DLCまでの何かの足しになれば。
皆もエルデンリングやろう。そして考察しよう。
またこの小説は可能な限り原作を阻害しないように書き散らしていく予定です。
小童はある時墓守であった。
小童は命など嫌いであった。
命あるものは煩く喚き、喧しい。命の失せた後のほのかな輝きこそが命の価値であり、それ以外は取るに足らない。
小童は毎日石棺に遺骸を押し込み、滝の上から流し棄てる仕事をしていた。大した駄賃にはならないがそれでよかった。命に価値を見出さない彼には日々を紡ぐことすら興味が薄かったからだ。
雑言を聞き流しながら命の輝きを滝へと流す日々。
ある日その日々はあっけなく終わりを告げた。
外なる者が飛来し赤い腐れをまき散らし、生も死も全て腐敗させてしまった。運び込まれる死骸はすべて腐れ落ちており、生前の面影が残っているものなど皆無であった。
小童はいつものように石棺へ腐乱死体を詰め込み滝へと落としていった。気が付いた時には小童は赤く腐り、死体を持ち上げることができなくなった。小童は最早訪れる者がなくなった石棺群にて静かに息を止めた。滝へと流れが続くこの場所には足元に浅い水の流れがあった。よどみがないこの場所にて彼は静かに終わりを定めた。
小童はある時針子であった。
小童は装飾など嫌いであった。
彼は鎧鍛冶になりたがったが認められず服を仕立てる針子となった。
釦を付け、外衣を外し、胸元にやたら凝った紋章を刺繡する。
小童はこの仕事が嫌いで、ひどく無価値なものとしか認識していなかった。
その職務態度を推し量られたのか、彼は主に暇を言い渡され放浪をすることとなる。
放浪の旅を続けるうちに彼は一体の妖精と出会う。妖精は踊りが好きで踊りによって日銭を稼ぎ日々奔放に生きていた。
小童その妖精の衣装を直し、まともな服へと繕った。
妖精は小童の放浪に付き添い各地を旅した。
ある日小童は小童ではなくなっていた。瘦せ細り、皺が増え、針を握ることすら困難になった。そして彼は妖精に一着の衣装を仕立てた。流水のごとき透き通った青衣の衣装を。小童であったものはその後放浪を終えた。
小童であったものを妖精はとある滝へと運んだ。それはぶっきらぼうな彼が唯一妖精に語った彼の好む場所だった。
小童はある時剣士であった。
小童は戦いなど嫌いだった。
戦いを軽蔑し疎んでいた。
しかし彼は戦いをやめることなく、王朝の番人として侵入する敵を討ち滅ぼし続けた。
小童は戦いよりも命の喧しさの方を嫌っていた。比較的静かな王朝を好んだ彼は王朝の守護者として喧しき命を屠っていった。
小童は常に流れを作っていた。彼の周りに淀みは生まれず、剣閃は常に動き続け、人も獣も怪物も血の河の一部として流れ続ける。彼のその戦い方は他の剣士から流体の剣と呼称され多くの者が模倣したが彼ほどの流れを作り出せるものは終ぞいなかった。
剣士として多くの賛美や褒賞を贈られたが彼はその一切を固辞した。彼が求めるものは静寂であり賛美も褒賞もあまりにも遠いものでしかない。
小童の忌み嫌う戦いは彼が求める静寂をもたらすことはなかった。
大いなる意思がもたらした空からの滅びは王朝をいとも容易く消し去った。
小童は王朝だった場所を去った。
彼は悟った。永遠を謳った都はいとも簡単に滅び、彼の欲した静寂は彼が手を下すこともなく勝手に手に入った。欲するものは欲するからこそ手に入らず、そして望みもしない出来事によって訪れると。
しかし、小童は静寂の訪れた王朝を後にする。そこが既に淀み始めており、流れを好む彼はそれを看過できなかったからであろう。
彼の伝説を伝える者は滅び去ったが、彼の作り上げた流体の剣は模倣した者たちによって流れていった。小童である彼には分らなかったが模倣というものことの意味を。
彼の足跡を辿れた者はいない。
★★★
小童はある時杖を作る職人であった。
小童は魔術など嫌いであった。
星見の者が唱える魔術は彼の求める静寂とは相いれなく、また魔術師たちの口煩さには辟易としている。それでも彼が輝石の杖を作るのは彼に鍛冶の才はなく杖の加工程度の才しか彼にはなかったからだ。杖は魔術師にとっては武器であるそれは、際のないものからすれば旅を支える足となる。その機能性を小童は尊び、同時に自身の非才を嘆いている。
小童はこの時珍しく停滞していた。放浪癖のある彼にしては珍しく停留し、ともすれば嫌っていた淀みにはまりかけていた。
彼はこの時導を失っていたのだ。
小童にもできることとできないことがある。彼のできることと言えば、死体処理、裁縫、剣、などとそれなりにあるのだがどれも彼が求めているものとは程遠かった。惰性で杖の職人をしているもののやる気などないに等しかった。
そんな小童であったが評判自体はよかった。彼の杖は魔術の腕に左右されない一種の平等な杖であり、軌跡を用意すればこそ初心者から老練な魔術師全員に分け隔てなく杖を加工していたからだ。使い勝手いい杖はそれだけでいいものに足るのである。
故に彼の評判は魔術師――ひいては星見の一派に知れ渡り、湖に居を構える一人の少女のもとにも広まっていった。
旅の護衛をして欲しい。
その少女は開口一番そんな依頼を小童に伝えた。
胡乱げな目で彼は少女を見つめ返すと、少女は少し不安そうな様子を見せる。少女の衣装は星見の者によくみられるローブに素足の姿で、白い肌は月のようにすら見える。ローブ自体はありふれたもので、多少汚れてさえいたが、その少女の叡智のうかがえる瞳や出で立ちがおおよそ凡に属することではないことは人に疎い小童でも察することができた。
何か事情がある。
小童はそんなことを考えるよりも先に、
「いいぞ」
と返事をした。
小童からすれば、護衛の依頼も、少女の背景も興味に足るものではなかった。
今、淀みにも似たこの停滞を打破することのみが彼の思考だった。
少女は表情を動かすことはしなかったが小童に手を差し伸べて返事をした。
疎い彼でもその仕草の意味は伝わった。
小童は薄汚れた傷だらけの手を少女の白い手に重ねたのだった。
小童はこの時護衛となった。
何かを守ることを小童は不得意ではなかった。
依頼主の少女は余計な事は喋らない少女であった。星見らしく夜となれば星を追い、魔術に関しての何かしらの知見を得ているようである。
依頼主が沈黙を保つことがこの少女なりの小童への敬意であると旅を続けるうちに彼も察した。それは小童が静寂を好むことや、口煩き魔術師どもに嫌気がさしていたことを少女がどこからか聞き及んでいたことを示す。少女は聡く、それでいて人を仕えさせるものとしての心得を持ち得ていた。
少女の旅の目的は星を追うことである。
小童はそこに興味はなかったが旅路が遠き秘境の雪山を目指すものと知り、彼は関心を示した。
雪の山は流れの源の一つである。小童は流れを求めていた。
旅路はつつがなく進んでいった。
障害はいくつもあり、襲い掛かる者たちや険しい地形など決して安易な道すがらではなかったが、流体の剣たる小童の流れを堰き止めるものはなく、また少女の探求は滞りなく続けられた。護衛たる彼は知性なき獣どもを追い払い、坩堝の生命たちをなぎ倒し、品がない賊たちを打倒した。その淀みなき剣を受けきれる者などおらず、彼の剣の弧の後には血が流れるばかりである。
依頼主の少女は小童の働きぶりを称賛することもなければ叱責することも決してなかった。彼女は契約としての糧と金銭のみをもって護衛の働きに答えた。その関係に言葉はなく、しかし彼の好む静かさだけがあった。
一面の銀世界である雪山には流れは見えなかったが、しかし小童の好む静寂はあった。雪の降る山はひどく静かで静寂の形の答えがあるように彼は感じた。
雪山を進むに連れ少女はよくよく星を観察するようになった。それは小童が熊を屠り、竜を落とし、巨人を屈服させているときも構わず続いた。山は星に近く、特に雪山はよく星が見える。星見にとっては重要な土地である。小童は少女の行動に特に口を挟むことはなく、ただ護衛としての仕事を果たした。
長くない時間が過ぎたのち、星見の少女は満月を見出した。
そこには正しく少女の求めるものがあった。
程なくして、少女とその護衛は雪山を降りていくこととなった。
それは旅の終わりを知らせていた。
星見の少女はこの時星ではなく護衛の姿を見ていた。
流れを止めることのない淀みなき剣士であり、寡黙に仕事をこなす契約者。
星見の少女はこの護衛のことをよく周りの魔術師から聞いていた。
良くも悪くも噂になる杖職人であり、同時に誰も彼の経歴について知りえていなかった。
興味を持ったから近づいたという理由もあるが、どうやら相当な剣の使い手であるという噂も少女の求めるものと一致していた。
少女は護衛を求めた。それは少女自身の旅であり、どの魔術師にも属さない答えを探すための護衛である。
強く、魔術師の一派に属さず、それでいて仕事を黙々と熟す。
それは少女の欲した人材であり、あるいは理想であった。
少女は帰り道、今までの沈黙を破り護衛に対して一つの提案を投げかけた。
この旅が終わり、私が女王となった暁には私の騎士として仕えないか?
護衛は出会った時と同じ胡乱げな目で少女を見た。
「いいぞ」
彼は語らず、迷う素振りもなく返事をした。
少女は安堵し、同時に少しばかりの不満を覚えた。
結局のところ、少女と護衛の関係性は発展しておらず、護衛は肩書のみ将来の騎士と変わったのである。
この時から流体の剣士は騎士となる。
後の時代に名を馳せるカーリアの騎士、旧き流れの騎士として。
流体の剣士の装束
旧き流れ、ユーフラの装束
淀まぬ流れを表す
戦技の使用のスタミナを少し抑える
かの剣士の経歴は誰にも知られていない
ただ流水の剣に通ずるものがあるとされる
伝説は残されずされど模倣は伝授されたのだ