皇帝庶子の冒険録   作:太正マリア

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お待たせしました。それでは、本編を、どうぞ!


オーダリア大陸・プルヴァマ編
01.王都ラバナスタ―新執政官就任式


 前バレンティア歴706年、ラバナスタ市街地東部の商店地区。その南端に位置するミゲロの道具ショップにて。

 

 「いらっしゃいませ、ミゲロの道具ショップへようこそ!」

 

 シオンは店員の仕事をしていた。

 彼は2年前、彼の母親が亡くなった後からミゲロの店を手伝っている。ラバナスタでのシオンたちの住居がミゲロの店の近くで、母親の看病を手伝ってもらったこともあった。その恩返しもかねて、ハンターをやりながら店の手伝いをしているのだ。

 最初はちょっとした雑事だけだったが、戦争によって人手が足りなくなった今は、こうした店番から、果ては外商までやり、場合によってはダルマスカ砂漠まで行商隊の護衛に出ることもある。やっている仕事内容が正式な従業員以上だが、シオン本人はあくまでも手伝いであることにこだわり、実際労働の対価としてもらっている額はお駄賃の域を出ない程度である。

 もちろんミゲロは仕事量に見合った対価を渡そうとしたが、シオン本人が固辞し続けたために最終的に折れた。代わりによく食事に連れて行っている。

 

「あら、今日の店番はシオンなのね。やまびこ草を3つと目覚まし時計を2つちょうだい」

「ミオさんですか。承りました。どこかへ出かけるので?」 

「ええ、モブ討伐にね。他のクランメンバーとパーティーを組むのだけど、皆エスナが使えなくて」

「そうですか。それは珍しい。エスナって初級白魔法ですよ?それに、今までどうしてたんです?」

「皆腕っぷしだけ鍛えるような人で。今まではね、うちのクランには白魔導士のような感じの人が数人いたからその人たちとパーティーを組んでたのよね。それが、今回は運悪く全員出払っちゃてて」

「なるほど~。はい、やまびこ草3つと目覚まし時計2つですね。5つで合計250ギルになります――はい、ちょうどいただきました。またのご利用をお待ちしています」

「はーい、じゃあねー」

 

 常連の応対を終えてふうと息をつくシオン。とそこへ、店を空けていたミゲロが戻ってきた。今日は新ダルマスカ執政官の就任式と歓迎式典があり、ミゲロが歓迎式典の仕切り役に任命されてしまったため、忙しく駆け回っているのだ。

 

「やあシオン。お疲れさま。」

「お帰りなさい、ミゲロさん。私は平気ですよ。ミゲロさんの方がお疲れじゃないですか?今日ですよね、歓迎式典。準備も大詰めで忙しいのでは?」

「ああ、ちょうどその歓迎式典関連で問題が起きてなあ。その対処が大変で」

「おや、何があったんです?」

「砂漠の街道でひと騒動あったみたいでな、まだ運び屋が来んのだ」

「それは穏やかじゃないですね。具体的な情報があったりします?」

「ああ、どうやらこの辺では見たことない魔物が出たみたいなんだ」

「魔物?護衛は何しているんです?そういうのを排除するための護衛なのに」

「あー、彼らを責めんでやってくれ。とても強力な魔物らしくて、全滅しかけたそうだ。今トマジがモブとして討伐依頼を出してくれているよ」

「なるほど、それでは確かに彼らを責めるのは酷というやつですね。しかし、これ以上遅れるのは困るでしょう?今私が倒しに行きましょうか?」

「そうして欲しいのはやまやまなんだが、それとは別に段取り変更があってな。その調整に人手を割いたから、今こっちに回せるやつがいないんだ。だから、シオンに出て行かれると困るんだ。それに、食材についてはトマジが何とかしてくれるから、心配いらんよ」

「なるほど、じゃあ今はトマジからの連絡待ちってところですか」

「もしくはカイツが戻ってくるまでな。全く、どこに行ったんだか」

「アハハ……、ヴァンと一緒に何かやってるんじゃないですか。ヴァンも朝から見てませんし」

 

 そんな会話は、カイツが戻ってきたことで終わりを迎えた。ミゲロはカイツに一言二言小言を言うと、砂海亭へおつかいを命じた。

 シオンも店員業務に戻り、そこから数人ほどを応対する。

 そうしてカイツが店を出て行ってから数十分ほど経過したが、いまだカイツが戻ってくる気配はない。困ったミゲロは用事の途中で店に寄ったパンネロに、ヴァンを呼んでくるよう伝え、ヴァンを待つために店先に出た。

 

 しばらくして、ミゲロが戻ってきた。ヴァンに話をつけてきたようだが、何かあったのか、ブツブツとつぶやいている。気なったシオンは問いかけた。

 

「どうしました、ミゲロさん?」

「…全く…あ?ああ、シオン。いや、今ヴァンと話したらな、『オレが砂漠に行くんだな』っていうんだよ。危ないから止めたが。まあ、砂漠に行きたがるのはいつものことだが、今日は何故か自信満々でな。何か知ってるかい?ほれ、お前さんあいつに剣を教えてたじゃろ。」

「さあ?剣の持ち方振り方とちょっとした身のこなし方は教えましたけど、それは最低限のもので魔物の攻撃を完璧に避けられる避け方とかは全く教えてませんし。それにまだ一度も私との手合わせに勝ってない」

「う~ん、お前さんでも分からんとなると、もう迷宮入りじゃな。忘れよう。あ、そうだ、シオン。伝え忘れていたが今晩から、外商に行ってくれんか。帝都アルケイディスのいつものお客さんが明日朝早くに来てくれって言っていてな。頼んだよ」

「了解しました」

 

 それから数時間後、そろそろ新執政官就任式が始まるということで、ミゲロは店じまいを宣言した。

 シオンは、新執政官となるヴェインが演説で何を言うか、どんな様子か―バーフォンハイムを出た3年前から一切連絡を取っていない―を確認するために、式が行われる大通りを目指して歩いていた。

 

 会場に着き、大通りの終着点であり演説台が設置されたラバナスタ大聖堂に近い道端の階段にシオンは陣取った。

 しばらくするとヴェイン一行が現れ演説台に向かい、それを追いかけてきたヴァンとパンネロがシオンに合流した。

 

「よお、ヴァン、パンネロ。あんたらもにっくき新執政官殿の顔を見て、文句の一つでも言いに来た感じか?」

「ああ、そうさ。あいつのせいで兄さんやパンネロの家族が死んだんだから……!」

「そういうシオンさんは?」

「俺は、ヴェインの演説の内容が気になってな。何を言ってダルマスカ民の怒りを鎮めるのか、がな」

「そんなことができるか?みんな、帝国をとても憎んでいるんだぞ」

「断言しよう。今この場にいるほとんどは今日、ヴェインになびくだろう」

「な―「静粛に!!」ッ」

 

 シオンの発言に驚愕したヴァンがシオンに詰め寄ろうとしたところで、壇上の帝国兵が開式の宣言をしたため、ヴァンは追及を一度やめ、壇上を向いた。

 帝国兵が偉そうに講釈を垂れていると、おもむろにヴェインは壇上から降り、乗ってきたパレード用の小型飛空艇に移動すると開口一番にこう言い放った。

 

「ラバナスタ市民諸君。帝国を憎んでいるか、この私を憎んでいるか!」

 

 その発言に対し、ラバナスタ市民たちはヤジを飛ばす。しかしヴェインはヤジが止むのを待つと、こう続けた。

 

「私自身、諸君の憎しみを拭えるとは思っていない。私は諸君の忠誠を求めない」

 

これには、最初のヴェインの発言でヒートアップしていたラバナスタ市民もその勢いを急速に失くしていく。

 ヴェインの演説はまだ続く。

 

「亡きラミナス陛下は、国民を愛し、平和の実現に尽力した、真の名君であらせられた。陛下の大御心は今もなお諸君を見守っている。ダルマスカの平和と繁栄を願っておられる。私は諸君に一つだけ求める。陛下のご遺志を継ぎ、平和への祈りを。ようやく萌した平和の芽を、諸君の祈りで大樹に育ててほしい」

「そのためなら、私ごときいくら憎まれても構わん!私は逃げることなく憎しみを受け止め背負い、そしてダルマスカを守ろう!」

 

それらの発言は、ダルマスカ民を完全に黙らせた。そして、ダメ押しの一言が響く。

 

「これは私の、償いである」

 

 決まった、とシオンは思った。自分たちの憎しみを認め、そのままで構わないと言う。それだけで効果は抜群だが、そこからの償い発言である。ダルマスカ民は確実に溜飲を下げ、自分たちのことをよくわかっている=いい人だという評価をヴェインに下すだろうと。

 ヴェインは最後に、念を押すように「平和への祈りを」と言い、こう締めくくった。

 

「―私の望みは、ただそれだけである」

 

 そうして終わったヴェインの演説に対し、ダルマスカ民は万雷の拍手を送った。

 それを不服そうに見ているヴァンに対して、シオンは言った。

 

「な、言っただろ?ヴェインになびくってさ。にしても、相変わらずの人心掌握術だな…」

「相変わらずってシオン兄さん、ヴェインのことよく知ってるのか?」

「おい、俺は帝国生まれだぞ?アイツのことは嫌というほど聞いたよ。特に、政治が上手いってのは耳にたこができるほどにな」

「そういうことか。始まる前のやつも、知っているからの発言だったんだな」

「そういうこった。じゃ、俺は荷造りがあるから帰る」

「荷造りって、シオンさんどこかに出かけるんですか?」

「ああ、店の仕事でな、アルケイディスに行かなきゃならん。まあ、明日の昼過ぎには帰ってこれるだろう。というわけで、じゃあな。あ!ヴァン、俺がいないからって、くれぐれも、バカなことすんなよ!」

 

 そう言ってシオンは去って行った。

 そしてその晩、シオンは夜行の飛空艇で帝都アルケイディスに向かった。

 

 そのころ、ヴァンはシオンの言いつけを破って歓迎式典真っ只中の王宮に侵入していた。

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