大学で一番かわいい先輩を助けたら呑み友達になった話   作:枩葉松

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第20話 もう一回、する?

 

 ……まずい。

 まずいまずいまずい。

 

 やらかした。完全にやらかしたぞ、私。

 

 でも、ちょっと待って。言い訳させて!

 

 悔しかったの!

 糸守君と一条さんがキスしてて、嫉妬でおかしくなりそうだったの!

 私はこんなに好きなのに、一条さんに先越されて胸が張り裂けそうだったの!

 

 ……ん? 言い訳になってないかな?

 

 とにもかくにも、やらかしてしまった。

 本当にやる奴があるか。バカなのか、私は。

 

「ご、ごめんなさい。……本当に、申し訳ないです」

 

 窒息して死にそうなほどに重苦しい空気の中、なぜか糸守君が深々と土下座をした。

 

「何で糸守君が謝るの!? 頭上げてよ!」

「……俺が避ければ、こんなことにはならなかったんで」

「いや無理でしょ、あの状況で避けるとか!」

「無理ではなかったと思います。やろうと思えばできたんです。……流されてもいいかなと少しでも思ってしまった、俺の心の弱さが原因かと」

「ストイック過ぎるよ糸守君! 悪いのは私なのに!」

 

 床に張り付いたように離れない彼の額をどうにか剥がし、真っ赤に焼けた顔がライトの下に晒された。

 

「……もしかして、初めてだった?」

「そりゃあ、まあ。……先輩は?」

「……唇同士は、流石に初めて」

 

 そう口にした瞬間、ペンキでも被ったように彼の顔は真っ青に染まった。

 こんなことで初めてを奪ってしまった、と焦っているのだろう。

 

 私は正直、全然構わない……というか、むしろ本望だったのだが。

 

「だ、大丈夫! 大丈夫だって! だってほら、私たち酔ってたし!」

「……はい?」

「糸守君もさっき、ちょっとだけ呑んだよね?」

「呑みましたけど、あれくらいじゃ全然酔わ――」

「酔ってたよね!? ねっ!!」

「えっ……あ、は、はい。酔っていた、かもしれません……」

「酔った勢いでやったことなんてノーカンでしょ! お互いによくわかってなかったわけだし! ねっ、そうだよねっ!」

 

 メチャクチャな理論かもしれない。

 無理やりだという自覚はある。

 

 だが、今はとにかく糸守君から罪悪感を取り除きたかった。

 

 私のわがままで、一方的な好意で、下らない嫉妬心で、彼の初めてを奪ってしまったのだ。

 悪いのは私だけ。彼には一ミクロの非もない。

 

「ノーカン……なんでしょうか」

「そうだよ、絶対! だから、糸守君は何にも悪くないの!」

「いや、でも――」

「もうこの話はおしまい! 今から料理するのは大変だし、出前でも頼もっか! 迷惑かけちゃったからさ、お姉さんが何でも奢ってあげるよ♪」

 

 言いながら、ベシベシと彼の背中を叩いた。

 今にも自殺しそうなほど深刻そうだった彼の顔に、ようやく温かい血が通い始める。

 

「……そうですね。お腹空いてて死にそうなんで、そうしましょう」

 

 リビングに戻って行った彼を見送り、私は水を一杯飲み干した。

 ふぅーっと息をつきながら、人差し指の腹で唇をなぞる。

 

「ふふっ」

 

 自分が何をしているのかわからないほど酔っていたが、それでもあの瞬間の感触は鮮明に思い出せた。

 今もまだ残る温もりに、口元がだらしなく緩む。

 

 こうして触れ合って、改めて理解した。

 

 私、糸守君のこと、本当に好きなんだ。

 私の好きって、()()()()()()がしたい好きだったんだ。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 先輩の厚意に甘えて、久しぶりにピザを頼んだ。

 チーズたっぷりのピザとハイボール、そしてB級映画。最高の布陣にも関わらず、俺は今一つ楽しめずにいた。

 

『愛してる、ジェリー』

『私もよ』

 

 画面の奥で濃厚なキスを交わす二人。

 その光景に、中学生のようにドギマギとしてしまう。先ほどの感触を思い出し、視線は自然と先輩の方へと向く。

 

 彼女は特に気にする素振りを見せず、楽しそうにお酒を呑んでいた。

 ……さっきのことを、本当に何とも思っていないらしい。肝の座り方がすごいな、この人は。

 

「そういえばさ――」

 

 唐突に口を開き、俺はバッと視線をテレビに戻した。

 危なかった。唇を凝視していたことがバレたら、余計なことを思い出させて不快にさせていたかもしれない。

 

「一条さんに情報の対価として頬にキスしたとか言ってたけど、どんな情報もらったの? あの人のことだから、可愛い子がたくさんいるお店とかでしょ」

「ち、違いますよ! 先輩をすごく喜ばせられる情報だって聞いて……それで、誕生日を教えてもらいました」

「えっ? 私の誕生日?」

「金に困ってる俺でも、一ヵ月前くらいから知ってれば何かしらプレゼントできるだろうって」

 

 先輩はコップをテーブルに置きながら、「別にいいのに」と照れ臭そうに笑った。

 

「何か欲しいものとかありますか? ……俺に用意できる範囲で、の話ですけど」

「欲しいものかぁ。ちょっと思いつかないなー」

 

 そりゃそうだよな。

 自前の飛行機すら持っている人に、欲しいものはあるか、なんて聞くのはバカだったかもしれない。

 

「……い、糸守君さえ良ければさ、一緒に買いに行かない?」

「百貨店とか、そういうところに行くってことですか? まあ俺一人で選ぶのは大変なんでありがたいですけど……大丈夫ですか、それ。誰かに見られて、デートしてるとか思われたら……」

「私はそんなの全然気にしないし。……っていうか、デートしたいだけだし」

「今、何か言いました?」

「ううん、別に! 何でもないよ!」

 

 手をひらひらと振りながら、口早に言ってわざとらしく笑う。

 

「楽しみだなぁ、糸守君とお出かけ。いつがいい? 明日とか?」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。俺もバイトして、お金貯めないといけないんで」

「んー、そっか。プレゼント、お金かける必要ないからね。どんなものでも、一生大切にするから」

「一生って、そんな大袈裟な……」

「大袈裟じゃないよ。大好きな糸守君からのプレゼントだもん、大事にしなきゃ」

 

 軽く身体をこちらに寄せて、俺の肩に頭を乗せた。

 

 思わず彼女へ視線を送り、目が合った。

 二ッと少年のように微笑み、白い八重歯が覗く。

 

 二秒、三秒と朱色の唇を見つめたところで、これはまずいと再び正面に向き直る。

 

「……今、私の唇見てたでしょ」

 

 やばい、バレていた。

 

「な、何のことですか?」

「あれれ、誤魔化すの? そういうの、ちょっと気分悪いなぁ」

「見てました! ご、ごめんなさい、すごい見てました!」

 

 急いで訂正すると、先輩は得意そうに鼻を鳴らして身動ぎした。

 艶やかな髪が肩との間で擦れ、零れ落ちた毛先が俺の内ももを撫でる。

 

「私とのキス、どうだった?」

「……あ、え、えっと」

「どんな感じだった?」

「……言わなくちゃいけないんですか?」

「別にいいよ。すっごく悲しいけど、糸守君が言いたくないならそうすればいい」

 

 卑怯な言い方だ。

 そんな風に言われて、じゃあ黙ってます、なんて言えるわけないだろ。

 

「や、やわらかくて、しっとりしてて……幸せな気持ちに、な、なりました……っ」

 

 下手な誤魔化しをするのも格好が悪いため、包み隠さず正直に話した。

 先輩はニマニマと満足そうに笑いつつ、照れ隠しのつもりか俺の太ももをペチペチと叩く。

 

「そっか。幸せだったんだ」

「……え、ええ」

「私も、さ。……し、幸せだった」

「……」

「相手が糸守君だったからだよ」

 

 俺の太ももに手を置いて、上半身を軽く持ち上げた。

 

 金色の髪をハラハラと零しながら、俺の膝に跨って顔を正面から見つめる。

 薄く開いた唇からは熱い息が漏れており、数秒間凝視したところでまずいと天井へ目をやる。

 

「――……もう一回、する?」

 




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