大学で一番かわいい先輩を助けたら呑み友達になった話   作:枩葉松

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第13話 嫌いなんだって、争い事は

 

「……おい、見ろよ」

「へぇ、あれが噂の……」

「何か思ってたよりフツー」

「実はめちゃくちゃ金持ちとか?」

「あー、それだ」

 

 それだ、じゃねえよ。

 俺の財布の中身見せてやろうか。そこら辺の中学生の方がまだ持ってるぞ。

 

 ってか、授業中に喋るな。他の奴らも俺を見るな。

 大学に何しに来てんだよ。

 

「はぁー……」

 

 誰にも届かないよう、小さなため息を漏らした。

 先輩に弁当をもらってから一日経ち、多くの学生の間で俺はすっかり天王寺朱日の彼氏ということになっていた。

 

 まあ、そうなるよな。食堂であんなことしたら。

 

 ただ可愛いだけの女子だったら、誰も噂などしなかっただろう。

 しかし、先輩は色々な意味で格が違う。そんな人に彼氏ができた、というニュースに食いつきたい気持ちは、いくらか理解できる。

 

 百歩譲って、俺が注目されるのはいい。

 不安なのは、この勘違いに対する先輩の反応だ。

 

 嫌がっていないだろうか。……それが気掛かりで仕方がない。

 

「ねえ、糸守要ってキミのこと?」

 

 唐突に話し掛けられ、既に授業が終わっていることに気づいた。

 声の主は、ギラギラとしたアクセサリーが目立つ赤茶髪の中性的なイケメン。……こいつ知ってるぞ。よく先輩と一緒にいて、前も食事に誘ってた男だ。

 

「……そう、ですけど」

「やっぱりそうなんだ! 僕は三年の一条(いちじょう)(あきら)、よろしく!」

「は、はあ……」

 

 先輩には劣るものの、この人も相当顔がいい。

 アイドルか俳優のようなイケメンに馴れ馴れしく話し掛けられ、同性ながら緊張してしまう。

 

「天王寺さんのことで、ちょっと話したいことがあってさ。このあと時間あるかな?」

「先輩のことで、話したいこと……?」

 

 今日の授業はこれで全て終了。時間に余裕はある。

 外で鍵を無くしても家に入れるよう合鍵をポストの中に隠しているため、それを先輩に教えれば家の外で待ちぼうけを食らわせることもない。

 

「その話っていうのは、ここじゃダメなんですか?」

「難しいかな。ひとがいると……ちょっと、ね」

 

 あぁ、なるほど。

 きっとこの人は先輩に気がある。だからあの噂を聞いて、いても立ってもいられなくなったのだろう。

 

 ……まいったな。

 これ絶対、俺に文句を言う感じのやつだぞ。

 

「嫌だって言ったら、どうします?」

「その時は明日も来るだけだよ。明後日も、明々後日もね」

 

 ひとの良さそうな笑みを装着しているが、目と空気は本気だ。

 

 ……仕方ない。

 どんな文句を言われたところで、別に付き合っていないのだからそう説明すればいい。明日も明後日もちょっかい出されるくらいなら、面倒事は早めに終わらせておくに限る。

 

「わかりました。ただ、遠いところに行くのは勘弁してください。電車賃に困るくらい懐が寂しいので」

「心配ないよ。車を用意してあるから」

 

 一条先輩に連れられ、大学近くの駐車場へ。

 そこには、おおよそ大学生が乗る代物ではない、ピカピカに磨かれた真っ赤なスポーツカーが停まっていた。

 

 ……こいつも金持ちかよ。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「どこですか、ここ?」

「知り合いが店をやっていたんだけど、上手くいかなくてね。僕が中身ごと買い上げて、ちょっとした秘密基地にしてるのさ」

 

 連れて来られたのは雑居ビルのとある一室。

 元々スナックか何かだったようで、カウンターの奥の棚には様々な酒が並び、テーブルや椅子が無造作に置かれていた。

 

「まあ座って。何か呑むかい? 大抵のものはあるけど」

「い、いや、結構です」

「そう言わないで。せっかくだから、とっておきのウイスキーを出してあげるよ」

「だから俺は――」

「呑むんだ。あと座れ。二度も言わせないで欲しいな」

「……はい」

 

 これ以上抵抗して機嫌を損ねても面白くないため、仕方なくカウンター席についた。

 

 わかりやすい高級車に買い上げたというビルの一室、そして高い酒。

 経済力を誇示することで、精神的にも人間的にも自分の方が上だと言いたいのだろう。

 

 確かにどれもすごいが、天王寺先輩に出会った今は、自前のスペースシャトルくらい持って来てもらわないと驚けない。

 

「どうかな、美味いだろう?」

「……あぁ、はい。ありがとうございます」

 

 酒の味の違いがわかるほど舌が肥えていないため、正直呑みやすいか呑みにくいかくらいでしか判断できないが、出された手前美味いと言う他ない。

 

「それで、俺に話したいことって何ですか?」

 

 こんな所に長居したところで何の得もないため、早々に本題に入った。

 一条先輩は煙草に火をつけ、「想像はついてるでしょ」と煙をくゆらせる。俺は小さくため息をこぼして頭を掻く。

 

「……天王寺先輩とはただの友達です。何だったら、本人に聞いてみてください」

「それにしては親し過ぎないかい? 手作りのお弁当なんて、ちょっと普通じゃないと思うけど」

「俺がお金なくて昼食が味噌汁だけだったんで、同情してくれたんですよ」

 

 ただの友達、というのは実際違う。

 俺は先輩の本性を知っている。だからこそ、特別扱いを受けていることは間違いないだろう。

 

 しかし、それをこの人に教える必要はない。

 

「まあキミがどう思ってるかは、正直どうでもいいんだよ。皆がキミと天王寺さんをそういう関係だと思ってる。僕はそれが嫌なんだ」

 

 と言って、ズボンの後ろのポケットに入れていた財布を取り出した。

 

「んで、いくら欲しい?」

「……はい?」

「だから、いくら払ったら今後天王寺さんに近づかないって約束できる? 金に困ってるなら、願ったり叶ったりな提案だろ?」

 

 ヘラヘラとさも自分は善人かのような面で話す様に、俺は呆れてものも言えなかった。

 

「……もういいです。俺、帰ります」

「えっ、何で? せめていくら欲しいかくらい言いなよ、用意できる額か考えてみるから」

「自分の好きなひとのことが気掛かりで、俺に文句を言おうってことで呼び出したなら、まだ理解できますよ。……でも、いきなり金で縁を切れってバカにしてるんですか? かなり不愉快です」

 

 ハラワタが煮えくり返りそうなところをどうにか抑え、極力冷静に言葉を並べた。

 こんな男でも、一応は先輩の友達だ。罵詈雑言を吐くのは気が引ける。

 

「じゃあ俺、帰るんで。二度と話し掛けてこないでください」

 

 鞄を持って出口へ向かうと、先に扉を開いて誰かが入って来た。

 チンピラであることを隠しもしない風体の男が六人。……おいおい、マジか。ここまでするか、普通。

 

「二度も話し掛けることはしないよ。……君にはきっちりと、お金を受け取って帰ってもらうから」

 

 もう一度座れと言うように、コンコンとテーブルを指で叩いた。

 

 勝利を確信したようなニヤつき顔。

 チンピラたちも余裕たっぷりといった表情。

 その様は、俺が先輩のことを軽んじると決めつけているようで、ただでさえ沸騰しかけていたハラワタが一層熱を持つ。

 

「……お金はいりませんよ。お願いですから、放っといてください。俺はただ、ようやくできた友達と楽しく過ごしたいだけなんです」

 

 大きく深呼吸して、今一度冷静になろうと努めた。

 出口に向かって歩くが、やはりというか当然というか、チンピラたちに肩を掴まれ止められた。その手にはナイフが握られており、得意そうに鼻で笑っている。

 

 ……あぁー、もう。

 

 嫌いなんだって、争い事は。

 

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