様な事を求めてくるとは思いませんが、それぐらいあってもいいじゃないって感じです。
また、私の解釈ではまだナイトレイドは活動していないと思われます。
今は本編開始の凡そ三年ほど前なので、開始となると、後半年後とかそのあたりではないかと。
そのうち主人公の帝具も登場するのでしばしお待ちを……
では、感想などありましたらよろしくお願いします。