一体どんな理由があればこの痛々しい厨二病患者に婚約を申し込むんだ……分からない……私には君の心がLookout……
なとどふざけている場合ではない、晩御飯食べ終わったらアルタンちゃんに結婚申し込まれちゃった件を前にして私はこの上なく動揺している(心だけ)
とにかく話を聞かないことには判断がつかない、色々聞いてみよう……頼むぞ俺の口
「まぁ落ち着いて、アルタンさんがワタクシを選んだ理由はお聞かせください。あと……ここでは話に適しませんね、場所を変えましょう」
と軽く誘導して街の外れ、森にほど近い静かな場所へ場所を移した、相手は騎士、つまり地位ある人なので変な噂が立っては行けないと気を使ったわけだ、この気配り出来るならモテる(モテたことは無い)
そして、改めて理由を聞いてみた
「あの……何も聞かずに結婚してください」
OK……OK……んー、ちょっと怖くなってきたな……
「とても言えない理由なのですね?」
「その……はい……恥を忍んで、貴方なら答えてくれると思いまして……今、頼れるのは貴方だけなのです」
うっ……美人にここまで信用されていると断り辛いぞ……うーん前向きに検討するべきか……
でもなんか怪しいんだよなぁ……不自然というか、なんか結婚を申し込んだ割には逃げ腰と言うか……いやいや結婚されたら泣くよ私
(ゴルドゥーク、この話どう思いますか?)
『……気に入らないなら殺してやるが?』
(ゴルドゥーク! 滅多な事を言わないでください!)
『あーあーうるさいなぁ冗句だ冗句……で、それはそれとして常識を語るならおかしな話ではないぞ、騎士と言えば貴族の端くれ、家を大きくするために力のあるものを取り込もうとするのは一つの方法だ……だが引っ掛けるのも分かる』
『お前を見てない、そう思うのだろう?』
そうだ、私を見ていないんだ、ゴルドゥークも思うならこの感覚で間違いは無さそうだな……さてどうしたものか……
可能性として考えられるのは……
①ブルスター夫妻から背中を悪い意味で押されて無理やり結婚するために来た
②ブルスターの家から抜けたいからその理由が欲しい
➂ものすごい不器用な告白なだけで心から私が好き
④結婚することで私を操りたい
あり得ると言えばあり得るラインナップだ
①が有力なんだがあの夫婦がそんな事言うかどうか……いや私を気に入って娘をって気持ちが強いのかもしれないパターン
②はある意味自立したいけど立場が許さないパターンだな、年頃だからこれもあり得る、この場合後で離婚されそうで怖い
③ないよな〜……一番うれしいパターン
④は悪女案件、悪役令嬢かな? あってほしくないパターン
だけど結婚する子は自分で選びたいし……ここはお断りする方向で行きましょう
「聞かれたくない理由があるのは理解できますが、それでこちらが納得出来るものではありません……嫌なことを言うようで心苦しいのですが……この話、無かったことに。納得出来る理由があればよろしいのですが……それもないとなれば……」
「うっ、ですが……どうしても貴方にお願いしたい、どうかこの身を貰って頂きたいのです……っ!」
『だとよ? どうする?』
ぐん、と私に詰め寄り鬼気迫る雰囲気で私に訴え掛けてくるアルタンさんは……少し涙目だった。お断りしたいのだがこうも強情にでてくるとは余程……あっ待てよ、こう創作だとありがちなパターンを見落としていたぞ。異世界だし現実だけど……聞いてみるか
「一つ、お聞きします」
「は、はい」
「婚約破棄したいお相手がいるのですか?」
「……っ!」
『ほう、閃いたな契約者よ……』
そうとなれば協力を惜しまないのが我々漆黒の片翼の堕天の暗黒聖騎士だ、嫌な結婚はしなくて結構!
「そういう事でしたらワタクシいくらでも協力いたしますよ」
「えっ……! 本当ですか!? さっきはあれ程……」
「だから言ったでしょう“納得出来る理由があれば”と。理由さえあればいくらでも手を貸しましょう」
「ありがとうございます……! ありがとうございます……!」
では張り切って準備にまいろうぞ。
★
「婚約破棄、頑張りましょうアルタンさん」
「え、えぇ……はい!」
ドリムール・フェニックス・ラボレシア・カイザー、掴み所のない魔導師で、ただならぬ気配を感じさせる人。
そんな人ならあたしを助けてくれるかもしれない、縋る気持ちで、あの時あたしはドリムール様に頼み込んだ。
あたしには小さな時から婚約している人がいる、シューネイを含む領土を治めるハーンスター伯爵の子息、グリフ・ハーンスター。
グリフは伯爵を継ぐ男なのにその立場を捨てる覚悟で騎士階級であるあたしを好きになってくれた人間、一緒に勉学に励んだ仲だった。あたしも彼のことは好きだった、あたしの事を考えてくれて身分で人を見ない姿勢が好きだった、だからあたしは彼の告白に答えて婚約したのに……その実、裏では独自の自治権を持つシューネイを潰したいだけであたしの事は道具として使うつもりだったらしい。
その事を知ったのはつい最近、昔王都に出来たツテでその事を調べてもらった信頼できる情報だ。
ちょっと良いなって思ってた男に裏切られた乙女の心をどうしてくれようか……!
そう考えたときに心にいたのはドリムール様という王子様、強く優しく果てしなく強い人……何よりイケメン、放浪生活のせいでその事を自覚してらっしゃらないですが街の女性はドリムール様に釘付けなのです
ですが残念、あのお方はあたしのモノにします、譲りません、あたしの王子様を渡すものですか!
そこで思いついた、ドリムール様という最強の王子様と結婚してグリフとハーンスター伯爵家を見返してやろう、と。
ドリムール様ならブルスター家に相応しくてあたしも愛のある生活が出来ると思ってこそ慣れない告白をしたのですが……妙に察しの良いドリムール様は本当の結婚ではなく見せつける為だけの形だけの結婚式を用意しようとトントン拍子に話が進み、父も母も有無を言わず賛同してくれました……まるでこうなる事を想定していた様でした。
あとから聞いた話だとハーンスターの真意をある程度把握していて、ドリムール様と良ければ婚姻を結ばせようとしていたとか……流石あたしの両親。
話がスムーズに進むのはいいのですがこれでは結婚式が形だけで終わってしまう、ドリムール様に本心から結婚していただくには押しが足りない……! でも恋や駆け引きをしてこなかったあたしにはそのやり方が分からない……あぁ……どうしよう
あたしはそんな悶々とした気持ちを抱えて、シューネイの大教会で結婚式の動きを確認するのでした……
「結婚式……かなり時間のかかるものですね」
「婚礼ともなればその家の力を見せつけるのが慣例ですので、本番はもっと派手になる予定です」
「それは凄い、ならここでへばってはいけませんね……あ、それは……ダメですよ」
「どうされましたか?」
「ゴルドゥークが派手にするなら本番で呼び出せと言っているのですよ、そんな事をすれば結婚式どころではありませんよね」
「ゴルドゥークと言うのはあの……」
化け物を食った化け物、今にもしっかり思い出せる……ケルベデュス以上に存在から違うもの……アレから見れば人間など地を這う虫にも劣るのだろうと、自然と考えてしまう。
そしてそれを使役するドリムール様も……本当ならここでこうしてあたしと話すお方じゃないのかもしれない……
「アルタンさん? どうされました? ボーっとしていますが?」
「あ……ゴルドゥーク様が登場した場合を考えておりました」
「碌な事にはなりませんから、そこへ出すつもりはないのでご安心を」
この日は夕暮れまで式の予行演習をして終わった。
丁度家が準備できたのでドリムール様はそちらに帰られた、あたしも家に帰った。
翌日、急な知らせが入った。シューネイにグリフが来る、それも部隊を連れて。
魔物討伐ために軍隊を率いて地方遠征していたのは知っている、その補給に立ち寄ると言うが……父から聞いた話だと南方方面の街マガリノ周辺に向かった筈、それがどうしてマガリノの東にあるシューネイへ補給に来るのか、マガリノを無視して通り過ぎている。
父も怪しんだが伯爵と騎士では立場が違いすぎるので断るわけには行かない、渋々受け入れた。
「ハーンスター家より参った、グリフ・ハーンスターだ。久しぶりだなガルガ殿」
「遠路遥々よくぞおいでくださいました、グリフ・ハーンスター次期伯爵……補給の準備は整えてございます」
「助かる、あとアルタンはどこだ? 顔を見たいのだが」
「ここに。お久しゅうございます」
「おぉ……! アルタン、以前見た時よりも磨きがかかっているな」
クリフ様も以前から変わらない様子で。そんな権威好きの男がするような派手な衣装を着て金細工のアクセサリばかり身につけている、貴族としての成り立ちが違うとこうも違うかと思い知らされる。あたしはこんなのと結婚しようとしていたのかと思うと己が情けなくなってきた
「今王都の貴族に流行っている服なのだが……どうだ? 似合っているか?」
「えぇ、とてもお似合いです」
「そうかそうか! どうだ? 久しぶりにあったのだ、話をしよう」
「こちらも話す事がありますので、是非」
「では夜に時間を空けておく、その時話そう」
そう言うとクリフは立ち去った、恐らく部隊の方へ戻ったのだろう。クリフは優秀だ、部下からも信頼される人間でもある……けれどその裏にある思いはどうなのだろうな
そしてクリフ、この怪しい動きは何が目的か白状してもらわないとな……
★
「あれはなんだ?」
『どこかの軍隊だろう……少し調べたが、魔物を討伐する遠征軍だそうだ、この地の領主が出兵したのだろう』
私は用意してもらった家でぐっすりと眠り、朝は美味い果実で腹を満たしたあと、見覚えのない人集りがあったので遠目から観察していた。
ゴルドゥークいわく魔物を討伐する遠征軍という事だが、どうやって調べてるんだそれ
『人の思考を読んでいるのだ、必要以上に見ることはないぞ』
うわこわ。
『それよりも少し不穏な気配だ、あの人間たちから先日のケルベデュスと似た魔力を感じる』
「どういうことだ?」
『ケルベデュスは地獄の門を潜らなければこちらにこれない、そして門を開くのはこちらからしか出来ん、その門を開いた者の魔力がケルベデュスに染み付いていた。その魔力と同じものをあの軍隊からも感じる』
となるとあのケルベデュスは意図的に放たれた可能性があるのか
『地獄とこの世をつなぐ門は安々と作れるものではない、少なくとも魔力量で言えばお前のつま先ぐらいある者が関わっている』
「それ評価として分かりにくいのですが?」
『あー、本気を出せば山が軽く消せる魔力を持っているということだ』
バケモンじゃんそいつ!? え! じゃあなに!? あの軍隊ここを落とす為に送り込まれたんじゃないのか!! やばいよやばいやばい! アルタンさんに知らせないと!
『落ち着け、そこが繋がってもここを攻める理由が分からない以上、我々が動くのは不自然だろう? それにお前の知らない取引の結果かもしれん』
た、確かに……!
ここは手を出さず落ち着いて見ていよう、うん…でもこの先どうなるんだろう……
『それに何が起きてもお前より強い者はいない、不安にならずただそこにあるだけで良い、今一度言うがお前の力は底無しだ』
自覚出来ねぇんだよそれ、だから魔導師のアネッサ夫人に稽古を頼んだんだよ。魔力が何がさっぱり分からねぇんだ。その感覚がない世界で生きてきたからな
しかし……うむ、私のことは置いておくとしてこの街に害をなそうという者がいるなら捕まえてあげたいな……折角結婚式も練習したんだしここで問題が起きたらそれも先延ばしになって計画が御破算になっても嫌だ
何か決定的な証拠があれば大義名分で大手を振って殴れるがそんなものどうやって見つけるんだ、探偵ごっこはやったことないぞ
「さて…もどかしいですね…」
『どうするかは契約者が決めるのだ、我はただ共にあるのみよ』
今は……待つしかないのか、向こうが手を出すその時まで……