大学で一番かわいい先輩を助けたら呑み友達になった話   作:枩葉松

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第69話 大好きなんだもん

 

 ふと、初めて合コンに行った日のことを思い出した。

 

 大学に入学し、テニスサークルに入り。

 先輩に誘われて行ったそこでは未成年でも関係なく酒を呑まされ、ちょっと前まで高校生だった男女が大人面で様々な欲を燃料に会話を走らせていた。

 

 もちろん俺も酒を勧められたが、断固として呑まなかった。

 酔って暴れる性格だったら、下手したら死人を出してしまう。空気を読まないやつと言われても、暴力沙汰を起こすよりはよっぽどいい。

 

 結果として、元々のコミュニケーション能力不足も相まって一言も喋れず、帰りに先輩から「盛り上げるつもりねえなら来るなよ」と言われ、俺の大学一年目は一瞬も輝くことなく終わった。

 

「……今日はあくまでも情報交換会だもんな。酒の加減もわかってるし、そもそも一条先輩の付き添いだし。大丈夫……うん、俺は大丈夫だ……!」

 

 あの時のことが若干トラウマで、指定された居酒屋に入る前に深呼吸して心臓をなだめた。

 どうにか落ち着いたところで、いざ入店。店員に一条先輩の名を告げて、席まで案内してもらう。

 

「あーっ、来た来た! 遅いよもう、心配したんだから!」

「す、すみません。このへんあんまり来ないから、道に迷っちゃって」

 

 六人掛けのテーブル席。

 テーブルを挟んだ向こう側には、三人の女性が着席していた。

 ……あぁ、そういうことか。一条先輩がAランクと言った意味が、少し理解できた。皆一様に、中高の頃はクラスで一番モテただろうなと容易に想像できるくらいには可愛い。

 

「あっ……は、はじめまして、糸守要です。よろしくお願いします……!」

 

 精一杯の営業スマイルと共に会釈した。

 一条先輩しかおらず、不安に思っていたのだろう。三人は表情に安堵を灯して、それぞれ自己紹介をする。

 

 そのあとすぐにハイボールを注文し、届いたところで乾杯。

 チビチビと酒で唇を濡らしつつ、他愛もない雑談をする。

 

「一条先輩、もう一人はどこに……?」

 

 今日の昼、二人来れなくなったと言っていた。

 俺の隣の空席はどれだけ待っても埋まらず、疑問に思って尋ねる。

 

「ちょっと遅れるってさ。大丈夫、ちゃんと来るよ!」

 

 目の前の三人に聞こえるように、わざと大きな声で回答する。

 ……この人も大変だな。色々気を遣って。

 

「あのー……糸守さんって、一条さんとどういう関係なんですか?」

 

 三人の内の一人に聞かれ、「ただの友達です」と答えた。

 それだけなのに、三人は疑わしそうに笑みを浮かべる。

 

「ハッキリ言っちゃって大丈夫ですよ。そういう関係なんですよね?」

「そういうって、どういう……あっ! ち、違います! 違いますよ!」

 

 彼女たちの疑念に満ちた目の意味を理解し、俺は手を振り乱して否定した。

 どうやら三人は、俺のことを一条先輩のセフレだと思っていたらしい。

 

「本当にただの友達です! 俺、ちゃんと彼女いますから!」

「「「えぇ!?」」」

 

 綺麗に重なる声。

 三人は顔を見合わせ、「本当の本当ですか?」と眉をひそめながら再度問い、俺は深々と頷く。

 

「い、一条さんって普通の友達いたんだ……」

「近づいたひと、皆セフレにしてると思ってた……」

「一条さんにも、ちゃんとまともなところあったんだね……」

 

 酷い言われようだな。まったく同情できないけど。

 これは流石の一条先輩もへこむのでは。そう思って視線を流すが、なぜか彼女は真面目な顔で頬杖をついている。

 

「ほら、言ったろう? 僕は皆と、普通に仲良くなりたいだけなんだ。今日はただの情報交換会なんだし、変に警戒せず呑んでよ。何もしないからさ」

 

 ……。

 

 やっぱりこの人すげえわ。

 自分が貶されてるのに、それをチャンスに変えようとしている。中々できることじゃないぞ。

 

「そう……なのかなぁ……」

「私たち、一条さんのこと勘違いしてた……?」

「……うん。ちょっと身構え過ぎてたかも」

 

 少しずつだが、警戒心を解いていく三人。

 一条先輩は余裕の表情で酒を呑みつつ、テーブルの下でガッツポーズを作った。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「朱日ちゃん、ほんまに糸守先輩のこと好きやなぁ。普通ここまでするか?」

「声を抑えてください、瑠璃さん。要君たちに聞こえてしまいます」

 

 帽子とサングラスで変装し、私は要君たちがいる居酒屋に潜入していた。

 以前の経験から、こういった店に一人で入るのは未だに怖い。そこで瑠璃さんに同行をお願いし、要君たちを覗ける席に案内してもらい、唐揚げや枝豆をジュースで流し込みながら聞き耳を立てる。

 

「別にバレたってええやん。何やったら顔出してきたら?」

「それはダメです。私は自らの意思で彼をあの場へ送り出しました。にも関わらず、心配になって見に来たことがバレたら、余裕のない女だと思われてしまいます」

「糸守先輩が朱日ちゃんを裏切るとか、万に一つもないと思うけどな……」

「と、とにかく、心配なものは心配なのですっ」

 

 瑠璃さんが言うように、要君が浮気をする確率は落雷と隕石と宝くじに同時に当たるくらいの天文学的な数字だろう。万に一つどころか、兆に一つあり得ない。

 

 そうと理解してなお、私はここに来てしまった。

 

 好きという感情は怖い。

 頭の中から、理知的な部分を追い出してしまう。

 

「女の子たちからアプローチを受けるって線はあるかもしれんけど、ぶっちゃけ糸守先輩って見てくれは普通やん? 晶ちゃんのがよっぽど格好ええし、ちょっと呑んだくらいでモテたりせえへんやろ」

 

 そう言って唐揚げを頬張り、「これめっちゃ美味いな」と二個目に箸を伸ばす。

 

 内面も込みなら要君は誰よりも格好いいが、外面限定の話をした時、一級品かと言われると頷きづらい。一条さんが言っていたように、とても無害そうな顔をしている。

 

 だからこそ、鋼のような誠実さや力強さのギャップがすごくて、キュンとしてしまうわけで。

 

 今日はただの呑み会。要君が本領を発揮する機会はないだろう。

 あぁ、そうだ。あるわけがない。

 

 とすれば、瑠璃さんが言うように女性サイドからのアプローチは無い気がする。……それでもやっぱり、心配だけど。

 

「朱日ちゃんって案外子供やなぁ。まあ、そういうとこも可愛くて好きやで」

 

 ニシシと悪戯っぽく笑う瑠璃さん。

 私は顔に出そうな羞恥心を押し殺して、フライドポテトを口へ運び表情を誤魔化した。

 

 ……仕方ないじゃん。

 

 好きなんだもん。大好きなんだもん。

 

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