転生したら第八王子だったので、早めに呪術を極めます 作:三世
俺から見た第八王子……フルーフ・ディ・サルームは、実によく分からない人間だった。
噂では「出産の際に重体となった王妃様の身体が、産まれたばかりの彼が手をかざしただけで直ぐ様治った」だとか「魔力の無いノロワレ」だとか、しかしその情報はすべて又聞きの様で、彼に実際に会った人間はあまり居なかった。
「アルベルト兄さん、フルーフは何でいつも城の部屋に閉じ込められているんですか?」
最初はただ純粋な興味から聞いただけだった、自分よりも一歳年下の、前世では居なかった『実弟』という存在に対する好奇心から。
「…………フルーフは、身体が弱いんだ」
考える必要も無いほど、直ぐに嘘だと分かる様な弱々しい言葉が返ってきた。
「……そうなんですね」
「ロイド……君も兄だ、フルーフが心配なのはよく分かる……だけど絶対に、フルーフの部屋には行くんじゃないぞ?」
誰よりも兄弟思いであるアルベルト兄さんがそこまで言うものだから、できる限り刺激しないようあまり関わらないでいたんだ。
だが、そんな事は
「一体なんだったんだ!?あれは!!」
想起するのは、先程闇の中で煌々と輝いていた紫の球体。魔術とは違う、俺の知らない術。
「魔力由来の術じゃない……!身体に術式が刻まれているのか?何方にしろ全く知らない術だ……!」
分からない!!知らない!!一体何なんだアレは!!
「……本当なら、兄さんの言いつけを守りたかったんだがな」
「フルーフ……ふふ、待ってろよ」
自分でもわかる程にだらしない顔を手で抑え、“飛翔”を唱える。
「今日は、今日は止めておこう。フルーフも疲れているだろうし、明日フルーフの部屋へ行って、それで……うひ、うひひひひひ」
自分でもあまり聞いたことのない様な笑い声が口から漏れ出すのを感じつつ、城へと帰った。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「あーーー、疲れた」
ロイド兄さんに連れられて呪術を披露したのはいいものの、
「なんだよアレ、“飛翔”?アレが?人間ミサイルの間違いだろ」
バカみたいな速度の“飛翔”でかっ飛ばされたことによる『飛翔酔い』で二回ほど吐いたのだ。音速超えてたよなアレ、投射呪法でもあのレベルの速度は無理だぞ。
「まだ目の前がぐるぐるするーー」
これなら俺だけ先に向かって後で兄さんと合流すればよかったな……
寝そべりながらそんなことを考えていると、ふと扉をノックする音が聞こえて来た。
「フルーフ、いるかい?」
「……アルベルト兄さん?」
「入るよ…………ッ!?」
珍しい、何時もは公務で忙しくて会えないのに。何かあったのかな
「大丈夫かフルーフ!!」
「わっ!!」
なんだいきなり!?入ってきた瞬間距離詰めてきやがった!!
「そんなに顔を青くして……っ今医者を呼ぶ!待っていてくれ!」
……ああ、確かに傍から見れば体調崩して倒れてるように見えるか。いや実際体調崩してるんだが、安静にしてれば治るよこんなの
「……大丈夫です兄さん、安静にしていれば治ります」
「しゃべらなくていい!!嗚呼クソッ、弟がこうなっているのになぜ僕は気付かなかった!!」
いや普通気付かんよ、“飛翔”で酔うなんて聞いたことないし。というかなんなら無断で外出してるからな俺ら
「大丈夫ですから落ち着いてください、兄さん」
「っ……ああ、そうだね。ありがとう」
「今日はどんなご要件で?」
「フルーフに会わせたい子がいたんだが……これでは厳しそうだね」
俺に合わせたい人?珍しいな、普段はあんまり俺を人と会わせないようにしているのに
「いえ、わざわざ来ていただいた客人を帰らせるわけにはいきません。お会いしたいです」
「……分かった。入ってきてくれ」
兄さんがそう言うと、おどおどとした様子の赤毛の女の子が部屋へと入って来た。今の俺よりも少し年上ぐらいか?
「その人は?」
「彼女はイクシオン、最近僕が預かった子だ」
「イクシオン、です……はじめまして」
「……はじめましてフルーフ・ディ・サルームです」
なんだろうか、あの子……体温が異常に高い、魔術によるものか?けど詠唱してないよな、というかこの場で魔術使うのも変だし……あれは、身体から炎の性質の魔力が溢れてるのか?…………もしかして
「炎のノロワレ?」
「……ッ!!」
「わかるのかい?」
前読んだ魔術書に書いてあったな、魔術的な特異体質の一種だったか、魔力の性質変化による力だとか。天与呪縛に似てると思ってたからよく覚えてる。
「身体に術式が刻まれてますし」
「フルーフはやはり“目”が良いな、その通りだ」
「そ、それで分かったんですね、私が炎のノロワレだって」
「それもそう、ですけど」
いやぁ、けど魔力見なくても明らか分かるでしょ
「温かそうだったので」
「……あたたか、そう?」
して何故この人をここに?あ、もしかして治せってこと?そう言えば
「イクシオンさん」
「はっ、はい!」
「もうちょっと近くに来てもらえますか?」
魔術書で読んだ感じ、自分達でも制御出来ないらしいからな、折角だから使いやすい様に少し
「少し痛いかもしれませんけど、我慢してくださいね?」
「な、何を?」
正直言うと、
ジュッと音を無らしながらイクシオンさんの手へと触れる。おぉ、なかなか熱い
「ッ何して!?」
「『無為転変』」
取り敢えずはいきなり使えなくなっても困るだろうし、自由にオンオフ出来るようにはするか、体温の高さ的に元々熱に強い身体っぽいけどサービスで耐熱性も少し上げておこう。
「はっ、離れてください!!王子の手が火傷を…………え?」
「それでもう暴走はしないはずです。外部へ魔力が漏れない様に体内で循環させてるだけなので自由には出せるはずですから、安心して下さい」
それにしても、やっぱり天与呪縛とは似て非なるものだな、縛り自体存在しないんだから当たり前のことだが。
「え…………え?……魔力が、暴走しない……?」
呪術はリターンがでかいけど払う代償が大きすぎるんだよな。幸吉なんてまともに外に出られないぐらいボロボロだったし、真希と真依に関しては代償が少ない代わりにリターンは少なすぎる、極端なんだよな、天与呪縛って
「……どうやって」
「少し身体の造りを変えただけです、もし不調があるようなら言ってください、治しますから」
イクシオンさんは今にも泣いてしまいそうな顔でこちらを見てくる。まあそうなるよな、今まで苦しめられてきた物からいきなり解放されたんだ、感情の波で溺れてしまいそうなんだろう。
どうにもこの子を見てると、幸吉が頭をよぎるな
「今までよく頑張りましたね」
先程より低い体温になった彼女の頭を撫でると、イクシオンさんは、決壊したように涙がぽろぽろとあふれさせていた。
「うぅ……う……わぁああぁあん!!!」
絞り出すような泣き声が部屋に反響するのを、ただただ肌で感じていた。