大学で一番かわいい先輩を助けたら呑み友達になった話   作:枩葉松

104 / 104
大学で一番わるい同級生とお泊まりに行った話⑥

 

「――――……さん? 晶さんってば! 話聞いてた?」

「えっ? あ、ごめん。ボーッとしてたかも」

 

 朱日さんのおっぱいに触ってしまった。生で。

 その感動に酔いしれている間に、彼女が何か言っていたらしい。

 

 まずいまずい。

 しっかりしないと。

 

「だから要君のこと、ごめんね? 色々と荒っぽい感じになっちゃってさ」

「いや、気にしてないよ。そもそも、うちの親父がしっかりと情報共有してたら、こんなことにはならなかったわけだし。糸守クンのこと、怒らないであげて」

 

 実際問題、ただでさえメンタルが弱い糸守クンが、これだけ問題続きな僕たちを放っておけるわけがない。こっそりとついて来ることを見越して、最初から一緒に泊まるべきだっただろう。

 

「にしても彼……」

 

 ため息混じりに言って、お猪口を手に取り酒で唇を濡らす。

 

「何をどうしたら、素手で車を壊せるのさ。今までも散々人間離れしてたけど、ちょっと今回のは度が過ぎてるよ」

「あははっ。あれはちょっとビックリしたね」

「あそこまで強くなったら、もう敵とかいないでしょ……」

「んー、どうなんだろ。俺は父さんには敵わないです、って要君言ってたし」

「あれより強いって、どんな親父なの……?」

「でもそのお父さんは、マジで殺り合ったら全盛期の俺でも要には勝てない、って言ってたけど」

「何そのバトル漫画みたいな親子関係!?」

「男の子って楽しそうでいいよねー」

 

 と、朗らかに笑う朱日さん。

 

 ……本当にすごいな、この子。

 僕みたいなのと仲良くしてくれた時からわかってはいたけど、器の大きさが尋常ではないし、桁外れに肝が据わっている。時代が時代なら、一国一城の主とかになってたんだろうなぁ。

 

「ところでさ」

「ん?」

 

 空になったお猪口に、朱日さんは追加の酒を注ぐ。

 それをありがたく受け取って、舌の上へ転がした、その時――。

 

「晶さん、要君のこと本気で好きでしょ?」

「ぶふぅうううう!?」

 

 思い切り吹き出した、彼女の顔目掛けて。

 彼女はそれを無言で拭って、ニコリと笑う。

 

 その笑顔が僕の目にはあまりに恐ろしく映り、「あ、え、いや、そのっ」とわかりやすく動揺しながら後退る。

 

「どこ行くの? こっちおいでよ、おっぱい触ってもいいから」

「それはすごく触りたいけど、一旦待って! その顔やめて!」

「何で? 私、別に怒ってないよ?」

「絶対怒ってるじゃん!? 怒ってるひとの台詞だよ、それ!!」

 

 朱日さんは酒をひと口呑み、小さく息をついて。

 「っていうかさ」と、目を細めた。

 

「動揺してるばっかで否定しないってことは、やっぱりそうなんだね」

 

 その言葉に、ハッと言葉を失った。

 

 足りない頭を回してここから挽回する作戦を練るも、焦りとアルコールで何も出てこない。

 ただ無言の時間が流れ、それが僕から言い訳の余地を奪う。

 

 ……もう無理だな、これ。

 僕は嘆息しつつ、すごすごと元の位置に戻る。

 

「うん……たぶん僕、糸守クンに惚れてる……」

「私より好き、ってこと?」

「……そう、かも……」

「付き合いたいって、そう思っちゃったわけだ」

「……っ」

 

 頷く。

 小さくだが、しっかりと。

 

 言った。

 言ってしまった。

 

 自分なりにのらりくらりと誤魔化していた感情が、言葉にしたことで明確な輪郭を帯びて形になった。熱い感情が胸を焼くのと同時に、冷たい汗が額ににじむ。

 

「そっかー……」

 

 そう呟いて、ぐいっとお猪口の中身を呑み干した。

 

 ……これは、流石の朱日さんも怒るだろう。

 朱日さんと糸守クンの二人を平等に愛していたからこそ、ある意味、僕は彼女から信用されていた。それがどちらかに傾けば、当然この関係性は崩壊する。傾くのが彼なら、なおのこと……。

 

「わかるっ!!」

 

 ――パシッ。

 気さくな声と共に、肩を叩かれた。

 

「要君、いいよね! 強いし、優しいし、カッコいいし!」

「あ、あの……」

「気弱っぽいのに実はどっしりしてて、かなり包容力あるし!」

「……朱日さん?」

「そりゃ惚れちゃうよねー、うんうん」

「怒って、ないの……?」

「さっきも言ったじゃん、怒ってないって。何で私が怒るの?」

 

 何で……?

 回答に困る僕に対し、「正直さ」と彼女は続ける。

 

「こうなることは、薄々わかってたんだよね。だって私たち、似てるところあるもん。だったら、同じひとを好きになっても不思議じゃない。そうじゃなくても、要君がモテることに違和感とかないし」

 

 湯船から両腕を出して、うんっと身体を伸ばした。

 沢山の水滴が流れ落ちながら、彼女の肌を艶かしく彩る。

 

「……大丈夫だよ、安心して」

「ん?」

「僕……親友を悲しませるようなことはしたくないから。変なことはしないようにするし、少なくとも、今後は彼と二人っきりになるようなことは――」

「何で? 今まで通りでいいじゃん」

 

 あっけらかんと言い放つ。

 可愛らしく、小首を傾げながら。

 

「私から諦めろなんて言わないよ。私が晶さんの立場なら、そんなの絶対に無理だし。欲しいものは手に入れないと気が済まない性格だから」

「……じゃあもし、僕が君から糸守クンをとっちゃっても、それでいいってわけ?」

 

 ぱちりと、黄金の瞳がまたたいた。

 人間離れした美しさを宿すその双眸は、温泉の湯気に濡れながらまっすぐに僕を映す。怒りも憎しみもない、ただただ透き通った感情を宿して。

 

 

「その時は、全力で取り返すだけだよ。私、世界中の誰よりも要君のこと好きだから」

 

 

 声音こそは、とても優しいもの。

 ただ、正々堂々かかってこい、全力で迎え撃ってやると、そういう激しさを孕んだ言葉だった。

 

 ……そうだ。そうだよ。

 僕が好きになった女の子は、必要なら他者との衝突を恐れない、とても強い女の子だった。

 

「僕、さ……」

「ん?」

「ここまで本気で好きになったの……糸守クンが初めて、だと思うんだ」

「うん」

「だから、朱日さんがそう言うなら遠慮しないよ。全力でぶつかるからね」

 

 返事はなく、代わりにお猪口を手に取った。

 カンと乾杯して、酒をあおる。

 

「……ところでだけど、さっきおっぱい触ってもいいって言ってたじゃん? 今からでも触っていい?」

「ええー? もうだめー♡」

「何でぇええええええええ!?」

 

 酒気と共に口から漏れた白い息が、冬の空へとのぼってゆく。

 僕の絶叫と共に。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「おかえりなさい。どうでしたか、お泊りは」

 

 翌日の昼下がり。

 朱日先輩が旅行から帰って来た。

 

 玄関に立つ彼女は、いつもの無表情。

 しかし俺を見て、数回まばたきして、なぜかムーッと眉を寄せて。

 

「要くぅううううん!!」

「ちょ、えっ!? 朱日先輩!?」

 

 旅行鞄をその場に落とし、靴を脱ぐ手間も惜しんで抱き締められ、そのまま押し倒された。

 

「ど、どうしました? 何かあったんですか……?」

「……大口叩いたけど、ちょっと不安になっちゃって……」

「はい?」

「要君は私のだからね! 私だけの要君だからね!」

「は、はい……そう、ですね……」

「好きって言って!!」

「えぇ……? す、好きですよ。大好きです、朱日先輩」

「もっとぉお!!」

 

 何がどういうわけかまったくわからないが……。

 その日はずっとこの調子で、コアラのように俺にくっついたまま過ごした。

 




 『大学で一番わるい同級生とお泊りに行った話』はこれで完結です。
 楽しんでいただけたなら幸いです……!

 長い間お付き合いいただき、ありがとうございました!
 今後も番外編の投稿、新作の投稿などしていくかもなので、その時はよろしくお願いします!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。