大学で一番かわいい先輩を助けたら呑み友達になった話   作:枩葉松

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第41話 メチャクチャ

 

 まず最初に、先輩を軽めに抱き締めた。

 

 額にそっと唇を落として、表情をうかがう。

 先輩は頬を紅潮させてニマニマと笑い、瞼を閉じて唇を差し出す。

 朝露をすするような淡いキスをして離れ、無言のまま数秒視線を絡め。焦らすのはやめろとばかりに、先輩は強引に俺を求める。

 

「んっ、ぅう、ふっ……♡」

 

 いくらか貪って一旦満足したのか、先輩は顔を離してジトッとした目で俺を見た。

 

「……何か、慣れてきてる気がする」

「そ、そうですか?」

「どこの女で練習したー! 一条さんかー!」

「練習も何も、先輩としかしてないんで全部本番ですよ。……俺だって、先輩をドキドキさせたいんで頑張ってるんです」

 

 先輩にはずっと、いい意味で振り回されてばかりだ。

 せめて少しくらい、日常のほんの一コマでいいから、俺が先輩を引っ張りたい。優位に立って、余裕面できなくしてやりたい。

 

「ひゃっ……♡」

 

 さっきとは打って変わって、力のこもったハグをした。

 

 先輩は少し痛い方が好き。

 大体これくらいかなと力加減をしつつ、頬と頬を合わせて優しく後ろ髪を撫でる。

 

「今日は誘ってくれてありがとうございます。浴衣姿、本当に可愛いです。俺以外に見せたくないなって、ちょっと思っちゃいました」

「……ちょっと、なの?」

「あっ、えっと……ごめんなさい、嘘です。そこそこ……いや、か、かなり思っちゃいました」

「ふーん、へぇー、そっかそっか。うんうん。独占欲が強くて困っちゃうなぁ、もう」

 

 言わせておいて何だそれ、と思いつつ。

 別に気にしない。そんな先輩も好きだから。

 

「あぁー……うぅー、すごい。ぎゅーってされてる。……このまま、糸守君に吸い込まれちゃいそう」

「もういっそ、一部になっちゃいましょうか」

「えぇー。嫌だよ、そんなの」

 

 妙に冷たい声に、思わず力を緩めてしまった。

 

 そんなに面白くない冗談だったのだろうか。

 背筋に滲む冷や汗。空気を壊してしまい動揺していると、今度は先輩が俺を抱き締めてくれた。

 

「私が糸守君の一部になったら、こうやって触ったりすることの特別感がなくなっちゃうじゃん。私の外側に糸守君がいるから、こんなにも欲しくなるんだよ?」

 

 俺の頬を優しく撫でて、にへへと酔っ払い全開な笑みを咲かせた。

 そっと先輩の唇を奪って、お互いに視線を交換して、さっきの遅れを取り戻すように強く抱き締める。

 

「……可愛いです。可愛い……本当に可愛いです。ずっと……ずっと、そばにいてください、先輩」

「んっ……。へ、へへっ、仕方ないなぁ……私のこと、そんなに好きなの?」

「好きですよ。当然じゃないですか」

「そっかー……ふふふっ、そっかそっか」

「……先輩、撫でてもらってもいいですか?」

「うん、いいよ。糸守君は可愛いなぁ。……ふふっ。私が甘えたいのに、糸守君が甘えちゃってるね」

「っ! す、すみません! つ、つい!」

「いいよ、気にしないで。ほれほれ、おっぱいだぞー。糸守君の大好きなおっぱいだぞー、甘えろー」

 

 上半身を左右へ揺らして、胸の存在をアピールする。

 ぞわぞわと邪な思いが頭を焦がし、燃え尽きる前に下手に動けないよう腕に力を込めた。いつかと同じような状況だなと内心笑って、大型犬と遊ぶように先輩の頭を乱暴に撫でる。

 

「あー、これ好き。糸守君が私のこと、メチャクチャしてる……♡」

 

 ガラス細工のように綺麗で壊れやすそうな身体が、俺の腕の中で僅かに軋む。

 絶対に痛いはずなのに、先輩は何も言わない。

 それどころか息を荒げ、飲み込み損なった涎をすすり、下半身をよじらせてソファとの摩擦で音を鳴らす。

 

 心がざわつく。

 虫や小動物をいじめたくなる衝動。

 先輩を痛めつけたくなんかないのに、なまじ喜ばれているせいで嬉しく感じてしまう。加虐心が満たされていき、俺自身もおかしなスイッチが入りかけたところで彼女を解放する。

 

「……何でやめたの?」

「い、いやぁー、まあ……ははは……」

「……もしかして、したくなった?」

「な、何をですか?」

 

 ニタリと粘度の高い笑みで口元を彩り、俺の手の上に手を重ねた。

 

「わかってるくせに」

 

 汗で湿った手のひら。

 むわっとした熱さ。

 情欲を匂わす仕草に、ただでさえ駆け足な心臓が一層加速する。

 

「黙って甘やかされてろとか格好いいこと言っといて、肝心なとこじゃヘタレだよね。別にもう初めてじゃないのに、まだ恥ずかしいの?」

「は、恥ずかしいとかじゃ、ないんですけど……」

「じゃあ何? 私とのえっち、嫌い?」

「嫌いじゃないです!」

「嫌いじゃない、じゃなくて?」

「えと、えーっと……す、好きですっ」

「そうは言うけど、糸守君から求めてくれたことないよね。私、たぶん性欲強い方だからさ。仕方なく付き合ってるって感じなら、遠慮せず嫌って言ってくれていいからね」

「違うっ、違うんです! ただ、その……っ」

 

 先輩と目が合う。

 呼吸が止まりそうな眼力に一瞬視線を伏せるが、力強く手を掴まれ再び目を上げる。

 

「本気でメチャクチャにしちゃったら、た、大変じゃないですか。男なんてケダモノなんですから、先輩はもうちょっと気をつけるべきですよ……!」

 

 内側から溢れ出しそうな黒いものを押し込めて、キツく栓をして。

 精一杯平静を保ちながら、そう微笑みかけた。

 

 滲んだ汗がたらりと頬をなぞり、首を駆けてTシャツの襟を汚す。

 やけに乾く唇を舌でなぞり、ゴクリと唾を飲む。

 

「……そっか。糸守君、私に乱暴なことしたいんだ」

「し、したいとかじゃなくて、しちゃうかもっていう……か、可能性の話です!」

「でも、したいって、少しは思ってるんだよね?」

「少しっ……ほ、ほんの少しだけっ……思って、い、います……っ」

 

 嘘をついても仕方がない。

 これでいくらか先輩が自重してくれたら、俺にとっては願ったり叶ったりだ。

 

 先輩は無防備過ぎる。

 もしかしたら俺のことをハイパー無害な人間だと思っているのかもしれないが、いくらか良識があるだけのありふれた一般人だ。俺を信頼してくれているのは嬉しいが、もう少し危機感を持って接して欲しい。

 

「いいよって言うまで、目瞑ってて。見ちゃダメだよ」

 

 熱っぽい声で言われて、俺は戸惑いつつも素直に従った。

 

 ぎし。

 ぎぃ、ぎっ。

 

 俺の壁が薄い家と違って、先輩の家はここだけ宇宙に放り出されたように静かで。

 

 ざっ、ざっ。

 しゅるり、がさ、ばさっ。

 

 瞼の裏側に浮かぶのは、先輩が出す音だけ。

 

 ぱさっ。

 

 何かを床に落として、もう一度ソファに座った。

 

「いいよ」

 

 その声に、ようやく俺の瞳に光が入る。

 

 ソファの上でぺたんとあひる座りをして、二ッと白い歯を覗かせる先輩。

 浴衣がはだけ、露出した白い肩には、さっきまであったはずの下着の黒い紐がない。

 

「っ!?」

 

 カーペットの上には、黒いものが二つ。

 ブラジャーとショーツ。

 あの雑音と何かを落とした音の正体がわかり、俺の落ち着きかけていた心臓に一気に火が灯る。

 

「今日は私、糸守君のことずっと誘惑し続けるから。でも、こっちから脱いでとか、してとか言わないよ。私のことが欲しかったら、糸守君が自分で襲って食べるしかないの。がおーって、動物みたいに」

 

 無邪気な笑みを浮かべつつ、浴衣からはみ出した太ももをつつーっと指先でなぞる。

 

「さぁて……と。糸守君の中のケダモノさんは、どれくらい我慢できるかな……?」

 

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