幸せになって欲しかった。

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百合初めて書くので初投稿です。温かい目で見てね。


酒に呑まれて流されて

 

私には、昔から憧れている先輩がいる。

 

憧れているというと少し違うかもしれない。というか、憧れていた、が正しいのかも。今は別の感情を抱いているから、憧れていたという形にしておく方が適切な気がする。

 

その先輩は私の高校のときの先輩だ。私が高校一年生の時に二年生だったから一歳年上になる。

 

『何してんの?』

 

初対面は校舎の屋上。普段は人が入れないそこで黄昏ていた私に声をかけてくれたのが先輩だった。

 

最初に見た感想は、「綺麗だな」だった。

 

ビル風にたなびく黒くて長い髪も、最低限の化粧で整えられた顔も、スカートから伸びる長く、褐色の脚も。そして何より、その澄んだ黒い瞳が。綺麗だと思った。

 

『ここ、立ち入り禁止なんだけどな……まぁ、アタシが言えたことじゃないんだけど』

 

可愛らしいクマさんのお弁当箱入れを持った彼女はポリポリと頬をかくとゆっくりと私の横に腰を下ろした。ラップに包まれたおにぎりを一つ私に手渡すと、食べる? と問いかける。

 

当時の私は確か一度は否定した気がする。なんなら拒絶したのだったか、そんなものいらないだとか、近づかないで、だとか、そんな言葉をベラベラと口にした気がする。今にして思えば本当に嫌な奴だ。

 

当時の私はまぁ、自分が可愛かったこともあってそれに起因したやっかみを受けていた。いじめだと言い換えてもいいのかも、それが理由で、それに我慢できなくなって、屋上で泣いていたのだ。誰にも近付かれない場所、気づかれない場所が欲しかった。だから走って、逃げて、たまたま開いていたドアを開けた。

 

そこで声を押し殺して泣く私に先輩は寄り添ってくれた。明らかに面倒臭くて、どう考えても地雷だ。私が先輩の立場なら回れ右までの速度は野球選手のストレートの速さすら超えるだろう。甲子園くらいなら抑えられるかもしれない。

 

でも彼女は私に寄り添ってくれた。おにぎりじゃダメならカフェオレを、カフェオレでダメなら財布を出して何か買ってこようか? なんて言う始末だ。とうとう私が折れてカフェオレを貰うことになったのは先輩の頑固さに屈した初めての瞬間である。その後も何度も先輩の頑固さに私が折れるのはまぁ、今思えば惚れた弱みだったのかもしれない。憧れの先輩が私にだけ頼ってくれているっていう事実に浮かれていたと言うことも理由に多分に含まれているけど。

 

『……嫌なことってたくさんあるじゃん』

 

プラプラと足を屋上で投げ出しながら先輩はそう言った。チラリとそっちの方を見てみると彼女の視界は青空に注がれていて、こちらには一瞥もくれていない。唇はイチゴミルクオレのカップから飛び出したストローに吸い付いていて、それが何処か色っぽかったことを覚えている。

 

『例えば部活の試合で負けたときとか、学校のテストだったりとか、周りからの評価だとか』

 

聞いてもいない言葉をペラペラと話した先輩は私の頭をぽすんと撫でてから爽やかに笑って、

 

『全部聞いてあげるから、これからお昼休みアタシにくれない? お互いに秘密の愚痴会しようよ』

 

この日から私にとっての唯一の先輩になった彼女とは、二年間。雨の日以外は毎日一緒にお昼休みを過ごした。幸せで、学校生活が楽しくなる、そんな時間だった。雪解けに咲いた花のように、私の心のオアシスになった。とことんまで幸せな二年だった。

 

その先輩は、こんな田舎の高校からスポーツ推薦で東京の大学に進学し、追いかけるのに苦労することになる。先輩が賢い大学に行ってしまったものだからこちとら必死に勉強したものだ。ない頭を振り絞って勉強した結果なんとか希望した大学に入ることができたこともいい思い出になっている。

 

それが、私の甘い、春の記憶───

 

だったのだけど…………

 

「アタシはもうダメだよ〜……!」

「先輩……そのセリフ今日12回目ですよ」

 

グビグビと下品に生ジョッキを飲み干した先輩はドン! とジョッキの底を机に叩きつけるみたいにして置いてからうわ〜ん! と机の上に倒れ伏した。

 

現在、私は大学2回生、目の前の華先輩は大学3回生。同じ大学に通う、これまた先輩後輩の関係だ。わざわざ先輩のことを追いかけて東京にまで進学した私の努力を神様くらいは褒めてくれてもいいと思う。

 

ちなみに私の妹はアイスを口に含みながら「お姉ちゃんの頭じゃ無理じゃない?」と言っていた。まぁ、合格したときは行かないでって泣いてたけど。

 

「うぅ……「やっぱり貴女私のこと好きじゃない」って言われちゃった……」

「そのセリフは5回目ですね」

 

数を数えておいて女々しいけど、その言葉を口にした瞬間チクリと胸が痛む。

 

この先輩、あろうことか私が東京に出てくるまでの間に恋人を作っていたのだ。しかも異性ならまだ諦めがつくものの、同性である。ふざけるな、という気持ちを押し殺し、普段通りの顔で祝福することができた自分を褒めてやりたい。これはおそらく私が女優業なんてものを始めたことも影響しているだろう。……とはいえその当時は事務所に挨拶に行った程度だったが。

 

ただ私が我慢しただけだな、これ。

 

「髪、ついてますよ」

 

髪の毛を取り除いてあげながらため息をつく。あんなに綺麗で凛々しかった先輩の面影はなく、汗で髪が顔に張り付き、顔をアルコールで赤らめ、むすっとした顔を崩さないまま、しかし瞳に涙を溜めて、幼子のように突っ伏す先輩を可愛いと思ってしまう辺り私はもう末期なのかもしれない。

 

「うぅ……」

「フラれてやけ酒なんてらしくないですね」

「アタシだって人間だからフラれてお酒くらい飲むよ……」

「いつもはアルコールなんて取らないでしょ」

 

頬杖をついて先輩を見つめる。すると決まりが悪そうにフイっと顔を背けた。どうやらそんなヤケ酒に後輩を付き合わせている罪悪感は持ち合わせているらしい。

 

私としてはそんなものよりも先輩には私という存在をこんなにも焦らしている責任をとって欲しいのだが。

 

「先輩だって薄々ダメなことくらいわかってたんじゃないですか?」

「なんでそんなこと言うのよぉ……」

「毎度愚痴に付き合わされてる可愛い後輩としては優しいレベルだと思いますけど?」

「アンタだけにしかアタシのこんなところ見せられないもん……」

 

……なんなんだこの人、誘っているのだろうか……? これもう行ってもいいやつ? ゴーサインだったりする? 私が鈍いだけだったりするのかな?

 

「まぁ、被害者は私だけでいいですね」

「被害者って……」

 

グビグビといつの間にやらお変わりしたお酒を飲みながら耳まで真っ赤にした先輩は特大のため息を一つだけ落としてから先輩は急にバッと顔をあげて私の方を見つめた。その目は少しばかり明るく輝いている。まぁ、おそらくは涙のせいではあるが。

 

「明るい話題にしよう!」

「はぁ……」

「やっぱりアンタまだモテるの?」

「まぁ……モテますけど」

「はぁ〜……やっぱり男も女もアンタみたいな小悪魔系の可愛い子がタイプよね……」

「褒め言葉として受け取っておきます」

 

先輩は段々と落ちていき、また机に突っ伏しながらスライムのように溶けてそう言った。まぁ、言葉通り褒め言葉として受け取ったので私としては大好きな先輩に褒められたわけだから今ウキウキなので明るい話題ではあったかな。

 

それはそれとして失恋のヤケ酒で恋愛の話を出すのは如何なものなのかとは思うけど。

 

そうやって数分程度言葉の交わされない時間が流れる。これは別に少し気まずい時間が流れた、というわけではなくて、ただ、話さなくても、無理に話題を繋がなくてもいい間柄だからこそ成り立つ時間だ。私も先輩もお互いに無駄な遠慮なんてものはしていない。

 

だからこそ、遠慮なんてものがない間柄だからこそ、こんな話題が飛び出したのだろうけど、先輩がコテンと首を動かしてから私に目を合わせる。そうして机に突っ伏したまま私に質問を投げかけた。

 

それは最悪の質問だった。

 

「……ところで経験人数何人?」

「酔ったからってそういうこと聞きます?」

 

少しムッとした顔をしながら先輩の言葉に棘の付いた言葉を返す。すると先輩は少しだけ申し訳なさそうな顔をした後言い訳マシマシな言葉を投げかけた。

 

「だってさぁ〜、こんなに可愛いから数も多いのかなって。女優なんてものも始めたし、昔よりモテるでしょ」

 

……なんだそれ、私はこんなに我慢しているというのに、先輩はそんなことを言うのか。こちとら彼氏も彼女も作ったことない純粋無垢清廉潔白の人間だと言うのに。ドロドロに汚してやろうか。なんてドス黒い感情を剥き出しにしたくなるが、敢えて一歩引いてみる。そしてゆっくりとお酒を飲み干してから返事をした。

 

「めっちゃセクハラじゃないですか」

「答えてくれない?」

 

先輩の目が潤んでいるのがわかる。なので、すぐにないです! と白状するのを辞めて、意地悪に返答することにした。だって、先輩も私にこんな仕打ちをしているんだから少しくらい意地悪してもいいでしょう?

 

「男の人は0」

「…………じゃあ女の子は?」

 

長い沈黙の後に先輩が机の上から上目遣いをしながら聞いてきた。ここまで人に見せられない姿を見せている先輩なんて初めて見る。私にだけこんな顔を見せてくれているのだと考えるとどうしても彼女のことが愛おしい。

 

「数えたことないけど……でも今から1増えるかな」

 

優しく手を握りながら頬杖を付いて微笑みかけた。私にできる最高最大最上級の誘い文句だ。こんな言葉を口走ったのはお酒のせいで、もっと言うのなら先輩のせいで、更にいうのならきっと私の3年間の努力と、我慢のせいだ。

 

破裂寸前の風船だったのだ。私に我慢なんて似合わない。お互いに遠慮のいらない関係だと言うし、それに先輩も私も今フリーだ。別に構わないだろう。

 

「………………うぇ? …………はぁっ!?」

 

たっぷり10秒以上掛けて物事を理解した先輩が椅子から立ちあがろうとするのを指を絡めて留めた。そしてニコリと、追い討ちの笑顔。

 

「もう、我慢なんてしませんから」

 

ここから、一年遅れの恋について、話すとしよう。燃え上がるような、溶けるような、茹だるような、そんな夏みたいな恋を。

 

…………………………その夜のことについては、まぁ、私だけが知っていればいいかな。元来、嫉妬深い性格なのだ、私は。

 

ただ、先輩はとても可愛かった。ということだけは言わせて貰おう。自慢の彼女だからね。

 

 

 

  × × ×

 

 

 

アタシには昔から可愛がっている後輩がいる。

 

可愛がっている、というと少し違うかもしれない。今は可愛がられてるかも、いや、別にこの言葉に他意はない。本当だよ? 本当。

 

その後輩はアタシが高校のときからの後輩で、アタシが高校二年生の時に一年生だったから一歳年下になる。

 

「何してんの?」

 

初対面は校舎の屋上。普段は人が入れないそこで泣いていた彼女に声をかけたのが始まりだった。

 

別にいつだってこんな風に声をかけるわけじゃない。アタシは高校時代王子様みたいな扱いを受けていたのでこういう厄介事は人が見てるなら率先して手を伸ばしていたけど、元来めんどくさがりな性格なので誰も見ていないとわかればメジャー投手のストレートくらいの勢いで振り返って他の場所を探したってよかった。でも、そうしなかったのには理由がある。

 

最初に見た感想は、「可愛い」だった。

 

頬を流れる真珠みたいな涙も、校則スレスレを飛び越えるようなメイクも、萌え袖も、短髪ツインテールも、そして、何よりもその琥珀のような瞳が。可愛いなと思ったから、アタシは声をかけたのだ。学園の王子様なんて言われていても本心のところはこんなに下心に塗れた存在なのだから笑えない。と自分のことを蔑みながら声をかけたことをよく覚えている。

 

「ここ、立ち入り禁止なんだけどな……まぁ、アタシが言えたことじゃないんだけど」

『…………だったら何ですか』

「別に、共犯者が増えるだけ」

 

可愛らしいクマさんのお弁当箱入れを持った状態で間抜けにも彼女の横に腰を下ろしたアタシはラップに包まれたおにぎりを一つ彼女に手渡すと、食べる? と問いかけた。今思えば普通に不審者とか、そういう部類の扱いを受けてもおかしくない。

 

『……なんのつもりですか』

「別に? なんのつもりもないよ。1人で食べるのも味気ないなって思ってただけ」

『1人で食べてください。関わらないで』

「あ、人のおにぎり食べられないタイプ? カフェオレがいい? 気に入らないなら何か買ってくるけど」

 

当時のアタシは、王子様なんて言われるのが億劫になってきていたところだったはずなのに、何故かせっせと彼女の世話を焼いたのを覚えている。声を押し殺して泣く彼女はどう見ても明らかに地雷そのものだったのに、我ながら甲斐甲斐しく世話をしたものだ。

 

 

結局、アタシの頑固さに負けて彼女はカフェオレを貰ってくれた。あの時の負けた顔はよく覚えている。可愛いのに、奥の方に負けん気が強い一面が隠れていてワンちゃんのようだと思った記憶がある。この後、何度も何度もアタシの我儘と頑固さに折れてくれる後輩の、最初の一回目だ。

 

あの時、アタシはなんて言ったのだったか。

 

「……嫌なことってたくさんあるじゃん」

 

プラプラと足を屋上で投げ出しながら話したことは覚えている。結構格好を付けようとしていた記憶があるから半分黒歴史みたいなものだけど。

 

なんとなく、励まそうと思ったから、可愛かったから。月並みに最低な言葉は出てくるのに、一番大事な言葉を理解するのに一年かかった。

 

一目惚れだったんだ。

 

「例えば部活の試合で負けたときとか、学校のテストだったりとか、周りからの評価だとか」

 

その当時アタシが煩わしくて仕方なかったものたち。期待も、将来も、そういった柵全部、本当に煩わしかったものをあげていく。でも、それすらも全て忘れられるんじゃないかって予感がした。

 

「全部聞いてあげるから、これからお昼休みアタシにくれない? お互いに秘密の愚痴会しようよ」

 

この日からアタシにとっての大切な後輩になった彼女とは、二年間。雨の日以外は毎日一緒にお昼休みを過ごした。幸せで、それでいて後悔に苛まれる二年間だった。

 

彼女にはまだ他に道があったんじゃないか、彼女の将来を潰したのではないか、彼女の成長を阻んだんじゃないか、それから……

 

ただの欲望で、彼女を縛ろうとした自分が、どうしようもなく嫌で仕方なくなったから。

 

だからアタシは東京の大学の推薦に乗った。別に部活を続けるつもりなんて本当に一ミリもなかったけど、彼女から離れたかった。彼女のその優しさに縋る前に、冷静になって、彼女の結婚式で「ほら、叶わない恋だった」って諦めるために。彼女に手が届かない場所にまで……

 

それが、私の苦くて、切ない春の記憶───

 

だったのだけど…………

 

「アタシはもうダメだよ〜……!」

「先輩……そのセリフ今日12回目ですよ」

 

グビグビと下品に生ジョッキを飲み干したアタシはドン! とジョッキの底を机に叩きつけるみたいにして置いてからうわ〜ん! と机の上に倒れ伏した。かつての学園の王子様はその姿を消してしまい、今となってはこのザマである。まぁ、この姿も幻滅して欲しいから彼女にしか見せていないが。まずお酒美味しくないから好きじゃないし。

 

現在、私は大学3回生、目の前の後輩は大学2回生。同じ大学に通う、これまた先輩後輩の関係だ。わざわざアタシのことを追いかけて東京にまで進学した彼女の努力は褒めるが、勘違いしかけてすぐに冷静に戻ったアタシのことを神様くらいは褒めてくれてもいいと思う。

 

「うぅ……「やっぱり貴女私のこと好きじゃない」って言われちゃった……」

「そのセリフは5回目ですね」

 

大体元カノを通して彼女のことを見ていた自覚はある。全然似ていない、別のタイプの女の子だったけど……琥珀色のあの瞳だけはよく似ていた。彼女から逃げるように付き合ったのに、そんな彼女にも後輩の女の子1人が理由でフラれるなんて皮肉なものだ。

 

全部全部赤裸々に話す。元カノとの話なんて幻滅して然るべき内容だ。大体異性じゃなくて同性と付き合っていたのだって今現在そのこと自体がアブノーマルであると言われる社会だ。彼女の方から身を引いてくれればよかったのだけど、そうもいかない。むしろお世話しますよ、とばかりにアタシに付ききりになった。

 

その度にアタシがどれほど手を出してやろうかと思ったか。すごく我慢したアタシのことを誰か褒めてくれ。

 

「髪、ついてますよ」

 

アタシの顔についた髪の毛を取り除いて、ため息をつく。その顔がどうしようもなく愛おしい。ただの先輩の失恋のヤケ酒に付き合うためだけにわざわざ服を新調してくるあたりアタシに気があるのだろうか……? と疑ってしまう。もちろんそんな邪心はすぐに追い出すのだが、いやでも……可能性ゼロか……? いけない……?

 

「うぅ……」

「フラれてやけ酒なんてらしくないですね」

「アタシだって人間だからフラれてお酒くらい飲むよ……」

「いつもはアルコールなんて取らないでしょ」

 

頬杖をついてアタシを見つめるその瞳に、決まりが悪くてフイっと顔を背けた。ヤケ酒に無理矢理付き合わせてしまっていることに対して罪悪感を抱いていることを見抜かれているらしい。

 

変なところで洞察力のある子なのだ。

 

「先輩だって薄々ダメなことくらいわかってたんじゃないですか?」

「なんでそんなこと言うのよぉ……」

「毎度愚痴に付き合わされてる可愛い後輩としては優しいレベルだと思いますけど?」

「アンタだけにしかアタシのこんなところ見せられないもん……」

 

少しだけチラッと見ながらそう言うと、彼女の顔が顰められたのがわかった。嫌だったのだろうか。まぁ、本来の目的としては少し距離を取るくらいのつもりなので痛くも痒くもないと言うかでもそれはそれとして彼女のことを傷付けるつもりもないし彼女に嫌われたいとも思っていなくてアタシが彼女に手を出さないギリギリの距離感を保ってくれればいいと言うかその距離感さえ保ってくれるのなら別になんでもいいというか……むしろ少し君は身を守った方がいいというか……

 

「まぁ、被害者は私だけでいいですね」

「被害者って……」

 

グビグビとお変わりしたお酒を飲み、顔を下に向ける。顔が良すぎる。なんでこの子こんなに可愛いんだろう……アタシみたいな邪な人間にはその顔は特攻なので辞めていただきたい。

 

なんとか彼女との距離を取りたい。その一心で案をなんとか捏ねくり回す。そうして一筋の光が差した。

 

…………それがアルコールに浸った脳が出した解答だということを忘れて口に出したアタシのことを引っ叩いてやりたい。

 

「明るい話題にしよう!」

「はぁ……」

「やっぱりアンタまだモテるの?」

「まぁ……モテますけど」

「はぁ〜……やっぱり男も女もアンタみたいな小悪魔系の可愛い子がタイプよね……」

「褒め言葉として受け取っておきます」

 

アタシは段々と落ちていき、机に突っ伏しながらスライムのように溶けてそう言った。まぁ、アタシとしては本音で話したけど、それでもそういう答えが返ってくるのは正直予想してたけど、予想よりダメージを受けたというか……まぁ、うん、知っていた。心を強く持とう、アタシ。彼女がモテることは知ってたし、男の子に告白されてるのをフッてるのだって見たことがある。だから大丈夫、まだ、我慢できる。我慢できる。うん。………………絶対この子が恋人出来たら泣くんだろうなぁ…………

 

そうやって数分程度言葉の交わされない時間が流れる。これは別に少し気まずい時間が流れた、というわけではなくて、ただ、話さなくても、無理に話題を繋がなくてもいい間柄だからこそ成り立つ時間だ。アタシもこの子もお互いに無駄な遠慮なんてものはしていない。

 

だからこそ、遠慮なんてものがない間柄だからこそ、あと、アルコールのせいでこんな話題が飛び出したのだろうけど、アタシはコテンと首を動かしてから彼女に目を合わせる。そうして机に突っ伏したまま質問を投げかけた。

 

それは自分でもわかるほど最悪の質問だった。

 

「……ところで経験人数何人?」

「酔ったからってそういうこと聞きます?」

 

少しムッとした顔をしながら彼女が棘の付いた言葉を返す。珍しいこともあるもんだ、可愛いな、怒ってても天使だ。とかそういう言葉が頭を通って思考を遮ったが、情けないことに謝罪の前にすぐに口からポロポロと飛び出したのは言い訳だった。

 

「だってさぁ〜、こんなに可愛いから数も多いのかなって。女優なんてものも始めたし、昔よりモテるでしょ」

 

……自分で言っておいてなんだが、辛い。彼女が、アタシから遠ざかっていくみたいで、辛い。本当ならアタシだけを見て、アタシの側にだけ居てくれればいい。だけど、そうはいかない。現実はそう甘くない、彼女を汚したくない、彼女と修復不可能な程に仲を断絶させたくない。言い訳と、欺瞞に彩られた本心はアタシという存在を禍々しくコーティングしていく。

 

彼女の眉がピクリと動いたのがわかった。

 

「めっちゃセクハラじゃないですか」

「答えてくれない?」

 

目が潤むのがわかる。ここで何人かとか言われたら多分泣いてしまうと思えた。それ程までにゾッコンだった。……古い言葉かもしれないが、それ程までに好きだった。

 

今、アタシは元カノを引き合いに出して自分の気持ちに踏ん切りを付ける儀式をつけようとしていた。最低な女だ。強くなんてない、なんて醜い女なんだろう。そんなアタシのことを、どうか、貴女だけは、貴女だけは…………

 

彼女の小さな口が少し開いた。

 

「男の人は0」

「…………じゃあ女の子は?」

 

長い沈黙。我慢できなくなって上目遣いで答えを急いてしまった。情けないことこの上ない。多分好意だってバレている。ここまで大っぴらにするつもりなんてなかった。ここまで人に見せられない姿を見せるつもりなんてなかった。彼女の前だからといってこんな顔を見せるつもりなんてなかったんだ。

 

「数えたことないけど……でも今から1増えるかな」

 

その言葉の意味を理解するのに数秒掛かった。

 

「………………うぇ? …………はぁっ!?」

 

大間抜けに立ちあがろうとしたアタシのことを彼女が指を絡めるようにして手を繋ぐことで止める。そしてアタシにいつも見せている悪戯な、小悪魔な瞳でこちらを見つめてからこう言った。

 

「もう、我慢なんてしませんから」

 

ここから、二年遅れの恋について、話すとしよう。燃え上がるような、溶けるような、茹だるような、そんな夏みたいな恋を。

 

…………………………その夜のことについては、彼女だけが知っていればいい。正直知られたいとも思えないし、アタシという人間が積み上げてきた全てが崩れてもおかしくないようなものだから。

 

ただ、まぁ、うん。邪な気持ちはお互い様だった。ということを伝えておくのと……あと、アタシの彼女は可愛いように見えてとてもかっこいいということもわかった。……年下にリードされるなんて情けないことこの上ないが酒の席の失敗は水に流せ、とも言うからね。そういうことにしておこう……すごかったなぁ……

 

 

 

 

 

 

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後輩ちゃん。

 

・先輩好きが高じて東京にまで飛び出してきた行動力全振りガール。先輩のことを振り向かせたい一心で女優になる、先輩の大学に入ったら速攻で履修登録を被せにいく。行動力の権化。この度その行動力と、我慢の限界が上手に相乗効果を得ることで大好きな先輩と付き合えることになった。可愛い攻め。

 

先輩ちゃん

 

・後輩ちゃんより早く恋心を自覚していたものの元来の臆病な性格が祟って彼女から距離を取ろうとする。それでいて面倒なことに嫉妬心だったりも持ち合わせている心底面倒なタイプ。後輩ちゃんが一途であったがためになんとかなった。割と崖っぷちの人。この度自分がどれだけ甘えた考えを持っていたのかわからされる。クールビューティ受け。

 





こんなにノリで普段は書かないんですよ。ただ、書いて欲しいって声も沢山あって、普段書いている二次創作の筆が乗らなかったので書いてみました。もしよければこの2人のことを末長く愛してやってください。

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