転生したら第八王子だったので、早めに呪術を極めます 作:三世
この時間なら許されるか……?
ゆっくりと流れる森の景色を窓から眺め、馬車の揺れを受け止めながら手に持った手紙について思案する。
「……ふざけてんのか?あの人」
いつも通りにパートラムで研究を続けていたある日、サルームから手紙が届いた。
ロイド兄さんからの「ひま、かえってこい」の手紙だ。
……別に内容を要約したわけじゃない、本当にこれだけしか書いていないのだ。
「差出人が書いてないから一体誰からかと思ったが……あの人以外有り得ないか、こんな内容」
……いや、まあ確かに彼はまだ十歳だ。いくら魔術の才があると言えど、その年頃の子供が描く手紙と考えればまあ納得はいく。
……いや、流石に十歳にもなれば手紙ぐらいは書けるか。
……まあ、
問題は、
「大聖誕祭、ねぇ」
時期を同じくして
封蝋には、教会のシンボルである印が刻まれている。
装飾も凝ってるし、流石に偽物なんて事は無いだろうが……
「……去年まで出席すらしてなかったのに、今更?」
……まあ、俺が外に出られるようになったから招待を、ってのもあるんだろうが。
王族の末弟如きを、態々聖誕祭の為だけに呼び戻すというのも、少し妙にも思える。
現に、そう言った催事に本来出席するべきであろう第一王子と第一王女ですら、いつも遠征に行っていて、ここ数年は顔すら見ていない。
……いやまあ、そもそも俺は会ったことのある兄弟の方が少ないんだが。
「フルーフ様は初めてですよね。大聖誕祭」
「……そうですね、まあぶっちゃけ然程興味は無いんですけど」
教会そのものにそこまでの興味がないしな。
ただ、神聖魔術ってのには多少興味はある。
「正直私も、パレードだとかにはそこまで興味は無いんですけど……第四王女のサリア様!あの方の演奏が本当に美しいんです!」
「サリア姉さん……というと」
第四王女か、音楽の申し子だとか言われてる。
そういえば教会からの手紙にも書いてあったな、今年は第四王女の演奏会があるって。
音楽……前世で舞を習ったことはあるが、音楽に関しちゃ専門外だな。音楽は呪術においても『儀式』として有効だし、正直こっちの方が余程興味がある。
「まあ、兄弟に会えるって考えたら多少行く気は──」
──瞬間、呪霊を思わせる
「──ッ伏せてください!!」
そうイクシオンさんが叫び、俺の体を抱えたと同時に、馬車が真横に吹き飛んだ。
馬の悲鳴とともに、窓の外の景色がぐるぐると目まぐるしく変わるのが見える。
ゴロゴロと転がった末、一本の木にぶつかり、馬車が止まった。
「──ッお怪我はありませんか、フルーフ様」
「俺は何も……それよりもイクシオンさんが」
「この程度擦り傷です……王子はこの馬車の中に残っていてください、私はあの魔物の対処を」
そう言って、ギリギリ原型を留めていた馬車から出て行こうとするイクシオンさんの腕には、幾つもの切り傷が見えていた。
傷口からどろりと血が滴っているのが見て取れる。
「……それ、擦り傷とは言いませんよ。見せてください」
「いえ、王子の手を煩わせるようなことは……」
「いいから」
半ば強引に腕を掴み、反転術式を回す。
傷を治癒しながら、かろうじて覗ける隙間から外を見てみると、この事態を引き起こした元凶であろう者が見えた。
「……
大きな嘴、四本の複腕に蜻蛉のような大きな複眼、真っ黒い大きな翼。
──そして、それらの部位を強引に繋げたような、大きな縫い跡。
……錬金術を習う前なら、ただの魔物で片付けてただろう。
「──趣味の悪い」
様々な生物を合成し新たな生物を生み出すという、錬金術の一分野──『合成術』による産物だろう。
見た感じでは魔物と動物の合成だけだろうが……とはいえ、あのキメラを作る過程で禁忌を犯していることは間違い無い。
胸糞悪いな、
──しかし、こう悠長に回復の時間をとっていても一向に襲ってこないあたり、俺たちを見失っているのか?
「そこまでの知能は無いのか……まあ、あんだけ無理やり繋がれてたらな」
『無為転変』などによる改造とは全く違った、恐らく物理的に別々の肉体を繋ぎ合わせた代物か。
魂もグチャグチャに掻き混ざっているし……あれを元に戻すのはまず不可能だろう。
「治癒、有難うございます──では、燃やしてきます」
「……やり過ぎないでくださいね?周りは森ですから」
「……善処します」
心配になる返答だなぁ……
……いやまあ、今となっちゃ炎の扱いに関しちゃ間違いなく俺以上だし、心配するだけ無駄か?
……いや、それにしても
「……あの人、なんであんな反転の効きが悪かったんだろ」
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「……許せない」
不愉快。不愉快。
本っ当に──不愉快
「せっかく、二人きりになれたのに」
ここ最近はあの白い子がずっと近くにいた。
だから、久々に馬車の中で二人きりになれたっていうのに。
あの魔物が水を差したせいで、台無しだ。
「……何よりも」
フルーフ様を殺そうとしたって事実が、何より許せない。
「……灰も残さない──一点集中『火焔車輪』」
両手を胸の前に構えて、『火球』の様に炎を収束させて行く。
本来なら広範囲に炎の竜巻を引き起こす『火焔車輪』を、極限まで圧縮させ極小規模のみに留めることで火力を高める。
元々制御の難しかった『炎のノロワレ』の力。
それを、扱えるようにしてくれて、尚且つ使いこなせるように一緒に練習してくれた、フルーフ様との成果。
空気を裂く音と共に、魔物がこちらへと突っ込んでくる。
──疾い、けど、反応できないほどじゃ無い。
「──消えて」
──ゴォォォォッ!!
襲い掛かってくる魔物に合わせて、収束させた『火焔車輪』を開放。
圧縮された灼熱は、焼くというより
命中した瞬間に魔物の身体は炎に呑まれ、一秒も経たず灰へと変わる。
でも、コレで終わりじゃない
「……まだ、居る」
私の上空で、さっき吹き飛ばされた馬車の中──フルーフ様を狙っている、二体目の魔物が羽ばたいているのが見える。
「……許さない」
大方さっきの魔物は私を誘き寄せるための陽動で、フルーフ様を仕留めるのはあの魔物だったのだろう。
……どう考えても人為的、許せない
「一極収束『火門槍』」
さっきの様に炎を掌に集中させてから放つのとは違う。炎の噴出口を右の掌の一点だけに留めて、細く、鋭く、光線のように収束させた炎を放つ。
これも、フルーフ様に教わった、彼との成果だ。
魔物が上空から馬車を叩き潰そうと、急降下を始めた。
──遅い
「堕ちて」
掌から放たれた炎が、一直線に空を貫く。
魔物の胸を撃ち抜き、そのまま地面へ叩き落とした。
フルーフ様の所へ辿り着かせる訳もなく、魔物は地面に落ちて動かなくなった。
「────あれ?」
魔物が落ちたのを確認してから、残りの魔物が居ないかと辺りを見回すと、馬車を引いていた馬と一緒にその御者までが居なくなっている事に気がつく。
恐らくあの魔物に怯えて逃げ出したのだろう。
「……どうしよう」
ここからサルーム王国までまだ距離がある、徒歩なら数日は掛かってしまう。
幸い生誕祭には間に合うだろうけど……サルームまで二人で歩いて行かなくてはならないし……
──フルーフ様と、二人きり?
思考が、そこで止まる。
「……二人、きり」
その言葉を、口の中でゆっくり転がす。
自然と、口元がだらしなく緩むのを感じた。
「……悪くない、かも」
——むしろ。
「望ましい、くらい」
誰にも届かない小さな呟きだけが、静かな森へ溶けていった。