転生したら第八王子だったので、早めに呪術を極めます 作:三世
カンッ、カンッ――と、木と木が打ち合う音が中庭に響く。
真剣を相手にしていると錯覚するほどの鬼気迫る勢いで、こちらを抉り抜くように振るわれた木刀を防ぐ。
何度か反撃を試みるが、そのすべてが空中で叩き落とされた。
「……お見事」
「いや、シルファさん。まずは素振りからとかの方がいいと思うんですけど」
「必要ありません。実戦稽古が一番、体に馴染みますから」
目の前で隙の見えない構えを崩さず、こちらを見据えるメイド。
こちらも構えを解かないまま、心の中で呟く。
……なんで、こんなことになったんだっけ?
事の始まりは、イクシオンさんの一件から数日して、アルベルト兄さんが俺の部屋を訪ねてきたときだった。
「外出許可?」
「そう。先日のことを父上に話したら、そう言ってくれたよ」
どうやら俺を軟禁していた理由は、母上を治した術──要するに呪術が危険かどうか判断できなかったかららしい。
だが先日「ノロワレ」を治したことが決め手となり、これからは少しずつ外へ出られるようになるとのことだった。
……まあ、割と頻繁に無断で外出してたから、新鮮さはあまり感じないけど。
それでも、めでたいことではある。
「これまで、本当にすまなかった」
「アルベルト兄さんが謝ることじゃないですよ。俺のせいですし」
実際、聞かれなかったとはいえ、呪術についてほとんど説明していなかったのは俺の落ち度だ。
……まあ、今後も自分から話すつもりはあまりないけど。
話したところで「なぜそんなものを使えるのか」なんて聞かれて面倒そうだし……末っ子だからまず無いとは思うが、最悪、次期王候補なんてものに選ばれたら、日本へ帰りにくくなる。
そうしてアルベルト兄さんと話すうち、運動不足の解消のため剣術の稽古をしてみようという話になり──
こうして、メイドのシルファと剣術稽古をすることになったのだが。
「……初めて剣を取ったとは思えないほどの腕前ですね」
「初めて剣を取ったんだから、素振りとかから始めさせてほしいんですけど」
開幕から、すげえスパルタだこの人。
せめて剣術の勘を取り戻すまでは待ってほしいところなんだけど。
「では、少し速くしましょうか」
「いや、ちょ――」
おかしい。
俺の知ってるメイドさんは、こんな立体起動してない。
「初心者相手にしていい動きじゃないですよね、それ!?」
「……現に防げているでしょう」
「防戦一方なの見えません!?」
剣の達人かよ、この人!?
意味の分からない軌道と角度で、剣が飛んで来るんだが!?
「……では分かりました。そちらから打ち込んできてください。私はここに立っていますから」
先ほどまでの嵐の様な攻めが止み、シルファは防御の構えを取りながら静かに言った。
「一撃でも入れられたら、休憩にしましょう」
「……へー。なら遠慮なく」
……ぶっちゃけ、ちょっとムカついてきたし。
少し本気を出してやる。
手で鞘を作る。
──いけるな。
シン・陰流──簡易領域。
「居合・『
「ッ、速――!?」
簡易領域の範囲を最大限まで拡大し、強引に相手を領域内へ引き込む。
そして、領域に組み込まれた自動迎撃によって体を動かす──日下部先生直伝の技だ。
……とはいえ、さすがに先生レベルの速さは出せない。
まあ、子供の体だしな。
「っ、凄まじいですね。とても初めて剣を握ったとは思えないです」
「そろそろ腕痛いから、くらってほしいんですけど!?」
……まじかよ、全部いなしてやがる。
本気で打ち込んでるんだけど。
「……速い。ですが、それだけです」
シルファの声は冷静だった。
「あなたのそれ、防がれる想定をしていませんね?」
「……っ、そりゃ、そうだろ!」
俺の体が子供とはいえ、呪力で強化した肉体で、ほぼ脊髄反射で打ち込んでるんだぞ!?
受けられる方がおかしいんだよ、これは!!
「相手の剣筋を見なさい」
轟音の中で、的確な指摘が飛んでくる。
「防御の隙間を。防がれた場所から最も遠い所を。相手の意表を突く場所を、常に意識しなさい」
「っっっ〜〜!!」
五条先生みたいなスパルタ具合だ!!!
木剣同士とは思えない轟音が響き続ける。
このまま続けても埒があかない──そう思った、その時。
──バキリ。
音を立てて、俺の木剣が折れた。
「!!」
「ッ!!」
折れた!?
──いや、今しかない!!
シン・陰流!!
「『
「!!」
ッ!!
よけ……やがった!?
無理な体勢のまま斬り込んだため、俺の体はそのまま重力に従って地面へ叩きつけられた。
「…………ッ〜〜〜絶対当てたって思ったのに!!」
「……いえ、当たりましたよ」
「?」
シルファはそう言うと、メイド服の袖をこちらへ見せた。
袖の一端が、切れている。
「……それを当たってるって言うのは甘えです」
「頑固な子供ですね……私が当たったと言ったのだから、当たったのですよ」
シルファは木剣を地面に置き、倒れている俺を起こしながら言った。
「休憩にしましょう。……ちょうど、お客様が来たようですので」
「お客様?……あれ、イクシオンさん?」
振り返ると――
放心したように棒立ちしている、
底の見えない子供だと、一目見た瞬間に思った。
「──だから、一度稽古をつけてみてほしいんだ」
その日、ロイド様が蔵書室に籠もっていたこともあり、私は少しぼんやりしていた。
昔からの悪癖──「世界を斬れるか斬れないか」で物事を見てしまう癖のせいで、アルベルト様の話も正直、あまり耳に入っていなかった。
その子供を目にするまでは。
──斬れない。
その子供を中心に、球状の何かが広がっているように感じた。
まるで──
全く斬ることのできない領域が、そこにあるかのように。
ロイド様のように「斬れるイメージが湧かない」のとは違う。
それはもっと、具体的な感覚だった。
打ち込んだ剣が、すべて空中で
──ロイド様のお話では、ずっと城に籠もりきりだったと……。
隠しているようではあるが、歴戦の剣士のような気迫を放つ。
生まれてからずっと部屋に籠もりきりだと……?
──…………才能もあるだろう。
けれど、これは。
一生を剣に捧げ、血の滲むような努力を積み重ねてきた剣士と同じ気迫だ。
──……ロイド様のように、心臓が高鳴るわけではない。
けれど。
この人の
「──聞いているかい?シルファ?」
「剣を取ってください」
「はい?」
……斬り合えば、わかるだろう。
彼の、
「手合わせをしましょう」
「シルファ!?何を言って……」
「──いいですよ、やりましょう」
「フルーフも!?危ないからやめ──」
「兄さんは早くお仕事に戻ってください、あまり見られたくないので」
「見られたくなッ!?!?!?!?」
…………。
弟煩悩の第二王子には、少し悪いことをしたかもしれない。