大学で一番かわいい先輩を助けたら呑み友達になった話   作:枩葉松

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第23話 わざとやっています

 

 七月末。

 先輩の誕生日を目前に控えた今日、ようやくプレゼントを買いに行く。先輩と一緒に。

 

 正直俺は、かなり緊張していた。

 というのも、先輩に会うのが久しぶりだからだ。

 

 ポスティング、イベント設営、引っ越し、警備、倉庫作業、等々……。

 

 ここ一ヵ月弱、先輩の誕生日プレゼント代を稼ぐため、単発で日払いのバイトを朝から晩までやってやってやりまくった。

 もちろん、大学に行きながら。

 無駄に体力が有り余る身体に産んでくれたことを感謝しなければ。

 

 ただそんな生活で呑み会に興じる余裕は流石になく、大学でも空いた時間は全力で睡眠に当てていたため、電話やメッセージのやり取りのみで顔を見ていない。

 

 ……あの人、俺がいない間も結構な頻度で家に来て、ご飯だけ作って置いといてくれたんだよな。

 

 電話で何度も感謝を伝えてはいるが、どう考えても足りるわけがない。

 今日は欲しいと言われたものは何でも買おう。おかげ様で、財布にかなりの余裕ができたのだから。

 

「……今日こそ言わないと。ちゃんと、好きだって……」

 

 ぶつぶつと自分に言い聞かせながら、待ち合わせ場所へと急ぐ。

 

 初めてキスをした日にわかった、自分の感情。

 告白をすると決意を固めたのはいいが、その翌日、先輩は急な仕事で海外に行ってしまい、しばらく会うことができなくなった。

 

 同時に俺もバイト生活に突入し、告白の機会がなくなってしまった。

 

 今日こそ!

 今日こそは言う!

 

 そのために台本を用意し、完璧に暗記してきた! 絶対に大丈夫なはずだ!

 

「あれ?」

 

 現在の時刻は午前十時。約束の一時間前。

 待ち合わせ場所として指定された商業ビルの前には、既に先輩が立っていた。

 

 麻色のロング丈のチノスカートに、レースが可愛らしいチュール袖の黒いトップス。黒色のバッグとヒールサンダル。

 髪には軽くウェーブがかかっており、普段より更に大人な雰囲気に。金色の大きなピアスが揺れ、空から降り注ぐ厳しい日光を反射している。

 

 先輩はいつだって可愛いし、どこから見たって輝いているが、今日は一段と凄まじい。

 きっと美容院に行ったり、ネイルサロンに行ったり、化粧に時間をかけたりしたのだろう。わざわざ、今日のために。

 

「……ん? あれ、約束の時間まで結構あるよな?」

 

 あまりに先輩が輝いていて一瞬忘れかけたが、集合時間は午前十一時だったはず。

 時間を間違えたのかとスマホを開いてメッセージのやり取りを見返すが、確かに十一時と書いてある。

 

「あっ」

 

 俺と目が合い、先輩は朱色の唇を開いた。

 

 ……やばい、すげえ可愛い。

 顔を見るのが久々なのもあり、ただ手を振られただけで身体が火照るほど嬉しくなる。

 

「おはようございます。まだ待ち合わせには一時間ほどありますが、どうされましたか?」

「どうも何も、先輩こそどうしたんですか? 何時からいたんです?」

「大体、九時頃からでしょうか」

「早過ぎません!?」

「糸守君に早くお会いしたくて、つい」

 

 何の感情もない顔から放たれた、ストレート過ぎる言葉。

 思わぬ一撃に俺は悶絶し、顔を真っ赤にして硬直する。

 

「糸守君はなぜ、この時間に?」

「いや、単純に待たせるのが申し訳ないので……」

「……早く会いたかったわけではない、と」

「そ、それもありますけどっ!」

「それもとは、どれのことでしょう」

「……お、俺も早く会いたかったです。ごめんなさい、ずっと放ったらかしにして」

「まったくです。すごく寂しかったです。今日は一ヵ月分の埋め合わせをしてください」

「も、もちろんです! 俺にできることなら何でも――」

 

 言い切るよりも先に、先輩に腕を絡め取られた。

 右腕に感じる温もり。暴力的なまでにやわらかな感触。脳が溶けそうなほどのいい匂い。金色の瞳がぱちりと瞬いて、上目遣いで俺を見つめる。

 

「あの……ち、近くないですか?」

「私が迷子になっても構わない。そういうことですか?」

「そんなこと言ってません! ただ、こんなところ誰かに見られたら、先輩のお嬢様としてのイメージが崩れるような気が……」

 

 俺の前ではまったく気にしないため忘れがちだが、シラフの先輩が感情を抑制するのは皆が望む理想のお嬢様を演じるためだ。

 

 こうして俺の腕に抱き着くのは、第三者的にまずいのではないか。

 そう思って尋ねたのだが、「ご心配なく」と機械的な声で返す。

 

「皆が理想とするお嬢様であれば、男性からエスコートを受けることに何の矛盾もありません」

「そ、そういう問題ですか? いやでも、ちょっとこれは恥ずかしいっていうか……」

「これ、とは?」

 

 むぎゅっと強く抱き着き、更に胸を押し付ける。

 

 まずい。かなりまずい。

 周りの目と心地のいい感触に当てられ、頭が沸騰して倒れそうだ。

 

「……もしかして、わざとやってます?」

「もしかしなくても、わざとやっています」

 

 顔を真っ赤にしながら尋ねると、無感動な声でそう言われた。

 周囲の男たちからの羨望や嫉妬の目。

 気にするな、気にするな、と自分に言い聞かせながら深呼吸していると、先輩が背伸びをして俺の耳元に唇を寄せる。

 

 

「こうしてたら、他の女の子なんて目に入らないよね……♡」

 

 

 小さく囁いてそっと元の位置に戻り、俺にしか見えないようニシシと八重歯を覗かせた。

 

 一秒と経たず無邪気な笑みは消え失せ、全てが嘘だったかのような無表情で「行きましょう」と歩き出す。俺の意識を独り占めしたいがために、胸を押し付けたまま。

 

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