大学で一番かわいい先輩を助けたら呑み友達になった話   作:枩葉松

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第91話 ご褒美

「ははっ、あははは! 何だよそれ、意味わかんねー!」

「お、お腹痛いっ! だめっ、ふひひっ、もうダメだよぉ……!」

「いやー……こういうの観るの初めてだけど、普通に面白いね。二人が笑い過ぎてて、ちょっと怖いけど……」

 

 午後十一時過ぎ。

 いつものソファに俺、朱日先輩、一条先輩の順で座り、B級映画を肴の酒盛りを楽しんでいた。

 

 いつも通り腹を抱えてバカ笑いする、俺と朱日先輩。

 そんな俺たちを見ながら、一条先輩は乾いた笑みを浮かべる。……まさか、この人に引かれる日が来るとは。人生何があるかわからない。

 

「ていうか一条先輩、特に驚かないんですね。酔った朱日先輩を見ても」

 

 呑み始めて割と時間が経ったが、一条先輩からこれといったリアクションはなかった。

 あまりにも自然に、素の朱日先輩を受け入れてる。

 

「んー、まあ僕、天王寺さんの身体目当てだしさ。演技してても素の状態でも、天王寺さんのおっぱいがパッツンパッツンなのは変わらないわけでしょ? だったら別に、気にすることじゃないかなーって」

「……期待を裏切らない最低具合で安心しました」

「それに、演技してるってことは薄々気づいてたよ。シラフでもたまに素に戻るよね。今日も僕と糸守クンのために、鬼みたいな顔で怒ってたし」

 

 「あれ嬉しかったよ」と笑みを浮かべ、朱日先輩の膝の上に手を置いた。

 酒気を帯びて、ほんのりと熱の灯った頬。薄く開いた唇から湿っぽい息を漏らし、両の瞳は艶やかに輝く。黒いマニキュアが光る指先が妖しく動いて朱日先輩の太ももをまさぐり、ジリジリと距離を詰めてゆく。

 

「す、ストップ! 何してるんですか、一条先輩! 今、朱日先輩にキスしようとしましたよね!?」

「えー? だめー?」

「ダメに決まってるだろうが!」

「そうだよ。私の唇は、要君のものだからね」

 

 と言って、彼女は俺の首に腕を回し。

 一条先輩の目などまるで気にせず、そっと唇を重ねた。

 

 「いいなぁー!!」と絶叫する一条先輩。

 顔を離した朱日先輩は、悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 

「一条さん、私たちのためにいっぱい頑張ってくれたもんね。キスはダメだけど……ちょっとくらいなら、私のおっぱい、触ってもいいよ?」

「マジで!? 何時間くらい!?」

「ちょっとの意味わかってます!? ってか、やめてくださいよ! 俺の朱日先輩なのに!」

「……でもさぁ、糸守クン。僕、本当に頑張ったんだよ? ちょっとくらい、ご褒美あってもよくない?」

 

 確かにその通りだ。

 ここ数ヵ月、一条先輩は頑張った。俺と朱日先輩のことを本気で想って、本気で働いてくれた。そこに異論を挟む余地はない。

 

「じゃ、じゃあ俺が身体で払います! 一条先輩の好きにしていいですから!」

「本当に!? ちょ、ちょっと僕、ゴム買って来る!!」

「ダメー! それはダメ! 私の要君だもん!」

「ならどうすりゃいいのさ! 何かご褒美欲しいよぉー!」

 

 酔いが回っているのもあってか、一条先輩は子供のように本気で駄々をこね始めた。

 

「すみません、好きにしていいは言い過ぎでした。おっぱいからは随分と格が落ちますが、ハグ……とかはどうですか?」

 

 少し前、彼女から抱き締めて欲しいと頼まれた。もしかすると、ハグが好きなのかもしれない。

 朱日先輩は難しそうに唇を閉ざすも、嫌だ、ダメだとは言わない。それを確認し、「わーい!」と一条先輩は立ち上がり、空いていた俺の左側に座る。

 

「片腕を肩に回してさ、ガバッと抱き寄せる感じでやってよ!」

「あっ、は、はい」

「頭も撫でてくれると嬉しいな!」

「いい、ですけど」

「腹筋とか胸筋、触ってもいい?」

「服の上からなら、まあ……」

「やったー!」

 

 要望通り片腕を肩に回し、側頭部に手を添えて抱き寄せた。

 

 やわらかな赤黒い髪。朱日先輩とはまた違う、やや野性味のある甘い香り。火照った身体。

 しなやかな指が腹部をまさぐり、鳩尾を通って胸部に行き着く。丹念に、丁寧に、服の上から筋肉の凹凸を楽しみ、ふっと俺を見上げて毒気のある笑みを灯す。

 

「……今日はありがとね、助けに来てくれて」

「そんな何度も言わなくても大丈夫ですよ。気にしないでください」

「いっぱい言いたいんだよ。それくらい嬉しかったし……糸守クン、格好よかったから」

「あ、ありがとうございます……」

 

 俺の肩に頬を寄せ、ぐいぐいと体重をかけた。

 頭を撫でると猫のように目を細め、喉を鳴らす代わりに身をよじる。

 

 ……何だこの、凄まじい罪悪感は。

 すぐ隣に彼女がいるのに、別の女性と触れ合う。一条先輩の息遣いや手の動きにドキドキしてしまい、余計にそれが罪の意識を加速させる。

 

 恐るおそる、視線を右へやった。

 朱日先輩はグイッとグラスの中のハイボールを呑み干し、酒の匂いがたっぷり混じった息をつく。手の甲で唇を拭い、獣じみた目で俺を見る。

 

「うぅ! うーっ! 私にもやって! 私のこともいっぱいギュッてして、いっぱいなでなでするの! 私も今日、いっぱい頑張ったんだからーっ!」

 

 抑えていたものがはち切れたのか、朱日先輩は半ば突進するように俺に抱き着き肩に頬擦りした。一条先輩と同じように抱き寄せて、いつものように頭を撫でる。

 

 右手に大学で一番可愛い先輩、左手に男女問わず手を出しまくる先輩。

 男としてこの上ないほどの優越感に襲われるも、どうしたって感じてしまう不健全さが理性を繋ぎ止める。……こんなことしていいのか、俺。つい数時間前に、朱日先輩のお父さんから娘を頼むって言われたばっかりなのに。

 

「……これ、実質3Pじゃん。うへ、うぇへへ……」

 

 朱日先輩には届かないよう声量を限界まで絞りながら、おおよそ女の子とは呼べないような顔で言った。もう完全に、オッサンだった。風俗を全力で楽しみに来たオッサンの顔をしていた。

 

「ねえ要君、私のこと好き?」

「は、はい。好きですよ」

「僕は? 僕のこと、好き?」

「えっ……ま、まあ、好きです。友達として」

 

 両脇の二人はふっと身体を起こし、互いに視線を交わした。

 無言の中で何らかのやり取りがあり、二人は好戦的な空気を纏って元の位置に戻る。

 

「一番好きなのは私だよね?」

「一番? あ、はい。朱日先輩のこと、誰よりも好きですよ」

「でも、友達として一番好きなのは僕じゃない?」

「ま、まあ……はい。そう、ですね」

「要君……私のこと誰よりも好きなのに、他に一番の人がいるのおかしくない?」

「いやだから! と、友達として! 友達としてって意味です!」

「そうだね。()()友達として、って意味だよね」

「煽るようなこと言うのやめてもらっていいですか!? 俺、一条先輩とそういう関係になる気ないですから!」

 

 俺を困らせたくて仕方ないのか、一条先輩は意地の悪い笑みを口元に描いた。朱日先輩はムーッと顔をしかめ、俺の太ももに手を置いて身体を持ち上げ、耳元に唇を寄せる。

 

「……もっと言って。好きって、もっと。要君はね、私のことだけ考えてたらいいんだよ……?」

 

 胸焼けしそうなほど甘ったるい声が、耳の穴を這って鼓膜を叩いた。ゾクゾクとした快感に声が漏れ、それを一条先輩に聞かれた恥ずかしさに体温が上がる。

 

「……僕のことしか考えられなくなっちゃうようなこと、してあげよっか? 糸守クンの頭の中、ぜぇーんぶどろどろに溶かしてあげたいなぁー……」

 

 負けじと一条先輩も、俺の耳元で囁いた。

 悪魔じみた妖しい声音と、耳たぶを揺らす熱い吐息。情事において、彼女は百戦錬磨のプロフェッショナル。やけに手慣れており、痛いほどに心臓が跳ねる。

 

「要君」

「糸守クン」

「好きって言って」

「僕のこと、好きだよね?」

「ねえ」

「聞いてる?」

「早くいってよ」

「いってくれなきゃ終わんないよ」

 

 右から左から脳を掻き回され、アルコールも作用して段々わけがわからなくなってきた。

 僅かに残った思考能力が、ここは危険だと赤信号を出す。俺は言葉にならない叫び声をあげ、ソファから飛び上がりキッチンへ急ぐ。

 

「ふぁー……あ、危なかった……」

 

 水道水で顔を洗い、オーバーヒートしかかった肉体に歯止めをかけた。あの二人からの攻撃は色々とやばい。俺じゃなかったら死んでた気がする。

 

「今日は糸守クンも沢山頑張ったんだし、ちゃんとご褒美あげなきゃ不公平じゃない?」

「確かにそうだね。私たちばっかりもらっちゃ悪いし」

 

 顔を上げると、二人はそんな会話をしていた。

 ふっと同時に振り返り、白い歯を覗かせる。

 

「おいで、要君」

 

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