転生したら第八王子だったので、早めに呪術を極めます 作:三世
『██くーん!』
前世で見慣れた公園。見つめる先では、最愛の█と、その友人がはしゃぎながら遊んでいる。
『お██ゃんも一緒に遊ぼうよ!!』
██が俺をそうやって呼ぶ。
██も、楽しそうにこちらへと手を振っている。
それまでの過去の不幸を、全部帳消しにしてしまうくらいに眩しい景色を眺めながら
──こんな幸せが、続いていくのかな
なんて、子供ながらに大人びた考えを持ってしまって
そう、思っていた時だった。
──ぐちゃり
耳障りな音。
今思えば、あれは██の頭が潰された音だったのだろう。
車の通った後、そこに残っていたのは、赤黒い血痕と、動かなくなった██の身体だけ。
鼻を突くような、鉄臭い匂い。
遅れて、周囲が悲鳴で埋め尽くされていることに気付く。
喧騒の中で、ただ一つの単語だけが、俺の耳に届いた。
死
██が死んだ
██が、死んだ?
事実を呑み込む暇もなく、隣で立ち尽くしている██から、嫌なものが溢れ出るような……粘つくような感覚で、強制的に現実へと引き戻された。
██の足元に、
『 ██〜〜』
同じ様なものを、見た事はあった。
幽霊だと思って、実際に目を合わせようとは思わなかった。だから、こんなに至近距離で、手が届きそうなくらいに近くで見たことなんて、一度もなかった。
『 ██〜〜』
ましてや、それが
『█人になったら〜█婚する〜〜』
最愛の█の声で喋るなんてことを、認めたくなんて────
「フルーフ様!!」
瞬間、暗闇に包まれていたような感覚が晴れ、目が覚める。
「──フルーフ様……!よかった……!!」
イクシオンさんが、顔を涙でぐしゃぐしゃにして、俺の手を握ってくれていた。
「…………ええと、コレはどういう状況ですか?」
「イド様が、フルーフ様が倒れたと言って連れて来てくださったんです……」
──成程、呪力の枯渇で意識を失っていたのか
最後の一撃のために残っていた呪力をほぼ全部吐き出したからな、無理もない。
前世よりかは多いとはいえ、呪力量に関しちゃまだ子供だ。あんだけの規模の呪力放出を何発も出してたら、そりゃこうなるか。
──いや、それにしても
「本当に目が覚めてよかった……フルーフ様、ずっと苦しそうに魘されていらしたので」
──まさか、またあの夢を見てしまうとは
もう過ぎたことなのに、やっぱり、心の奥底では未だに引きずっているのかもな。
「ありがとうございます……すみません、見ててくださって」
「とんでもないですよ、むしろ私はこんな事にならないようにするのが仕事なのに……」
「いえ、本当に助かりました。イクシオンさんがいなかったら俺、どうなってたか」
イクシオンさんは自身を卑下しているが……正直、誇張なしに命の恩人だ。あの続きを見た上で、今正気でいられるとは思えないからな。
「そういえば、イドは?」
「あ、そうです。イド様から手紙を預かっていて──」
渡された手紙には、簡単に一言だけ
──ごめんなさい
そう、書いてあった。
─────────────────────
「……何やってんだよ」
イドの工房。様々な器具や設計図が散乱した部屋の中央で、イドは蹲っていた。
「フルーフ……よかった。体調は大丈夫なの?」
「おかげさまでな。イクシオンさんにも迷惑かけちまった」
「そう……もう、本当に心配したんだからね」
……声に覇気がない。
ただ負けただけで、こうなるはずがない。
何かあったんだろう。
「……勝負は君の勝ちだよ。おめでとう」
「んなふにゃふにゃの声で言われても、嬉しくねえけどな」
レオンハートが大破したからか? ……いや、壊れるまでって言ったのはあっちだ。
いくら思い入れがあるとはいえ、ここまで思い詰める理由にはならない。
「……僕、もう分からなくなっちゃったんだ」
「……」
イドは、うずくまったまま続ける。
「勝手に、僕はフルーフと分かり合えるって……そう思ってて」
鼻を啜る音が、やけに大きく響く。
「フルーフが魔術を使えないって聞いた時……僕、うれしかったんだ」
涙混じりの声が、そのまま続く。
「もう才能の差に打ちひしがれることはないんだって……安心した」
……
「最低だよね。君は望んでそうなった訳じゃないのに」
…………
「だからあの時、君が『火球』を使った時はショックだったんだ。昔のことを思い出しちゃって」
………………
「ずっと、君にロイドを重ねてたんだ。多分僕は……君と戦っていた時でさえ、君自身を見ていなかった…………君が倒れた時に、それを実感した」
……………………
「だからもう、僕に関わることないよ。僕は君に相応しく──」
「だーもう!!めんどくせえ!!」
叫ぶと同時に、イドの正面へ踏み込み、その勢いのまま仮面を引き剥がす。
「えっ」
──予想通り、イドの顔は、ロイド兄さんにそっくりだった。
「なッ!?な、ななな何するのさ!!??」
「ごちゃごちゃうるせえ!!お前がどう思ったとか!お前が俺に相応しいかとか!!」
「……っ」
ウジウジと、面倒臭い。
「お前は、
イドが、目を見開く。
「だったらそれ全部、俺にぶつけてみせろよ!!」
「……!」
「お前は!何を成し遂げたいのか!今ここで!言ってみろ!!」
──出会ってから
「友達だろうが!!」
「あ……」
その一言で、何かが決壊したように。
イドは、ぽつりぽつりと話し始めた。
「…………勝ちたい人が、いるんだ」
「ああ」
「いっそ握りつぶしてもらいたいくらい……憧れてる人が、いるんだ」
「そうか」
「あり得ないほど、才能の差が離れてる……けど、けどそれでも……僕は……」
一度、言葉を詰まらせる。
それでも、イドは逃げずに口を開いた。
「彼に、追いつきたい──!」
肩を震わせながら、続ける。
「彼と、対等でいたい──!!」
俺とよく似た水色の瞳から、ぽろぽろと、涙がこぼれ落ちる。
それでも、顔を上げて。
「
その言葉と同時に、糸が切れたように前へ倒れ込んできたイドを、受け止めた。
「……やんじゃん」
────────────────────
「本当に、何も聞かなくっていいの?」
あれから十数分ほどしてから、冷静になったイドは顔を真っ赤にさせた後、自身の言っていた言葉を思い出したのか、真っ青になった。
まあはっきりと言ってたからな、「ロイド」って
「イドから言い出さないってことは、なるだけ言いたくないことなんだろ?ならわざわざ聞いたりしないよ」
まあ、正直大体予想はついてるしな。それに詳しい事情を知ったところで、俺やイドの関係が何か変わる訳でもないし。
「……本当に、ありがとうね」
「別に俺は何にもしてないよ」
強引に言葉を引き出しただけだし、多分虎杖とかならもっと上手くやれそうだ。
「ううん、君のおかげだよ」
「だー!もういいだろ!」
そんなに何度も何度も感謝の言葉を吐かれると、なんだかむず痒くなってくる。
「ふふっ、そっか」
……なんか、生暖かい目で見られてる気がするな
「それで、フルーフはこれからどうするの?変換器も、ゴーレムもできちゃった以上……もうパートラムにいる必要なんてないんじゃ……」
「いや、それがまだやりたい事残ってんだよね」
というか、こっちが本命というか
「ゴーレム造りは本命をスムーズに進めるための練習ってだけだし」
「……あれが、練習?」
──ドン引きしたような顔してるけど、ゴーレム造りに関してはイドもどっこいどっこいだろ
今更ながら何で二重合成魔術をゴーレムに搭載出来てんだ。二重詠唱のシステムでもないと不可能だろあんなの。
「心配しなくても、少なくとも先に決められてた一年間はこっちにいるつもりだよ。呼び戻されたりとかしない限りは」
「……ふふ、そっか!」
露骨に嬉しそうに顔を綻ばせる。……なんか俺、段々こいつが犬みたいに見えてきたよ。
──そうして数ヶ月間をパートラムで過ごし、
サルームから、呼び戻しの手紙が届いた。