転生したら第八王子だったので、早めに呪術を極めます 作:三世
〝赫〟を受けても尚魔虚羅は止まらない。
そのまま一直線にこちらへ飛び込んでくる。
「まさか、翼まで生やせるとは思わなかったが」
悪くない、予想外の収穫だ。
「しかし、こうなると空中戦は分が悪い」
背中に顕現させていた〝鵺〟を解除。
そのまま落下し、無下限で衝撃を殺して着地する。
直後、上空から影が落ちた。
潰しに来る気か。
「……ま、そりゃそうするよな」
最速最短で殺せる動き。
機械的で──だからこそ読みやすい。
──〝鵺〟+〝蝦蟇〟
「〝
小さな翼を生やした蝦蟇が十体、周囲に顕現する。
振り下ろされる一撃の直前。
即座に舌が絡みつき、その巨体を空中で拘束した。
「叩きつけろ」
落下の勢いごと利用し、地面へと叩き落とす。
倒せるとは思っていない。
だが、足止めにはなる。
──その隙に。
「出番だぞ、〝貫牛〟」
俺の陰から、水牛の姿をした式神が現れる。
「帳の端まで行って待ってろ」
命令と同時に、爆発的な速度で駆け出した。
「……ッ、もうちょい持ってくれてもいいんじゃねーの?」
魔虚羅の拘束が破られる。
いつの間にか不知井底は全滅。
解き放たれた斬撃が、こちらへ迫る。
「ッ──〝玉犬〟!!」
白と黒、二体を割り込ませ刃を受ける。
だが──
一瞬だけ。
剣先が、無下限に触れた。
嫌な音が鳴る。
──ガコンッ
「⬛︎ッ!最大出力、〝蒼〟!!」
膨大な引力が炸裂した。
魔虚羅の巨体が引き寄せられ、折り畳まれるように圧縮されていく。
やっぱり、赫に適応されても蒼はまだ効いている。
術式そのものではなく、もっと細かい範囲で適応は行われているのか
──ガコンッ
やっぱり、蒼程度なら耐えるか。
想定内だ。
本命は──こっち。
「来い、〝貫牛〟」
帳の端に待機させていた貫牛を走り出させる。
貫牛は相手と距離をとるほど威力が増す式神。
ここは帳の中心、端からは500メートルほど。
この距離なら確実に消し飛ばせる。
そして蒼は拘束。
逃がさないための布石。
適応が一度行われたからと言って、まだ蒼の引力から逃れることは出来ない。
そして。
「ダメ押しだ。〝満象〟」
押し潰し、動きを封じる。
確実に、当てる。
──バゴンッ!!!
衝撃。
貫牛が直撃し、肉体を吹き飛ばす。
首から下が、完全に弾けた。
……だが。
──ガコンッ
「……マジかよ」
首だけの状態から、瞬時に再生。
すぐさま距離を取ろうと赫の詠唱を試みる。
次の瞬間。
「ッ──がっ!?」
反応が遅れた。
赫を撃つよりも先に。
無下限を──貫かれた。
視界が揺れる。
右腕が、宙を舞ったのが見えた。
ドロドロと流れ出る血が、嫌に生暖かい。
「……マジか、おい」
想定よりもずっと早く
僅か三回の適応で
無下限に、適応された。
「……ふふ、なるほどな」
思わず笑いが漏れる。
「やっぱ仮説は合ってたか」
まさか三回の適応で無下限を貫通するとは思っていなかったが、収穫としては十分と言える。
「とは言えやっぱり、十種だけじゃ足りないか」
貫牛の距離をさらに取れれば、あるいは。
だが、あれで足りないなら歴代で誰も倒せていない理由も納得だ。
飛ばされた腕を、反転術式で再生しながら思考する。
「……もう少し試したかったが……仕方ない」
式神を使い潰せばもう少し検証はできるだろう。
しかしそこまでやる価値はない。
まあ正直言うと〝茈〟も試したかったが……赫と蒼を当てた感じで結果は大体わかりきっている。
ならやることは単純。
「本日最後の検証だな」
俺が
「……領域、展開」
確実に──潰す。
「……ほう?」
フルーフに言われた通り、『飛翔』で結界の端へ移動した直後。
──空気が変わった。
何かを唱えた、その瞬間。
いつの間にか、フルーフの目の前に“白い巨人”が立っている。
「……調伏の儀、ね」
なるほど、恐らく魔術で言うところの制約術式に近いな。
一度倒さなければ使えない、という“縛り”で性能を底上げしているわけだ。
……だが。
考察を続ける間もなく、状況が動く。
「……翼?」
フルーフの背中から、黒い翼が展開される。
「あれは……〝鵺〟か」
部分召喚。
必要な部位だけを引き出している。
次の瞬間。
翼が肥大化し──雷が落ちた。
「……へぇ」
想定よりもずっと出力が高い。
検証すると言っていた割に加減がないな。
「……ん?」
だが。
雷の中で──動いている。
「おかしいな……さっきは効いていたはずだ」
耐性?
いや、それだけじゃない。
ダメージそのものが消えている……回復したのか?
「あれは……翼?」
今度は魔虚羅の方だ。
さっきまでは無かったはずのものが、生えている。
理解が追いつく前に──
「お、〝赫〟か」
赤い閃光が放たれる。
威力は、雷の比じゃない。
「……飛んだ!」
魔虚羅が飛翔。
それを追うように、〝赫〟が軌道を変える。
「貫いた、案外脆いのか?」
上位魔術ぐらいなら一発は耐えられそうだが……
「……ほう?」
魔虚羅の腹を貫通したはずの穴が、再生している。
何事もなかったかのように。
「いつの間に?」
さっきの雷もそうだ。
効いていたはずの攻撃が、時間と共に
「ん、また〝赫〟か」
さっきより出力が高い、そして近距離。
先程貫いていたのを見るに、当たれば確実に倒せるだろう。
直撃した……が、しかし。
「効きが悪いな」
明らかに威力は上がっているのに、通りが浅い。
耐性の獲得──?
いや、それだけなら翼が生える様な変化の説明がつかない。
まさか──
「……っと」
気づけば戦場は地上に移っていた。
次の瞬間。
「っ、おお!!」
轟音。
牛の式神が一直線に突き抜け、魔虚羅の身体が吹き飛んだ。
「ああいう式神もいるのか」
異様な加速、態々遠くから突っ込ませたあたり、距離が威力に直結してる感じか。
あの速度であの質量が突っ込んで来たら、まあひとたまりもないよな
「……終わったのか?」
そう思った、その時。
──ガコンッ
「……お?」
音。
視線の先で。
首だけになったはずのそれが──
「……これも再生?……いや、違う」
理解が、遅れる。
そして同時に。
フルーフの右腕が、宙を舞った。
「ッ!?」
あの防御を破った!?空間に干渉したのか!
──いや、それよりフルーフは!
「────ハハッ!!」
その姿に、思わず笑いが漏れた。
「マジか!」
心底驚いた。
だがそれ以上に。
可笑しくてたまらない。
「──笑ってやがる」
あいつ。
腕を飛ばされて。
それでもなお──笑っている。
「……やっぱ、俺の弟だな」
未知を前にして、恐怖より先に好奇心が来る。
俺も同じ立場なら、同じ顔をしているだろう。
「──手印?」
いつの間にか、フルーフが右手で印を結んでいる。
何かを唱えた、その直後。
空間が──歪んだ。
「────なんだ、それ」
それはまるで──世界そのものを書き換えるかの様な
先程の魔虚羅に感じたものとは別の。
全くの未知が、起こり始めた。