大学で一番かわいい先輩を助けたら呑み友達になった話 作:枩葉松
大学で一番わるい先輩と呑み友達になった話①
「ふんふん♪ ふんふふーん♪」
一月中旬。
早朝。
午前六時。
普段の僕なら寝ているから、そろそろ寝ようかなって時間だけど、今日は違う。
なぜかって、それは今日が僕の誕生日だからだ。
「ふふふん♪ ふっふふー♪」
鼻歌をうたいながら、軽やかなステップで右へ左へ。
クローゼットから服を引っ張り出して姿見の前で自分に重ねては、これにしようかあれにしようかと悩む。
自慢だけど、僕は友達が多い。
毎年の誕生日会は盛大なもので、何百人も集まって朝までどんちゃん騒ぎが定番。ケーキだって特大で、プレゼントも車が買えちゃうくらいの金額分は貰う。
だからそれに備えて、こうして衣装選びを――しているわけでは、ない。
どうして僕が主役の会なのに、僕が気をつかわなくちゃならないのさ。
そもそも今年は、誕生日会を行わない。
その代わり、たった一人の女の子にお祝いしてもらう。
「あーっ、楽しみだなぁ! 朱日さんとデート! 朱日さんとデート! うっひひーっ♪」
朱日さんと親友になった、去年の暮れ。
糸守クンが就寝したあと、彼女は言った。
『来月の晶さんの誕生日は、私が全力でお祝いするよ。二人でどっかお出かけしよ?』
うっひょ~~~~~~~~!! って感じだった。
いや、口には出さなかったけどね。
ドン引きされて、せっかくの親友関係を解消されても困るし。
朱日さんとお出かけしたことは何度もあるが、猫屋敷さんや竜ヶ峰さんがいたり、他の誰かがいたりと、二人っきりというシチュエーションは今回が初めて。まさしく、僕を親友と認めてくれた証拠だろう。
ってことはつまり、セックス許可証が発行されたってことでいいよね!? ねっ!?
……おっと、まずいまずい。
下心は抑えろ、一条晶。
僕は是が非でも、朱日さんと糸守クンと僕の三人で3Pがしたい。
しかし、糸守クンは朱日さん一筋の堅牢な要塞。
あの男が僕に身体を許す可能性は、今この瞬間に地球が爆散する可能性よりも低い。
それを崩して夢の3Pに持ち込むには、どうしたって朱日さんを攻略する必要がある。
彼だって、朱日さんが許せばベッドに入って来るだろう。
「朱日さんを攻略するには、糸守クンみたいに安心感を与えてあげなきゃだよねー。僕は人畜無害だよーって、二人っきりでも変なことはしないよーって、まずは警戒心を解いてあげなきゃ……!」
今日の僕は、糸守クン以上の紳士。
あなたの親友は無害だとその魂に刻み付け、少しずつ接触の機会を増やし、そして最後には……!!
っとまあ、完璧な作戦があるわけよ。
かなり時間はかかると思うけど、千里の道も一歩から、今日という日を無駄にはしない。
「よーっし、決まった!」
服装はこれでよし。
そしたら一旦、お風呂に入ろうかな。
もしかしたら今日、最後まで行っちゃうかもしれない。
こっちはまったくその気はないけど、もしかしたら朱日さんが僕の魅力に負けて、コロッと負けてパカッと色々開いちゃうかもしれない。
いつそうなってもいいように、念入りに洗っとかなきゃね!!
ぐへへへへっ!!
◆
「…………」
「……あ、えっと」
「…………」
「あの……い、一条先輩……?」
時刻は正午。
待ち合わせ場所に二時間早く着いた僕は、寒空の下、朱日さんとの会話を必死に脳内シミュレーションしていた。
『晶さんって本当に面白いよね』
『何か、晶さんと一緒にいると時間が早く過ぎちゃうな』
『ねえ……晶ちゃんって、呼んでもいい?』
僕の超絶怒涛の会話テクニックにより、ほだされてゆく朱日さん。そして飛び出す、甘い言葉の数々、あとおっぱい。
そういうのを想像していたのに……待ち合わせ場所に来たのは、なぜか糸守クンだった。
「……ごめん。もう一回、言ってもらってもいい? 朱日さんが、何だって?」
「ですから……ついさっき、朱日先輩のお父さんが事故に遭ったらしくて。朱日先輩は病院に向かったので、代わりに俺が来ました」
「……じ、事故……?」
「はい。命に別状はないそうですが、すぐに動ける親族が朱日先輩だけらしくて……」
スマホを開くと、朱日さんから長々とした謝罪文が送られてきていた。
事情が事情だけに、こんなの文句言えるわけないよ……。
……ここはできるだけ明るい返事をして、大人だってことを見せつけなきゃ。
「後日、絶対に埋め合わせをするとのことなので、今日は俺で勘弁してください。……朱日先輩の代わりにしては、かなりショボいですけど」
申し訳なさそうに後頭部を掻く糸守クン。
僕は無理やり、口元にいつもの笑みを装備する。
「ショボいとか、そういうこと言わないでおくれよ。忘れてるかもだけど、僕、キミにも惚れてるからさ。どっちが来てくれても大興奮ってわけ!」
「そ、そうですか……?」
「うんうん! 何だったら、下着が濡れてるか確認してみる?」
「……やばい、帰りたくなってきた……」
ペシッと、糸守クンの肩を軽く叩きながら言った。
彼は疲れた声音で言って、ため息を漏らす。
……正直なところ、今日は朱日さんが良かった。
今日のために二人で色々と話し合いをしてきたし、用意もしてきたし、そういう気分だったし。
それに糸守クン、絶対僕になびかないしさ。
朱日さんとだったら、ちょっとくらいイチャイチャできたかもなのに……はぁ、やれやれ。まあ、これも僕の日頃の行いの悪さが出たのかな。
確かに僕は、普段からロクなことをしていない。
殺されたって文句を言えないことだって、いくつも重ねている。
……でもさ。
バチを当てるにしても、今日じゃなくてもよくない?
神様ってやつがいるなら、きっとそいつは僕のことが大嫌いなんだろう。
はぁー……。
「じゃあ一条先輩、行きましょうか」
「あぁ、うん……――って、え?」
差し出された手のひら。
わけが分からず見上げると、彼は真っ直ぐな瞳で僕を見つめていた。
「せっかくの誕生日なので、俺、精一杯エスコートします。俺にできることなら何でもするので、楽しい一日にしましょう!」
「…………は、はい」
ほぼ無意識で返事をして、その手を取ってしまった。
歩き出した糸守クン。
彼の手は温かくて、ゴツゴツとしていて、間違いなく男性の手で。
誰かとデートする時、基本的に先導するのは僕の役割なのに、今は頼り甲斐のある大きな背中が前にある。
……な、何これ。
やば!? ちょ、待って!! 顔、あっっっつ!?
この僕が、他の誰でもない糸守クンに女の子扱いされてる!?
やばいやばい、恥ずかしくて死ぬっ!!
「……そうか、わかったぞ。朱日さんから、僕を甘やかすように指示を受けてるんだろ? ドタキャンした償いにって感じで」
糸守クンが、自発的にここまで僕に優しくするわけがない。そう思って尋ねると、彼は案の定、「えぇ、まあ……」と声を返す。
「手を繋ぐくらいはしてあげて、とは言われました」
ほら、やっぱり。
「でも、楽しませたいってのは俺の本心です。年に一回の大切なイベントなので、思い出に残った方がいいじゃないですか」
「……ぅ、ぅう」
「服だって可愛いの着て、いっぱいオシャレして、すごく期待してたんですよね。だったらそれが無駄にならないよう、俺は全力で頑張りますよ」
「か、可愛く……ないっ。朱日さんが絶対に似合うって言うから、し、仕方なく、買っただけで……っ」
「可愛いですよ。すごく似合っています」
「ぁ……っ……!」
「ていうか今日に限らず、一条先輩はいつも可愛いです。何度言ったら理解してくれるんですか」
うにゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!