転生したら第八王子だったので、早めに呪術を極めます 作:三世
ゼロフ兄さんに勧められて俺が留学することになったのは、『錬金国家パートラム』。
魔剣や錬金術で発展したサルーム王国とは違い、職人と技術が国の柱となっている国だ。
本来なら、先に留学している第四王子のディアン兄さんと合流する予定だった。
──そのはず、だったのだが。
「……ほう、貴様がこの核を作ったと」
豪奢な玉座の間。
天井には巨大なシャンデリア、壁には精緻な装飾。サルームとは違う形で、この国の富と技術力を誇示する空間。
その中心、王座に座る女王が、俺を見下ろしていた。
「……はい」
「フン。あの狸爺も、まさかこの程度の小僧をよこすとはな」
凍てつくような蒼い瞳。氷を思わせるドレス。
パートラム女王シルビア──その視線は、まるで値踏みするように鋭い。
「貴様程度の
「……存じております」
──こんなはずじゃなかったんだがな。
ことの始まりは、この国に着いた直後だ。
ディアン兄さんと合流するため、指定された場所へ向かっていたはずが……
気づけば衛兵に包囲され、そのまま王城へ連行された。
──まあ、入国した時から妙な視線は感じていたが。
(最悪、囲まれても何とかなると思ってたんだけどな……)
イクシオンさんもいるし、どうにかなる。
そう高を括っていたが──
(国が相手じゃ、下手に暴れられないし)
ここで騒ぎを起こせば、国同士の問題に発展しかねない。
サルームとパートラムの関係にヒビを入れるわけにはいかない。
「フルーフと言ったか」
「は、はい」
「貴様、この国にどう貢献するつもりだ」
……腐っても、一応は他国の王子に「貴様」か、中々手加減のない人だな。
「貢献、ですか」
「この国で錬金術を学ぶ以上、その成果は当然こちらへ還元してもらう。でなければ割に合わん」
こちらを値踏みするような、鋭い視線が突き刺さる。
「貴様は、錬金術で何を作るつもりか、どう貢献するつもりか、それをここで示せ」
……成程ね。
まあ完成した技術の大半はパートラムに渡そうと思っていたが……困ったな。
ゴーレム作り、それ自体も一応はこの国に来た目的ではある。
しかし本当の目的は別にある。だが、それをそのまま話すわけにはいかない。
とはいえ、この人に嘘は通じそうにないし、完全な嘘も避けたいところだ。
一瞬考え、答えを選ぶ。
「……魔力以外の動力で動くゴーレムを創りたく、この国に来ました」
「──ほう?」
女王の目がわずかに細まる。
「……その場合、ゴーレムは起動しないが?」
「正確には魔力で動かします。ゴーレムを操縦する際に操舵へ送る魔力を別のエネルギーで補えないか、と言うだけの事です」
要は、呪力で動かせるゴーレムの制作だ。
数年かけて試した結果として、呪力を魔力に変換する事はできなかった。まあ当然と言えば当然だ。
──しかし、間に別のエネルギーを挟めば別なんじゃ無いか?
魔術では、魔力を消費することによって別現象を起こす事が可能だ。
例えば『火球』等では詠唱や術式を介すことによって魔力を炎へと変換している。まあ、イクシオンさん見たいな魔力の性質変化による場合もあるが。
ならば、術式や詠唱を介して、炎を魔力に変換することも可能なんじゃ無いか?
ロイド兄さんにも聞いたことがある。
これが可能かどうか、と。
返ってきたのは──「いけんじゃね?」とかいう、ひどく雑な答えだったが。
とは言え、呪力を炎に変換する事は、呪力の性質変化の範疇で可能だ。
ならば呪力→炎→魔力と言う回路を構築出来れば、術式に頼らないゴーレムの操作が可能になるかもしれない。
「それは既に多くの錬金術師が研究している分野だ。それを貴様如きが解明できると?」
「できます」
即答する。
女王の眉がわずかに動いた。
「フン。口だけなら何とでも言える」
まあ、その通りだ。
実際、もう完成の目処は立っている。
あとは検証と実証を積み重ねるだけだ。
「……期限をくれてやる。半年だ」
女王は静かに告げた。
「半年で完成させろ」
「……承知しました」
半年。
不可能ではないが、かなり厳しい。
「安心しろ。教師はこちらで用意する」
それは助かる、俺一人じゃ半年での完成は厳しいしな。
「選定はこちらで行う。貴様はもう下がれ」
「……失礼します」
玉座の間を後にする。
背後で、巨大な扉が重々しい音を立てて閉まった。
その瞬間──張り詰めていたものが一気に抜けた。
「……はぁぁ……よかった……」
「ほっとしました……一応は穏便に終えられて」
隣でイクシオンさんが、その場にしゃがみ込む。
「……というか、大丈夫なんですか?半年で完成なんて」
「そこは問題ないです。目処は立ってるので」
本当の目的は、別にあるが──それはまだ言わない。
「とりあえず、ディアン兄さんと合流しましょう。かなり待たせてしまっているはずですし」
「はい」
歩き出しながら、ふと思い出す。
(……そういえば)
女王の隣にいた、白髪の少年。
あいつ、やけにこっちを見ていたな。
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「貴様は奴をどう見る?イド」
フルーフが去った後。
玉座の間で、女王シルビアは傍らに控えていた少年に問いかけた。
「ど、どう……とは」
「同じ
冷たいはずの視線が、わずかに和らぐ。
「……すごい、と思いました。僕と違って、あんなに堂々としていて」
「……貴様は、これだからいかん」
「え?」
「いや、何でもない」
小さく息をつく。
「フルーフ・ディ・サルームの教師は、貴様が務めろ」
「え!?」
「気になっているのだろう」
図星だった。
「あ、ありがとうございます!」
「奴も去った。貴様も下がれ。教育は……好きにやれ」
「わ、わかりました! 失礼します!」
少年は弾むように玉座の間を後にする。
静寂が戻る。
「──まったく、大口を叩く小僧だ」
シルビアは窓の外へ視線を向ける。
そこには、この国の象徴とも言える巨大な魔力増幅炉がそびえていた。
(あの小僧……本来の目的は別にあるな)
「流石というべきか……あの狸爺の息子なだけはある」
わずかに口元を歪める。
「……何を企んでいるのか、興味はあるが」
そして、静かに呟いた。
「せいぜい、この国に貢献してみせろ──小僧」
錬金術周りの話は完全捏造です。