キヴォトスに朝日が昇る 作:sosprin
「…ということでお互いの自己紹介も済んだことだし、改めて聞くね〜。君たちはどこから来たんだっけ?」
今回の尋問は、部隊長と無造作に選ばれた一人が尋問に参加している。電気がついておらず少し暗い部屋で、ホシノと名乗った少女に鋭い目で見られながら、この前のような縄に縛られ銃を突きつけられの状態ではなく、今回は互いに向かい合いながら椅子に座っている。部隊長は律儀に答えることにした。
「ああ、俺達は日本っていう国から来た。この砂漠を越えて東の方にある国だ。」
「ふ〜ん、でもおじさんはそんな国があるなんて聞いたことなかったけど、別の世界にあったんだっけ?この前言ってたよね〜?」
ホシノはこちらの回答をメモ帳に記録しながら質問を続ける。
「そのとおりだ。正直俺達も何が何だかわかっていないが、政府は国周辺の地形が一夜にして変わったとか言ってたな。最近流行りの異世界転移ってやつだ、国ごとなんて聞いたことないけどな。」
「え?イセカ?…まあ聞いたことないけど、理解はできたと思う。それで、なんでアビドスに来たかの目的を教えてくれるかな?」
「資源調査やら、現地文明との接触、が主な目的だな。俺たちの国は周りの国と貿易をして生活していたんだ。資源はないし土地は狭い。だから工場を建てまくって外国から材料を輸入して加工して輸出していた。だが、今回の件で外国が全て消えて、いままでの生活ができなくなっちまったんだな。だから、そんな相手を探しにやってきたのさ。」
「ふ〜ん、でもこんな辺境にきても良いことあるの?ここは砂以外何も無い土地だよ?」
「俺たちはこの世界のことは何も知らない。だから、どんな辺境でも廃墟でも調べる価値があるんだ。それに今回、ここで現地民である君たちと会えてよかったよ」
隊長は当たり障りのない無難な回答をした。
「その割には逃げようとしてたけど?」
しかし、ホシノに痛いところを突かれた。
「誰でも急に拘束されたなら逃げようとするだろ?この世界がどうなってるか俺たちには何もわからない。もしかしたらあのまま殺されるかもしれないと思ったんだ。」
「私たちはそんな野蛮なことはしないよ…他の場所じゃありえるかもしれないけどね。例えば君たちが逃げようとしてた街の方には不良や犯罪組織がうじゃうじゃいるよ。」
「なんだって?街はそんなに治安が悪いのか?警察はいないのか?」
「うん。ここアビドスは日に日に衰退していってるからね。警察機構もとっくに解散したよ。これでも昔はキヴォトスで最も栄えてたらしいよ?信じられないよね。それで、私たちが治安維持活動をしてるから成り立ってるけど、それがなかったらほぼ無法地帯みたいなものだよ。学校に襲撃にくることもあるんだ〜」
隊長は隣町に逃げていたらと思い身がふるえる。
「行かなくてよかった…この世界はどこもかしこも、そんなに治安が悪いのか?」
「いや、大抵のところは治安がしっかり保たれてるよ。ただ、どこでも悪い人はいるしブラックマーケットってところは連邦生徒会から逸脱して、犯罪の温床になってる。あ、連邦生徒会ってのはキヴォトスの中心みたいなものだね。あとはまあ、自由な校風のゲヘナとか?あそこは最近荒れまくってるね。暴政の反動かな?」
「銃は住民全員が持っているのか?」
「まあどんな人でも、最低護身用の拳銃は持ってるよね。というか、君たちの世界じゃ銃は珍しいの?」
「ああ、俺たちは銃弾を一発でも喰らったら、その時点でお陀仏だ。だから、ほとんどの国で銃を含めて武器は規制されていたな。まあ、銃が許されてこことほぼ変わらない国もあったがな。」
「そうなんだ、興味深いね〜。そうだ。君たちの国についてもっと詳しく教えてよ。聞き忘れてたね。」
「ん、ああ。そうだな。何から聞きたい?」
「ん〜、地理とか人口とかの基礎情報から、雰囲気やら歴史やらかな。まあ知ってる範囲でいいよ。専門家じゃ無さそうだし」
「わかった、まずうちの国は島国で海に囲まれてる。ちょっとこのホワイトボード借りるぞ?」
「いいよ〜お好きに使って。」
隊長は席から立ち、教室においてあるホワイトボードの前に立ちペンを手に取る。ホワイトボードは乱雑に消された跡があり、ところどころに残る文字の跡から彼女たちが学校のために日頃話し合っていることがわかる。隊長はキャップを取り4つの丸と周りに複数の点を、円の周りに上と下から矢印を描いた。お馴染みの日本簡略図だ。
「で、こんな感じにくの字に曲がった細長い列島さ。たくさんの島があるが、この4つの島が主な島だな。周りの小さな島々は豊かな生態系で、たくさんの野生動物がいる。そして、ここには海流が流れているから魚もたくさん獲れるぞ」
「魚!どんな魚がいるの?クジラは?」
「クジラはもちろんたくさんの魚がいる。だから美味い魚料理がたくさんあるぞ。観光に来たらぜひ楽しんでいってくれ」
「水族館はある?」
「あるぞ、全国的に小さな水族館があるし、この小さい島、沖縄には世界でも有数の水族館がある。綺麗な魚たちが見放題だ。」
「さかなぁ…いつか行ってみたいなあ〜うへへへへ」
ホシノは顔を綻ばせた。ここにきて初めて年相応の顔をみた。
「そうかそうか、で話を戻すぞ?国土の大半は山がちだ。だから少ない平野に密集して人々は生活している。特にこの平野には3000万人もいるぞ。」
「さ、3000万人!?いくらなんでも多すぎるよ?桁間違えてない?」
ホシノはおどろき、アホ毛がゆらりとする。
「嘘じゃないぞ?ここは前の世界でも有数の人口密集地だ。さすがに集まり過ぎだとは思うけどな。」
「うへ〜、百万人くらい分けてほしいよ〜」
「まあ、これでも人手不足なんだがな。それで歴史についてだが、うちの国は2000年以上も前に建国された。」
「2000年!?」
隊長は日本の歴史について、ホワイトボードを使いながら教えようとした。しかし、
「ああ、これは神話の話だが─」
「ちょっと待って、これすごい長い話が待ってない?すぐおわる?」
「いや、多分一時間はかかるんじゃ…」
「あ〜、歴史については今度自由登校の日に教えてもらっていい?今は他に聞きたいことがあるから。」
2000年と聞き、ホシノは話がとてつもなく長くなると判断したらしい。
「そうだな、俺も教えようとしたら口が渇いちまう。次に政治についてだが、うちの国は民主主義で、成人の国民なら誰だって政治に参加できるんだ。国の方針は全部議会で決められる。」
「じゃあ大人の国ってわけだ。大人が支配してるだなんて不思議だね〜。じゃあ子どもはいないの?」
「いやいや、もちろん子どももいるさ。だが、子どものうちに学び、成熟して大人になるんだ。そのために義務教育を設けて、最低15歳までは勉強することになる。15になったら働くことはできるが、大抵の人は大学まで進学しているな。」
「じゃあ子どもは大人の言いなりなの?権利はないの?」
「ああ、子どもの権利もしっかり認められているぞ。例えば物を騙されて買ったり、買いすぎてしまったりした時に対応してくれるし、罪を犯してしまっても処罰は軽い。大人に都合よくやり込められることも少ない。」
「じゃ、割と良心的なんだね。キヴォトスじゃ自己防衛が基本だなあ。」
「この世界は子どもを守るものはないのか?それに、大人はなにをしている?」
「そんなものはないね、大人と言えばいい記憶はないよ、悪い大人しか見てこなかったね。不良も学校から退学して、行き場がないからやってるって子もおおいし。」
「そうか…俺たちの国は人道が大事だからな。前の世界では搾取や不平等、貧困は許されざるものだった。この世界に進出していく上で、子どもの問題を解決できればいいが。」
「それは嬉しいね、期待はまあしてないけど」
「任せろ、前の世界じゃ俺たちの国は世界で活躍していたんだ。」
隊長はこの世界の子どもへの厳しさを知り、帰国したら政府や国民にこの事実を広めようと考えた。こうして後に日本から人権団体がこの世界に進出し、拡大していくことになるのはまた別の話である。
「じゃあ、今日はもうこんな時間だから尋問タイムはしゅ〜りょ〜。他の班も仕事は終わっただろうし、見に行こうか。」
「わかった。」
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「まずは掃除班、シロコちゃんのところだね。なにするかわかんないからなあ、喧嘩してないといいなあ。」
「そうか。一応隊員に命令に従えとは言っておいたが…あいつら反発して問題を起こすかもしれんし…」
二人は教室を出て廊下を歩き階段を下っていた。二階に差し掛かると
「…くらえ!!……そこだあああ………」バチンパァァァンガシャアアアン
「甘い!……てやああ!!……うおおお!!!………」バチンバチンガン!
明らかに平和とはいえない音が聞こえた。
「な、なに!?喧嘩!?」
「くっ…あいつら…きちんと言うことを聞けと言ったのに!止めるぞ!」
「うん!」
隊長とホシノは最悪の事態を想定し、彼らを止めるために音が聞こえた教室へと走り出す。少し走り教室の前へとたどり着いた。二人は思いっきり扉を開け立ち入る。
「何やってんだお前らああああ……え?」「シロコちゃん落ち着いて!!!……うん?」
二人がよく見ると、隊員とシロコは箒を持ち、構えあっていた。
「な、なにやってんの…?」
「なにって…チャンバラだけど?」
「箒を使ってチャンバラしてました。掃除してたら学生時代を思い出して、シロコさんめっちゃ強いんですよ!ね!」
「ん、10連勝中。私にかかればこれくらい余裕」
シロコは親指を立てる。表情もどこか誇らしげだ。
隊長は喧嘩でなくてよかったと心から安堵した。
「そうか…で、あんなに盛り上がってたんだな。外まで漏れてたぞ」
「白熱してましたからねえ〜。さっき複数人対シロコさんやったんですけど、水◯黄門みたいに全灭させられましたよ…剣道やらせたら化けそうです」
「ん、少し褒めすぎ」
「まあ喧嘩でなくてよかった….…って」
これにて一件落着と思いきや
「いい年した大人がなにやってんだああああ!!!!」
「ひいいぃぃぃぃぃごめんなさいぃぃぃ」
教室に雷が落ちた。
「ん、私はまだ子ども」
「うへ〜大変だねえ」
──────────────
「じゃあ無事(?)説教も済んだので、整備班のところへ行こうか。」
「「hai...」」
隊長とホシノは掃除班を15分ほど説教した後、全員で整備班のいる校庭へと向かっていた。隊長は隊員の規律が乱れていることに不安を募らせる反面、この学校での緊迫した雰囲気が少し緩和したことに安堵する。
階段を使い一階まで降りて、昇降口に差し掛かったところで校庭から一人の隊員が走りながら入ってきた。きょろきょろしていた彼は隊長を見つけると一目散に向かってくる
「隊長隊長!よかったちょうどいいところに!」
「ど、どうした?」
「それが…とんでもないことになってるんです!」
「また問題か!?」
「うへ〜波乱万丈だね〜」
「喧嘩ではないですが…とにかく来てください!見ればわかります!」
「わかった!今すぐ向かうぞ!」
「皆さん!あれを見てください!」
「なんだ…って、」
「「「えええええええええ!?!?!?!?」」」
そこで彼らが見たのは、整備班が過酷な筋トレを行っている現場だった。(文字通り)
「な、なんで筋トレしてるんだ?」
「それが、坂本さんとノノミさんが意気投合しちゃって…それでみんな地獄の筋トレに巻き込まれる形に…僕はこっそり抜け出してきたんですけど、隊の他の皆さんはもう倒れそうです。」
「そ、そうか。とりあえず彼らを止めよう。君たちも協力してくれ。」
「りょ〜かい。」
隊長が暴走した坂本を、ホシノがノノミをそれぞれ止め、巻き込まれ瀕死の隊員に水を飲ませたりした。
「ふ〜。こんだけ引き締まったのは久しぶりだなぁ。」
「はい!私も楽しかったですよ〜。また皆さんでやりましょうね!」
「も、もうこりごりだぁ!」
このような調子で生徒と隊員間の緊張も少し緩和し、学校内の雰囲気は少し明るくなった。