転生したら第八王子だったので、早めに呪術を極めます   作:三世

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 ……やっぱおかしい。

 

「やっぱりおかしいと思います。俺、初心者なんですけど」

 

「初心者であの動きが出来る人類はいません」

 

「…………」

 

 まあ、それは……俺がつい乗せられちゃったからなんだけど。

 

 けど仕方ないじゃん!

 

 この世界に来てから、まともに手合わせなんてしてなかったんだぞ。

 

 普通に剣が振れればそれでよかったのに……

 なんか途中から楽しくなってきちゃったし。

 

 ……いや、確かにこうなる予感はしていた。

 だからアルベルト兄さんに城へ戻ってもらったんだが……。

 

「……その、すごかったです!!お二人の手合わせ!!」

 

「イクシオンさん……」

 

 本当にいい子だ、この子。

 

 いやぁ……俺の精神年齢、前世を足したら二十代後半くらいだからな。

 ……こんなこと言うのもアレだが、だんだん妹みたいに思えてきてしまう。

 

 ……いや、しかし。

 

「その格好は一体……?」

 

「えっ!?あぅ、これは、その……」

 

「フルーフ様直属のメイドになったのですよ。この子は」

 

 ……それは嬉しいけど、なんで今さら?

 

「ええと、フルーフ様は護衛をつけた状態でのみ外出が許されているので……従者をつけるという話になりまして。その、私が立候補を」

 

「ああ、なるほど」

 

 イクシオンさんは強いからな。

 少し過剰戦力な気もするが、王族の護衛と考えれば納得できる。

 

「あの……私では、ご不満でしょうか?」

 

「まさか!イクシオンさんは友達だし、強いし、すっごく嬉しいです!」

 

 同年代……というには少し年上だけど。

 この世界で血縁以外で仲のいい人なんて、イクシオンさんが初めてだからな。

 

 そりゃ嬉しくもなる。

 

「友達……! ともだち……えへへ、ともだちかぁ……」

 

 嬉しそうに、頬を緩ませている。

 なんと言うか、会った時よりも表情豊かになった様で嬉しいな。

 

「おや、ちょうどいいタイミングだったかな?」

 

「アルベルト兄さん」

 

 片手にバスケットを持ったアルベルト兄さんが、城の方から歩いてきた。

 

 執務は終わったのだろうか。

 

「お仕事はよろしいのですか?」

 

「少し休むくらい大丈夫さ。ちょうどいい時間だからね。お昼ご飯と、ロイドを連れてきた」

 

「あれ、フルーフ。もう外に出ていいのか?」

 

 わ、魔術キチだ。

 

「ロイド兄さん!()()()()()()!」

 

()()()()()()。体はもう大丈夫なのか? ……あれ、シルファもいるのか」

 

 アルベルト兄さん達からしたら俺とロイド兄さんは久しぶりの再会なわけだからな、夜に抜け出して色々してることがバレたら不味いし。

 

「ロイド様♡!!!」

 

 !?

 

 ……いや、そうか。

 シルファさんはロイド兄さんの従者だもんな。

 

 いや、それにしても。

 

「ロイド様♡、ようやく剣術稽古を受けてくださるのですね♡」

 

「んー? いや、俺はランチに誘われて来ただけなんだけど……」

 

 すごいな。

 主人とそれ以外で、ここまで態度変わるものなのか。

 

 いや、別にさっきの態度が悪かったわけじゃないが……。

 

「もしかして、フルーフは剣術を?」

 

「はい。フルーフ様の剣術稽古を頼まれまして」

 

 ……もしかして、ロイド兄さんはいつもこんな稽古をしてるのか?

 

 だから、あんな人の身体を労る気のない魔術を平気で使うのか……。

 

「そういえばシルファ、フルーフの剣術はどうだったんだい?」

 

「……才能はあります。しかし、どこか荒削りな部分が目立つかと」

 

「へぇ……なら、これからも時々フルーフの剣術稽古を頼んでもいいかな?」

 

「もとより、そのつもりでございます」

 

 え、マジで?

 

 今回だけじゃないのか?

 

 あれ何度もやるの?

 

 死ぬぞ?俺が。

 

「へぇ、フルーフって剣術もできるんだな」

 

「……ほんと、気づいたら隣にいるんですね。ロイド兄さんは」

 

 さっきまでアルベルト兄さんの後ろにいたのに、いつの間にか俺の隣に来ている。

 

 しかも、周囲に聞こえないよう小声で話しかけてきた。

 

「なぁなぁ。今日の夜も見せてくれよ、()()

 

「……今日もですか?」

 

 ロイド兄さんに呪術を見せてからというもの、

 何度か俺の部屋に来ては外へ連れ出し、「見せてくれ」とせがんでくる。

 

 まあ見せるのは構わないのだが……。

 

 今日は用事があるんだよな。

 

「今日の夜は用事があるので、無理ですかね」

 

「……けど城を抜け出すのは一緒だろ?」

 

「いやまぁ、それはそうですけど……」

 

 今日の用事は、なんというか……

 

「近くにいられると不味い、と言いますか……」

 

「なら見るだけ!見るだけならいいだろ?」

 

「………………まあ、見るだけなら」

 

 ()()の範囲外にいれば問題はないだろう。

 

 とはいえ、危ないことには変わりないが。

 

「ちなみに、何をするんだ?」

 

「……少し、()()()()を手懐けようかと」

 

 何せ今日は――

 

 魔虚羅を調伏するわけだからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──サルーム王国からしばらく離れた荒野、此処は俺が見つけた呪術を試すための研究場だ。

 

 

「──〝闇より出でて闇より黒く、その穢れを禊ぎ祓え〟」

 

「おぉ……結界か?……いや、それにしても随分とデカいのを出すんだな」

 

「ちょっと試したいこともあるので、広めに作ったんです」

 

 半径五百メートルほどか、ここまで大きい〝帳〟を下ろすのは初めてだな。

 

「絶っ対に離れていてくださいね。場合によっては巻き込むかもしれないので」

 

「俺としては巻き込まれるのもそれはそれでアリなんだけどな」

 

 ……ロイド兄さんが魔術師として超一流なのは分かる。

 この人、冗談じゃなく魔力量が海みたいにあるんだもん。

 

「十秒数えるんで、その間に離れておいてください。〝飛翔〟とか使えば余裕でしょう?」

 

「ま、余裕だな」

 

 ロイド兄さんは〝飛翔〟を発動すると、

 人間とは思えない速度で一気に距離を取った。

 

 ……いや、やっぱりアレ、人間に使っていい魔術じゃないだろ。

 

「……そろそろ、行ったかな」

 

 ……それじゃあ、さっさと始めるか。

 

「──布瑠部由良由良

 

 

 

 

 

 

 

 

──八握剣異戒神将魔虚羅(やつかのつるぎいかいしんしょうまこら)──

 

 

 

 

 

 

 

 

 帳によって元々夜闇に包まれていた周囲が、さらに深い影に呑まれたように暗くなる。

 その闇の中で、俺の目の前に繭のようなものが現れた。

 

 繭の周囲から現れた無数の蝦蟇と玉犬が、まるで王を迎えるかのように鳴き声を上げる。

 

 そして繭に罅が入ったのを視認した──次の瞬間。

 

「……いきなりか」

 

 こちらを斬り殺そうと振り下ろされた魔虚羅の一撃が、無下限のバリアによって止められる。

 

 だが、その直後。

 

 

── ガコンッ

 

 

 魔虚羅の頭上に浮かぶ方陣が、音を立てて回転した。

 

 そしてそれと同時に。

 ほんの少しだけ、魔虚羅の剣が俺に近付く。

 

「……これが〝適応〟ね」

 

 魔虚羅

 十種影法術において最強の式神。

 

 その強さは歴史が証明している。

 歴代でこいつを調伏できた術師は、存在しないとまで言われているほどだ。

 

 そして、その理由が──

 

「〝鵺〟」

 

 片手だけで掌印を結び、背中から鵺の()()()を不完全に顕現させる。

 

 空へ飛び上がり、鵺の翼を巨大化、広がった翼から極大の雷撃を落とす。

 

 しかし。

 

 

── ガコンッ

 

 

 頭上の方陣が回転した瞬間、

 魔虚羅は雷撃を浴びながらも、何事もないように動き出した。

 

「……ははっ流石、化け物性能してるな」

 

 魔虚羅を最強たらしめる能力。

 それが──『適応』

 

 攻撃、防御、環境。

 ありとあらゆる事象に適応し、最適解で対処する。

 

 いわば最強の後出しジャンケン。

 

「さっき無下限に適応したはずなのに、攻撃が少し近づいた程度で済んだってことは……やっぱり無下限への適応はそう簡単にいかないのか」

 

 分かるぞ魔虚羅……俺も前世で五条先生に「僕の術式使えるようになってよ」とか言われてほぼ無理やり解析させられた時はハゲそうになったからな。

 

「……とはいえ仮説は当たってた。今回、無下限を使うことにしたのは正解だったな」

 

 『究析術式』で解析した術式は、同時に二つまでしか使用できない。

 脳の処理が追いつかないからだ。

 

 しかも使用した術式は、最低でも10分は間隔を空けないと別の術式に切り替えられない。

 

 これでは半端な術式じゃ時間を稼げず『適応』で押し切られる可能性が高い。

 だからこそ術式は慎重に選んだ。

 

 十種影法術は、調伏の儀の都合上どうしても使う必要がある。

 ならばもう一つは、防御力と火力を兼ね備えた術式が必要になる……そうなると、無下限以上の術式なんて存在しない。

 

「……とはいえ、あと数回適応されたら突破されるのは明白、こっちもさっさと仕掛けるか──⬛︎、術式反転〝赫〟!!」

 

 呪文束を詠唱し、強化された〝赫〟を放つ。

 

 その瞬間。

 

 

── ガコンッ

 

 

「ッ、飛んだ!?」

 

 魔虚羅の背から翼が生え、空へと跳び上がった。

 

 まさか──

 ()()()()に適応したのか!?

 

「ククッ、見せてくれるじゃん」

 

 先ほど放った赫は空振り。

 まだ適応はされていない。

 ならば軌道を変え、背後から叩き込むまでだ。

 

「ッ思ったより速いな、お前!」

 

 赫が届くより先に、魔虚羅が距離を詰めてくる。

 

 鵺の翼だけじゃ避けきれない!

 

「ッ〝蒼〟!!」

 

 〝蒼〟によって俺自身を引き寄せ、辛うじて回避。

 

 同時に赫が魔虚羅へ直撃し、腹に風穴を開けた。

 

 しかし──

 

 

── ガコンッ

 

 

「……まぁ、これだけじゃ無理だよな」

 

 次の瞬間には再生し、

 先ほどよりもさらに速い速度で迫ってくる。

 

「っ、俺が逃げる()()にも適応してきてるわけね!!」

 

 〝蒼〟でも逃げきれない。

 

 なら──

 

「〝脱兎〟!!」

 

 服の影から無数の脱兎が飛び出し、球状に俺を囲う。

 

 だが魔虚羅はその群れを即座に蹴散らしそのまま攻撃。

 

 無下限のバリアによって、俺の眼前で魔虚羅の剣が止まった。

 

「……ッ効いとけよそこは、十種は正規の攻略法だろ?」

 

 

── ガコンッ

 

 

 逃げ回る俺を嘲笑うかのように、方陣が静かに回転した。

 

「⬛︎!──出力最大、〝赫〟!!」

 

 吹き飛ばして距離を取る。

 

 しかし。

 

「……あんまり効いてないな」

 

 出力最大の〝赫〟をくらったのに、思ったよりダメージが通っていない。

 無下限への適応は、俺が思っているよりも速く進んでいるらしい。

 

「さて、完全に適応されるまでにどのぐらい()()できるか」

 

 かつて一矢を報いることすらできなかった怪物を前に舌なめずりをしながら。

 俺は構えを取った。

 

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