大学で一番かわいい先輩を助けたら呑み友達になった話   作:枩葉松

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大学で一番わるい先輩と呑み友達になった話③

 

 水族館を出たあと、ちょっと喫茶店で休憩して、百貨店で買い物をして。

 夕食は一条先輩の自宅でとる予定になっていたらしく、俺はとあるマンションの一室に招かれた。

 

 朱日先輩の家ほどじゃないけど、一人暮らしとは思えないくらい広い。

 ……前もスポーツカーに乗せてもらったし、そりゃあこれくらいの部屋には住んでるよな。

 

「にしても、大丈夫なのか……?」

 

 てっきり出前でもとるのかと思っていたが、何でも今日は一条先輩が手料理を振る舞うらしい。

 そのために、昨日から下ごしらえをしていたのだとか。

 

 かなり前に、媚薬入りのお茶を俺に渡して来たことが脳裏を過ぎる。

 今日の一条先輩は、普段よりもかなり大人しい……が、このままいい子で終わるとは思えない。

 

 料理に何か入れたりするんじゃないか。

 そんな不安に、俺はそわそわとしながらもただジッと待つ。

 

「おっ待たせー!!」

 

 元気いっぱいな声と共に、勢いよく扉が開かれた。

 

「んっふっふー! どうよこれ、見てよ! ちょー美味しそうでしょ!」

「えっ? あ、いや……い、一条先輩?」

「よいしょー! ほらよいしょー! んでもって、どーん!!」

「うわ、ちょっ!? な、何してるんですか……って、酒くさっ!!」

 

 テーブルに料理を並べるなり、そのまま俺の膝の上にダイブ。

 

 体臭に混じった、微かな煙草の匂いとアルコール臭。

 完全に泥酔状態の一条先輩は、俺を見上げるなりニタァと口角を上げた。吸い寄せられて、獲って食われそうな、妖しく毒々しい笑み。何を思ったのか俺に唇を近づけるも、どうにか回避する。

 

「料理してただけですよね!? 何でそんなになるまで呑んだんです!?」

「えー? んー……あははっ、うーん、何でだっけ? キスしたら思い出すかも?」

「ちょ、ちょっと! やめてくださいよ!」

 

 全力で顔を近づけて来る一条先輩をどうにか抑えつつ、俺はこのわけがわからない状況に絶叫した。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 水族館を出る、少し前のこと。

 

「水族館は建てられませんが、これはその代わりってことで……あ、でも邪魔だったかな。デカ過ぎるし……は、ははっ、俺が持っておきましょうか? っていうか、いらなかったらこのまま持って帰るので……」

 

 僕がお手洗いに行っている間に、糸守クンはお土産コーナーで大きなイルカのぬいぐるみを購入していた。

 

 なぜか申し訳なさそうにする彼をよそに、僕はそれを受け取って抱き締めた。

 誰かに贈り物をされるなんて珍しいことじゃないが、こういう類のものは久しぶりだった。小学生より前の頃の僕に対してならいざ知らず、今の僕にこんなのを贈ろうなんてひとはいないから。

 

「ちょっと疲れてきたので、そこで休憩しましょうよ。好きなもの奢るので」

 

 疲れてきたとか、本当は思ってるはずもないのに。

 僕がヒールなんて慣れないものを履いているからか、それとも朱日さんと一緒の時もそうなのか、彼はやたらと気をつかってくれる。

 

「一条先輩は可愛いですよ」

 

 ……あと、なぜかやたらと褒める。

 隙を見せると、すぐに褒め言葉で刺してくる。

 

 朱日さんが来れなくなったのは残念だ。

 会いたかった。一緒にいたかった。その気持ちに、嘘偽りはない。

 

 ない、が……。

 

「糸守クンとのデート、ちょー楽しいじゃん……!」

 

 彼を自宅に招き入れ、僕はキッチンにこもった。

 

 ようやくできた、一人の時間。

 床にしゃがみ込んで独り言ち、頬に溜まった熱を冷ますようにパタパタと手で扇いで、それでも足りず深呼吸する。

 

 僕の方が年上で、遊び慣れていて、いつだって余裕ありまくりなキャラなのに。

 そのはずなのに、今日はまったくそんな感じになれない。

 

「料理、美味しいって思ってもらえなかったらどうしよう……」

 

 そんな不安が心を冷やし、キューッと胸が痛くなった。

 

 ……い、いやいや!! いやいやいや!!

 

 何を考えちゃってるわけ、僕!?

 恋する乙女かよ!! 中学生じゃないんだからさぁ!!

 

「一服しよ……うん、ヤニが切れてるからだ……」

 

 煙草を咥えて、火を点けて。

 小さく息をつき、換気扇に巻かれてゆく煙を見つめる。

 

 ……よーし、落ち着いてきたぞ。

 

 糸守クンがやけに優しいのは、今日が僕の誕生日だから。

 それ以上でもそれ以下でもない。

 

 大体、彼も自分で言ってたじゃないか。

 

『でも、楽しませたいってのは俺の本心です。年に一回の大切なイベントなので、思い出に残った方がいいじゃないですか』

 

 そう。

 全部全部、寝て起きれば覚めてしまうただの夢。

 

 それを本気にして、そわそわして、バカかよ僕は。

 

 あぁもう、何やってるんだか。

 お腹空いたし、さっさと作ってご飯にしよ。

 

「一条先輩」

「うにゃあ!?」

 

 いきなり扉が開き、糸守クンが顔を出した。

 

「そ、そんな声出して、俺なにか悪いことしました……?」

「いや、お、驚いただけだから! ……んで、どうかしたの?」

「何か手伝えることはないかなって。せっかくの誕生日なのに、ただご馳走になるのも悪いですし」

「大丈夫……す、座っててよ! 僕の超絶素晴らしい料理の腕を披露したいっていう、ただのワガママだから!」

「……そうですか? じゃあ、わかりました……」

 

 ひらひらと手を振って、糸守クンを見送って。

 煙草の煙と共に、特大のため息をつく。

 

 あぁあああ!! 顔見たら、またニヨニヨしてきちゃったじゃん!!

 

 これは夢! これは夢! 誕生日だから特別扱いされてるだけー!

 ……って、わかってるのにぃいいいい!!

 

 もうどうするのさ、これ!?

 こんな調子で、一緒に夕飯食べるとかできるわけ!?

 

「……これはもう、キメるしかない」

 

 プシュッ。

 冷蔵庫から取り出した缶チューハイを開けて、勢いよく胃袋の中へ注いだ。

 

 アルコールは大概の問題を曖昧にする。

 僕のこのモヤモヤだって例外じゃない。

 

 ……っと、もう一本終わっちゃった。

 んじゃま、二本目吞みつつ料理始めますかー!!

 

 

 

 ◆

 

 

 

「糸守クーン! はいこれ、あーん!」

「あ、いや……自分で食べられますから……!」

「おいおい、つれないことを言うなよぉ! 今日が何の日か、忘れちゃったのかな?」

「……一条先輩の、誕生日です」

「んじゃ、はい、あーーーん!」

「あ、あーん……」

 

 何がどういうわけかわからないが、泥酔状態の一条先輩。

 そんな彼女の手で、俺の口へ料理が運ばれた。

 

 前にも一回酔った一条先輩を見たことがあるけど、元より高いテンションが余計に高くなるんだよな。楽しそうなのはいいけど、ここまでベタベタされるのはちょっと……って、え? えぇ!?

 

「うんまぁ!? 待ってくださいっ、これ、うまぁ!?」

 

 炒飯にエビチリ、唐揚げに餃子。

 テーブルに並ぶ中華料理。

 匂いも見た目も本格的で料理上手なのは一目でわかったが、その味は絶品以上だった。

 

「ぐふ、ふふふっ、うひひひひっ!! やったやったー!! 褒められたぁ~~~!!」

 

 勢いよく両手をあげて、全身を使い喜ぶ一条先輩。

 

「じゃあ、次これ食べてよ!」

「あ、はいっ。いただきます」

「美味しい!? ねえ、美味しい!?」

「んっ……んぐ、ぐむ、ごくっ……美味しい、です」

「んじゃ、次これー! お口をおっきく開けてー!」

「あ……あーん」

「美味しいでしょ!? ねえねえ、美味しいでしょー!」

 

 美味い。本当に美味い。

 誇張とか抜きで、今まで食べた中華料理の中で一番美味い。

 

 店の味とかってレベルじゃない。

 単純な料理の腕なら……正直言って、朱日先輩より上じゃないか?

 

 この人に、こんな特技があったとは……。

 

「ねぇ! 次は僕っ! 僕も食べたい!」

「え? ……あ、はい。で、では……」

 

 あーん、と口を開けた一条先輩。

 一瞬戸惑うも、要求通り彼女の口にエビチリを入れた。

 

 ぱくり、もぐもぐ。

 アルコールで溶けた顔で「おいひぃ」と漏らし、すぐさま酒を流し込む。

 

「っていうか一条先輩……ピアス、そこにもあったんですね」

「はぇ?」

「だから、ピアスです。舌の、ほらっ」

「んー? あーっ、うん!」

 

 口を開けた際、舌の上に光るものが見えた。

 耳だけじゃなく、まさかそこにも開けていたとは。

 

「見うー? ひいよぉー」

 

 んあーっと口を開けて、舌を見せつけた。

 

 唾液を帯びてぬらりと輝く、銀色のピアス。

 本来あるはずのないものがあるという異物感が、俺の心の底の何かを刺激する。

 

 ずっと見ていたいような、見ちゃいけないような。

 心地のいい罪悪感に浸かり硬直していると、一条先輩が少しずつ近づいて来ていることに気づいた。

 

「ちょっ! だから、キスはダメだって言ってるでしょ!?」

「うぇー!? 酷いー!! ベロチューするのぉ!!」

「駄々こねたってダメなもんはダメです!」

「今日、僕の誕生日なんだけど!?」

「水戸黄門の印籠じゃないんですから、そんなもので何でも思い通りになるわけないでしょうが!」

「僕、一生懸命お料理したんだけどぉ!!」

「……っ! た、確かにすごく美味しかったですが、それとこれとは話が別で……!」

「よしわかった!! 間を取って、ちんちん触らせて!!」

「どこの何の間を取ったんだ!?」

「だったら唇とちんちんの間を取って、乳首をしゃぶらせるしかないよね!!」

「しゃぶらせるわけねえだろうが!!」

 

 お互いに声を荒げて、ぜぇぜぇと息を切らして。

 一条先輩はアルコールで蕩けた瞳で俺を見つめ、「じゃあ……」とニットの裾を捲り上げた。

 

 いつか見たような、煽情的なデザインの黒い下着。

 薄く開いた唇の端から僅かに涎が零れ、襟の隙間から胸元へと落ちてゆく。

 

「代わりに……僕のこと、触って?」

 

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