転生したら第八王子だったので、早めに呪術を極めます 作:三世
美しい。
皆が命を賭して戦っている中で。
すぐ隣には、死にかけている後輩がいるというのに。
こんな感想を抱くのは間違っている──と、俺の中の「人」の部分が告げている。
それでも。
そんな声さえ掻き消されるほどに。
目の前の
──『
この世界に転生して真っ先に手をつけた研究だ。
俺が死ぬ直前に宿儺が見せたもの。
呪術戦の極地──領域展開の、更に深奥。
……しかし本来、領域展開は術師自身の生得領域を結界を用いて具現化する高等技術。
閉じない領域
それはつまり、キャンバスを用いず空に絵を描く様なもの。
まさに神技。
本来の俺なら、習得することはおろか、存在を知ることすら出来なかっただろう。
だが、しかし
俺はその『閉じない領域』を
究析術式の条件は充分に満たしている。
「領域展開」
俺の背後に、巨大な塔の様な建物が出現する。
「そう言えば、実際戦闘に使うのは初めてだな、コレ」
この領域内では、侵入した対象を常に
「今回は御厨子か」
絶え間ないほどの斬撃が魔虚羅へと襲いかかる。
とは言え魔虚羅はすぐにこれにも適応するだろう。
だから今回は、俺自身で
「『
この領域の最大の恩恵、それは
本来、俺が同時に扱える術式は二つまで。
六眼を持ってしても、三つ以上の発動は脳の処理が追いつかないからだ。
しかし領域内では、いつも自分の脳で行なっている処理を領域に肩代わりさせることで、無制限の同時発動が可能となる。
「〝
『赤血操術』の〝赤鱗躍動〟により膂力を補強。
『星の怒り』により自身へ仮想の質量を付与、威力を底上げ。
『投射呪法』による加速。
そして『無為転変』によって、加速に最適な肉体への変化、命の担保。
そして何より、『閉じない領域』による、全能力の上昇。
魔虚羅を一撃で確実に屠る手段は、いくつかある。
だが今回、俺が選んだのは──
超速・超質量による、轢殺。
──加速
『投射呪法』による加速で最高速に達するまでの時間は約10秒。
それまでに魔虚羅は間違いなく御厨子への適応を完了するだろう。
だが
この領域は
魔虚羅が適応を完了した時点で、領域に付与された術式は書き換わる。
十秒
その程度の時間
簡単に稼げる
「〝
最高速まで加速を完了した瞬間、砲弾と化した俺の肉体は魔虚羅に衝突。
適応する間も与えない。
魔虚羅の方陣だけが、その場に音を立てて落ちた。
「成程……流石に、これほどの威力ともなれば消えるか」
発動していた術式を解除しながら、領域を解く。
遠くからロイド兄さんの声が響いてくる中
俺はただ、地に落ちた方陣が消えていく様を、ぼんやりと見つめていた。
「アレは何だ!? あのデカい塔が出てきたやつ!!」
「……開幕から容赦ないですね」
まあ、俺も初めて見たときは似たような反応だった。気持ちは分からなくもない。
──にしても意外だ。てっきり魔虚羅のことを聞かれるものだと思っていたが。
「呪術による結界術の応用です。結界を基礎に、自身の生得領域──いわば心象風景を現実に創り出す技術ですよ」
「いや、でもアレは結界が降りてなかったぞ?」
「ええ、閉じきっていませんから」
ロイド兄さんがぶつぶつと呟き始める。……まあ、領域なんて理解に時間がかかる代物だ。
「…………なるほど。大体は分かった」
「今ので分かるんですか。すごいですね」
この人がわざわざ嘘をつくとも思えないし、本当に理解したんだろうな。
……マジで何なんだこの人。俺なんて理解するのに三年はかかったってのに。
「……だが、
「例えるなら、絵の具を宙に投げて、一瞬だけ絵に見える形を作るようなものです。本来は維持するのも難しいんですよ」
……最初は苦労した。できたと思ったら数秒で崩れたり、塔がぐにゃぐにゃになったり。
安定して発動できるようになったのは、六歳くらいの頃だったか。
「で、魔虚羅の方はいいんですか? そっちを聞かれるかと思ってたんですが」
「ああ、アレは何となく理解できた。〝適応〟……あるいは〝進化〟といったところか?」
「……戦闘もしていないのに、さすがですね」
アレを見ただけでそこまで分かるのは普通じゃない。
俺なんて前世で見たときは、何一つ理解できなかったのに。
「〝適応〟が正解ですね。〝進化〟も、あながち間違いではありませんが」
「〝空〟に適応して翼を生やす、〝赫〟や〝蒼〟に適応してダメージを通りにくくする……といった具合か。……だが、無下限への適応は妙に早かったな」
「そう、そこなんです」
これが、
「本来であれば、いかに最強の式神でも、無下限への対応があそこまで早く終わるはずがありません。少なく見積もっても五回は攻撃を受けて、ようやく攻撃が通るレベルです」
「だが今回は三回で済んだ……か。どういうカラクリだ?」
「恐らく、俺の術式の影響です」
俺の術式『究析術式』は、他の術式を発動する際に
『究析術式』を起動 → 対象の術式を発動
という手順を踏む必要がある。
「調伏の儀の最中でも、常に究析術式が動いている。その影響が魔虚羅にも出たんだと思います」
「つまり、魔虚羅の処理速度に、お前の術式の処理が上乗せされたわけか」
「それに加えて、俺の身体の影響もありますね。六眼の処理速度は桁違いですから」
……今更考えると、六眼持ちが魔虚羅を調伏するって、禪院家に対する最大の侮辱だよな。
……とはいえ、魔虚羅の処理速度が上がるのはありがたい。
何せ呪術の実験台になれる式神なんて居なかったからな、コイツがいれば呪術方面の研究も大きく進む。
「……それで? 魔虚羅を調伏したわけだが、次は何をするつもりだ?」
「その辺りはもう決めています。というか、今回の調伏自体、気分転換みたいなものですから」
正直、元の研究テーマは行き詰まっている最中だ。次の一手をどうするか迷っている。
「へえ、何を研究してるんだ?」
「ゴーレム作りです」
正確には、コンピュータに近いが。
「とはいえ専門外でして。完全に行き詰まっています。サルーム王国は魔術国家ですし、ゴーレム関連の書物も多くはないので……」
「なら、ゼロフ兄さんに相談してみたらどうだ?」
ゼロフ兄さん?……ああ。
「いつも研究室にこもってる?」
「そうそう。確か錬金術をやってるらしい。アルベルト兄さんに頼めば会わせてくれるはずだ」
……そういえばいたな。顔も見たことないが。
──研究者、か。
偏屈な職人気質だったら、ちょっと面倒だな……。