大学で一番かわいい先輩を助けたら呑み友達になった話   作:枩葉松

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第65話 ぐふふふふっ

 

 翌朝。

 

 起きてすぐ、俺は激しい頭痛と吐き気に襲われた。

 トイレへ走って胃袋の中身を吐いて、胃袋を水でパンパンに満たすが、また気持ち悪くなって吐く。完全に二日酔いである。

 

「……あれ? ここ、家だよな? 俺、いつの間に帰って来たんだ?」

 

 二度目の嘔吐でようやく意識がハッキリして、自分がどこにいるのか認識した。

 

 えーっと、何だったかな。

 昨日は雪乃さんに襲撃を受けて、それから二人で楽しく呑んで、朱日先輩の話をして……。

 写真を貰ったところまでは覚えているが、それ以降がまったく記憶にない。泥酔すると記憶が飛ぶって聞いてたけど、あれ本当だったのか。

 

「おはようございます、要君」

「あっ、おはようございます。……すみません、汚いとこ見せちゃって」

 

 開けっ放しだったトイレの扉。

 起きてきた朱日先輩がひょいと顔を覗かせ、心配そうに眉を下げた。俺はすぐにトイレを流し、彼女と一緒にリビングへ向かう。

 

「二日酔いに効く薬があるので今出します。インスタントでもよければシジミのお味噌汁がありますが作りましょうか?」

「ありがとうございます。じゃあ、お願いします」

「はい。少々お待ちください」

 

 ぐわんぐわんと痛む頭を押さえつつソファに座り、朱日先輩が持って来てくれた薬を飲んだ。

 その後は、味噌汁ができるまでボーッとテレビを眺める。こうやって気を紛らわせておかないと、余計に気持ち悪くなってくる。

 

「お味噌汁、できました。ついでにおにぎりも握ったので食べてください。アルコールの分解には糖質も必要ですから」

「本当に何から何までありがとうございます。いただきます」

 

 シジミの出汁が効いた味噌汁と、朱日先輩お手製の塩むすび。

 アルコールで毒された身体には、どちらもよく沁みた。胃袋に固形物が入ると気持ち悪さがいくらかマシになり、ホッとひと息つく。

 

「あの、俺……昨日の夜の記憶が全然なくて。どうやって帰って来たんですか? タクシーとか?」

「いえ、お姉様が送ってくださいました」

「そ、そうですか。……うわぁ、迷惑かけちゃったな」

 

 っていうか、昨日の俺は何考えてるんだ。

 雪乃さんは俺を刺そうとしてきたんだぞ。一応和解はしたけど、そんな人の前で泥酔するとかあり得ないだろ。

 

 ……一つ言い訳をすると、やっぱり姉妹だからか、あの人は朱日先輩とほぼ同じ顔をしている。

 そのせいで、一緒にいるとどうしたって気を緩めてしまう。この人は大丈夫だと、脳みそが勝手に判断するのだから仕方ない。

 

 しかし、これでハッキリした。

 あの人は今のところ、本気で俺をどうこうするつもりがないらしい。もし昨日の応援しているという発言が嘘だったなら、俺は今ここにいない。

 

「……ところで朱日先輩、何か今日、やけに機嫌いいですね。どうかしたんですか?」

 

 相も変わらず無表情だが、俺の目には普段の五割増しで明るく映った。

 俺の問いを裏付けるように、彼女はニンマリと口元を崩す。「へへっ」と笑って、膝の上に置いていたスマホを弄る。

 

「別にぃ? どうもしないけどぉ?」

「い、いやいや、何ですかそれ。絶対に何かあるでしょ!」

「ふふふーん、ふんふふーん」

「変な鼻歌はいいんで、教えてくださいよ! ……も、もしかして、酔った俺に何かしました? 一発芸とかやらせて、動画でも撮ったんですか?」

「んー? んー……まあ、そんなとこかな?」

「その反応、絶対に違うじゃないですか!?」

 

 わけがわからず困惑する中、朱日先輩はソファの上を四つん這いで近づいてきて、むぎゅっと俺を抱き寄せた。やわらかくて、温かい。どうしたって安心してしまう体温に閉口し、彼女からの優しさだけでできた束縛に身を委ねる。

 

「……次は酔ってる時じゃなくて、ちゃんとシラフで聞かせてね。私、ずっと待ってるから」

 

 心の底まで届くような、温かい声。

 ただ何を言っているのかさっぱりわからず、安心という名のぬるま湯を漂っていた精神が一気に覚醒し、軽く彼女を突き放す。

 

「ほ、本当に何なんですか!? マジで俺、朱日先輩に何したんですか!?」

「ふふっ……ぐふふふふっ……」

「だから、ちゃんと喋ってくださいよー!!」

 

 結局彼女が質問に答えてくれることはなく、俺は取り急ぎ二日酔いをどうにかするためもう一度眠りについた。

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