転生したら第八王子だったので、早めに呪術を極めます   作:三世

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 バケモノ、と呼ばれ慣れてきた。

 

 生まれ持った身体のせいで、私は自分以外のすべてを燃やしてしまう。

 

 偶々アルベルト様に拾われ、この城に住まわせてもらってからも、私が『ノロワレ』だと知った人にそう呼ばれることは少なくなかった。

 

 この力を制御できず、訓練中に相手に怪我をさせてしまったことも、一度や二度ではない。

 

 そんな時だった。アルベルト様に声をかけられたのは。

 

「フルーフに会ってみないかい?」

 

「……第八王子様ですか?」

 

 噂で聞いたことがあった。

 第八王子は、魔力をまったく持たない『ノロワレ』だと。

 

 けれど同時に、こんな話もある。

 産まれた時、出血多量で命の危機だったお妃様の傷を癒した──そんな噂だ。

 

「なぜ、でしょう……。その、私と会うと第八王子様に危険が」

 

「……噂で聞いたことがあるかもしれないが、フルーフは少し()()でね」

 

 アルベルト様は、少し言葉を選ぶように続けた。

 

「まだ幼いのに、外に出ることすら許されていない……だからせめて、近い境遇のイクシオンと会わせてあげたいんだ」

 

 近い境遇。

 

 恐らく、噂どおり。

 第八王子は『ノロワレ』なのだろう。

 

「イクシオンが嫌ならいいんだ。無理に会わせても、どちらも嫌な思いをするだけだし」

 

「いえ、会います。会いたいです」

 

 自分以外の『ノロワレ』には、まだ会ったことがない。

 

 もしかしたら。

 もしかしたら、何か分かり合えることがあるかもしれない。

 

 ──そう、思っていただけなのに。

 

「『無為転変』」

 

 触れられた瞬間。

 

 治った。

 

 ――治って、しまった。

 

 私が長年苦しみ続けてきた()()が。

 ただ触れられただけで、こんなにも簡単に。

 

「よく頑張りましたね」

 

 頭を、撫でられた。

 

 手を、握られた。

 

 ()()()()()()だと、言ってくれた。

 

 ……嗚呼。

 

 駄目だ。

 

 アルベルト様に拾われた時。

 あの時、私はもう救われたはずだったのに。

 

 それでも。

 

 それでも──

 

 涙が、止まらない。

 

 溢れて、溢れて。

 

 どうしても、止まってくれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 いや、まあ。

 

 生まれ付きのものがこんな一瞬で治ったら、そりゃ混乱して泣くわな。

 

「な、治したのかい!?今!?」

 

「……?そうですけど」

 

 アルベルト兄さんが慄いている。

 

 いや、これのために連れて来たんじゃないのか?

 

「……魔力はないはず……まさか、母様を治した()()か?」

 

「……兄さん?……にーいーさーん?」

 

 あれ?

 もしかして、治してほしくて連れて来たわけじゃないのか?

 

 母様を治した件はなんかみんな知ってるっぽいし、てっきりそれ目的で呼ばれたのかと。

 

「……すまないフルーフ。来てすぐで申し訳ないが、少し席を外す。イクシオンと話していてくれ」

 

「……はあ、いってらっしゃいませ」

 

 そう言うと、兄さんは何か思いついたような顔をして、慌ただしく部屋を出ていった。

 

 …………いや。

 

 イクシオンさんは置いていくのかよ。

 

「……その、これ……ハンカチです」

 

「……!ありがとうございます」

 

 気まずい。

 

 気まずいよ兄さん。

 

 今日はじめましてでいきなり会わされた人と何話していいかわかんないよ、俺。

 

「……どうやって、治したんですか?」

 

「へ?」

 

 イクシオンさんは不器用に涙を拭きながら、こちらを見ていた。

 

「あのっ、話したくない事ならいいんです!でも、その……気になってしまって」

 

「あー……いえ、いいですよ」

 

 思えばこの人、治すために来たわけじゃなさそうだし。

 

 来た瞬間いきなり身体触られて、言い方は悪くなるけど、全身改造されたわけだもんな……。

 

 せめて、どうやって治したかぐらいは説明しないと俺がカスすぎる。

 

「えーっと。俺は魔術は扱えないんです。魔力ないんで」

 

「……はい」

 

「その代わり、皆さんには無い()()ってのがあって。それを使うことで魔術に似たことが出来るんです。俺は呪術って呼んでますけど」

 

「……じゅじゅつ」

 

 首を傾げるイクシオンさん。

 

 説明より、見た方が早いか。

 

「〝脱兎〟」

 

 影の中から、数匹の兎が飛び出した。

 

「……!かわいい」

 

 目を輝かせて跳ね回る脱兎を見つめている。

 

「こういう風に式神を出したり出来るんです。触っていいですよ」

 

「!……でも」

 

「大丈夫ですよ。もう燃えません」

 

「……!!」

 

 恐る恐る触れた手。

 

 そして──

 

 ほっとしたような笑顔。

 

 ……ああそうか、やっぱり。

 

 この人、本当にずっと、傷つけるのが怖かったんだな。

 

「……すごいです」

 

「?」

 

「私は、こんなにすごい事できません……自分の力に振り回されてばかりで……使いこなすなんて、とても」

 

「使いこなせるようになればいいじゃないですか」

 

 顔が上がる。

 

 夕日色の瞳が、淡く揺れるのが見えた。

 

「炎の力」

 

「……え?」

 

「今からでも出来ますよ。俺も手伝います」

 

「いや、でも……王子の身に危険が」

 

「大丈夫ですよ」

 

 笑いながら答える。

 

「多少火傷する程度なら、治せますから」

 

 ぽかんとするイクシオンさん。

 

 ……こう見ると、なんと言うか、幼い顔をしているな。

 

「ほら、早速始めましょう。まずは手のひらに魔力を集中させて……」

 

 なんか。

 

 後輩共にこうやって教えてたのを思い出すな。

 

 …………ま、あいつらクソ生意気だから、俺のアドバイスなんて聞きやしなかったけど。

 

 ……みんな

 

 元気にしてるかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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()()()()()()」。

それが、僕が最初にフルーフに対して抱いた感情だった。

 

 雪のように白い髪、青空のような瞳、白磁器のような美しい肌。どれも王族にはあまり見られない特徴だった。

 一時期は「天の使いなのでは?」なんて噂されていたな。僕の弟なんだから可愛いなんて言葉は当たり前では?と言いたくなるが……まあ、今はそれは置いておこう。

 

 彼の出産の際、重体となった母上に、彼が手を少しかざしただけで、すぐさま傷が治った。

 かと思えば、彼に()()()()()ことが判明して大騒ぎになったり……あの時は本当に大騒ぎだった。

 

 何故その状態で生きていられるのかすら不明だったため、国中から医者や魔術師、果ては錬金術師まで呼び寄せて検査をしていた。

 結果的に、「何も分からない」ということだけが分かって解散することになったのだが。

 

 魔力が無い。けれど何故か生きている。

 そんな状態だから、いつの間にか「無魔力のノロワレ」なんて呼び名までつけられてしまった。

 

 できる限りフルーフにそんな噂が届かないよう、彼に近づく者もできる限り絞っていた。

 

 しかし問題となったのは、()()()()()()()()()()()という点だ。

 

 あの場には僕も産婆も、手伝いのメイドさえも居た。見間違いや記憶違いなんてことはありえない。

 

 「魔力の無い赤ん坊が回復魔法のようなものを使った」なんて話が漏れてしまえば、彼の容姿も相まって、フルーフが奇異の目で見られることは避けられないだろう。

 

 …………その結果、フルーフは基本的に城の一室へ閉じ込められることとなってしまった。

 

 最初は僕もやり過ぎだと思った。

 ……だが、もしも。

 

 もしもフルーフが、あの時母上を治したのが偶然だったら?

 無意識だったら?

 

 もしも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ……そう考え、万が一にもフルーフが人を傷つけてしまわないようにするためにも、彼を閉じ込めることを否定出来なかった。

 

 その負い目もあって、できる限り彼が寂しく感じないよう、僕はできる限り彼の部屋を訪ねた。

 彼の望んだものは、できる限り与えてきた。

 

 しかしそれでも……彼はまだ8つだ。

 

 1歳上のロイドは自由に外を出歩いているのに、彼自身は城の中に閉じ込められている。

 不満を抱くのも当然のことだろう。

 

 だから、彼と近い境遇のイクシオンと会わせて、友人にでもなってもらおうと考えていた。

 

 ………………のだが。

 

「……まさか、治してしまうとは思わなかったな」

 

 『ノロワレ』を治す、なんて聞いたこともない。

 ましてや、自由に使用可能にまでしてしまうだなんて。

 

 疑問に思うことは多い。

 

 ……しかし、この()()さえあれば、フルーフを自由な身にできるかもしれない。

 

 見たところ自在にその力を扱えているようだし、父上に進言すれば、彼は自由を手に入れられるだろう。

 

「父上、少しよろしいでしょうか」

 

「アルベルトか。かまわんぞ、何の用じゃ?」

 

「フルーフについてのことです。あの子が自由に外に出られる許可を頂きたく」

 

「……それについては前にも話したろう。あの子には悪いが、あの子の力について何も分からない以上、無闇に外へ出すことはできぬ」

 

 まあ、そうだろう。

 

 実際、それに僕も同意していたし、今更覆るとも思っていない。

 

 しかし、今は違う。

 

「先程、フルーフはその力をコントロールしているようでした」

 

「なに?」

 

「先日、イクシオンと共にフルーフの部屋を訪れた際、フルーフが手を握っただけでイクシオンの体質を治したのです」

 

「……『ノロワレ』を治した、と言うのか」

 

「はい」

 

「……成程。お前がそんな嘘を吐くとも思えん。本当なのだな」

 

 彼女のような『ノロワレ』を治す手段は、今のところ発見されていない。

 生まれ持った性質である以上、王国内でも扱いが難しいとされてきた。

 

 しかし、彼なら。

 

 そんな人々を救うことができるかもしれない。

 

「……護衛付きで、時間を限定して許可を出そう」

 

「……っ!!」

 

「しかし、その『ノロワレ』を()()()という情報は伏せておけ」

 

「わかっています」

 

 それは当然だろう。

 

 この件が漏れてしまえば、『ノロワレ』に苦しんでいる民の耳にも届く。

 場合によっては、フルーフが危険な目に遭うかもしれない。

 

「……許可は出した。早くあの子に外を見せてやってくれ」

 

「……はっ、失礼します」

 

 やっとだ。

 

 やっと、フルーフに外の世界を見せてやることが出来る。

 

 ……そうと決まれば、馬車を用意しておいてもらおうかな。護衛は僕で十分だろうし。

 いや、いきなり城下町の外まで連れて行くのは危険か。まずは軽い運動でもさせるかな。

 

 ……そう言えば、イクシオンをフルーフのところに置いて来てしまった。

 仲良くしてくれているだろうか。

 

 そうして、歓喜のあまり思考がごちゃついたまま。

 

 僕はフルーフの部屋へと続く廊下を、早足で駆け抜けていた。

 

 

 

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