大学で一番かわいい先輩を助けたら呑み友達になった話   作:枩葉松

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第74話 痛くしてもいいから

 

「ぷはーっ! やっぱりこれだなぁー!」

 

 帰宅後。

 目の前で呑み会が行われ、相当フラストレーションが溜まっていたのだろう。朱日先輩は砂漠の中でオアシスを見つけたように、ハイボールを三杯、四杯とかっくらう。

 

「そんなペースで呑んで大丈夫ですか? 一条先輩みたいに潰れても知りませんよ」

「大丈夫だって。仮に潰れても、要君がちゃんと介抱してくれるもん。それに私、要君ほど酷い酔い方しないからへーきへーき!」

 

 雪乃さんのペースに飲まれ、かつてないほど泥酔したあの日。

 俺が酔って何をしたのか、朱日先輩は頑なに教えてくれない。ただとんでもないことを口走ったようで、それが怖くてあれ以降呑む量をセーブしている。

 

「うにゃー!」

 

 上機嫌な声をあげながら、ゴロンと転がって俺の膝の上に頭を乗せた。

 黄金色の瞳に俺を映し、二ッと白い歯を覗かせて腹部に顔をうずめる。

 

「頭撫でてー、甘やかしてー!」

「はいはい」

 

 仕方ない人だなと思いつつ、艶やかでやわらかい髪にそっと触れた。

 頭頂部から首の後ろを通り、背中に行き着いて。もう何度か同じルートを通ったところで、大型犬と遊ぶようにワシャワシャと撫でた。朱日先輩はこれが結構お気に入りで、嬉しそうに喉を鳴らし身をよじる。

 

 次いで頬に触れ、指先で羽二重餅のような感触を味わい。

 そのまま耳まで流れ、爪の先でカリカリと掻く。彼女はくすぐったそうに笑って、お返しだとばかりに俺の横腹をまさぐる。

 

「ちょ、ちょっと待ってください! あははっ! ダメですっ……そこ、弱いんですから!」

「えー? どこー? どこが弱いのかなー?」

「わかってるじゃないですか! くふっ、はははっ! やめてっ、やめてくださいよぉ!」

 

 俺の訴えが通じたのか、ようやく彼女の手が止まった。

 ニシシと悪戯っぽく笑って、俺の手を取る。

 

「要君も触っていいよ」

「触るって……えっ、いや……」

 

 同じようにくすぐれ、という意味かと思ったが違った。

 彼女の胸の上に置かれた、俺の手。ふわふわとしたニット越しに、下着の形と体温を感じる。

 

「……触らないの? 私に興味ない?」

 

 甘ったるい眼光に熱い吐息。

 呑み会中に彼女が送って来た自撮りがフラッシュバックし、ゴクリと生唾を飲む。

 

 壊れてしまわないよう、不快に思われないよう、少しだけ指に力を込めた。

 彼女は吹けば飛ぶような淡い嬌声を漏らし、懸命に感触を確かめる俺の頭を撫でて、「やらしい子だなぁ」と余裕の笑みを浮かべる。やらせたのはそっちだろと思いつつ、こうして手のひらの上で転がされるのが堪らなく好きだったりする。

 

「どう? 今日いた子より、私の方が大きいでしょ」

「あ、そうなんですか?」

「……何その反応。向こうの方が好みだった?」

「そういうことじゃなくて! 俺、全然気にしてなくて、そもそも見てなかったので……」

 

 確かに可愛い人たちだなとは思ったが、それ以上の感想はない。

 ただ正直に言っただけなのに、朱日先輩は嬉しそうに口元を蕩けさせて、俺の手をギュッと抱き締め胸に押し当てる。

 

 手のひらに感じる、心臓の鼓動。

 彼女がここにいることを証明する音に、俺はどうしようもなく嬉しくなる。

 

「そっか。要君、私にしか興味ないんだ」

「そうですよ。何度も言ってるじゃないですか」

「……ふっ、ふふっ。うへへ」

 

 俺の手に頬擦りして、指に口づけをした。

 ふっと、朱日先輩の目がテーブルの上のグラスに向く。「呑みますか?」と尋ねると、彼女は小さく頷く。

 

「あ、あのね、お願いがあるんだけど……」

「何ですか? 何でも言ってください」

「嫌だったら全然いいんだけどね。その、えっと、口移しで呑ませて欲しいなぁー……な、なんて」

 

 恥ずかしそうに眉尻を下げて、俺の手で真っ赤に焼けた顔を隠した。

 まさかのお願いに俺も動揺するが、他でもない朱日先輩が望んだことだし、別に難しいことでもない。グラスに手を伸ばして少しだけ口に含むと、彼女は意図を察したのか俺の首に腕を回して上半身を持ち上げる。

 

「んっ……」

 

 ゆっくりと、じっくりと、むせないように。

 一滴ずつ、彼女の中へ流し込む。

 

 コクコクと喉を鳴らしながら、加熱する気持ちをどうにか発散しようと俺の頭をぐしゃぐしゃにする朱日先輩。

 ようやく全て移し終わり顔を離すと、彼女の頬は先ほどよりも赤みを帯び、熟し切ったトマトのようになっていた。

 

「……やらしいね、これ」

「じゃあ、もうやめておきます?」

 

 その問いかけに潤んだ瞳がぱちりと瞬いて、もっと欲しいと無言でねだった。

 

 もう一度グラスに口をつけ、同じようにキスをする。

 目的を遂げ離れようとしたが、彼女の腕がそれを許さない。舌先が触れ合い、アルコールの味を共有し、お互いの存在を確かめ合う。

 

「……私のこと、好き?」

「好きですよ。大好きです」

「どれくらい?」

「朱日先輩と出会うまでに二十年もかかったことを、後悔してるくらい好きです」

 

 彼女は愛おしそうに目を細め、強く、強く、俺を抱き締めた。

 

 ここまでしたら、もう止まれない。

 それは向こうも同じ。

 

 期待と興奮で今にも溶けそうな彼女の双眸に催促され、そっと再度唇を落とす。

 ほんの一瞬の軽いキス。それを頬や首筋に何度か繰り返すと、彼女はくすぐったそうにしながらも甘い声を漏らす。

 

「……そういえば、外で言うのが恥ずかしいって言ってたやつ、あれ何だったんですか? 今だったら言えますよね?」

「え? あっ……え、えっと……」

 

 呑み会のあと、路地裏でした会話。

 

 もう既に、随分と恥ずかしいことをしているのだ。

 この状況なら、言えないこともできないこともないだろう。

 

「本当に……本当の本当に、何でもしてくれるんだよね……?」

「しますよ。口移しだってしたじゃないですか」

「……う、うん」

 

 自信なさげに頷いて、俺の顔色をうかがった。

 不安そうな朱日先輩も可愛くて、頬が自然と綻ぶ。ずっと、何時間でも眺めていたい気持ちになる。

 

「絶対に引かないでよ? 約束だからね?」

「はい、約束します」

 

 ここまで言ってもまだ不安なのか、朱日先輩は難しそうに唇を閉じ、しばらく視線を泳がせた。

 一分ほど経ちようやく決心がついたのか、俺をジッと見据えて口を開く。

 

「要君ってさ……私によく、キスマークつけるよね」

「え、えぇ、まあ」

「……痕つけられると要君のものって感じがして好きなんだけど、でも最近、ちょっとあれだけじゃ物足りなくなってて。だ、だからね、その……変態過ぎかもしれないんだけど……」

 

 たどたどしく言葉を紡ぎ、緊張のせいか段々と身体が汗ばんでゆく。

 安心してもらおうと頭を撫でると、彼女の表情が僅かに緩む。

 

「――――んで欲しいの」

「は、はい?」

 

 上手く聞き取れず、もう一度言って欲しいとお願いした。

 朱日先輩は顔を真っ赤にしたまま俺から目を逸らし、しかしギュッと抱き締めて唇を耳元に寄せる。

 

「私のこと……か、噛んで欲しいの。痛くしてもいいから……私が要君のものだって、もっといっぱいわからせてっ」

 

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