「すまないな。目的地まであと少しだったんだが、この辺りは夜に活動する危険種が厄介なのが多くてな」
焚き火を挟んで向かい側にいる銀髪の女性は自嘲気味に笑みを浮かべると肩を竦めて見せた。
まぁ、確かに夜危険種を相手にするのは面倒なので彼女の言う事は尤もだった。
「別にいいさ、オレもこの近くに用があったからな」
「ほう? 見たところ旅というわけではなさそうだが。こんなところまで何をしにきたんだ?」
眼帯に覆われていない方の瞳でこちらを見る彼女の視線は少しだけ鋭かった。けれどリヒトは気にした様子もなく彼女を真っ直ぐ見据えた状態で告げた。
「革命軍に入るために来た。アンタ、革命軍の人間だろ?」
「なぜそう思う?」
「なんでって言われると……うーん、言っていいものか……」
「構わないさ。言ってみろ」
腕を組みながらいい悩んでいると、女性の方が小さく笑みを見せながら言ってきた。表情は先ほどと比べるとどこか柔らかい。
けれど、瞳の奥には嘘偽りを見逃さないと言う風な光りが揺らめいていた。
「……アンタ、元帝国の将軍のナジェンダだろ? エスデス将軍と並んで若くして将軍になったけど、二年位前に革命軍に加わったって聞いた。その目と義手はエスデスにやられたんだろ?」
彼女がナジェンダである事は最初現れた時から予測はついていた。一年ほど前にエスデスから教えられた情報と、今の彼女の状態が酷似していたからだ。
あの話の中で、エスデスはナジェンダの右手と右目を潰したと言っていた。そんなピンポイントで同じところに怪我をする人物などそうはいないだろう。だから、リヒトは目の前の女性がナジェンダだと予想した。
すると、ナジェンダと思われる女性は小さく笑みを見せてから、頷く。
「ああ、お前の言うとおり、私は帝国軍の元将軍だったナジェンダだよ。しかし……エスデスから聞いたと言っていたが……お前はエスデスの部下なのか?」
「あのドS女の部下ならもうとっくに革命軍は全滅してるはずだぜ? あの女と話したのは本当に少しだけ。軍に入ったばっかりの頃に目をつけられて話しただけだよ。それ以外は何もない」
間違った事は言っていない。現に、ナジェンダにもそれが通じたのか彼女は納得したように笑みを見せていた。
けれど右腕を押さえるそぶりを見せるのは、まだエスデスに潰された腕が疼くのだろう。
「ではもう一つ、なぜお前は革命軍に入りたい? こんなところまで来たんだ、相応の理由があるんだろう?」
「……まぁな。オレは、帝国の外道野郎に幼馴染を殺されたんだ。アイツはその野郎の罪を暴き出して、無実のはずなのに国家反逆罪というあらぬ罪を着せられて殺された。そしてそいつの母親もな。
そんで、昨日のうちに復讐は遂げてきた。でもあんな小者をいくら始末したって諸悪の根源である大臣を倒せなくちゃ意味がねぇ。だから打倒大臣を掲げている革命軍に入ることにしたんだ」
自然と拳には力が入り、少しだけ語気も強くなっていた。するとナジェンダは懐から煙草を取り出して焚き火から火をもらって紫煙を燻らせる。
彼女は煙草を吸っている間目を瞑っていたが、しばらくするとこちらの瞳をジッと見てきた。
「嘘は言っていないようだな」
「こんなとこまで来て嘘なんていわねぇよ。まぁ慎重になるのはわかるけどな」
「すまないな、一応警戒のためなのでな。……それにしても仇を討った、か。その仇というのは政務官のターヘインか?」
「ああ、何でわかる?」
「奴の悪行は革命軍も知るところとなっていたからな。また、奴の邸宅の警備をしていた兵士もそれを知りながら隠していた事で同罪として近いうちに殺すことになっていた。だが、今日帝都に潜伏している者から連絡があって、多少驚いていたところだ」
「驚いているようには見えないけどな。でも、あんた等の手間が省けてよかったろ?」
小さく笑みを浮かべながら言うと、ナジェンダも「まぁな」と短く答え、持っていた煙草の残りを焚き火の中にくべた。
「じゃあ、そろそろお前の名を聞かせてもらっても良いか?」
「あぁ、わるい。オレはリヒトっていう。よろしく頼むぜ」
焚き火から少しずれてナジェンダに握手を求めると、彼女もそれに答えてきた。
「ではこれからよろしくな、リヒト。アジトに戻るのは明日の明け方にしよう、今から動くのは面倒だからな」
ナジェンダの指示に頷くと、先ほど自分が座っていたところに戻る。その後、適当に話した後、二人はそれぞれ交代で眠りについた。
翌日、朝霧が立ち込める中、リヒトはナジェンダと共に革命軍の本拠地にたどり着いた。
門番らしき者達にナジェンダが軽く挨拶をすると、彼等はすんなりと通してくれた。やがて朝霧が晴れ、朝日が革命軍の本拠地を照らし始めた。
それにより朝きりに隠されていた野営用の大型のテントなどが視界に入り始めた。しばらくすると革命軍のメンバーらしき者達もぞろぞろと出てくる。
「かなりの数なんだな」
「そうだな。最初は小さなレジスタンスに過ぎなかった革命軍だが、今や帝国を脅かしつつある一大勢力だ。皆、平和のために一人一人、努力を怠っていない。帝都での密偵やそのほかの仕事もな」
「ナジェンダさーん!」
彼女がそこまで言ったところで彼女の名を呼ぶ声が聞こえた。二人がそちらを見ると、緑髪の少年が手を振りながらこちらにかけてきたところだった。
「お帰りなさい、怪我とかしてないですか?」
「ああ、問題ない。そうだ。ラバック、コイツに拠点を案内してやってくれないか? 私はこれから上に報告があるからな。お前も構わないだろう?」
「オレは別にどっちでも」
「そうか、ではラバック頼んだぞ」
ナジェンダは小さく笑みを浮かべながらその場から去っていった。
残されたリヒトとラバックと呼ばれていた少年は互いに顔を見合わせる。が、あからさまにラバックが嫌そうな顔をした。
「ちぇー、ナジェンダさんが帰ってきたからいろいろ話そうと思ってたのによー。よりによって新人のお守りとは」
「ソイツは悪いことをしちまったな、謝るぜ」
肩を竦めながら言うと、ラバック少年はパタパタと腕を振った。
「やめろって、別に謝ってほしいわけじゃないって。まぁナジェンダさんと話すのはまた後の機会として、自己紹介がまだだったな。オレはラバック、よろしくな」
「リヒトだ。こちらこそよろしく頼むぜ、先輩」
二人は互いに小さく笑みを浮かべると握手を交わす。最初は会って早々嫌な顔をされたからとっつきにくい奴かとも思ったが、そうでもなさそうだ。
「さてっと、んじゃ案内か……。寝床はあとでナジェンダさんが教えてくれるから良いとして……風呂場とか食堂あたり見ておくか?」
「ああ、頼んだ」
二人はそのまま食堂と風呂場へと向かった。
「まぁざっとこんな感じだけど覚えられたか?」
「二箇所くらいだからな。他にもあるのか?」
風呂場と食堂を見終わったリヒトとラバックは話をしていた。
「あとはそうだな、作戦会議室とかもあっけど……その辺は上層部、ナジェンダさん辺りが行くところだからオレらには関係ないと思うぜ」
「ふーん。ならいいな」
「ああ。んじゃあちょっと聞いても良いか? 何でリヒトは革命軍に入ったんだ?」
「今の帝国をぶっ壊して幸せな世界を作りたい……じゃ、理由にならねぇか?」
ラバックの問いにニヒルな笑みを浮かべながら言うと、「へぇ……」と感心したように頷いた。
「なんだよ、へぇって」
「あぁわるい、別に馬鹿にしてるわけじゃないんだ。ただ、お前からそういう言葉が飛び出してくるとは思ってなくってさ」
「これでも一応常識はあるほうだと自負してんだけどな」
肩を竦めてみると、ラバックも「まぁそれはわかるよ」と苦笑気味に言ってきた。その時、ふと彼の手に嵌められているグローブが少しだけ変わっているのに気が付いた。
そして、異様なまでの雰囲気を醸し出していることにも。
「なぁラバック、そのグローブって帝具か?」
「お、よくわかったな。帝国の古文書でも見たのか?」
「いや、なんとなくだ。雰囲気が他の武器とは違う感じだったからよ」
「雰囲気か……まぁそうだよな。コイツは実際グローブが帝具なんじゃなくて、ここに内蔵されてる糸が帝具なんだ。名前は『千変万化・クローステール』結構いろいろできんだぜ」
いいながら彼はグローブの手の甲あたる部分に取り付けられている、糸を巻き取る装置のようなものを見せてきた。
それをジッと見ていると、確かに装置の中には糸がびっしりと入っていた。絡まったりしないのだろうか。
「帝具か……革命軍にも流れてるってのは聞いてたけど、他にもいたりすんのか?」
「ああ。オレを含めると今のところ三人かな。あぁでも戦闘向きじゃない帝具を持ってるやつもいるからなぁ……でも、戦闘方面だとオレとあと二人ぐらいだよ。なんなら紹介しようか」
「大丈夫なのか?」
「おう、その辺は問題ねぇよ。んじゃ、行くか」
ラバックが踵を返したので、リヒトはそれについていく。
しばらく歩いていると、前方をゆくラバックが「お、いたいた」などと言って小走りにそちらにかけていく。
それに続いていくと前に修練場のような場所があり、そこで一人の男が槍を振るっていた。
「今暇だったりする?」
「どうかしたのかラバ?」
「新入りが入ったんで紹介しようと思ってさ。リヒト、来いよ」
「ん、ああ」
呼ばれたのでリヒトはラバック達の下へと歩み寄っていくと、リーゼントが似合うナイスガイが少し驚いたようなそぶりを見せた。
「ラバが男の新入りを案内するたぁな。こりゃ明日は雪じゃねぇのか?」
「オレだってたまにはこういうことぐらいするっての。ホラ、一応連れてきたんだから挨拶してよ」
「おう。リヒトつったか? よろしくな、オレはブラートだ」
ブラートは軽くリーゼントを整えてから言ってきた。けれどリヒトは彼の名前に覚えがあることに気が付いた。
「ブラートって百人斬りのブラートか?」
「お、オレのこと知ってるってことは帝国の元軍人だったのか」
「ああ。一昨日くらいまでな……アンタ革命軍にいたんだな」
「……まぁいろいろあってよ」
ブラートは少しだけ肩を竦めるが、その表情にはどこか悔しさが滲んでいるように見える。
人の過去はあまり探るものではないと、リヒトは話をやめてラバックを見やる。彼もその意図を感じ取ったのか小さく頷いた後に言う。
「そんじゃ次はアカメちゃんの方行ってみるか」
「アカメだったら川原でなんかやってるの見たぜ」
ブラートに言われ二人は頷くと川原のほうを目指す。
野営地をでて、その奥に広がる林を抜けたところでラバックは周囲を見回す。少しの間見回していると目的の人物を発見したようで、指し示してきた。
ラバックが指差す先には黒髪の少女と思しき影があった。けれど、それ以上に目に入るのは少女の前で燃える焚火の上で串焼きにされているエビルバードだった。
「おぉう……。なかなかインパクトがあるな」
「何言ってんだよ。……アカメちゃーん!」
驚いている脇でラバックは少女の名を呼んだ。それに気が付いたのか、アカメはくるりとこちらを向く。口にエビルバードの肉を咥えながら。
「はふぁっくは」
「いや、まず口に入ってるものとってからしゃべろうよ」
「ん、すまない。……そっちは?」
骨付き肉を片手で持ちながらアカメは小首をかしげる。
「あぁ、コイツは新入り。今日ナジェンダさんが連れてきたんだ」
「仲間か?」
「そうだよ」
ラバックが頷いてこちらを見てきたので、こちらも頷いてからアカメに声をかけようとしたが、骨付き肉が放り投げられてきた。突然のことで一瞬驚いたが、何とかそれをキャッチする。
「食え」
「お、おう」
アカメはそれだけ言うと別の肉をラバックに放った。ラバックはそれを受け取ってから「朝から濃いなー……」などと呟きながらも肉にかぶりつき、こちらに耳打ちしてきた。
「アカメちゃんは仲間にはこういう風に肉をくれたり、優しいところがあってさ。まぁ読めないところも多いと思うけど仲良くしてやってくれよ」
「ああ、わかった」
それに答えてから肉を咀嚼する。なかなかいい焼き加減で、外はパリッとなかはふんわりとした焼き加減だった。
肉をある程度食べ終え、リヒトはアカメの隣まで行って彼女に告げた。
「オレはリヒトってんだ。よろしくな、アカメ」
「ああ。よろしく、リヒト」
二人は互いに握手を交わす。
そんな二人の姿を見ていたラバックはどこか満足げだった。
夜中、リヒトは割り当てられたテントの中で仰向けになりながらため息をついた。
「……わるいな、ルーク。オレはお前との約束を破る……けど、国を変えるという目的は変わらない。そこんところは理解してくれよ」
既に死んだ者にこんなことを言っても誰も答える事はないが、親友との約束を破ったのは事実だ。自己満足かもしれないが、謝っておいて損はないのかもしれない。
そのままもう一度小さく息をつき、意識を手放す。
同時刻、ナジェンダは酒を片手に一枚の羊皮紙を眺めていた。
「初期のメンバー枠はあと一人……。ラバックにブラート、アカメは確定として誰にするべきか……」
酒の入ったグラスを置き、煙草に火をつけてから大きく一吸いしてから椅子の背もたれに寄りかかる。
紫煙を吐き出してそれが空気中に溶け込むのを眺めながらナジェンダは昨日会って、今日革命軍に正式に所属した少年、リヒトのことを思い出す。
……目指す理念は皆と同じだが……。なぜだろうな、アイツは出来る気がする。
殆ど直感だ。
けれど、たった一晩で十人余りを暗殺。それも無傷だと言うのだから実力は備わっているだろう。また、自分の右腕と右目を潰したエスデスが興味を持つと言うのも気がかりであはある。
しかし、そこでふと気が付いた。
いつの間にか羊皮紙に名前を書いてしまっていたようだ。
「ふむ……。まぁいいか」
半ば軽いノリであったが、小さくため息をつき煙草を灰皿でグシグシと消してから、グラスを一気に仰いだ。
「とりあえず、今日はもう寝るとしよう。っと、その前に歯を磨いておかねば」
我ながら小さいことを気にするとは思うが、身だしなみは大切だ。
ナジェンダはそのまま歯を磨きに行った。
彼女がいなくなり、先ほどまでナジェンダが向かい合っていた羊皮紙を見ると、それにはこう書かれていた。
『革命軍暗殺部隊・ナイトレイド
メンバー候補・ブラート、ラバック、アカメ、リヒト』
はい、とりあえずこんな感じですね。
もう独自解釈もいいところですw
とりあえず、レオーネやらマイン、シェーレはもっと後だと資料を読んで私の仲で解釈しました。おそらく一年後とか半年後あたりでしょうかね。
なんかナイトレイド入りが早すぎなような気もしますが、申し訳ありません。
では感想などありましたらよろしくお願いいたします。