大学で一番かわいい先輩を助けたら呑み友達になった話   作:枩葉松

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大学で一番わるい同級生とお泊まりに行った話②

 

 昼下がり。

 新幹線は目的の駅に到着。

 

 朱日先輩と一条先輩は駅まで来ていた迎えの車に乗り、旅館へと向かった。

 

 ……今のところ、何の問題もない。

 二人とも楽しそうで、一条先輩も大人しくしてて、本当に怖いくらい何の問題もない。

 

 できれば旅館の中までついて行きたいが……まあ、流石に無理だよな。

 物理的にというか、常識的に。

 朱日先輩と縁のある旅館らしいから、もし仮にバレたりしたらあのひとの顔に泥を塗ることになってしまう。それは避けたい。

 

「セキュリティがちゃんとしてるとこって言ってたし、俺も夜までは適当に過ごしとくか……」

 

 暗くなったら、旅館近くで朝まで張っていればいい。

 それまでは、体力を温存しておこう。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 旅館にチェックイン後、部屋で少し休憩。

 移動の疲労が和らいだところで、夕食までにお風呂に入っておこうという話になった。

 

「今日の宿泊客、私たちだけだそうです。なので、大浴場もふたり占めですよ」

「ふぇっ!? あっ、あっ! う、うん!」

 

 木の温かみがある脱衣所。

 やわらかな照明に、温泉のいい匂い。

 そして何より、しゅるしゅると服を脱いでゆく朱日さん。

 

 ……や、やばい。目が離せない。

 

 見ちゃダメだ! 見ちゃダメだ! 見ちゃダメだ!

 こんな血眼で凝視してるのがバレたら、絶対に気持ち悪がられる!

 

 くっそぉおお!! 何だって今日は、アイマスクの着用を義務づけられてないんだ!?

 見えなかった時は、何の心配もなくドキドキするだけでよかったのにぃいいいい!!

 

 ……も、もうこうなったら仕方がない。

 これしかない……!!

 

「では、そろそろお風呂に……ん? あの、晶さん?」

「……」

「一体、何を……?」

「ご、ごめん。まだ僕、心の準備ができてなくて……」

「はい?」

「直視したら死ぬと思うから……い、一旦このままで……」

 

 どうしようもないため、手ぬぐいを巻いて目を塞いだ。

 そんな僕を見て、「仕方ないですね」と朱日さんはため息混じりに言う。

 

 ……うぅ、情けない。

 情けないぞ、僕。

 

 せっかく朱日さんが用意してくれた、スケベチャンス。

 据え膳食わぬは何とやらというが、まったく恥ずかしいにも程がある。

 

 もしかしたら、これが朱日さんの裸を拝む人生で最後のチャンスだったかもしれないのに……。

 

「晶さん」

 

 僕を大浴場へ誘導しながら、朱日さんの声が耳元で鳴った。

 

「私、親友として普通のお泊りがしたいからさ。部屋のお風呂に入る時は、ちゃんと見てよ……?」

 

 僕が親友として振る舞えていないことへの反省はある。

 しかしそれよりも、ちゃんと見てという求めに、感情がにじむ声音に、僕が絶頂しそうだった。

 

 というか、した。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「かんぱーい!」

「か、乾杯……朱日さん、平気? もう結構呑んでるけど……」

 

 お風呂に入って、美味しい夕食を食べて、待ちに待ったお酒の時間。

 事前に用意してもらっていた地酒で、晶さんと晩酌を楽しむ。

 

「へーきへーき! せっかくの旅行だし、どんどん呑んじゃおーっ!」

 

 ぐいっとお猪口の中を空にして、大きく息をついた。

 

 ……楽しい。

 要君以外と呑むの、新鮮でちょー楽しい!

 

 去年の冬以降も何度か晶さんと呑み会をしたが、毎回そこには要君もいた。

 でも、今日は二人っきり。女だけのお酒の席。

 お酒が美味しいのもあって、この状況にテンションが上がる。

 

「ホントに朱日さんって、酔うと別人だよね。……実は別人だったりする?」

「えー? じゃあ、確かめてみる? 本物だったら、胸の下にホクロが三つあるよ」

「何そのエロ判別方法!? ほ、本当に数えちゃっていいの!?」

「えへへー。ダメでーす♡」

「ぬわぁ!! この手玉にとる感じは本物だぁー!!」

 

 大袈裟にのたうち回る晶さん。

 その姿を見てゲラゲラと笑い、もう一杯酒をあおる。

 

「ところで、この前の要君との誕生日会、楽しかった?」

「…………えっ?」

「ん? 何かあったの?」

「い、いやいやいや! 何もない! 何もなかったよ!!」

 

 突然顔を真っ赤にして、全身を使い強く否定する。

 

 ……ははーん?

 これは何かあったな?

 

「あっ! 何かあったって言ったら、僕のセフレの一人に襲われたことくらいかな? あれは本当に大変だったよ……」

「要君からも聞いてる。勝手に入って来ちゃったんだって?」

「包丁とスタンガン持ってね。……まあ、どっちも糸守クンには効かなかったけど」

「まあ要君を何とかしたかったら、最低でも実弾はいるからねー」

「その実弾も避けちゃうけどね」

 

 合図をしたように、同時に苦笑いを浮かべた。

 

「あっ、そうそう。正月は糸守クンの実家に行ったんだろう? 彼のお父さんって、どんな感じだった?」

「んー……要君から自信ない感じを引いて、ガサツさと暴力性と筋肉を足した感じかな?」

「……失礼だけど、それってただの化け物じゃん」

 

 遠慮のない物言いに、思わず吹き出してしまった。

 

 ビジュアルも雰囲気も、凄まじかったからなぁ……。

 空手道場の師範の傍ら、近所の幼稚園のバスの運転手もやっているようで、あのひとが送迎してくれるなら保護者も安心だろう。たぶん、第三次世界大戦が起きても守ってくれる。

 

「メチャクチャだったよ。要君のこと、ナイフで刺しちゃうし」

「な、何で!? 事件だよそれ!?」

「実戦を想定した訓練だってさ。一応、重要な血管と内臓を避けて刺したみたいだけど」

「重要な血管と内臓の位置を把握してるのも怖いし、大丈夫だからって実の息子を刺せる精神性も怖いんだけど……」

「要君もお父さんの足折ってたし、お互い様って感じなんじゃない? 男の子の世界はよくわかんないね」

「男の子の世界ってレベルじゃないって……」

 

 晶さんが引くのも無理はない。

 私も血まみれの二人が帰って来た時は、気絶しそうになったし。……妹の霞ちゃんは平然としてたけど。糸守家では、そう珍しいことではないのだろう。

 

「でも、楽しいお正月だったよ。あんな風に過ごせたのは、晶さんのおかげ。ありがとね」

「えっ? いや、僕は何も……」

「去年、晶さんが色々動いてくれたから、うちのうるさい関係者たちが口を閉じてるんだよ。晶さんが頑張ってくれなかったら、絶対にお正月も何か妨害されてたし」

「……まあ、褒めてくれるなら素直に受け取っておくけど。お礼として、キスしてくれてもいいよ?」

「キスはダメだけど……はいこれ、受け取って欲しいな」

 

 鞄から用意していたものを取り出して、晶さんに渡した。

 彼女は「えっ、なに!?」と目を輝かす。

 

「誕生日プレゼント、まだ渡してなかったでしょ? おめでとう、晶さん」

「わーっ! ありがとう! なにこれ……って、うわ、ピアスじゃん!?」

「ほら、これ見て。私が今日着けてるのと同じの。お揃いって、親友っぽくない?」

「~~~~っ! う、うん、親友っぽい! 僕もすぐ着けるーっ!」

 

 目をキラキラと輝かせながら、手早くピアスを装着。

 そして肩を寄せ合って、パシャリと自撮り。

 

 ふふっ、こういうの初めてした。

 印刷して部屋に飾ろっと。

 

「お酒もなくなってきたし、もう一回お風呂入る前に外を散歩しない? このあたり、景色もすごくいいんだ」

「つまり、僕とデートしたいってこと?」

「うん。外は寒いからさ、私の手、握っててくれる?」

「……っ! わ、わかった……!」

 

 デートという言葉に、私がツッコムと思ったのだろう。

 しかし受け止められ、それが嬉しかったのか、晶さんは軽く頬を染めながら外出の準備を始めた。

 

 

 

 

 

 このお散歩がとんでもないトラブルに発展することを、私たちはまだ知らない。

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