大学で一番かわいい先輩を助けたら呑み友達になった話 作:枩葉松
「はーっ、はーっ……」
「……や、やばかったね、この映画」
「えぇ……笑い死ぬかと思いましたよ」
映画が終わり、俺たちは激しく呼吸を乱しながらソファに寝転がっていた。
ワインの瓶は既に空。
せっかくの沖縄だからと購入していた泡盛にも手を付けており、ここまで呑めば当然できあがっている。
「ねえ糸守君、せっかくだからプール入ろうよ!」
バッと身体を起こすなり、満面の笑みで庭のプールを指差した。
「ダメです。酔った状態でそんなことしたら、最悪死にますよ」
「ぶーぶーっ。けちんぼー」
先輩は唇を尖らせて、子供のように足をバタつかせた。
駄々を捏ねてもダメなものはダメだ。
飲酒後に入水すれば溺れかねないし、心臓にも負担がかかる。それくらいのことは、酔った頭でも理解できる。
「じゃあ糸守君は、私の水着姿……見たくないんだね?」
「は、はい?」
「見たくないなら見たくないって言いなよ」
「……そ、それは」
見たい。すごく見たい。
しかしそんな意思表明をするのは恥ずかしく、眉を寄せて難しそうな表情を作る。
「ハッキリと口に出してくれなきゃわかんないよ? 糸守君の気持ちを聞かせて?」
「ち、近いですよ……!」
俺が座るソファの肘置きに手をついて、ぐいっと距離を詰める。
先輩の荒い鼻息が、俺の前髪を揺らす。
「……こうしたら、もうちょっと素直になれるかな?」
と、蠱惑的な声音で言って。
しなやかな指先で、シャツの一番上のボタンを外した。
視線を吸い取る胸元。
更にボタンを一つ外したところで、俺は目を剥いて「い、いやいや!!」と絶叫する。
「まずいです!! まずいですって!!」
顔を真っ赤にして叫ぶが、先輩の手は止まらない。
流石にこれは見てはいけない。そう思って目を瞑ること、数十秒。
先輩が一向に喋らないことが気になり、薄目を開けて状況を確認する。
「うえっへっへっ。やらしーこと想像したでしょ?」
シャツの下に着ていたのは、白いビキニのトップス。
悪戯大成功! と言いたそうな表情で、先輩はピースサインを作った。
全裸になるのではと気が気ではなかった俺は、未だ落ち着かない心臓に手を当てて呼吸を整える。
この一ヵ月でわかったことだが、大人な演技を長年続けた影響か、先輩の素は小学生か中学生レベルだ。
そこにアルコールの気持ちよさが加わってブーストがかかり、一緒に呑むたびにドキドキさせられる。
役得だとは思うし、もちろん楽しいことに違いはないのだが、如何せん心臓に悪い。
「んじゃ、下も脱ぐから。ちゃんと見ててね?」
「……いや、もう水着きてるのはわかりましたから。もう大丈夫ですって」
「えー、やだやだ! せっかく買ったんだもん、ちゃんと見てよー!」
そう言いながら、下に履いていたスカートを足から抜き取った。
これといって飾り気のない水着。
だが、先輩自身が金髪金瞳と宝石のような見た目なため、シンプルな白のビキニが暴力的なまでに似合っていた。
スタイルは今までに見たどのグラドルよりもよく、ソファの上でポーズを決めるという限りなくアホな状況なのに、卑怯なまでに気品に満ちており神々しい。
「……」
「……」
「……何か言ってくれないと、流石の私もちょっと恥ずかしいんだけど」
「あっ。えっと、いや。……ご、ごめんなさい」
「見惚れちゃって言葉も出ないって感じ?」
「……」
なぜバレた。
……エスパーか?
「んじゃ、はいっ、これは糸守君の水着ね」
どこからともなく取り出したレジャー用の海パン。
早く着替えろとこちらに差し出すが、俺はそれを受け取らずため息だけを渡す。
「何で俺まで水着にならなくちゃいけないんですか。しかも室内で……」
「私、糸守君の身体見たいなぁ。糸守君の逞しい腹筋、触りたいなぁ」
「別に逞しくないですし、見せられるような身体してません」
両手をわきわきとさせながらニヤつく先輩。
面倒くさいなと頭を掻いて、ジッと半眼で睨む。
「テメェがおっぱい晒さねえ限り、俺の腹筋は見せてやらねぇぜ! ってこと?」
「俺、いつそんなこと言いました!?」
「仕方ないなぁ、糸守君は。そんなに朱日ちゃんのおっぱいが見たいのかい?」
「ドラえもんみたいな口調で変なこと言わないでください!! ってか、声真似くそ上手いですね!?」
「テッテレ~! おっぱい~!」
「うわバカバカ!! 何考えてんだあんた!?」
秘密道具を出す時のドラえもんそっくりな声を発しながら、右手でトップスを捲り上げた。
敬語も忘れて絶叫するが、先輩の手は下乳を数センチ露出させたところで止まる。
「……へへっ。ほんとに見せると思った?」
こちらの情欲に薪をくべるような淡い熱を纏いながら、ニッと白い八重歯を覗かせた。
「残念でしたっ」と囁くように言って、トップスにかけていた指を放す。
やめろと叫びはしたものの、正直なところ見たかった。
男として、先輩のおっぱいに興味がないなど口が裂けても言えない。
「よーし糸守君、そろそろ脱ごっか」
「……まだ続けるんですか? もういいでしょ、流石に」
「えー? ぶーっ、見たかったの――」
その瞬間、外で大きな光が炸裂した。
数秒後、凄まじい雷鳴が鳴り響く。
次いで雨が降り出し、外は一気に灰色に染まる。
「天気、やばくないですか?」
「……うん。ちょっとびっくりした」
「これって帰りの飛行機、ちゃんと飛べるんですよね?」
「大丈夫、だとは思うけど。風が吹いてなければ問題はないし」
俺たちは雷に持って行かれたテンションを取り戻すべく、改めて酒を酌み交わした。
それからしばらく経ち、先輩のもとに連絡が入る。
――強風により飛行機を出せなくなった、と。