ふふふ、おはようございます。私はドリムール、なんの因果か暗黒聖騎士とか言う過去の自分の設定を引っ張り出されて異世界転生した矮小な一般人オタク男……
ゴルドゥークと言う私が作った上位存在設定が本当に実在していて、その存在がこの世界が私に合わせて作られたと教えてくれた所でしたね。
そんなこたぁどっちでも良いんだよ生きてるなら作られたかどうかなんて関係なくて今大事なのは生きてる世界が私の黒歴史で構築されてるのがやばいんだよ構築済みマイ黒歴史デッキでソリティアされたら私は泣き崩れてしまう
……こんな気持ちでは生きていけないので森の中にあった湖で顔を洗い、新鮮な空気を肺に目一杯詰め込む。良いな、緑……
『ふぁ……よく寝たか契約者よ……』
「おはようゴルドゥーク、ふむあの混沌の獣でさえ睡眠は大事なのだな」
『お前の体に存在する以上、我の行動もお前に合わせる事になる。お前が寝れば我も寝る、それだけのことだ』
へぇーそういう事、設定した本人が言うのもなんだけどなんか普通だな、逆に親近感湧く
『お前と契約する以前は換算すれば数億年は寝ていた事になる、今更寝る必要は無いのだが、我が起きているとお前も満足に寝れぬはずだ』
「ん? なぜだ」
『我々は契約を介し表裏一体の存在、互いに互いを力の源としているのだ。片方が違う動きをすれば自ずとそれに引き込まれる』
「……ふむ、思ったより根が深そうだな」
……なんだかもう一人の人間が私の中にいるような気分だ、いやその通りなんだけど。今更になって変な気分だ、自分の体が自分以外にも使われているのは……あっ深く考えたらやばいからここで終わろう。ヤバい方向に扉開きそうになった
『でだ、契約者よ。これからどうするのだ?』
「これから、か……その前に一つ聞いておきたい」
『なんなりと』
「どこまで知っている? 我のことを」
『無論全て』
「全て、とは?」
『お前の一生』
「なら、いい……それと」
『言っておくが我にも出来んことはある。言語不自由の呪いは我々に手を貸した神由来、今の我はその呪いに干渉出来ん、せめて一人称とそれに合わせて少し変えてやれるくらいだ』
なんでそこを頑張ったんだ神様ぁ! もっと頑張る所無かったのかぁ!
「もうそれでいい、変えてくれ」
『良かろう……よし』
「これで俺の一人称と話し方が変わった訳だな、なんだ案外スッと終わるんだな」
『なんか似合わぬな、次』
「お待ちなさい、人で遊んではいけないのですよ」
『まぁ……これなら印象的か……カッカッカ!』
「お待ちになって!? これはいくらなんでも酷い仕打ちではないのですか!?」
なんでお嬢様言葉なんだよぉ〜っ! オレで良かったじゃね〜かよぉ〜!
『ふーむ、ならこっちだ』
「……なるほど、これなら多少改善することでしょう。どのみちワタクシの言葉で伝えられない不具合はありますが……」
やたら落ち着いた口調になったな……というか別に話し方ぐらい決めさせてくれてもいいのになぁ……なんでこうなった
『神から威厳は大事だと言伝されている』
「愚かなものですね」
よし、今度あの神を祀る教会あったらしょんべん引っ掛けてやろう。なにが威厳だその神様に威厳が無いわボケナス! おたんこなす! ナスの煮浸し!
『で、改めて、この先はどうするつもりだ。まさか一生を森の中で過ごすつもりはあるまいな?』
「えぇそのような事あるはずありません、ワタクシは街を探して宿を取りたい、出来るなら生活の基盤となるものを得たい所ですね」
『となれば人の集まる所をサーチしたほうが早いな、少し待て』
「有能過ぎて頼り切ってしまいそうですよ」
『我に名を与えた者には従わねばな、今の我は首輪付きの混沌の獣であるぞ。せいぜい上手く利用してみろ』
いつの間にか名付け親になってる……ゴルドゥークって本当に孤独に生きてきたんだな……いっぱい構ってやろ(親心)
『街を見つけた、そこへ転移するか?』
「頼みます」
そして転移した先は、地獄だった
各所で火の手があがり黒煙が街を包んでいた、家屋は潰れ、家より大きな四足歩行の魔物が火を吹きながら人を食っていた。
吐き気がする、だがそれが私の心からはみ出ることは無かった、この体は私ではなくドリムール、この程度では動揺しないのだろう、こうして冷静に捉えられているのもそのおかげかと思うと寒気立つ。
「イヤァァァ!!」
「お母さん! お母さんどこー!」
「うわァァァ魔物だぁぁぁ!」
「殺される……! 殺される……」
「誰か、誰かぁ! ぐぁっ!」
「なぜ、モンスターが暴れているのですか、ゴルドゥーク、どういうことですか?」
『人の反応を見つけたのは良いがモンスターに襲われたタイミングと重なったようだな、どうする? 別の街にするか?』
「このまま見殺しにすると?」
『それを決めるのはお前だ、契約者よ』
街を壊して暴れる大きな魔物と戦えと? 無茶な話だ、出来るものか……いや、出来るのか。やりたくないが、黒歴史をひっくり返して見ればこの人たちを救う方法がある。やりたくないが背に腹は代えられないしましてや人の命と私の恥は代えられない。
「戦いましょう、ワタクシにはその力があるのです」
『それでこそだ、饗宴を始めよう……あの魔物の魂は良き力となろうぞ』
私の方も心の準備を整えて……よし、黒歴史を思い出せ、今からワタクシは心身共にドリムール・フェニックス・ラボレシア・カイザーとなるのです……
「全てはワタクシの決定のみ遂行されるのです」
★★
はぁはぁ……逃げなきゃ……! 逃げなきゃ! 逃げなきゃっ!
「いやママぁぁ……! どこなの……! ママぁ……!!」
「行くよタカリ!? お母さんたちの邪魔になるっ……!」
どこで間違えたんだろう、どうすればこんな結果を引き起こさなかったんだろう、あたしの……せいなのかな……
あたしの家はこの街、シューネイを守る騎士の家系、ブルスター家。シューネイは初代ヴァステイン王も若き日に建設に関わったとされる程に古い街、それだけの歴史を守るブルスター家も同じだけの歴史を積んできた。
あたしはそのブルスターの長女、アルタン・ブルスター
父から受け継いだブルスター家の鉄壁の守りと母から受け継いだ優しい風の魔力であたしは王国最年少でヴァステイン国王より騎士勲章を賜った、自惚れではなく事実としてあたしの才能は本物だと認められた。当時はまた15と若く足りない部分もあったがそれから3年更に強さを磨きをかけ自他共に最高の騎士たち……ヴァステイン十二王剣団に招集される実力まで到れたと思っている……これは流石に自惚れかもしれない
そんなあたしの元に先日、奇妙な情報が流れてきた。街の近くにある森に古代呪法が封印された遺跡があるという情報だ、今まで聞いたことのない話だったが父いわく可能性の話としてはあり得ると言われた、歴史が古いこのシューネイには様々な曰くがあると言う、初代国王が若き日にここへ関わったのもその一つなのだろうか。
あたしも騎士として己磨きをやめ休息を取っていた時期だったので多忙な父に変わりその遺跡の調査へ赴いた、母には心配されたがあたしが不意を突かれるような事はそれこそ魔王の出現ぐらいだろうと説得して向かった
情報通りに遺跡はあり厳重に封印が施されたままだった、歴史的価値は相当の物だろうと思うが古代呪法があるならば破壊も視野に入れなければならない。
大規模な疫病や天変地異を引き起こす古代呪法は力の源が不明瞭であり、世に知られる魔法の範疇を超えたものだ。一体どんな手法を使ったのか今の人間には分からないし分かっても再現出来ないとまで言われている。故にそんな危険なものは破壊が一番の安全策だ
あたしは遺跡から古代呪法特有の呪物化したツボを見つけ、破壊した。これで全て落着、あとは遺跡を観光資源や学術研究にでも使えばいいと思っていた。その矢先……
奴は現れた
地獄の門を開いて
生命を冒涜する嘆きを挙げて
全てを飲み尽くさんとする魔物が
奴は遺跡から飛び出し街に向けて飛んでいった、まるで最初から狙っていたかのようだった。
不味い、不味すぎる、あたしは考えるより先に魔法で大地を駆け抜けて木々をなぎ倒して進んだ。だがそれでも間に合うことは出来ずあたしがついた頃には街は半分が炎の海に沈んていた
幸いにも父と母がその魔物をなんとか食い止めていると門番は言っていたので加勢しようとしたが門番はあたしを止めた
父と母は街のために死ぬ気だと、だからあたしには生き残って欲しいと。
分かる……その気持ちは、父と母の願いを無駄にしたくない。だけどあたしより強い二人なら何とかしてくれると思っている、だからあたしはあたしにできる事をする。街の人を逃がして、また幼い弟も……だけどそんな上手くいかなかった
それが今の現状につながる、魔物は父と母に追い出されるどころか街の中央に陣取っている、父と母が死んだとは思わない。だがあの二人の本気を踏み潰してこの街を蹂躙しているあの魔物が、怖い……だから弟だけは……タカリだけは……
「パパぁ! ママぁ!」
「タカリッ!」
一緒に逃げていたタカリがあたしの手を振り解いて魔物の方へ走っていく、タカリには分かるのかな、死ぬ気で戦っている事が。でもタカリは無理だ、死んでしまう近寄っただけであの地獄の瘴気に当てられて簡単に死ぬんだ!
「タカリ! タカ……っ!」
極大の魔力の高まりっ……! 魔物がこっちを向いている!? あたしを見つけたんだ、敵として脅威になるから排除するつもりだっ! ……え? 父と母は……?
次の瞬間あたしをめがけて魔物の口から家が蒸発する程に熱せられた火炎が迫る!
タカリも射線にいる! 守らなきゃ……! でもあれは防ぎ切れない! ダメだあたしもタカリも死ぬ……! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……! みんなごめんなさい……!
最後の瞬間はタカリを抱きしめた
せめて弟だけは苦しみませんように……
「混沌より零れし闇は全てを包む腕とならん」
「え……嘘……生きてる……あ、あなたは……?」
「ワタクシはドリムール、漆黒の片翼の堕天の暗黒聖騎士ドリムール・フェニックス・ラボレシア・カイザー。お見知りおきを」
あたしたちの前に立った翼の生えた黒い男性が片腕で蒸発する程の火炎を受け止めていた……
「地獄の犬……ケルベデュスと言うそうですね? そんな貴方ならワタクシの“実験台”には丁度よいでしょう」
実験台……?
「ゴルドゥーク、一度今の全力を出しても? そうですか、では」
「はぁ……悲しいことに貴方はワタクシの指先にも劣るそうです、ですのでそれに相応しい幕引きをご用意しましょう」
分からない、何を言ってるんだろう、理解できる世界じゃない……ケルベデュス……地獄の魔物の代表格……そしてそれを簡単にあしらう男……あたしは夢を観ているのかな……
「破天術の壱 獄門喰い」
あれ……おかしいな……ケルベデュスより大きな魔物が空から現れて丸呑みにした……
「美味しいですかそれ」
「中々の味付けだぞ、地獄風味が効いている。酒の肴にあと20欲しいところだな」
「食い意地張ってますね」
「獣なのでな」
分からない……なぜあの化け物を食らった化け物と平然と会話しているんだ……
あたしはもう死んでいるのか、こんなの現実で起きるはずがない、ああそうだこれは夢……もう目が覚めないとおかしいな……
「で、そちらの女性さん。大丈夫ですか?」
「え……あ……うん……」
「そちらの男児は気を失っている様です、何処かへ休ませてあげないといけませんね」
「あ……はい……」
「その前に火の始末をしておきますか、ゴルドゥーク」
「ちょうど喉が渇いていた、良い」
空から現れた化け物を食らった化け物が息を吸い込むと街を焼いていた火がほどけるように消えていった、一瞬、あまりにも一瞬、何が起きたか理解させない速さで事は進んでいった
「大体片付いた様ですね、ゴルドゥークもお疲れ様でした」
「なにも食らって呑んだだけ……働いた内にはならんだろう」
突如現れた男性が全て解決していった
不思議な人で、怖くもあり、理解できない。
でも優しいのは伝わってきた……そう思うとあたしの気持ちが緩んで……きて……
「おやすみなさい……目が覚めたら会いましょう」
ここであたしの意識は深い眠りについた。